第11話 「生徒会というヤバイやつ」―――②
一緒にご飯を食べてくれる人を探す旅に出たヴィルは、行く先々で様々な光景を目にし、その度にこの学園の……というか“生徒会”の異常性を改めて思い知らされてきた。だというのにどんなに走り回っても一向に昼食を取る相手は見つからず、昼休みは残りわずか、ご飯のごの字も食べることが出来ないでいる。
それでも神はまだヴィルを見捨てていなかったのか、彼が諦めかけていたその時、最後の希望であるアシミ―を見つけることができたのだ。
一人でご飯を食べないためにもヴィルはアシミ―の後を追いかけるのであった…………
。。。
僕は能力を行使せずに、自分が出せるギリギリの速度でアシミ―の通ったであろう道をひたすら走っていた。
確かに、僕が能力を発動して本気で追いかければすぐに追いつくことはで出来る。けれど、今のこの時間、校舎内や敷地内はいたる所に学園の生徒がいるのだ。
そんなところで、僕の得意とする高速立体移動なんかをしてしまえばその余波で実害が必ず出てくるだろう。もしそんな事態を起こしてしまったら本当に学園での僕の立場は終わってしまう。
周りのみんなに迷惑にならない程度に走ることを心がけよう。
アシミ―を見かけたのがかなり離れていたところだったから、後姿を捉えるのでさえ時間を要したが、それであってもほんの数秒で彼女のことは見失うこと無く発見できた。
もちろん、こちらのことになんて気が付いていないだろうから、この無意味な追いかけっこを今すぐやめるべく、大きく息を吸い、次いで大声でアシミ―を呼び止めようと―――
「―――アシm……!!!」
が、しかし。
先ほどからの例にもれることなく邪魔が入る。
―――なにか!?もう僕にご飯を食べるなということか!?
「やぁぁ!!アショナミーちゃん!こんなところで会うなんて奇遇だねぇぇ。午後の授業なんか抜け出して僕の部屋で愛を語らないかい?」
「……間に合ってまぁす」
アシミ―の移動方向とは真反対からやって来た男子生徒は、出会って早々、とんでもない爆弾発言をかましてきた。
その男子生徒はいかにも女性に苦労したことのなさそうな貴族感丸出しのボンボン野郎で大して似合ってもいない髪型とその吐き気を催すウィンクがどうにも同じ男であっても生理的に受け付けない。
しかし、ここは模範的可愛いの正解アシミ―。
俗物のくだらない逢引の誘いは歯牙にもかけず、「ニッコリ」とした表情をそのままに、過ぎ去ろうとする。
―――アシミ―が一応は平民だからってイケると思ったのか?ヴァカめ!
すると貴族男子生徒は自分が相手にされていないと露とも気が付いていないのか、手や腕などに所狭しと身につけられている高級そうなアクセサリーを、見せびらかすようにして、さも金を持ってますアピールをしてくる。まったく……『赤子に能力』『道端のダイアモンドに説教』とはよく言ったものだ。 まさに分不相応、無駄というやつだな。
そんな男子生徒……いや変態野郎が見せびらかしてくるアクセサリーを、アシミ―は一瞥もすることなく、先ほどからのにこやかな笑みを枯らすことなくそのまま通り過ぎて行ってしまった。
傲慢不遜な変態野郎もここまで来て、自分が相手にされていないと気が付いたのか、びっくりした様子で呆然としていた。
やはり、そんな男子生徒には全く見向きもせずアシミ―はすたすたと歩いて行ってしまった。
自分なら異性に話しかけられただけでヒョコヒョコついていきそうだな……なんて空想しながらその光景をぼーっと見ていたヴィル。
(……あ、僕も追いかけなくちゃ)
後ろの方で、今さら正気に戻ったのか、うるさい声で罵詈雑言を飛ばす人間がいるみたいだけれどそんな奴は無視無視。
少し走った後、さっきの距離間まで戻ってきた。
(地味に歩くの早くないか?
今度こそと僕は声をかけようとするが…………どうせなんか来るんでしょ?
僕はバカではないんだ。もうこのパターンは読んでる)
・・・
何も来なかった……
ちきしょー!!!! 論明の罠か!?
だが誰も来ないなら好都合。今度こそ―――
「―――アシm……!!!」
「アショナミーさん!!!これ読んでください!」
ほらこんなもん。
木陰からざっと飛び出してきたのは一見するとこう……地味目な男の子。さっきのと比べるからそう思うだけかもしれないが、突出してなにか特徴的な外見的がないから地味だと思うのかもしれない。
その子はアシミ―に明らかにラブレターと思われるものを、木陰から飛び出してきた勢いのままに押し付けると、すぐさま恥ずかしそうに逃げていった。
これには、流石のアシミ―も一連の展開が速すぎたのか、手紙を押し返すことができなかったようだ。
ちょっとびっくりしてる。かわい………………訂正。断じて可愛くはない。間抜けめ。
アシミ―は渡されたラブレターを見て一瞬小首をかしげるが、「まぁいいっか」とあきらめたのか、その手紙をポケットにしまうとまたてくてくと歩き出す。
(そうだ、今までは次への挑戦に時間が空いていたからいけないんだ)
そう思った僕は再度トライする―――が。
「ア……!!」
「僕の方がさっきのひ弱そうなやつよりあなたへの思いをたくさん込めて書いたので是非読んでください!」
「俺も!」
「僕も!」
「おいどんも!」
さっきの子を口火に、人を押しのける波のように男子の一団がやってきて、ほんの一瞬でアシミ―を取り囲んでしまった。
(うーんこれでは手が出せないぞ……
チェビやアシミ―は普段から男子からのアプローチがすごいとは聞いていたけど、ここまでなのか……。学園のアイドルもなかなか大変だなぁ。
ん? てかなんか知ってる奴がいた気がするぞっ!?)
「あえっ!? ちょ、待って、みんなぁ!」
唐突に、男子からの小規模の囲みを受けているアシミ―は身動きさえもままならないようだった。
どうやら内側からやめるよう訴えかけてはいるようだが、なんせ軽い人ごみができてしまっているので肝心の皆には聞こえていないよう。
―――逆にこれだけモテるってホントすげえわ。
僕も一度はあんな立場に立ってみたいな……そしてオムに言ってやるんだ。
『モテすぎて辛いわぁぁ』ってなぁぁぁ!!!
………あ………クール……。
ヴィルが妄想を膨らませている間にも、全く身動きが取れないアシミ―は取り囲む男子たちに、手紙を押し付けられたり思いの丈を一方的にぶつけられている。
―――あれか、アシミ―は神社か何かか。
好き勝手にお供え物や、願い事たらしやがってぇ。
はい、違いますね例えが下手ですね。
悠長なことを考えるヴィルだったが、一向に収まらない場の雰囲気を見て可哀そうだなという思考にシフトチェンジする。
呆れと情け、それとちょっぴり怒りを感じた僕はすぐさま隔絶された勇気を発動し、飛んだ―――
……なんか…初めて自分の能力名言った気がする。
「―――僕のこと覚えているかい?そうあれは今から二か月と一日と三時間と20分ほど前のことで……はっ!アショナミーたんがいない!?」
「どこだ!?」
「どこでごわすかっ!」
一瞬の効率化の後、僕は無事アシミ―を人ごみの中から救い出すことができた。
うわ、ポケットやらいたる所に手紙やらプレゼントがびっしり。ぜってぇどさくさに紛れてえっちぃことしてる奴いるわ。
まぁそれは置いておいて、よしここで、悪党から姫を助け出して一言。
「すまないアシミ―を君たちに渡すことはできない! 彼女には僕と一緒にいてもらわないと困る(一緒にご飯を食べてもらう適な意味で)(いけぼ)」
―――決まった。
これぞクール。
しかし現実はいつもの世も不自由かな、実際は―――
「しねぇぇ!!変態シスコン!!」
「僕らのアシミ―ちゃんを開放しろ!」
「広めろ広めろ!とうとう学園のアイドルにまで手を出しやがったぞ!」
もうね……人間コワい……
僕は逃げるようにアシミ―を抱いてその場を去ったのだった。
・・・
「いやぁ助かった助かった!ありがと!ヴィル」
なんとか男子生徒からの追跡をまいたヴィル達は一組館の空き教室にいた。
「ふう」と一息ついてからヴィルは、聞こうか聞くまいか一瞬だけ逡巡したが、意を決し疑問を言葉にした。
「その……毎日、あんな感じなのか?囲まれたり、手紙押し付けられたり、その……触れられたり……」
アシミ―はヴィルからの質問を聞くと、どこかぎこちなく笑う。
どうやら大体あんな感じらしい。
「いやぁ……流石に毎日あんな風じゃないんだけどね、まぁでも今日は多い方かな……」
今日がたまたま多かったとしても、あんなものが続いてると思うと可愛いというのも大変なんだと知った今日この頃のヴィル。
確かにアシミ―は可愛い、いつも笑顔だし、周りへの気配りも忘れない。すごく素直だし、しっかりしてる。
……でも、そんなアシミ―に恋心を抱くのは生徒会にはいない。
え?こんな完璧美少女の何がいけないって?そりゃぁ――ー
<びりっ
……ほら始まった。
美少女で、明るくて、一度会っただけの自分のことを覚えててくれて、それでいて「私モテてないよう」なんて心の底から平気で言う人間がいると?―――答えはNOだ。
ことアシミ―においては絶対NOだ。
現実なんていうのは―――
「『あの時に、優しく、何もわからない僕を助けてくださったあなたのことが今でも忘れられない』……か」
「あぁ? ……あーあぁ、あの時かぁ? ―――ったく気持ち悪いなぁぁぁ!!」
「あれで優しくされた?それで惚れたのか?かぁぁ!!これだから童貞はよぉ!気持ち悪いんだよなぁぁ!」
さっきまでの明るくて可愛い美少女なんてもうどこにもいない。
笑顔が素敵?その笑顔は癒しなんかではなく下卑た笑みというのが正当な意見だろう。
とても素直? あぁ、自分に心にとても正直に素直に従って悪辣外道な行いを平気でするよ。
しっかりしてる? そうさ、彼女は他人を嗤うことについて余念がない。
ゲラゲラと汚い言葉を発しながら、ドス黒い笑みで、精魂込めて書かれたであろう手紙をびりびりに破いていく元美少女が僕の目の前にいた。
【アショナミー・スぺクラム】という少女はこれが、これこそが真の性格なのである。いや……もっと正確に解説するなら多分これが彼女の真の性格だと推測される、だ。
相手を嘲笑うかの如き笑顔に、相手をとことんまでバカにし卑下する口調、汚い言葉も平気で使う。
いつもの清廉潔白、無邪気な姿は偽りの姿でしかない。
全ては、作り切られたみんなのアイドル―――アショナミーという偶像を、何も知らずに崇め恋焦がれる姿を馬鹿にし、罵倒し、見下したいがために作られた、ただの設定。
陰で笑い続けたいのだ、ネタ晴らしは絶対にしない。
永遠に、相手が存在しない偶像のアイドルを心の底から崇め続ける、ということが楽しくてたまらないらしい。
要するに、
私のことが好き?笑顔が明るいところとか思いやりにあふれるところとかが好き?あぁ…こいつは本当の私を見たらなんて思うのかしら、ただの作られた優しさに愛を感じている!なんて馬鹿なのかしら!気持ち悪くて仕方がない!
みたいな感じで他人が自分に踊らされるのが気持ち良いらしい。
性格?外道もいいところである。
今も鈍感を装って優しさを植え付けた相手からの手紙を
「全部演技だよ!ばぁぁか!」
と、びりびりに破いている。
アシミ―は誰にどんなことをしたのか、なんてことはすべて覚えている。
その努力も、後でそのシチュエーションを思い出し嗤うため。
これを知っているから、アシミ―のことは女性とも思えない。
恋愛対象として見るなんて以ての外……顔は可愛いとは思うけど。
しばらくの間、アシミ―が愉快そうに手紙を破り続ける光景を何度もため息を吐きながら見ていたヴィルだった。しかしそれも数分後には、純粋な思いの篭もった崇高手紙たちはその辺の塵芥と同等の存在へとたたき落されていて、全てがゴミ箱へと消えていった。
終了すると共に今までで一番大きいため息を吐き、もうこの娘に何を言っても仕方がないと諦めたヴィルは、(これでやっとご飯が食べられる……)と安堵する。
「はぁ気持ちよかった、これだからめんどくせぇ天然を装うのもやめられないんだよなぁ~」
外道な行いを肯定し反省もしないアシミ―は満足げに恍惚とした表情でそう言った。
「あ、終わりました? あのですね……アシミ―さんにお願いがありまして」
「ふん、ご飯ならとっくに友達と食べてるに決まってんだろ、ばぁぁか!この粗〇ンやろう!」
…最後の罵倒絶対いらないヨネ!?
てか知ってたのか!?
あ!だからあんなに誰かを撒くように早く歩いていたのか!?
くそう!やられた!
「知ってたなら言ってくれればよかったのに……待ち損じゃないか」
「なんであたしが言わなくちゃならないんだよ?あぁ?!」
怖いです。
「もういいよわかったよ一人で食べるよ」
アシミ―の剣幕に反抗する気力も削がれ、ヴィルは早々に諦める。
「……ちっ、なんだよもうちょっとなんか反応しろよ、面白くねぇなぁ」
無茶ぶりすぎぃ。
もう!早くアシミ―偽装モードにはいってぇぇ!!
ヴィルは素面アシミ―が苦手だったりする。 ……というか生徒会の面々でアシミ―の本性を良く思っている人間はそういない。あのラーでさえ少し顔をしかめるほどだ。
と、そんなヴィルの心からのお願いが届いたのか―――
「……しゃあねえから一緒に話するくらいなら付き合ってやるよ」
少しだけ優しくデレたアシミ―にヴィルはコロッと落とされた。
「え…あ、アシミ―ぃぃ!」
純粋な男子の心を弄んだりと、結構えげつないことをやっているアシミ―だがそれでも彼女を僕達が嫌いになれないのは、こういうところで優しくしてくるからだと思う。
ちょっとトキメいちゃったもん、ギャップ萌えかな?
まじ悔しい。
その後、ヴィル達二人は、アシミ―の振ってやった哀れな男子の話を、ヴィルが聞きながらヴィルはご飯を食べるという謎の時間を過ごして昼休みを終えた。
教室に戻るころにはいつもの偽装アシミ―に戻っている。
アシミ―の本性については生徒会の秘密。
他の人に、もしバレようものならアシミ―から何をされるか分からない。
僕はアシミ―の恐ろしさに身震いしながらも午後の授業へと向かった。
男子は幻想が見れて幸せ、アシミ―は陰でぼろくそに言えて幸せ。
ウィンウィンなの、か?




