表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
学園という理想郷《ブルメール》
14/75

第10話 「生徒会というヤバイやつ」―――①


 学園祭の報告書を学園長に提出するために、ヴィルは空きの時間を使って何枚も重ねられた紙束に()()()にペンを走らせていた。


(学園祭は無事成功をおさめ、生徒からの評判も良かったので次のシーズンにはまた同じような催しをやってもいいのかもしれない。

 あのウォルとかいうやつに散々な目に合わされた僕的には…………ナイト杯さえなければ学園祭は十分に楽しかった。

 ()()さえいなければ……考えても不毛というものなのだろうか。うーん、だがしかし……


 あと報告書に書くことと言えば、そうだそうだ後処理や片づけなんかは、生徒会が真面目にやったからすぐに終わったんだ。

 ただ……片付けという作業でオムほど便利な能力はないのだが、女生徒のヘイトを集めすぎてボコボコにされたのと、自分のハーレムルートが詰んだことへの精神的ショックにより寝込んでしまって、全く役に立たなかった。ほんとに全くクソの役にも立たなかった。


 まぁそんなこんなはあったけれども、なんとか成功という形でこの学園祭を終えることができた。

 めでたしめでたし)


 さぁ本業へと戻ろうではないか。

 今日からは普段通りの学生生活に戻る。


 午前の授業はやっと鳴った鐘の音によって終わりを告げられ、学生にとっては癒しの時間、お昼休みへと入ったのだった。

 僕はいつも通りオムあたりと一緒に食べようと、本教室に戻るがオムの姿は見えない。ぼっち飯は流石の僕でもノーサンキューだ。


 この学園の授業スタイルは自由、自分の勉強したい授業を見に行く、それだけ。単純だろ?

 もし、学年の区別がないこの学園でクラスごとで授業が決まっていたなら、同じクラスになってしまった場合同じ内容を習うことになってしまう。年齢が違う子達がバラバラなクラスなのにそのシステムだともうめっちゃくちゃだ。

 そうしないためにも自分が受ける授業は自分で決める。

 そんなこんなで、オムと僕は違う授業を受けていたんだけど……普段なら本教室―――授業では使わないここでは一組の教室―――に帰ればいるんだが、おかしいな。

 やはりオムはいない。


 おなかは空いているが一人で食べるのはやっぱりなんだか嫌なので、僕は教室を出て一緒にお昼を食べる相手を探す旅に出る。


 まずは……そうだな、食堂にでも行くか、あそこに行けば誰かはいるはずだ。


。。。


 しかし……うーん、誰もいない。

 いや別に食堂に人がいないわけではないんだけど、僕と一緒にお昼を食べてくれる人となると話は変わる。

 ミクスを見つけることはできたが……だめだ、他の友達ともう食べてる。あそこに入り込むのは僕にはできない。

 友達の友達ほど気まずいものはない。そもそも初対面の相手と食事をともにするなど不可能だ。緊張して何喋ればいいかわかんないし。そもそも先日の学園祭で僕の悪評が広まったばかりだ。

 なんなら学校に来たあたりからみんなの視線が少し怖く感じる。


 一通り探した後、ここには誰もいないと見切りをつけた僕は食堂を出る。



―――次は校舎内でも探してみるかぁ……はぁ、おなか空いたな~。


 

 ぐぅ~と情けなく鳴ったお腹をさすりながら、まずは目の前にあった三組校舎に入ってみる。

 校舎内をうろうろしているとさっそく見知った後ろ姿を見つけることができた。

 あれは………………タッシ―だっ!

 「るんるん」とようやくの目的達成に心を弾ませながら近づいてみると、タッシ―の前に人影が見える。それに気が付くや否やすぐさま僕は脱兎のごとく物陰へと姿を隠す。

 どうやらお話し中のよう。うんうん…邪魔はよくないからな、べ、べつに見知らぬ人がいたから隠れたわけじゃないんだぞっ!?


 そして、タッシ―の目の前にいる話し相手が女子であることが分かった僕は、瞬間的に耳の集音能力を効率化し聞き耳を立てる。


―――女子←ここ重要。


「―――それで何の用なんだ」


「あの、私のこと……わ、わかりませんか……?」


「知らん」

「もう行っていいか? 暇じゃないんだ」


 タッシ―は隠す素振りもなく女生徒へ心の底からの気怠さを吐露した。


「やっぱり、他の子に聞いた通り覚えていないんですね…」


 タッシ―からの対応で女生徒が悲しそうな顔をして俯いてしまう。

 超効率的なヴィルの耳には女生徒が悔しさのあまりか拳をギュッと力強く握る音が聞こえてくる。

  

(お? これはこれは、会話から察するにタッシ―に一度告白した子か何かかな?

 へぇー結構かわいいじゃないんでしょうか、まぁシスには負けるけど。シスには負けるけど。シスには―――)

 

―――彼女さえ出来たこともないお前が言うな、と。そう、その現場にもう第三者がいたならヴィルにツッコんだだろう。



「……でも、あなたがもし私のことを覚えていないというなら何度でも……何度だって言います」

「私、タシウム君のことが……す……」


 そう言いながら彼女は何か企むようにポケットから怪しめな液体が入った小瓶を取り出して、床に叩きつけるように投げた。すると、「パリンッ」という軽い音が鳴り響いて一瞬で中の液体が気化してあふれ出てくる。

 コンマ以下の状況の変化にも効率的なヴィルの脳は難なくついていくことが出来るので、事態の把握を進める。


(あの色、あの形状の瓶……推測するに“発明王”製作の惚れ薬? まずいな……多分タッシ―対処できてないぞ、あれを吸ってしまえば精神なんて関係なく相手のペットだ。 ……しっかしなんてもん学園内で使ってんだよ!)


 事態の把握が完了したヴィルはタッシ―を助けるべく離れた物陰から急いで出るが―――



 <ガシッ


 ヴィルはまたもや物陰に隠れる。


 彼女が惚れ薬をタッシ―に吸わせるのと同時に言おうとしていた何かとっても大事なことが、最後まで言い終わるより早く、タッシ―は彼女の顔面を自身の大きめの手でわしづかみにしたのだった。


 足場の惚れ薬はとうにその場に滞留するように編集されていた。


―――と次の瞬間。


「……アッ、アァッ、ンンッ、ン……アッ」


 何か異物が脳に侵入するのを許してしまったように、掴まれるや否や言葉が回らなくなった女生徒は喘ぐように息を漏らし、数度掴まれた状態で体を「ビクンッ」と跳ねさせて、やがて止まった。

 タッシ―は心底どうでも良さそうに女生徒から手を離しその場を後にする。

 タッシ―の支えが無くなった女生徒は力なく倒れるように膝から崩れ落ちる。

 その後、すぐ頭を押さえるようにしながら立ち上がった女生徒は、とても不思議そうな雰囲気で、

 

「………………あれ?私ここで何してたんだろ?」と言って首を傾げた。

 


 すたすたと、まるで何事もなかったようにその場から教室に戻っていく女生徒。


(え、えげつねぇ……タッシ―のやつ人の記憶いじりやがった……?全く一瞬の躊躇もなかったぞ。なんて恐ろしい子なの……)


 とてもじゃないがこのまま一緒に「ご飯食べよう」なんて明るく言える気分じゃなかったので、今の事件は見なかったことにして沈殿していた惚れ薬を吸わないように回収して安全に処分しヴィルもその場を後にした。


「どっちもどっちで危険思想だから五分ということにしてこれは闇に葬ろう……」

「それにしても……」


―――お、おなかすいた……



 その後もヴィルはいろいろなところを転々とした。


(生徒会室ではシスとラーが二人で食べてて、多分というか絶対あの二人は僕が入っても気にしないけど、こちらがあの中に入れる図太い神経を持っていないので、こちらもパス。

 空き教室では、こちらも毎度のことながら、サブとその親衛隊兼友達が机を囲んで仲良くご飯を食べていた。

 サブにおかずを分けてもらった一人が狂信者のように泣いて喜ぶので、サブが軽くパニックになっていた。

 サブがこの異常性に気付くのはいったいいつになるのだろうか、それともこれが真にあるべき男子の集いなのだろうか。

 どちらにせよ彼らは今日も『正常』のようだ。

 言わずもがな、パス。

 チェビはお昼に食事をとらない人間だそうで、一回誘って手ひどく断られた経験があるのであてにしない。つまりパス)

 

……ん? おお!

 そんなこんなしてたら、やっとオムを見つけた。

 これでやっと…やっとご飯を食べれる。

「おぉい!! オM―――」


 ―――僕は最後まで言いかけていたその口を慌てて閉じ、そっと物陰に潜む。なんとあのオムが女生徒と一緒にいるのが見えたのだ。あのオムだぞ!? 昨日の今日だぞ!?

 あのオムが女子といる…ラーやタッシ―じゃあるまいし、ありえなーい、ななななーい!

 

 お腹の減り具合がピークに達したヴィルは若干頭がぶっ壊れながらオムを追った。


「……なんか最近クールキャラを忘れている気がする」


 クールを取り戻したことによって少しばかり冷静になったヴィルは状況を整理する。


 僕はお昼ご飯を一緒に食べてくれる人を探すため校舎中を旅していた。お昼休みももう半分を過ぎ、あきらめムードが流れかけていたその時に、やっとオムを見つけたんだ。

 しかぁぁし、あのオムが、あのオムが!!女子と!屋上で!ご飯を食べているだとぉぉ。 

 まじ許さん。ぶっころ―――


 と、思っていたのもちょいと一秒前、女子だと思っていたのはスぺラだった。

 なんか誤解を招く言い方だな……いやですね、別に女子だと思っていたと過去形にして言うから変な感じに聞こえるだけでありまして、スペラが女子に見えないとは言ってなくてですね…はい。


 なんとなく出るタイミングを失った気がした僕は、またまた物陰に隠れ聞き耳を立てる。

 そこからは、「誰の声なんだ」と疑うばかりの悟りを開いた修行僧のような声が聞こえてきて……


「……スペラ、兄ちゃんな、もう女子のスリーサイズ情報集めるのやめるわ」


「…え。……えぇー!? に、兄ちゃんあんなに楽しみにしてたやん!! 可愛い子のバストサイズが一段階上がった時は本人よりもっと喜んでたやん! 涙を出して喜んでたやん!何で辞めちゃうん!?」


 おい、兄妹でなんて会話してるんだよ。

 てかオムよくそれで捕まらないな。学園外なら十分逮捕だよ。というか学園でもアウトだよ。権力乱用だよ。そりゃあんなにボコボコにされるよ。


「……兄ちゃんな、気付いたんや……女性は、顔や体ではない―――心やと」


「兄ちゃん!? 兄ちゃんしっかりして! あんたから変態が消えてみ?ただの顔面普通の中二病やで!?キャラが薄なんねん!!! 作り手のことも考えろこのアホっ!!!!」


「…………泣いても、ええかな」


 やはりあの筋金入りのバカでも、流石にあの事件は心に応えたのだろうか。

 あの会場にいた女子ほぼ全員に、ぼろくそに言われて尚且つフルボッコにされてたからな……

 会場にいた人だから全校生徒の半分またその半分くらいの女子に、か……

 同情はしないけど哀れだな。

 

「今日、スぺラ、お前を呼んだんも頼みたいことがあったからなんや」


「た、頼みたいこと?」


 そういってオムは今まで足元に置いていたずいぶん年季の入った箱を、「ドンっ」と前に出した。

 スペラがその箱の中身を恐る恐る確認する。


―――くそう、ここからじゃ見えない。


「兄ちゃん、これは……?」


「俺の……いや、(わたくし)の家宝だったものです」


 さ、悟りがぁぁ!!!!!!

 オムの得体のしれない何かが開こうとしているのがわかる。

 あいつはバカだから、結構思ってることとかが言葉や口調に出やすい。

 どこに向かおうとしているんだ、オム。

 中二病で悟り開いてるとか、作者は扱いきれないぞ。

 

「この私の穢れた過去の因縁、怨念を焼き払ってもらいたいのです……」

 

 どうやらさっきの古びた箱に入っている家宝というのは何冊かのノートのよう。いったい何が書いてあるのやら。


「邪悪に染められし我が過去の楔を断ち切ってこそ、私は前に進めるのです……」


 言い回しのせいかもしれないけど中二病が若干抜けきっていない感じがするのは気のせいだろうか……気のせいか。


 箱の中に入っていたノートのうち一冊を取り出してスペラがペラペラとページをめくる。

―――狙って言っているわけじゃないぞ?


「ええと、学園女子のマル秘収集本?」

「えぇなになに…『巨乳で悩む○○ちゃん今日も持っている下着が入らなくなってしまったようだ、今年で何回目だろうか』」

『そんなに悩むなら、そんなに食べるのもやめたらいいのに……でも、その栄養が全て胸に向かうというのだから、驚きだ』

『新しく入ってきた新入生の○○ちゃん、小っちゃくてとてもかわいい』

『体重、身長、生年月日、好きなもの、さっそく全て集めなくては』


 そうしてオムの闇をスペラが次々と音読していく。


―――いや、流石に引くわ………………

 

「あぁー怨念がぁ!怨念!おんねんんん!!おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 まるで塩に焼かれる怨霊のように屋上の地面にのたうち回るオム。

 お前にはいったい何が見えているというんだ。


 まぁでもこれも、能力者の犯罪が絶えない理由か。

 僕はこの世の心理が一つ分かった気がした。


 一応、オムの沽券のために言っておくとオムの情報集めは何も無理やりではない。

 オムの能力はあくまで落とし物集め、人が誰かに言い洩らした情報しか手に入らない。

 例えば落とした日記とかね。

 つまり、集めようと思えば誰でも収集できる情報なのだ。

 しかし、それはあまりにも時間と労力がかかる。

 なぜなら、誰でも手に入れられることは可能だけど落とし物の日記を集め続けるなんてできない。

 しかしその時間と労力をつぎ込んで作っているのがこの本なんだろう。

 まぁやってることはプライバシーもへったくれもないことなんですけど。


 そして今、オムはこの無駄に洗練された無駄のない無駄な努力の結晶を妹のスペラに焼いてほしいそうだ。


(なんでもいいから早くしてくれないかな、早くその訳の分からん空気感を抜け出して、僕は一緒にご飯食べたいんだが)


「……わかった、焼けばええの?、後悔ない?」


「…………………………ない」

 

 いや、未練たらたらじゃねぇか!


「焼くで?」


「……………………」

 

 もー早くしてよー、お腹ペコペコなんですけど。


 スペラは、オムの沈黙にため息をつきながらも、「ここは()が背中を押してやるか……」と思い出の箱に火をつけようとした―――その瞬間。


「―――やっぱり、らめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「え! えぇぇっ!?」


 なんとオムは奇声を発しながら箱を「ダっ」と担いで、とんでもないスピードで屋上から出て行ってしまった。

 「はぁ」と深いため息をもう一度ついたスぺラだったが、それは嫌なため息というよりもどこか安心したような感情が込められた物だった。スぺラは何とも言えない、まるで「しゃあないな」と言わんばかりの面持ちで消えていった兄の方を向いていた。




 

―――いや、そんな家族愛今いらんし。

 僕は早くご飯が食べたいだけなんだけど……

 

 ヴィルは、またもや「ご飯を食べよう」という機会を逃し、もうそんなことが言える雰囲気でもなくなってしまった屋上を去った。屋上を降り校舎内での捜索に戻った時。


「あ!」



 ちょうどいいところに向こうの方を歩いているアシミ―を見つけた。

 これが最後のチャンス、とばかりにヴィルは駆け出した。


 ………………あれ、そういえば僕ってご飯食べたいだけだよな…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ