第9話 「過去という楔」
毎日投稿始めるといった次の日から、投稿しないという何たる有限不実行。
本当にすみません。
明日から頑張ります。
「あぁーあ、行っちゃった」
欲望にとっても従順なバカ二人は“ナイト杯”の開催までにまだまだ時間があるにもかかわらず、我先にと走り出していった。
その光景を妹たちはどういった目で見送ればいいのか……。
まさに親族の恥である。
「―――まぁもうええや、それでみんなはどうするん?」
すると、残された面々でどうするのかと、スぺラが問う。
「あたしは友達といろんなところ周る約束してるから、そろそろ行かないと! それじゃっまた後でー!」
「あ、もちろんヴィルのには間に合うようにするから~」
「ぼ、ぼくも友達と……」
(アシミ―早くいくよー)
(待ってー)
(ささ、我らも行きましょうぞサブ殿―――者ども行くぞぉぉぉぉぉ!)
((((おぉぉ!!)」))
(あわわ、目立ってる!目立ってるからぁ!!)
アシミ―のグループは全員がキャピキャピしたこう……作者のような陰には形容できないそんな明るさを持った女子グル―プ。
どうやら、高級店のスイーツ巡りをするようだ。
―――うそだろ、まだ朝だぞ!? どんな神経回路しているんだ………………ッ!?
アシミ―が去った後、偶然アシミ―グループの会話を聞いていたタッシ―は、普段と特に変わった素振りを見せることも無かったが、アシミ―の行動―――いや蛮行に内心ギョッとしていた。朝御飯はコーヒーだけで事足りるタッシ―にとっては幼馴染と云えど理解不能な人種なのだろう。
一方サブのところは、軍団―――いや団体…連合…組織?の全員が男子のはずなのだが……サブの存在、特に顔面的な要因や周りの囲みからの待遇で、言ってしまえば逆ハーレムみたいな画が形成されていた。
「サブのとこは相変わらず元気やな~」
あの組織もといサブ親衛隊の面々が、サブが言う普通の友達ではなくサブを主とした一種の国家であると生徒会のメンバーは知っていて、脳筋のスペラももちろんその事を分かっていての発言だが実際楽しそうには見えるのでそのままの感想を言った。というかサブの友人という位置が本当はただの友人で無いことは生徒会だけでなくサブ以外のほぼ全生徒が知るところである。
いったいいつになったらサブはあの集団のちょっとした異質さに気付くのだろうか。それとも親衛隊ナンバー1の“親衛隊総統”がサブに気付かせないように計らっているのか……うーん。
総勢百名を超える親衛隊の盛り上がりを見て生徒会の全員が深くは考えないことにした。
と、そのとき。
「ん?タッシーどこ行くん?」
生徒会の円からタッシ―が抜け出した。
「祭りなど興味ない、俺の仕事はここまでだ―――寮に戻る」
くいっ
そう言い残しタッシ―は寮とは真逆の方へ歩いて行った。その足取りはどこか興奮した犬のようだ。
「あはは、正直やないなぁ」
「……ん? あ~~~~あっ!!!うち、兄ちゃんのこと心配になってきたから、それじゃっ!」
獣の勘のように何かに一瞬で気付いたらしいスぺラは今までの「どこに行く」という会話を強制的に終了させ、スぺラは「ごゆっくり~~~」と言って一瞬で人ごみの中へ消えて行ってしまった。
残されたのは三人。チェビ、ラー、シス。
「……わ、私も用事が出来たから、し、失礼するわ」
・・・
「うぅ、どうしてこうなるのかしら……」
「いいじゃないか、久しぶりに三人で遊ぶのも」
「うん、わるく、ない」
「私の身にもなってくれないかしら……その、外聞というか……はぁ、そういえばあなた達はそんなことまったく気にしない質だったわね……」
「はは、よくお分かりで、そうなのです」
「ぶい」
残された三人、ラー、チェビ、シスは三人でこの学園祭を楽しんでいた。
もちろん常識人のチェビはこの二人についていくことをとても嫌がったが、いっぱい人が多い方が楽しいと考える二人に無理やり引っ張られてきたのだった。
まぁ用事もなく、どうせすぐに寮に帰るはずではあったが、それにしても―――
(おい、見ろよ会長が天使と姫を連れてるぞ)
(うわぁ両手に花だなぁ)
(会長のお嫁さんになるにはあのレベルにならないとだめなのね、勝てる気しないわぁ)
―――私完全に邪魔者じゃない……はぁ視線が痛いわ。
周りの視線には全く動じないシスとラー、逆に自分が恋人関係の二人に割って入っていることがたまらなく恥ずかしいチェビ。普段は世間からの目など全く気にしないのにこの時ばかりは視線をキョロキョロと動かし臆病風にでも吹かれたからなのか人の声が鮮明に聞こえた。
しかし、なにも恥ずかしいという感情ばかりではない。いつものメンバーと違ってこの二人と一緒にいられることは普段とは違った別の嬉しさがあり、そこもまたチェビが附いていくことを断り切れない理由でもあった。
「―――チェビ、見てくれこれ」
「え?」
チェビが思考にふけっているところに急にラーから声を掛けられる。
―――二人は全く気にしていないみたいだし、それに……私には周る友達もいなければ予定もないし、どうせなら二人の好意に甘えて楽しもうかしら。
チェビはこのままついていくのかを悩んだ末、そう結論を出した。
そして、ラーが指するものへと視線を向ける、そこには―――
「―――これって……」
「あ、分かった? やっぱり似てるよね、覚えててくれたんだ~懐かしいよね」
―――懐かしいもなにも、私はまだ……
そこは、宣伝目的で出店している貴金属を取り扱う店だった。
まぁもちろん宣伝が目的なので無料なわけはないのだが。
その店の一角にあるショーケースの中にそれはあった。
何の変哲もない指にはめるて飾る用のリングである。いわゆる指輪だ。
「小さいときにプレゼントしたやつにすごく似ていないかい?いやぁ懐かしいなぁ」
「うん、似てる、ほら」
そういってシスが胸元から取り出したのは、宝石や何かがついているわけではない、ただ二つのリングが重なったような意匠が施された一つのリングだ。
紐に通して、肌身離さず首から下げているようだった。
「大事に、してる」
えっへんという擬音が語尾につくくらい胸を張って朗らかな表情をしたシスはえらいえらいとラーに褒められている。
とても幸せそうだ。
「…チェビは、もう、持って、ないの……?」
褒められて、ご満悦のシスは純粋に不意に湧き出た疑問をチェビに投げかけた。
というのも、このリングをもらったのはシスだけではない。シスがこの大切なリングを貰った日、同じ時間同じ場所でチェビもまた貰っているはずなのだ。
「わ、私は……」
~~~突然ヒストリー③生徒会備忘録~~~
彼らの出会いは偶然によるものではなく逆らえないほどに強力で必然的なものだった。
そう、あれはまだラーたちが7歳のころ……
「イーチェ、この方がアウラム家のラーティン様だ、挨拶を」
「お初にお目にかかります、ラーティン様、私、あなた様の婚約者となりました、テビダーク家が次女、イーチェと申します」
「あぁイーチェちゃん、よろしくね」
ラーとイーチェ、その二人の実家は互いに世界でもトップクラスの権力をもった大家である。
もちろん、ある程度の力を持った家というのは幼い時から婚約やらで他家同士の結びつきを強くするのは当たり前で、二人の出会いもそんな貴族界隈では当たり前のことが始まりだった。
「……アウラム様、差し支えなければ一つお伺いよろしいでしょうか。なぜラーティン様はそのような箱をお被りになっているのでしょうか…?」
チェビの父は厳格な人物で、幼い子供とはいえ見合いの席に不相応な格好で来たラーをあまり良くは思わなかった。しかし、『アウラムの家』というのは例え大貴族であっても簡単に手出しが出来ないほどに強力で絶大的な存在であったため、遠回しな言い方でラーの頭の段ボールを「なぜ今つけているんだ」と問うたのだ。
「ん? あぁこの子は、顔を人に見せるのが大変嫌いでね、幼い頃からこの様子なんだ、すまない、許してくれ」
「テビダーク殿、お許しを」
「いえいえとんでもございません、配慮が足らず申し訳ございません……」
チェビの父は冷や汗を流す。
アウラム家がその絶大な権力を行使したことは今の今まで一度たりとも無かったが、それが今もそうだとは限らないからだ。穏和なことで有名なアウラム家だが、自身の発言一つで不興を買えばテビダークの家は一瞬で無かったことになる。
娘たちに示してきた己の真っすぐな厳格さもここでは命取りになると再認識した。
ちなみにここだけの話だがラーの家とチェビの家、どちらの方が偉いかと問われれば当然ラーだと答えるだろう。
一般的な認識では、企業と貴族では国を牛耳る貴族の方が偉いのだが、ことラーの家というものだけは別格である。
今までその力をふるったことはないがその実、政治やその他の方面において圧倒的な発言力と権力を持っている。このゼノンテルアという国は“敬神国家”であるため、国の主は神である。
しかし、常時顕現し君臨しているわけではないので法律上の主君なのだ。
だからこそ世界は貴族達が回しているといっても過言ではない……だがそのなかで実質的な王は誰かと云ったなら、それに該当するのはアウラム家であると言える。大貴族も見方によってはそうであるとも言えるが―――やはり実質的な王の代わりはアウラム家だ。
一度たりとも政治に参加したことはないが、もし仮になにか発言したならば世界はその方向へと舵を取る。それほどの決定権をいち企業ではあるがアウラム家は保有している。
なぜそれほどの力があるのかはまた別の話で。
「それでは、子供たちの間に大人は邪魔だろう、行こうかテビダークさん」
「……わかりました。(イーチェ、必ずアウラム家に取り入るんだ、失敗は許されない、わかったな)」
「…(わかっております、お父様)」
何やらテビダーク親子の間でアイコンタクトをとっているようだったが、それに気づいたとしてもラーはそんなこと全く気にしない。
もちろんアイコンタクトの内容さえも大方分かっていながらだ。
「―――ん~イーチェちゃんは何か好きなものはある?」
子どものみ残された部屋で不意にラーから質問が飛んだ。
いまいち漠然としない相手の質問に戸惑うイーチェだが、自分の役目を完遂するために絶対に会話は途切れさせない。
すぐさま思考を巡らし回答を見つけ、顔を人当たりの良い表情に設定する
「好き、でしょうか、一通りの教育は受けておりますので……比較的書道などは熱心に―――」
「―――僕が思うにそれは好きではないと思うなぁ」
間髪をいれず、ラーからの止が入る。
イーチェは速断で次の回答を模索する。
「好き…好き………?」
この時、どんなに頭を回転させたってイーチェがその言葉の意味を真に理解することは出来るはずもなかった。
それは、幼い頃からの過剰ともいえる英才教育により、彼女の知性としての賢さは同年代とは比べ物にならないほどに高いところまで育て上げられていたが、その分人間性はこの7年という僅かな人生の内でとうの昔に枯れてしまっているからだ。
すなわち、イーチェは賢い親がつくった完璧な子どもと言えたのだ。大変皮肉な言い方であるが……
初っ端の会話を成立させられていない事態にチェビは、外面では少し困ったような可愛らしい柔和な表情出すが、その内面では必死にラーティンから求められているであろう最適解を探していた。そんな賢くも哀れな少女を見透かしたラーはおもむろに立ち上がってイーチェの目の前まで歩きだし、そして……
「―――イーチェ、好きがわからないなら、僕と一緒においでよ―――僕がいっぱい教えてあげるからさ」
ラーがイーチェに掛けた声は段ボールに遮られていてくぐもった声だった。でも十分以上の優しさと慈しみが伝わる声だった。
ラーがイーチェに差し出した手は幼く貧弱なあまりにも頼りない物だった。でも差し伸べられた側のイーチェには、その手は神の救いのように温かく嬉しい物だった。
そしてその引かれる手に導かれるように、イーチェはラーと共に本当の意味で完璧で素晴らしい世界へと歩き出したのだった。
花を美しいと思ったことのないというイーチェにラーは毎日のように様々な花を届け、その花の良さを説いた。
またある日には、友達のいないというイーチェにその時からラーの家にいたヴィルとシスを紹介して一緒に遊んだりもした。
その時は、シスがイーチェに対して敵対心をむき出しにしてしまって打ち解けるまでとても時間がかかったものだ。
イーチェちゃんが言いづらいからと、チェビというあだ名をつけたり。
「私にそのようなかわいい名前は……」と初めて遠慮をしたチェビに、今までなんでも言いなりのチェビが初めて意見を言った、かわいいを理解した、とヴィルとラーで大喜びしたり。
堅かった言葉がだんだんとみんなの前では柔らかくなったり。
そしてそのころにはもう他の生徒会メンバーとは普通に接することが出来るようになっており、普通にみんなで遊ぶようにもなった。
チェビにとって人生でも一番の幸福の時間が毎日のように更新されていく、そんな素晴らしい日々が続いていたある日、それは初めての出会いから二年が経ったころ。
「チェビ、シス、今日は二人にプレゼントがあるんだ」
「なに……?」
「今日は何かの記念日だったかしら?」
二人に見せられたのは二つのリングが一つに重なっているようなデザインの銀色のリング。
「まぁ記念日と言えば記念日なんだけど……」そういってラーは二人の指にリングをはめる。
「今日は僕達が会った日と同じ日にちなんだ、だから今日まで、いや今日からもありがとうって、プレゼントをしたかったんだ」
「ヴィルにはイヤーカフなんだけど女の子の二人にはリングが一番似合うかなって……」
「だいじに、する」
貰った指輪に心底感動するようにシスは満面の笑みを浮かべ、光に反射させるように手を掲げて色々な角度から見る。
その姿は送り主のラーをも笑顔にした。
そしてチェビは―――
「……うれしい……うれしいわ、ラー」
―――え?
ポタポタと一滴一滴チェビの頬から雫が流れ落ちる音が……
「え!?お、おい泣いちゃったのかい? えぇ……そそこまで喜んでくれるとは……え、まさか悲しいとかじゃないヨネ!?」
「あぁーどっちなんだいチェビ!? 泣きやんでぇ~!」
「泣けない……? まけた……」
「えぇ!? ちょっシスも手伝ってくれ~!!」
―――結局、その後人生で初めて自分以外に泣き顔を見せて、しかもいっぱいいっぱい泣いた思い出は今でも夢に見るほど恥ずかしい記憶。
その夜。
「―――…先ほど、アウラム家から連絡があった。婚約を破棄してほしいそうだ」
「……何があった?」
事が上手くいっているなら、と自分を放任してくれていた父に突然として告げられた言葉。
チェビは無意識にも指にはめたリングを掴んだ。
「………………え」
聡明なチェビが言葉も出ないほど追い詰められていた。
なんの言葉も示さない自分の娘の様子に父親は呆れと失望のため息をつく。
「……もういい、今から確認をしに行く一緒に来なさい」
「はい…お父様」
・・・
「―――それでは婚約は破棄ということで?」
アウラムの屋敷につき現当主ラーの父親といくつか言葉を交わした後、落胆の感情が隠し切れないチェビの父親は沈んだ声でもう一度確認した。
「あぁついさっきなあの子から、そうしたいというよな旨を伝えてきてな。最近は仲良くやっていると思っていたんだが……何かあったのかい?」
「……なにもないと、思いますが……」
ほとんど消え入りそうな声でチェビは答えた。
そんな言葉を無理やりに吐き出すので精一杯、というほどチェビの心はぐちゃぐちゃだった。
―――嫌われたのか?気に食わなかったのか?何が?どこが?いつ?
……わからない。
彼と彼達以外の世界を知らないチェビにとって、このことは知識の範囲外にもほどがある。
外を教えられず、知らされず、知る機会も与えられず、ずっと閉じ込められていた彼女に初めてできた、仲間、友達、そして……
そんな彼らと引き合わせてくれた恩人であり婚約者の彼。
その彼からの申し出はチェビにとって絶縁に近かった。
もう会わないでくれ、と。
現当主との会話を済ませ詳しいことは本人から聞こうと、案内されるがままに流されるように足取りも覚束ない幽鬼な足取りでラーの所へ向かう。
部屋につき、開口一番に彼が――ー
「―――チェビ! 急なことになって本当にごめん! もうちょっと言ってからの方が良かったよね、すまないっ!!!」
チェビの考えていたこととは裏腹に、明るくいつものように接してきた彼に動揺する。
なにも怒っていないのか?ならなぜ……
思考が巡る。
「実は……」
そういって彼が語ったのは、なんてことないことだった。
シスに告白されたこと、それに答えるかを父親に相談したところ、婚約が邪魔だと思った父親が気を回してこちらに連絡したこと、なんてことない、ただの、ただの……
「急なことでこっちもてんやわんやで……婚約者の君に何も言わず急に言い出してしまったこと、本当に申し訳ない」
「いくら親が決めた婚約者といえど、好きな人が出来たからじゃあバイバイなんて冷たいことは言わない、だから、君に聞きたいんだ」
「僕は、シスとのことも真面目に考えている、でもそれと同じくらい、仲間である君を大事に思っている、だから…だから…僕達は仲間である方が―――いいかい?」
―――彼は問うた。
その真意と裏に隠された億千万の思考は、本人である天才ラー以外にはあずかり知らぬことだが、彼は問いを出して、自身はそれに返答という形で答えを出さねばならない。
シスがラーを好いていることなんて、誰の目にも分かったことだ。
そして、今日、シスが勇気を出して、結果ラーがその気持ちに最大限の答えを出そうとしている。
私たちは所詮親の決めた婚約者、それでもまだラーは私を知ろうとしている。私の真意を確かめようとしている。
その行為がその優しさがその温かさが―――たまらなく恥ずかしかった。
だから、だからこそ、私が今…言うべきことは……
「―――……おめでとうラー、突然婚約破棄されたからびっくりしたじゃない、お父様に怒られそうで少し怖かったし」
「でも嫌われてなくて安心したわ、今度からこういうことは順序をちゃんとふみなさい? 分かった?」
いつものチェビを設定する。
考えて、自我は押しのけて、一生懸命自分を形どる。
「……別に、私に気をつかわなくていいのよ?あなたも言ったじゃない私たちは仲間だって、どんな事になろうと私たちは一緒じゃない、だから……私のことは大丈夫よ」
彼ら彼女らはどんなに賢くてもまだ9歳。
そんな、彼女が贈れる最大限のエールがこれだった。
「そうか、ありがとう……僕になにか言いたいことはないかい?」
「……シスを幸せにしなさい。それ以外何もないわ、おやすみなさい」
「わかった。うん……おやすみ」
部屋から出るときに扉の隙間から僅かに見えたラーは、見えるはずもないのに暗い顔をしていたのを今でも覚えている。
~~~FIN~~~
あの時の指輪、二つのリングが一つに重なった形のリング―――
「―――もう何年も前のものじゃない、いつだったかは忘れてしまったけれど、どこかに落としてしまったわ」
「え、もったい、ない」
「えぇ確かに、残しておけばと今は思っているわ、綺麗なリングだったもの」
ふふっ、と冗談めかして彼女はそう言った。
「それとごめんさないね、ラー」
「言うと悲しむと思っていたから隠していたの」
「あぁいいよ別に、いつかは無くなってしまう物なんだ。それがその時だったっていう話さ、しょうがないよ」
それなら、とラーが―――
「―――店主さーん」
この店の店主を呼んだ。
ラーの突然の行動に二人とも“?”という感じに首をかしげている。
「このリング、売っていただけることはできますか?」
「あぁはいはいこの金額を払っていただけるなら可能ですが……?」
「えッ!?」
店の奥からのそっと出てきた人物は金額の値札を持ちながら、ラーを見てぎょっとする。
「これはこれはアウラム様!!! お代は結構ですので、どうぞ好きなだけお持ち帰りください!」
「え!?それじゃあ…」といってラーはうきうきと二つのアクセサリーを選んだ。
一つは人形用に付けて欲しいとネックレスをシスに。
もう一つは……
「はい!これ無くしちゃったやつの代わり、あれは手作りだけど、こっちの買った方が綺麗だし見た目もいいだろう!どうぞ」
「あら、彼女の前でいいのかしら?」
「ふふん、忘れたかい今日は記念日だよ? アウラム家は記念日にはうるさいんだ」
「今日の学園祭の日にちも偶然じゃなかったりして」
てへっと、ヴィルの“てへっ”より少なくとも声だけで数千倍はかわいい“てへっ”をお見舞いしたラーは計画通りと朗らかに笑う。
そんな優しい彼の笑顔に私は―――
―――目を離せないでいた。
・・・
一日も終わり、もうすぐ明日が始まろうとしている時間。
学園祭も無事幕を閉じ、やっとのことで片付けが終わって帰ってきて、今就寝準備が終わったところ。
彼女は寮の部屋で、一人、鏡の前にいた。
今日彼からもらったリングを指にはめ、その姿を見て人前では絶対にしないようなにやけた顔をついしてしまう。
鏡を見るのをやめてベッドに寝転ぶ。
そしてその日は、二つのリングが重なった婚約指輪と一緒に胸に抱いて就寝した。




