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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
学園という理想郷《ブルメール》
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第8話 「油断という大敵」


「予選のちまちました戦いなどは興味ない、そんな君たちに朗報だ! なんと次で最後の試合だワーハッハ!」

「予選はどうなったんだ、だって?………………決勝戦はこの二人、生徒会の()()()と言えばこの男、オームニアァァァ!!」

「対するは、二組のリーダー的存在! どんなことでもそつ無く(こな)し『他人が出来ないことは自分がする』が座右の銘」

「二組において第二の生徒会長とも呼ばれる聖人君主!」

「【ペリター】!!!」


 ヴィルが大敗を(きっ)した後も順調にトーナメントは進み、とうとう決勝戦が始まろうとしていた。

 そしてその予選はというと、大概の出場者が攻撃が一度当たっただけで降参してしまったので、どちらの攻撃を先に相手に与えるか、という競技になってしまっていた。

 これはしょうがない、学生だし痛いのは嫌だ。


 一回戦目のヴィルの相手が痛みに対しての耐性がとてつもなかっただけで“普通”はこんなものだろう。

 そしてその一戦目以降はどれもパッとしない戦いが続くものだから、会場の熱気は一戦目に比べて冷めていくばかりだった。

 しかしこの決勝戦に残った二人だけは違う、予選からすでにずば抜けた()()()戦い方をしており、彼らの試合は大いに盛り上がった。

 だからこそ、観客も試合の始まりを今か今かと待ち望んでいる。

 ……もし戦いのトーナメントが違っていたならばヴィルがあの場にいたのかもしれない、そのことだけは明記しておこう。



「―――……………ずるいよなぁ」


 試合の合図を前にして、ふとした瞬間に漏れ出た一粒の()()

 そう……ぽつり、と。


「あ~?」


 首を傾げて口をアホの申し子のように開き、オムは頭の上に『疑問』という文字をほぼ可視化させた。


「あぁ、いや……ごめん。ふと君たちを見ていると、僕に無いものをたくさん持っていて何だか()けちゃってさ」

「いや、ほんとに気にしないでくれ。ただの“モブ”の独り言さ……それと名乗りが遅れたね、僕の名前は【ペリター】今日はこんなに楽しいイベントを作ってくれてどうもありがとう!」

 

 彼から一瞬もれた嫉妬、それはどこか(かす)み消えてしまいそうな程に、繊細な悲しみも含まれていた声だった―――気がした。

 彼の肉声をただ一人だけ聞いたオムは(たし)かにそう感じ取った。

 しかしそんなことはオムには(つゆ)も関係なかった。

 何が何でも勝って女子にモテる。

 これ以上でもこれ以下でもない。ただ純粋で純正な下衆心(げすごころ)のみだった。


 だが、賛辞を述べてくれた相手には礼儀を欠かさない。

 相手の言葉遣いで自身の立ち振る舞いを変える、この二つはオムの心にある中二病の(おきて)だ。

 ありがとうにはありがとうで返すのが彼の信条。


「あぁどういたしまして!虚双(きょそう)の君臨者よ!」

貴殿(きでん)の礼節を重んじて俺も真名を名乗ろう! (われ)は万物が還る(かえ)終着点、我は万物が行き着く境地、【この世の理】と【万物の肯定という枠組みから逸脱すべし神秘】その全てが集まる行き着く極致―――それが俺!!!!」

「この混沌の支配者が遊んでやる!」



「……あ、あはは……そ、それはすごいね……?」


 一般ピープルを全力で孤立させ、長年の付き合いがある生徒会のメンバーでさえ「で、何が言いたいの?」と言わざるを得ない口上を述べたオムは、全力で生を謳歌するかのように何もかもが満ち足りたような顔を見せた。

 そんなオムに困惑を隠せないペリターだが、持ち前の人の良さからか気分を害さないように一応の理解を示す。

 


「―――両者、前準備は終わったか?」


 舞台にて対立する二人と同じように心が高揚してきてテンションが高まるサブ(裏人格)は、本来のサブなら持ち合わせていない大胆さを武器に、しっかりと解説兼司会を全うしていた。

 有能司会者は両者の沈黙を、質問への是と認識し―――


「それでは決勝戦、まさに最後の戦い―――試合開始ッッッ!!!」


 戦いは会場に響き渡る大音声によって始まった。


―――すると試合開始の合図とともにオムは先制攻撃を仕掛ける。

 バカなりの異常発達ともとれるイカれた反射神経を駆使して、コンマ〇秒以下の攻撃行動。

 それは見方によってはフライングとも認識される荒業(あらわざ)の如き初動。

 この闘技場に見立てて作成された舞台の板を能力を使って、ペリターの足元から全て()()()()()に移動させるのであった。

 オムの能力は()()を“原点”とした移動可能な座標に落とし物を持ってくる、という物のわけだが“移動”と一括りに言っても、瞬間的に対象物の位置を移す方法もあれば、自分と対象物との間に一筋の線を構築し、それをなぞるように一直線に持ってくることも可能だ。

 今回オムが使ったのは後者。ペリターの足場と自分とに線を想像し、まっすぐに持ってくるイメージで引っ張ったのだ。


 当然、自分の足元の板が相手の方に急に動けば誰でもバランスを崩すわけで、さらにそこに追い打ちをかけるのは舞台の板だ。

 舞台の板はペリタ―の足元から伝播するようにオムに集まっていくので、結果転んだ先の板が次々に飛んでいき、姿勢を崩すペリターの体中を無慈悲に叩きつける。


 しかし、生徒会長ラーの次に良い統率者になると見込まれている彼はこんなことでは倒れはしない。

 すぐさま強引に態勢を整え、異次元的な体幹と鍛え上げられたセンスを軸に、直感的動きでオムの方に集まっていく石板の陰に身を隠しながら俊敏(しゅんびん)に距離を詰めるのだった。


 ここで焦るのはオム。

 なぜか? 至極明快(しごくめいかい)―――巨大な石板と相手が同時に向かってくるのだから。

 

 皆さんお忘れではないだろうか。

 オームニア・プレストーテという男は、バカなのである。バカなのである。大バカなのである。

 試合開始とともに石板を()(さら)って相手を転ばすという手は、ガキの悪だくみで考え付いたとしても、そのあとの石板という絶対安心トンデモ質量が自分に迫ってくることへの()()など、あらかじめに考えているはずもない。

 

 予定調和を通過して、結果。


「ごふっごふっごふっ……ごっふぁ!!!」


 全発全弾命中。おおよそ体の全てに石板が突っ込んで―――いやバカな彼に()()()()()きた。


 その隙を強かなペリターは見逃さない。試合用の木剣をギュッと握りしめ前に構え、すかさず走り込み、その走る勢いをそのままにして最速の突きを放つ。

―――が、寸でのところで辛うじて意識を保っていたオムは、ペリターの木剣を自分の足の下に移動させた。

 装備が一瞬で無くなったことでバランスを崩したペリターは走り込みの勢いを御せず、オムを跳び越すようにしながら数度のブレーキでなんとか舞台からの脱落を防ぐ。

 


「はぁはぁ……やるじゃん結構効いたぜ」



「―――へ?」

 

 あくまでも相手からの攻撃を受けた結果によるダメージだと言い張りたいオムは、相手が何かを言い出す前に相手を褒めた。

 これは自滅なんかではないと、やはりペリターからの攻撃なんだと。

 

 そんなオムからの口撃に素っ頓狂な声を漏らして、ペリターはその優男な面構えを間抜け面に変えた。

 (かぶ)りを振って、溜息を吐くペリター。



「あぁ~……んん~ふぅ……」

「今のが当たらないかぁ……結構全力だったんだけどな……―――やっぱりずるいよなぁ~」

「いや、ね。これで試合を決めるぞっていう攻撃がこうも簡単にいなされると傷つくというか、自信無くすというか……」

「……僕ってさ、弱いんだよ。能力が【どんな道具でも器用に扱うことが出来る】っていう物なんだけど、物にしか作用しないし、結局は器用どまりで熟達もしないし、ほんと笑っちゃうよねー」

「それでこれがぜーんぜん役に立たないの、ほら、今だって簡単に守られちゃったしさ」

「君の所の効率の能力者と比べても下位互換もいいところだよ」

「だって、器用って効率の同義以下だと思わないかい?」


 一方は、研ぎ澄まされた鋼鉄の真剣のように鋭くしなやかな動きで会心の一撃をたたみ込むも、防がれてしまいダメージは与えることができず。さらには明らかに自分の攻撃ではなく自滅によってダメージを負ったはずなのに、「痛かった」と挑発とも捉えることのできる言葉を言ってきた相手に自嘲という落ち込みを見せ。


 もう一方はというと、


―――いってぇぇ、死ぬぅぅ、いたるところがずきずきするぅぅ!!


 もしモテるという岩山のような硬く大きい目的が無くなれば、一秒でも早く降参したい、と心の中で叫び続けていた。

 顔にも、態度にも、言葉にも出さないのは(ひとえ)にかっこいいところをこの会場全体に魅せるため。主に女子。というか女子だけでもいい。

 その(いわお)の如き意志だけが、その真っすぐな目的だけが、今も(オム)を勝負に駆り立てているのだ。


 片方は、自己嫌悪の沼に(はま)り、もう片方は身体的に色々限界。


 わずかな静寂の後に、攻撃を再開したのは―――オムだった。


「こうなったら速攻で終わらす!!!!」


「―――え? えぇっ!!!」


 オムの必殺の一つ。

 無慈悲パンチ(今考えた)。


 相手の顔を自分の拳に一直線に移動させて、相手のこちらに向かってくるスピードとオムの拳の力を乗せて何も考えずにただただ思い切り殴る強力無慈悲な技だ(今考えた)。


―――いや、おい待て作者と。

 能力間違えてるぞと。

 言いたいことはわかる読者よ。

 まぁ説明を聞き給え。


 まず落とし物とは、なんだろうか。

 手に持っていたものが落ちたものだろうか。

 置いておいたものがそのまま放置されたものだろうか。

 人それぞれの価値観だろう。

 では、どこらあたりから、落ちたと言えるのだろうか。

 落とした時? 落とすのを見た時? 落としたと気付いた時?


 落とした時ならば、一人称でも二人称でも三人称でもその現場さえ見ればそれが落とし物と捉えるだろう。

 では、気付いた時ならばどうだろうか、それを見た人は落としたものと判断するが一人称はまだ持っていると思っているので、それは落とし物ではないと言えるだろう。


 こんなに訳の分からん話をして結局何が言いたいんだと。つまり、言いたいのは落とし物と決めるのは、目線によって変わるということ。


 オムの能力は落とし物を持ってくる能力、では能力上の落とし物は誰が決めるのだろう。

 言わずもがなオムである。

 落とし物という価値観は人それぞれ、ならば全てオム次第と言ってもおかしくあるまい?

 オムがこれは落とし物と言えば、落とし物なのである。

 警戒していない相手の頬は視線の落とし物だ。

 ちなみにだが、本当に場所を認知されていないもの、つまりは落とし物に近いもの程体力消費が減る。

 

 話を戻そう。



 突然、顔を引き寄せられグーパンチを食らったペリタ―だが、吹き飛ばされながらも歯を食いしばり、脳の揺れによる気絶を抑え込みながら、地面に何度もバウンドして宙と地を転がりながらも近場にあった石片をつかみ、腕だけの力でオムのすねの部分にきれいに、いっそ美しくに投擲(とうてき)する。

 豪快に殴り飛ばしたオムは片足が浮いており、軸となった足は石片を痛い部分に投げつけられ、奔る激痛により結果転倒。

 再度作りだしたチャンスを逃すペリタ―ではない。

 脳の揺れにより視界がズレ、体が思うように動かない。しかし、ペリタ―は懸命に足を前に出し、一歩一歩と距離を縮める。

 オムは転んだ時に頭を打ち付けたのか、頭を押さえてその場でのたうち回る。

 


 歩くうちに徐々に脳の揺れが慣れてくる。

 段々と速度が上がる。

 互いの距離はもうほとんどない。

 木刀を握る力も振り下ろす力もまだ回復していないペリターは、木刀を放り投げ邪魔な武器を捨てる。

 まだ戦う余地のあるオムは敗北していないから意識を落とすべく関節を上手く使って絞め技の態勢に入った。

 

 少しづつ少しづつオムの抵抗が少なくなっていく。

 

 ペリタ―は脳の揺れに完全には耐えれていなかった。我慢というただの力技でここまで意識を保っていたのだ。ゆえに彼もオムと同じように早く戦いを終えたかった。

 だからオムの力が弱まったことで『これでおしまい』―――そう思ってしまった。

 その安堵感は形勢を逆転させる。

 

 完全に絞められているオムはもはや、何かを考えてはいない。

 けれど、まだあるのは勝利への執着。

 その時感じ取ってしまった。

 バカなりの野生の勘というべきか。

 そう、あいての安堵感を。

 こいつは今油断した。

 ここは戦いだ。


 最後の()()をする。

 狙うは一点。


「―――っ!?はやく、たお、れろ」

 

 離しかけていた意識を相手がまだ捨てていないことをペリターは感じ取った。

 焦燥(しょうそう)にかられるペリター。

 彼は自分自身が焦りを感じ取っていることに酷く臆病になる。

 限界まで力を込め結果を急いだ。

 だが―――確立されていない近道はそれはもう道ではなく、断崖の絶壁だ。彼は渡れない。




 オムは集中する。

 一点。そうただ一点の集中のみ。

 

 <すっこーん!!!


 自分を真後ろから羽交い絞めにしていたペリタ―。

 ならばと、オムは自分の後頭部に対して、()()を一気に引き寄せる。

 そしてその攻撃はオムに当たる()()、自分の後ろにいるペリタ―の後頭部へと高らかな音を出してぶち当たった。

 高らかな響く音と共に、ギリギリで耐えていたペリタ―の意識は彼方に飛ばされ、押さえつけていた力がガクッと落ちて、ずるずるっと力なく倒れた。


「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」


 沸き立つ歓声と熱気。会場は興奮の嵐に包まれた。


「すごい戦いだぁ!! とても学生とは思えない!! 能力者による頂点がここに決まったぁぁ!!」

「勝者ぁぁ!! オームニアぁぁ!!!」


「「「おおぉぉぉぉ!!」」」


「この会場のめちゃくちゃ具合を見れば、誰もがこの戦いの熾烈(しれつ)さを感じる、そんな戦いだったな!!ワーハッハ!」


「くだらん」

 くいっくいっくいっ。


「ワーハッハ! タッシ―正直じゃないなぁ!」


「う、うるさい」


 そういってタッシ―は司会席から立ち上がり、二人の傷を治してやる。

 

「傷が癒えたオムよ、優勝者として何か一言!」


「何言ったらええんかようわからんけど、とりあえずまぁ……」

「俺が一番やぁぁ!!!」


「すげぇぞぉ!!オームニア!やばいやつだとおもってたけど見直したぜ!」

「かっこいいぞぉ中二病!!」

「かっこいい!!!」

「きゃー結婚してー!!」


「ワーハッハ!良かったではないかっ、!オム」


「あぁこっからは俺のターンやわ!!」

「ほんでおつかれ、サブ今脱がしたるわな」


「ワーハッh………………やっと戻れたぁ……あんなにみんなに見られてはずかしい……」

「……あ、でも、オム君おめでとう! これでいっぱいモテるね!」


「「「え」」」」


 会場を包んでいた興奮の嵐は一瞬で無風の雪原となった。

 カチカチに固まったオムの震え声が寂しく会場を漂う。


「え……あ、あ、ちょ……ちょっちょ、おま、ままま、まて! これ被っとけ!!」


「あっ!!―――……ワーハッハ!」

「ん? ぼくの言うとおりじゃないか、これでモテない劣情で女子の更衣室の情報を集める必要もないな!! これからは本物を拝めるかもしれんぞ? 良かったなオム!! ワーハッハ!」


 ・・・


―――あぁもうめちゃくちゃだよ……


 そのあと、顔面が識別(しきべつ)できない程ボコボコにされた男が、誰もいなくなった闘技場舞台の上で一日中正座させられたという。


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