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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
学園という理想郷《ブルメール》
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第7話 「祭典という企み」

 


 空は青く澄み渡り適度な気温と適度な湿度。おおよそ何かイベントを行うという場面においてこれほどまでに丁度いいものはないと言い切ることが出来る今日。学園祭当日。

 とてつもないほど濃密な一か月と少しの準備期間を経て第一回“学園祭”は開催されるのだ。



「ついにぃ来たぞぉ! この時がぁ!」


「うおぉ!!!」


 ヴィルとオムは年甲斐もなく子どものように騒ぎ立てる。 

 けれど生徒会のメンバーからすれば日常茶飯事なので「今日は学園祭ってこともあってか興奮気味だね~」なんて言葉はでない。

 あるのは「今日()うるせぇ……」といった心境だろう。


 当の本人たちからしてみれば約一か月の間ほとんどの時間を拘束され色々な決め事や会議果ては()()を取りに行ったりなど、空白のないスケジュールを過ごしたから開放したい気持ちもあるのだ、これくらい喜んで騒ぎたてたっていいじゃないかという風に思っても仕方がないだろう。

 しかし、同程度、いやより一層今回の企画でけたたましい数の問題を解決することに尽力したラーは生徒会長として目の前の壇上で、議事堂室に集まる全校生徒に期待の目を向けられているところなのだ。

 もちろん騒ぎ立てたりなんかしていない。開始の時間がくるまで厳粛(げんしゅく)にそして品よく、まさに凛とした雰囲気を(まと)って待っている。

 その両者の違いが言いようのない残念感を生む。


 ヴィルとオムより出来ること自分の裁量で決断できることが多いために、必然的に仕事量が増えてしまうラーは傍から見ればいつ休んでいたんだと言われんばかりに、それはもう馬車馬のように奔走した。

 しかし彼の佇まいから疲労の感じは一切垣間見えない。

 もうここまでくれば化け物だ。


 もうすぐ、ラーによる開会宣言である。

 


「―――みんな!おはよう!」

「生徒会長のアウラムだ!今回は今までにも類を見ない大きなイベントを企画してみた、今日は好きに遊び! 日々の競争も忘れて仲良く楽しく自由に過ごしてほしい!」

「楽しい1日だったと言われるほど、こちらとしてもうれしいことはない!」

「それじゃぁ堅苦しいのはここまで! 今日だけは!」

「じゆうだぁぁぁ!!!」


「「「「おおおぉぉぉ!!!」」」」」


 生徒みんなからの歓声が地面を揺らすほど響いている、いやぁ~いいなぁ頑張ってよかったなぁ。

 自身の企みも忘れて、これまでの努力の結果が報われたようで、普通に感動するヴィル。



「―――よし! それじゃぁ僕達もいくぞ! オム!」


「ん? あれ兄ちゃんたちどっかいくの? みんなと店周らんの?」


 学園祭の開会宣言が為されるや否や僕達はある場所に向かおうとする。

 そこに、てっきり全員で色々な店を周るものだと考えていたスペラは疑問を口に出してきた。

 そんなもの関係ない! なぜなら……


「「男の戦いが待っているんだよ!!」」


「……あぁさいですか、がんばって~」


 スぺラが気の抜けた応援をしてくるがそんなことは気にしてられない。

 オムがついてこれるくらいの全速力で、()()へと向かう。


 歓声に沸いていた生徒たちみんなが期待するように続々と議事堂室から出ていく波を、上手く(かわ)しきりながら最短ルートで外に出る。

 準備の段階でもかなり感じていたことだけど……やべぇ超楽しい!!!

 目的地までの道のりの景色は今まで五年間見てきた学園の景色とは全く違って、まるで学園を模した一種のアミューズメントパークに来ているのかと感じるほどに学園というものの風貌(ふうぼう)は様変わりしていた。

 今回の学園祭の催しの一つ。 それがこの景色の変わりよう。

 本来なら学園にあるはずのない“出店”が学園のいたるところに出ているのだ。


 学園に入る前の僕が小さい頃に見た、飲食店や雑貨屋、はたまたゲームセンター。 

 全部全部民間の企業の出店だ。

 本来ならめんどくさい手続きを何度もして厳正な審査を受けてようやく部外者はこの学園の敷地には入れるが、今日のこの日のためにラーが努力してくれて、あの堅物学園長に企業が出店を学園内に出すことを認めさせたのだ。

 それで企業側からしても、普段入ることのできない学園にお呼ばれされたと拍がつくし、何より将来有望な人材が集まるこの学園に自ら赴いて、才能の卵を見つけたりもできる。まぁ一番は「アウラム家」とのコネクションだろうけれど。


 ラーが声を掛けた企業には契約料金を前払いして出店を出してもらう、その契約内容は今日一日の提供物の無償化、だから生徒たちは普段は絶対に学園に無いものを今日一日だけ無料で楽しめるわけだ。

 これこそまさに自由!


 しかぁし!こんなものじゃない!

 言っただろう、これはあくまで催しの一つだと。目玉が飛び出るようなお金を使ってこれを成し得た手柄はほとんどラーによるものだ。

 もし僕達にも功績があるとするなら許可取りの時に学園長にゴマをすったくらいだ。

 だけど学園祭がこれだけだと思うなよ!?

 それこそが、僕とオムの二人で進めたこの企画!

 それはぁぁ!!!


 この“プリンセス杯”“ナイト杯”の二つだぁぁ!!


 ちなみにネーミングはオムが適当に決めた。

 説明すると、まずプリンセス杯、これは芸術の祭典、参加者が各々の能力や特技を使って、芸術性を競い合うのである。

 オム曰く、芸術と言えば豊かな心と創造性をもった人物、すなわちプリンセスのような人物こそがふさわしいらしい。

 ようわからんし、僕が決めていた名前は芸術杯だったんだけどオムにダサいと言われた、これこそなんでやねん、だよ。


 次はナイト杯、これはただ単純に武力を競う大会、ルールは簡単

 ・負けを認める

 ・舞台から落ちる

 ・戦闘不能になる


 おおかたこの三つで負けとなる。

 もちろん、殺すような物騒なことをしたら負けどころか即逮捕。

 

 え? 学生の、それも高ランク能力者が集まるところでこんなことは危ないって?

 大丈夫! それらの危険は生徒会の全面バックアップがあるから安心!

 死なない限りどんな怪我でもタッシ―が直せるし、スぺラの能力で観客に飛び火があっても()()()()()()()天高くへと()()()()

 え? それでも危ないって?

 ……う、うるせさぁい!僕はこれに出てかっこいいとこ見せて、普段の怖いイメージを払拭したいんだぁ! クールに勝ち進んで「ふっ……他愛(たあい)もない」とか言ってみたいんだよぉぉ!!!

 もうやめられないんだぁぁぁ!!

 ……はぁ、はぁ、だめだ、僕はクールにいたってクールに…………クール、クール、クーr…く……

 

―――とまぁそんなに考えなくてもいいのさ! 少し過激なスポーツと思えばさ! ラーだって苦笑いで許可してくれたし!


・・・


 なんやかんやで、ナイト杯が始まる時間になった。

 別に、待っている間にこれといって面白いことはなかったので割愛(かつあい)する。

 強いて言うなら……早くに着きすぎた僕達は時間をつぶすためにゼノンテルアのいたるところにある遊園地でそのなかでも飛び抜けて有名なお化け屋敷があったので、面白半分で入ってみたのだが……男二人で、男二人で!……それでまぁそこでひと悶着(もんちゃく)あったくらいだ。

 

 でもそんなことは、誰得な話なのでカットする。


「―――ワーハッハ! さぁそろそろ始まるのは! 我こそが学園で一番と自負する者たちによる頂点を決める戦いだぁ!」

「司会はこのぼく、イヴァン・サブライデンズとぉ!」


「俺」


「が、お送りしてやるぞぉぉ!!」


 サブとタッシ―、なんという人選ミス。

 実況という役職にこれほどまでに向かない二人がいったいなぜ……。



『――おい、ラー、どんな考えでこの人選なんだよ』


『――うーんみんな手が離せないらしくて、代わりに二人が引き受けてくれてるんだ』


『――サブはこれ大丈夫なのか? 段ボール被らされて外れないようにテープでぐるぐる巻きにしてあるけど』


『――う~ん……大丈夫! たぶん! ぐるぐるだから脱げることはないはずだ!』


 哀れ、サブ。

 とうとうラーにも雑に扱われ始めたな。


「―――さぁて! 初戦を飾る選手はぁ! 我らが生徒会から参戦、鬼のぉー! ヴィル!」


「誰が鬼だッ!!!」


「対するはぁ! 三組が誇る鉄壁の巨漢! ウォルぅぅ!!」

 

 闘技場を基調としたこの石畳の会場を「のっしのっし」と揺らして僕の対戦相手は向こうの方から現れた。

 対戦相手と面識はないが伝わってくる強者のオーラ、これは多分武道か何かをやっていた人の風格だ。 

 雰囲気からしてもう一般人とは違う。

 対して僕は特に何かやっていたなんてことは無く、まったくの素人である。

 先に言っておくと別に舐めてるわけじゃない、いやほんとに。

 勝算は―――十分にある。


「おぉっと、ここで訂正だ!! どうやらぼくは間違った解説をしてしまっていたらしい、先ほどの鬼のヴィルは誤情報で変態シスコンのくそ野郎ヴィルが正しかったようだ! ワーハッハ!」


「どっちもどっちで精神的ダメージがすごいんだよ!?」

「なに!? いつ僕のあだ名は変わったの!? あれか!? あの時なのか!? だから違うって! しかも誰だよ! 絶対この噂広めた奴いるだろ! 出てこい!!!」


 声を大にしてヴィルは不満をぶちまけた。

 しかし悲しきかな、ヴィルの声は届かず観客席の方では観客の生徒たちで熱心に何かが行われているようだった


「ん? おぉっと、試合開始を待たずして観客の生徒ではどうやら賭けが行われているようだ!ワーハッハ!」

「いいぞもっとやれ!なんせ今日は自由だからなぁ!!」



『――えぇぇ!? なぁやっていいのかよ!? ラー! 賭けだぞ! 賭け!』


『――……うん、これもなかなか美味しいね~……え? ヴィルなにか言ったかい? ちょっと……もぐもぐ……作業が……もぐもぐ……立て込んでて……もぐもぐ、え? あーん? 今ヴィルと通話ちゅ……あ、あーん―――そ、それでなんだってヴィル?』


『――死にさらせぇぇぇ!!!』


「ほほぉどうやら集計の結果が出たようだな、それによると三組のウォルのほうが勝ってほしいとの思いを込めて、賭けた人が多いようだぞワーハッハ!」

「ヴィルはそんなに嫌われているんだな、ちなみにタッシ―はこの対戦をどう見極めるのだ?」


「知らん」


「ワーハッハ!」


 僕、そんなに嫌われてるのか……?

 はは、はぁ……いや!落ち込んでばかりいられない! ここでかっこよく勝ってかっこいいところを見せるんだ! ついでにクールに!

 戦っている男はかっこいいと本でも読んだんだ! 間違いない! 名誉挽回(めいよばんかい)というこうじゃないか!

 でも…効率化し過ぎたら相手の頭が()()()()からなぁ、上手くやらないと!



・・・



「おぉぉぉ!! これはひどい! ひどいぞぉ! 人間の心はあるのかぁ!? 試合開始から5分が経過したが、これはなかなかにひどいっ!!!」

「ボッコボコだぁ!!」


 試合が始まってから、結構立ったはずだけど終わりが全く見えない、やばいほんとにヤバイ。

 まずい、非常にまずい! こんなことあり得るのか!? このままだと間違いなく……。


「早く…早く―――降参してくれぇ!」


「だれ……がする、もんか」

 

 5分前、僕は試合開始と同時に、筋肉のエネルギー変換、体重の移動、歩法、伝達神経、その他諸々全てを効率化し、常人の眼には決して捉えることのできない、亜音速の領域で突撃し、相手のウォルというやつの顎に一発いいのをお見舞いしてやった。

 しかし、そこからが僕にとっても相手にとっても地獄の始まりだった。


 能力なのか彼本来の個性であるのかは知らないけれど、相手はそれだけではダウンしなかった。だから僕はもう一発全く同じ場所に撃ちこんでやった。

 しかしまだ倒れず、もう一発、また一発、そして今に至る。

 傍から見れば、これはもう勝負なんかではなく混じりっけない暴力、相手の身体を武力によって叩きのめすこと―――蹂躙(じゅうりん)だった。


「かわいそうだぞー!」

「ウォルくんかわいそー!!」

「相手をそんなにいたぶって楽しいかぁ!!」

「しねぇ!!」


―――くそう! こんなはずじゃないのにィィ!!!


「お願いだから!もうやめてぇぇ!!降参してぇぇ!!」


 ヴィルは毛ほどもない自身の名誉をこれ以上失わないために、懇願(こんがん)するように降参を迫った。

 しかし、


「シスたんという天使を妹にもつお前を、おいどんは許しておけんのじゃぁぁ!」


「知らねぇぇよ!!!」


「おいどんは、シスたんの前で負けるわけにはいかんのじゃぁぁ!!」


「見に来てねぇよ! 今頃ラーとイチャイチャデート中だよ!」

「くそう!! 負けろぉぉ!! 勝たせてぇぇ!!」

 

 自棄(やけ)になったように拳を振るうが、その間にも効率化された体というのは外の音声を拾い続けた。

 「止めてやれ」「お前が負けろ」等々。


 ちくしょう僕が何をしたっていうんだ!

 ただちょっとここでかっこよく勝って、みんなに良いとこ見せて! めっちゃモテるようになって、可愛い女子をいっぱい侍らせてムフフんなことやアハハンなことをしたかっただけなのに!

 あぁもう‼ なんで倒れないんだよ! これくらいならまだ人体は耐えられるか!?

 えぇい! 考えてられん!


「これでどうだぁ!!」


 効率を少し上げる。


「ぐふっ……はぁはぁ……効かないどん」


「キャーウォル君かっこいい!!」

「ちょーいけめーん!!」

「けっこんしてー!!」


 ……アレ? ナンデナン? ネェナンデナン?――――………………あぁもう無理だ。



「ま゛い゛り゛ま゛し゛た゛」


「「「「うぉぉぉ!!」」」」


「すばらしい! 生徒会をやぶったぞー!! ワーハッハ!」

「意外な結果だったか?タッシ―」


「あ、美味(うま)……すまん……もぐもぐ……見てない……もぐもぐ……」

 くいっ。


「ワーハッハ!」


「両選手どちらも素晴らしかったぞ! ま? ぼくの方がすごいがな? ワーハッハ!」

「それでは気を取り直して第二試合といこうじゃないか」



・・・


 控室にて灰のように真っ白になった人物が一人。


「ヴィル~お疲れ様! これ、買ってきたよ!」

「おいしい?」


「……アシミ―、ぐすん……もぐもぐ……おいしい」


 てれれてってってーん♪


 ヴィルのぼっちレベルが格段に上がった。

 


ヴィル君不憫ですねぇ

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