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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
学園という理想郷《ブルメール》
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第6話 「プレゼンという脅迫」


「……いやぁ、これはちょっとねぇ」


 長く整えられた髭を生やした老人は、目の前の人物をちらりと見るとため息をつきながら手に持った書類に視線を戻す。

 

「そこをどうにかお願いできないでしょうか」


「どうにかって言ってもね~……うぅーん」


 学園に数ある校舎でもひと際高い構造をしている教員校舎、その最上階学園長室。ちなみに一番高いところにわざわざ学園長室があるのは学園長の趣味。

 そしてもちろん、椅子に腰かけこの学園長室への訪問者と会話しているのは立派な鬚髯(しゅぜん)を蓄えた人物、()()()

 この学園での最高決定権を持つ、()わば一番偉い人である。

 それでこの学園長室にいるもう一人の人物、訪問者はというと、目上の人物を前にしているにもかかわらず、頭に段ボールを被っているという何とも、非常識なやつだ。

 

・・・


……訂正しよう。我らが生徒会長ラーティン・アウラムである。

 こんな時でもラーはブレない。


「学園長…もう一度言わせていただきます。この経費については私の、つまりアウラム家から出させていただきます。そして日程調整や、その他諸々の問題は、私ども生徒会が担当させていただきます、さらに他の先生方には全員から許可を取り、生徒からも98%の支持を得ました」

「つまり、後は学園長がこの紙にサインをしてくださるだけでよいのですが」


 学園長はまとめられた紙束から目を離しラーの方へと顔を向けた。


「うーん、学園長もぼけちゃったのかなぁ、もう最近の若い子たちが何考えてるか、ちぃーともわからんのなぁ、この()()()ちゅうのはなんなのか、ようわからんのなぁ」


「学園祭は学園祭です、()()です」


「うーん、答えになっとらんと思うのは学園長だけなんじゃろかなぁ」

「アウラム君の頼みでもさすがにこれは、おーけーできんなぁ、だってここ学校だし、祭りなんーにも関係ないし……そう思うのも学園長が老いたせい?」


「……サインをお願いします」


「えぇ……スルーしちゃうの? これでも偉いんだよ学園長」


 ラーは今、非常にめんどくさい立場に立たされている。

 ことの経緯を説明すると、10分前のこと……



・・・・・・



「あ! ラーおったおった、はいこれ! この十分後に学園長先生にアポ取ってるからこれ、よろしく! んじゃ頑張ってなぁ!」


 今の会話、いやオムから出た会話にすらなっていない言葉の打ちっぱなしバッティングセンターは常人なら頭から“?”が飛び交うはずである。

 しかし、ここは生徒会長ラー、常人ではなかった。

 即座に何かの企画書と思われる紙束に目を通し、雑な内容をおおかた理解し、全くの無計画さを補填するべく、資金の確保や、生徒の意見書しかなくては弱いと考えつけば、すぐに能力をフル活用して教員全員の署名を集めた。

 

 もう一度言おう、今から10分前の話である。

 そもそもラーも学園祭がなんであるかなんか知らないし、聞かされていない。

 おおよそ、パッと思いついたポっと出の企画の、一番めんどくさい許可取りのところで爆弾渡し(なすりつけ)られたのだろう。

 

 それでもラーはオムが集めた98%の生徒の支持と一人の親友のバカのために頑張るのだ。


 しかしこのままでは理論的に崩されると思ったラー、伝家の宝刀を早々に抜いた。


「……学園長、この()()()()の願いでもダメなんでしょうか?」


「えぇ~……ずるいよぉ、そんなん学園長泣いちゃうよ~?」


「駄目なんでしょうか?」


「え、えぇ……こんな唐突にそんなビッグイベントポンポンって作れないってなぁ」


「“学園長”」


「だ、だm」


「学園長? その決断でよろしいので?」


「そ、そんな脅しに学園長は屈しn―――」



・・・・・・



「―――おーいオム許可取ってきたよぉ」

「もう、こういうことは早くに言ってくれないと、こっちもこっちで交渉材料とか作らないといけないから、大変なんだよ?」


 ラーの放った伝家の宝刀は見事に堅物学園長を一刀両断し、「どうにでもなれぇぇ!!!」と若干やけになった学園長は力強く判子を押して許可を出してくれた。

 


 もちろん、オムは事の凄みと重要さに気付かない。

―――気付かないねぇっ! バカだから。


 少々強引な手を使わざるを得なかった状況とはいえ、結果的に脅しのように許可させてしまったことにラーは自分の不甲斐なさを実感していた。

 あの無茶苦茶(むちゃくちゃ)な状況で荒唐無稽(こうとうむけい)な企画案を通して見せたのにもかかわらず喜びはない、この男にとっての完璧とはかなり俗世離れしているとしか言えない。


「……はぁ、もうちょっと上手く立ち回れたのかもしれないなぁ……まぁそれはさておき」

「それでいったい何が目的なんだい、学園祭って」


「いやぁなぁ、なんかちょくちょく生徒からの要望でなにか学園でも楽しいイベントを作ってほしいって来るやん? そこで俺は思いついたんよ! 能力者による能力者のための祭りをしようって」

「実際ここには世界も羨む高ランクが集まってんねんで!? 何かドデカいことできるやろ!?」

「それでおもろいこと言うたら、やっぱ祭りやろ!?」


 短絡的、だからこそ直接的で良い案なのだろうけれど、そうだとしても「十分前にラーに丸投げするよりもうちょっとやりようがあっただろう」とオムの言い分を聞いていた生徒会の面々は全員が思った。

 さらに、オムが作ったらしい不出来な企画案の写しを見ていた面々はページをめくりながら、おかしな所に気が付いていく。



「祭り祭りというが具体的には何をするんだ? ここには何も具体的なことが書かれていないぞ」


 すでに自身の能力(エジィター)によって企画案の全てを記憶に読み込んだタッシ―が、一度もこの紙束の中に具体的なことが書かれていなかったと指摘した。


「それは……いまから考えて……ら、ラーもおる、し?」


 祭りということとドデカい能力者の集合、この二つだけに頭が支配されていたオムに“具体的”などというものは未知の領域だった。


「んー? これ兄ちゃん資金はどうすんの、薄いから大体見れたけど金かからん? どこにも書いてないけどまさか最初っからラーに出してもらう気で……?」


「うっ……」


 汗が止まらないオム。


「ばしょ、は?」


 ラーが絡むとすぐに活動的になるシスは、こんな物(やべぇ企画書)を提出させられたラーを哀れに思いながら指摘する。

 ちなみに哀れの次は“好き心”というやつで、こんな物でも追い返されずに最後には企画を通して見せたラーに胸がキュンキュンしていた。

 はぁ……ごちそうさま……。



「……うっ」


 自分のバカさ加減、計画性の無さを言葉で突きさされ顕著(けんちょ)に落ち込むオム。


「はぁ……もう決めたことだから、とやかくは言わないし、実際こういうことを期待している人が多いのも事実だ。計画の杜撰(ずさん)さはひとまず置いておいてここはオムの思いつきに感謝しよう」


 落ち込んだのも束の間、ラーのフォローを感謝であると何か勘違いして受け取ったオムはみるみると調子を取り戻していく。


「そうだそうだ!! 俺はみんなが喜ぶと思って行動したんや! 多少粗があっても仕方がない!」


「本音は?」


「この前、ヴィルと話してて、こういうイベントあれば能力で派手にやって女子に()()()かなぁて」


―――おい!バカ! やばい、僕を巻き込むな!?


「…あら、二人ともモテたいの? それならここから飛び降りれば、きっと大勢のそれはもう美しい人たちに囲まれることができるんじゃないかしら」


―――それは、美しい人と云っても僕達を天に連れていく羽が生えていて頭に輪っかが付いている人たちに拘束されて連れていかれることなんじゃないでしょうか、これ如何(いか)に。

 飛び切りの冷笑(れいしょう)が美しくて怖すぎるんですが、チェビさん。


「―――まぁだから二人でこの企画書も書いたし」


「ちょっとまてぇえぇい!!! いったん黙ってくれ! オムッ!?」


 生徒会の面々からの呆れの矛先がオム一人からヴィルにも向いた瞬間、ヴィルは撤回(てっかい)奔走(ほんそう)する。


「なぁ! チェビ!? 僕はそんなキャラじゃないだろ!?」

人畜無害(じんちくむがい)なみんなからなぜか嫌われているのが僕だろ!?」


 くそう! 言ってて自分で悲しくなってきた!


「ラーも聞いてくれ! もし僕が関わっていたならそんなアホみたいな計画書にはならないはずだ! それは紛れもなくあのバカが一人で書いたってことだろう!?」


 くそう! 確かにオムと休み時間に「こんなイベントあったら僕もめちゃくちゃ目立ってクールキャラでモテるかなぁぁ」なんて話はしたよ! なんなら深夜テンションでその企画書も半分以上僕が書いたよ!


「シスぅぅぅ!! お前のおにいちゃんはこんなバカみたいな思いつきを実行しようとなんてしないよな!?」


 くそう! 甘いものが好きなシスのためにシスの誕生日に家より大きい誕生日ケーキを自作してプレゼントするっていうドデカい計画を考えて、実行に移したはいいけどシスに渡す前に時期も時期で半分以上虫が湧いたり食べられなくなって結局はほとんど捨てるしかなかったという事件を、つい去年に起こしたばかりの僕が通りまぁぁぁす!!


 そんなヴィルの弁明もむなしく、


「「「「「嘘はダメ(よ)(だよ)(だね)(だろ)」」」」」」


 女子勢とタッシ―からの寸分違わぬ至極真っ当な指摘がはいった。

 当の本人ヴィルは「何故ばれた!?」と仰天しているが、そんなこと幼馴染の生徒会の面々からしてみれば考えなくても分かることであった。


「……僕の書類作業が終わったら、三人で決めようか」


 何とも言えないほどに欲望まみれの企画案であったことが露見(ろけん)してしまったわけだが、それでもラーは二人に救済の手を差し伸べた。

 それから三人だけの会議を重ねに重ね、さらにまとまってきた頃には生徒会全員を交えての正式な会議へとなっていた。

 学園サイドとの意見交換も何度も行い一か月を過ぎるころには、あの思い付きのポっとで企画は完全に正式な企画となった。

 ちなみに改訂版の企画書を見てみると記述してあることのおおよそ()()はラーが書いた。


 

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