こんな時代に、三人の出会い! 7
復活します。そして感想ありがとうございます。本当に凄く凄く嬉しいです。作ったものに反応を頂けることはこんなにも嬉しいことなのですね。
その場を包んでいた不穏な瘴気は消え去り、辺りを静寂が包む。
身体の自由を奪っていた金縛りは既に解けているが、澄も、良子も、動けずにいた。
澄は、目の前で起きている事が信じられずに。
良子は、その光景にある種の美しさを感じて。
道成がその言葉を声に出したのち、驚くべき事が起こったのだ。
先程まで怨念を振り撒いていた「窓辺の少女」の気配が影を潜め、その動きを止めると、道成に憑いていた悪霊の一つがゆっくりと背中を離れた。
それは最初、人魂の様な形を取っていたが、「窓辺の少女」の前に降り立つと同時に人の形へと変貌し、その内に小学生程の少年の姿になり、少年が「窓辺の少女」へと手を差し出す。
「窓辺の少女」のその顔も、既に黒塗りの様相から、元々の顔であっただろう可愛らしい少女の姿に戻っている。
少女が手を握り返すと少年が頷き、そしてそのまま、二人は消えた。
「…いったい何が?」
やっと声を出す事が出来た澄は理解が追いつかない。その隣の良子も、澄の声で我に帰る。
「というのが、僕が知っているこの話の続き。僕はこのエンディングが一番好きなんだよ。とはいえこの話ですら、ハッピーエンドって訳じゃ無いんだけどね。」
「…どういうこと?」
話に対してなのか、この状況に対してなのか。良子が聞き返す。
そして道成が続ける。
「その後、少年も彼女を探す為に悪霊になるってオチなんだ。少女が亡くなった後すぐに家は取り壊されて、しばらくして窓辺の少女の噂だけが独り歩きしていく。噂を聞いた少年は成長しても窓辺で手を振る少女を探し続け、窓辺の少女は救いを求め続ける。少年は大人になっても彼女を見つけることができず、亡くなった後も彼女を探し続けているって話さ。」
悲しいし、悪霊が一体増えてるんだからもっと悲惨なのかもしれないけど、終わりのない苦しみよりは、いつか二人が出会えるかもしれない希望があって僕は好きなんだ。出会えた時にはきっと二人とも成仏できるだろうしね。
と、付け加えて説明した。
「…さっきのって、じゃあつまりその…えっと…でもなんでアンタに憑いてる霊が…どういうこと?」
良子が澄に向けた疑問に、澄も答えることはできない。
「…わからない。どうしてその少年の霊がミッチーに…?悪霊として?そして今のは…いわゆる除霊でもないし、まして俺がやろうとしていた事とはまるで違う。」
「でも確かに、霊は消えたみたい。なにも感じない。女の子の霊も、さっきの男の子の霊も。」
「それにミッチーに憑いてる霊の数も、一つ減ってる。やっぱりさっきの現象はミッチーの…」
そのまま押し黙ってしまった二人。
気まずそうに道成が切り出す。
「…あのーお二人さん?一体何をおっしゃってるんで?こういうのもあるんだよーって話なんだけど、なんかマズかった?あっ一人で話過ぎた?キモかった?ごめんね好きな話になると早口になっちゃうのは僕みたいな陰キャのサガだから笑って許してよ!」
「…アンタねぇ、この状況で何を…プッ…アッハッハ」
慌てた様子の道成を見て、良子の緊張が解ける。
「…ッテェ。はっ!ユイ!!お前ら大丈夫か!オイ!」
そしてそのうち、意識を失っていた四人の一人が起きた。
そのまま周りの三人をを揺り起こす。
「…ん…?ゴホッゲホッ!…あれぇ?ここって…。」
「ユイ!ユイ!!」
「ユイ!ユイなんだな?大丈夫か!」
「えっ?なにコレ?皆なんで…てか何このカッコ?超ハズいんですけど!」
「起きてソッコー気にするのがビジュアルって…良かった。ユイに間違いないね。」
「良かった…良かったよぉ…ユイィ…。」
意識を取り戻した少女が、元の人格を取り戻したことを確認して、澄と道成の二人を除いて全員が安堵の涙を浮かべる。
「これで終わったのか…?本当に?…わからない、何だったんだあれは?」
澄だけは未だ困惑し、先程からの状況を理解できずにいた。彼の想定を超え、彼の霊に対する意識への根幹を揺さぶられるような出来事を、上手く呑み込めなかったのだ。
「今は何でもいいでしょ。私もあんなの初めて見たけど、どうやら霊は消えたみたいだし、ユイが意識を取り戻したんだから。一件落着。トール、ありがとう。」
「…そう、か…。今はそうだな。うん。」
何かを呑み込んだ様子の澄の肩をポンと叩き、良子が窓辺にいる道成に向き直る。
「そして、ありがとうミッチー。助かったよ。本当に、ありがとう。」
深々と頭を下げる良子に、道成もまた困惑した表情で。
「えぇ?僕なんかしました?…あっこれラノベ主人公のセリフみたい…」
出会いの話はこれで一区切りです。