こんな時代に、三人の出会い! 5
澄のお話。
高校に進学してから、本当に色々なことがあった。
入学してからのたった三か月そこらで、俺の人生はすっかり変わった。気味悪がられるからと、ひた隠しにしていた霊能力も、今ではむしろ俺の自慢できる能力だ。
先生に出会っていなかったら、そんな風に誇りを持つこともできなかっただろう。
夏休み、先生からとある高校に転校しろとのお達しがきた。
お前の力が必要だと、そしてそれがきっとお前の目的に近づく道だろうと。
先生に言われて断る理由は無い。俺は二つ返事で了解し、二学期から別の高校へ通うことになった。
細かな手続きは先生の方で解決してくれたようで、俺は転入するまでの間、さらに自分と向き合うことができた。
目的の再確認。悪霊はすべて消す。そして必ず見つけ出す、奴を。
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そして新たな学校で迎えた二学期初日、案内された教室で、俺は恐ろしいものを見た。
背中に何体、いや何百体という悪霊をつけた窓際の後ろの席の男、あいつは一体何なんだ?
クラスの空気が重いのもその影響か。
なるほど、先生が言っていたのはこのことか。たしかに、大量の悪霊をつけたあの男に近づけば、俺の目標への近道になるかもしれない。
あれだけの悪霊に取り憑かれているのならば、なんらかの影響を受けて自分でも気づいているはず。
ここは一気に距離を詰めるためにも、自己紹介でアピールしなくては。
「逢沢澄だ。趣味は霊と会話すること!お祓いは専門外だけどどうにかはできる。霊障に悩まされている人がいたら相談に乗るからじゃんじゃん声かけてくれ!あっ、もちろんタダじゃあないからな!」
男の顔を見ながら、笑顔を作ってアピールする。
しかし反応はいまいちだ。その暗そうな男はより俯き、むしろクラスの空気が張り詰めた。しまった。霊の事はタブーだったか。
影響を受けている人間に改めて認識させてしまうことで、悪い影響を増進させてしまうことは多々ある。
俺もまだまだ甘いな、先生に怒られてしまう。
運よくその男の後ろの席に着くことになった俺は、自己紹介しつつそいつに言う。
「吉野君か、これからよろしくな!困ってることがあれば相談してくれ!」
君の力になる。
「・・・ッカヒュッ・・アッ・・はい・・・・・。」
ちっ、もう悪霊の影響が喉にきているらしい。すぐにでも話を聞きたいところだが、ここは落ち着いて放課後まで待つ事にした。
功を焦ってはいかんとの、先生の教えを守るのだ。
相手から相談しやすいように、お互いにあだ名をつけて、彼をミッチーと呼ぶことにした。
授業中、後ろからミッチーを観察して、すぐに違和感を感じた。
大量の悪霊はミッチーに対して攻撃的な意思を持っていることがわかるが、その悪意を向けられているミッチー自身は驚くべきことにピンピンしている。
一体どうなっている?今すぐ倒れてもおかしくない。そのはずだ。
これは、僕には対処できないかもしれない。先生に指示を仰ぐことにした。
短い休み時間に何とか教室から抜け出し、先生と連絡を取ることに成功した。
「ヒャッヒャッヒャッ。あ奴は世にも珍しい霊能力の全くない人間じゃよ、そういう人間も極稀にいるんじゃ。お~お~、お前のその驚く顔が見たかったんじゃ。ヒャッヒャッヒャッ」
本当に驚いた、しかし、それならば彼が悪霊に全く影響を受けていないことに納得がいく。
「ただそれだけであんなに大量の悪霊を抱え込む事にはなりませんよね?」
「その理由は本人から聞け。そして今日、お前はあ奴とは別の除霊を頼まれることになるじゃろう。」
「今日ですか?一体誰から?」
「なんでもワシに聞こうとするんじゃないバカ弟子が。とにかくあ奴と二人で、その除霊に協力してやれ。方法は、あ奴の悪霊の数を見ればわかるじゃろ。」
「・・・わかりました。それも必要なことなんですよね。」
放課後、ミッチーから話を聞くうちに、大量の悪霊が憑いている理由もわかった。最近までずっと霊能力者を騙っていたのだと。
お祓いの真似事、降霊術、その他霊に関することは一通りやったそうだ。
バカなことを。そんなことをしてたらこの有り様にも納得だ。しかし一体何年続ければこんなに大量に・・・
その後、先生の言う通り、ミッチーの隣の席の女の子が声をかけてきた。
話を聞き、僕が必要な条件を提示し、彼女がそれを受け入れたことで、除霊を行うことが決まった。
それからはトントン拍子に話は進む。
夜校門に集合し、車に乗り込んで、車内で話を聞き、とり憑かれている少女を視る。
間違いない、彼女にとり憑いているのは、都市伝説系の霊。
普段なら相手にしたくない強力な霊だ。
都市伝説系の霊は、その話を聞いて怖がったり、信じている人達の数によって際限なく力をつける。
あまりメジャーな都市伝説じゃないのが幸いだが、それでも危険なことに変わりはない。
恐らくユイは彼女を信じて、感情移入してしまった。その場所で。
精神が崩壊するのも時間の問題だ。
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目的地ではすでに修羅場。
ユイは自らの首を絞め、周りの三人も慌てふためいている。
ミッチーに、彼を呼んだ理由を説明する。
自分の状況を説明しても、彼は全く怖がらない。怖がれない。
扉の前にある、相当な数の悪意に気づいたのか、部屋の奥から感じる霊気はすでに戦闘モードだ。
そんな恐ろしい場所に立っているというのに、俺は何故だか少しワクワクしていた。
一体どうなるんだ。この数の悪意をぶつけられたら、お前はどう立ち向かう?都市伝説、窓辺の少女よ。
「ミッチー、君のその背中の悪霊たちと、この部屋の悪霊。どっちが強いと思う?」
そして俺は勢い良くドアを開けた。
先生なる人物が出てきました。学校の先生ではありません。
そしてバトル開始です。