こんな時代に、三人の出会い! 4
今から向かうその心霊スポットの話は、僕もよく知っている。
学校から車で30分ほどの場所にある、取り壊されずに残っている一軒家だ。
そもそも僕らの通う学校は、言い方が変だけど都会でも田舎の方なので、そこからさらに離れた場所なので言わずもがなだ。
周りを薄暗い林に囲まれた位置に、その一軒家はぽつんと取り残された状態で佇んでいる。
そこはある金持ちの別荘で、病弱な女の子が療養目的で住んでいて、時折近くの子どもたちが林で遊ぶ様子を窓から眺めていた姿が目撃されていた。
林でよく友達と遊んでいた少年は、時折彼女が窓にいるのを見て、その美しさに見とれてしまうことが多々あったそうだ。
少年がある日いつもと同じように遊び場へ向かっていると、彼女がこちらを見ていたので、なんとなく彼女に手を振った。
すると彼女は笑いながら少年に手を振り返してくれたそうだ。
それからは、家の前を通る度に窓を確認して、彼女がいるときは彼女に手を振り、その度に彼女も手を振り返してくれていた。
そんな日が続き、いつからか毎日のようにその家の前に通っていた少年。彼女もここ最近は毎日窓からこちらを見て手を振ってくれて、少年は、もしかしたら彼女の病気がよくなってきているのではないかと思った。
彼女の病気がよくなれば、一緒に遊べるかもしれない。一体どんな子なんだろう。窓越しじゃなく、会ってみたい。話をしてみたい。
一度そう思ってしまうと、いてもたってもいられなくなった少年は意を決して、彼女の家を訪ねてみることにした。
すると彼女の家の前に人だかりが。周りには救急車とパトカーが音もなく駐車していた。
彼女に何かあったのか?焦る少年の耳に人だかりから信じられない話が聞こえてきた。
可哀想にねぇ、病気を苦に窓際で首吊り自殺ですってよ
家の人も最近見なかったですしねぇ、発見されるまでに一週間もかかったんですって
そう、風に揺られこちらに手を振っているように見えた、
少年が見ていた彼女は、一週間前から既に・・・
都市伝説なんかでよくある話だ。しかしこういった話はどうにも気になってしまう点が多い。そもそも病気の人を一人で家にほっぽっておくなんてあり得ないし、金持ちなら世話する人を雇えばいいって話だ。
死体に手を振っていた恐怖、ってのもわかるんだが、僕はこの話は好きになれない。
いや違うな・・・僕は怖い話は好きだけど、こういった悲しい話は、どうも苦手なんだ。
「・・・悲しい、ね。」
前の座席に座るリョーコさんが呟くように応えた。
「なるほど。まぁその話自体は、いろんな所で聞く話だからな。実際に今から行く場所で起こったわけじゃ無いと思うよ。でも、そのことが実際に起きたかどうかなんて、関係ないのさ。」
沢山の人がその話を聞き、いろんな感情が、思いが集まって、条件さえ整ってしまえば、そこには何かしらが生まれる。
一人一人の思いが小さくても、沢山の人の思いが集まれば変異してしまう。人の思いってのは、それぐらい強いものだからな。
先程から変わらない様子のユイの肩に手を置き、目を瞑ったままトール君が言う。
「あたしが妹にいながら、そんなとこ行くかね?普通。」
リョーコさんが運転席を後ろから蹴飛ばす。
「アブねぇな!・・・わかってるよ。俺らがアホなことしたってのは。だからこうやって頭下げて何とかしてくれって頼んでんだろ。」
いや頭を下げるどころかむしろ脅されたんですけど?
「リョーコがキレんのはわかってたから他の奴に頼んだのによぉ、全く効果ないんだからよあのクソ偽霊能力者ども。お前らも嘘だったらわかってんだろうな?」
「だから脅すなって!」
蹴んなよ!アブねぇだろうが!とリョージが慌てながら言う。僕は心の中で、このまま信号がずっと赤ならいいのにね?なんてラブコメのドライブデートみたいな事を思いながら、いいぞーやれやれーと応援した。もちろん心の中でね。
ふと窓の外を見ると、既に周りにはポツポツと街頭があるだけの薄暗い道を走っていて、その場所へと近づいていることが分かった。
だんだん街頭の感覚も遠くなっていき、先を照らすのは車のライトだけで、道路も舗装された道から砂利道に代わっていることが、車の振動から感じられた。
「ついたぞ。ここだ。」
車から降りて見上げたその洋風の一軒家は、なるほどさっきの話にピッタリの、二階には玄関先からこちらに向かって窓が三つほどある結構大きな家だった。
手入れはされていない様子が、門の外から見える荒れた庭と汚れて草が生えている家の壁を見て分かった。売地、と書かれたボロい看板が、家の門から外れて地面に落ちているのを見ると廃墟というのは間違いなさそうだが、特に立ち入りを制限するようなものもなく、その管理会社のずさんさを露呈している。
ついてしまった・・・、一体どうするつもりなんだろう。他の5人は先に家の玄関に向かって歩いている中、少し後ろに離れたところにトール君を引っ張り、これからどうするつもりなのか訪ねた。
霊能力なんて全くないこの僕が力になれるわけもない。
「うん、そろそろ話しておいた方がいいな。ミッチー。人間ってのは言ってしまえば全員霊能力者なんだ。」
はぁ?
「程度の差はあるけどな。人間を見るみたいにはっきりと見える人もいれば、それ以上に見えてしまう人もいるし、かすかに気配を感じるだけの人もいる。」
まぁそんなのはなんとなくわかるけど、全員ってのはちょっと。
「例えば、怖い話を読んで微かに背中に寒気を感じたり、お墓とかそういういわゆる出そうな場所を歩いているときに鳥肌がたったり。暗い道を歩いていると、広い道なのに顔に蜘蛛の巣がかかったような感じがしたり。そういうとても些細な事でも、実は霊の存在を感じているからなんだ。」
えぇ?
「お風呂で頭を洗っているとき背後が気になったり、気になって布団から足を出せないとき。小さな違和感。そういう出来事も、体が知らぬ間に霊を感じることで起きているんだ。誰しも必ず持っている霊力、第六感でね。」
はぁ。
「ここまでが前提だ、ミッチー。この話を聞いて、君は違和感を感じているだろうな。」
まぁ、うん。
「そうだろうとも、そうだろうとも。言ってごらん?何がおかしいと思う?」
「僕はそんなこと、これまで一度も経験したことないよ。」
「そう、それだ、おかしいよミッチー、そんなことあり得ないんだ。誰しも一度は、そういう経験をしているのが普通なんだ!」
そうなのか?
「どうやら君には、人として誰しもが持っている霊能力、第六感というものが少しも存在しない!全くのゼロだ!」
そういうトール君は、なんだか嬉しそうにしていて
「いやしかし、霊能力が全くない人間てのは極めて稀だが、いると話に聞いた事がある。俺が出会ったのは君が初めてだけど。驚いたのはむしろ、教室で君を見たときだ!俺は唖然とした。」
少し興奮しているようだ。
「君の背中には、何百という悪霊がついている!」
うわ、僕群体恐怖症なんだけど。数を想像したら気持ち悪いな。
「そんなの普通の人間が耐えられるわけない。普通ならとっくにあの世に連れてかれてる。霊能力が異常に低い人間だって、ここまで憑かれちゃ何らかの影響を受ける。」
それはちょっとやばいな、なんでそんなことに。
「そして、君からあの自己紹介の件を聞いて、ピンときたよ。言ったろ、霊が見えるなんて嘘は、ついちゃいけないんだ。」
既に廃墟の中に入っている僕たちは、二階への階段を上る。
「霊が見えるという嘘だけは、本当にダメなんだ。悪霊ってのは、常に誰かに認識されたがっている。俺のように、本当に見える奴らは、自分で見る奴らを選んでる。」
「見られたと悪霊に思われたり、反応しちまうと憑いてきちまう。そうならないために、必要以上に見える奴は、成長とともに嫌でも学ぶ。」
「霊能力が普通の奴が、霊が見える嘘つくこともある。でもそのうち言わなくなるんだ。普通の奴でも微かに感じとるんだろうな、嘘をつくたび、悪霊に取り憑かれていることを。感じとれなかったとしても、いつからか必ず、悪い影響が出始める。最後には必ず気づく。その段階まできたら、もう遅いんだけど。」
「でも君は、違う。それにも気づけなかった。知るすべがないからしょうがないとしても、悪霊が憑いても嘘をつき続けたんだ。恐らく、何年も。」
いや確かに、小学校高学年から自己紹介事変まで、嘘はつき続けてたけど。だって人気者になれると思って・・・、誰しもそんな時期、あるよね?
「そして霊能力の全くない君には、その悪い影響すら受けられない。だから、無限に憑き続ける。」
既に二階の部屋の前。ユイは、大きく唸り声をあげながら、自らの手で自らの首を絞めている。リュージとケンタがその手を首から剥がそうとするが、上手くいかない。
「お前らさっきから何二人だけで喋ってんだ!ユイ抑えるのに協力しろって!こいつの細腕のどこにこんな力があんだよ!!ちくしょう!!」
「ユイ!!しっかりしろユイ!!」
「ユイぃぃぃぃい!!いやぁぁぁ!!もうやめてぇえ!!!」
「落ち着けミキ、大丈夫だから、大丈夫だから!」
僕はトール君に聞く。
「それで、その話がこの状況を解決することに、どう繋がってくるの?僕殴られたくないんだけど!!」
「ミッチー、君ってちょっと気持ち悪いよ。」
トール君は、件の部屋のドアノブに手をかけ、苦笑しながら言った。
「だけど言ったろ。お祓いは専門外だけど、どうにかできるって。ミッチー、君のその背中の悪霊たちと、この部屋の悪霊。どっちが強いと思う?」
気持ち悪いって・・・さすがの僕でも面と向かって言われると、ちょっと傷つくゾ・・・。
主人公は霊能力、0能力・・・。
明るいわけではなくて、お化けの怖さが全く分からないだけです。
むしろ根っからの陰キャです。