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街散策

 朝起きて出かける準備を始める。


 部屋から一階に降りると、宿屋の女将さんに服を手渡される。

 昨日預けていた服が洗濯されて綺麗になっていた。

 本当にありがたい……有料だけどな。


 朝食のブルーフロッグのシチューをいただいたあと、俺は宿を出る。

 外に出る前に、今日も一泊することを女将さんに告げておいた。


 現在は午前十時。

 街の噴水広場には時計があったが、宿の部屋に時計はないため宿の主人に聞いた。

 今日の目的は情報収集。

 武器防具や魔法巻物の物価ぐらいは調べておきたい。


 当たり前だがお金を稼ぐには仕事をしなければならない。

 安全に仕事をするには最低限の装備が必要。

 昨日のゴブリンは例外だと受付嬢さんは言ったが、やっぱりなんらかの防衛手段を所持しておきたいところ。

 そのために何かいい物がないか探す。


 この街は東西に広い楕円形になっている。

 中央部に俺が転移してきた噴水広場がある。

 南西側にギルドや宿屋、武器防具などの商店は南東にある。

 東西にはメインストリートが走り、これに近いほど人通りも多く活気はあり店は多い。


 宿を出て東の方角へ、まずは武器防具の店に入ってみることにする。

 昨日、受付嬢さんにいくつかオススメの店の場所を聞いておいた。

 色々と彼女に頼りすぎな気もするけど、しょうがない。

 もし余裕ができたらお返しをしよう。


 食事にでも誘ってみるかな?


「らっしゃい」


 店に入り、聞こえてきたのはぶっきらぼうな声。

 スキンヘッドのいかつい親父が店主らしい。

 店に置かれた品々を見る。

 革鎧、鉄鎧、鎖帷子など俺でも知っている定番のものから、赤や紫のやけにカラフルな何の素材かわからないものまである。


 武器も杖、鞭、短剣、長剣、槍が雑然と並んでいる。

 興味津々といった感じで物色していると、親父が話しかけてくる。


「どんな武器防具を探しているんだ? 前衛と後衛どっちだ?」


「後衛ですね。手持ちの武器がないので護身用で何かいいものがあればと……」


「体を見るにあまり鍛えてる感じはしないな。そんなに重たいものは装備できないだろうし、手頃なのは短剣あたりか、予算は?」


「できたら三千ゴールドぐらいで」


「あぁ? 三千ゴールドじゃ何も買えねえぞ。採取用のナイフでも二万ゴールドはする」


 入っていきなり、一刀両断される俺。

 ナイフで二万ゴールドか……た、高えな。

 いくらなんでもここまで高いとは思わなかった。

 日本だと包丁とか百均で売ってたしな。


「その顔を見るに冷やかしじゃなくて本当に相場を知らねえのか……兄ちゃん手を見せてみな」


「あ、はい」


 俺が差し出した手を親父がマジマジと見る。


「綺麗な手だ。タコの一つもねえ……武器の訓練なんてしたことねえだろ」


「おっしゃる通りですね」


「後衛でも、狩人って感じでもねえ……攻撃魔法はそれなりに使えるのか?」


「攻撃魔法はひとつも使えませんね」


「えぇと、なら助けてくれる仲間はいねえのか?」


「誰一人いませんね」


「まじかよ。武器の訓練もしたことがなく、魔法も使えず、助けてくれる仲間もいねえ……そんなんで、どうやって暮らしてきたんだよ」


 親父がため息をはく。


 大丈夫かコイツ……って顔をしている。


「お前さんにも事情があるのかもしれねえが、魔法が使えるジョブなら武器より魔法を使ったほうがいいぞ。武器は扱いを覚えるのにどうしてもかなりの時間がかかる。だが魔法はセンスの影響が大きい。できるやつはすぐできるし、即戦力になる……まずそっちを先に試してもいいんじゃねえか」


「な、なるほど……ありがとうございます」


 強面だけど親切だった親父に礼を言って店を出る。


 なんの得にもならなかった俺にアドバイスをしてくれた。

「お金が貯まったら、ここに来い。少しならサービスしてやる」と言ってくれた。




 武器屋を出て、次に雑貨屋を見て回る。


 コップやらタオルやら、細かい生活用品なんかは揃えるのはもう少しあとでもいい。

 鍋とかも冒険で遠征するとかでなければ必要ないだろう。

 さすがに持ち運びする荷袋くらいは欲しいけど。


 かなり悩んだ結果。雑貨屋で千五百ゴールドの荷袋(中)、五百ゴールドの荷袋(小)、千ゴールドの水袋を購入した。

 三十センチくらいの中ぐらいの袋は荷物入れ。

 今も採取したマンドラゴラとか宿に置きっ放しだしな。

 地面から抜いたマンドラゴラは鳴いたりしないので問題ない。

 とはいえ、突然見たらビックリするかもしれないし、袋の中にしまっておきたい。


 十センチくらいの小さい袋はお財布代わりだ。

 さすがに服のポケットの中でジャラジャラ硬貨を鳴らしながら作業するのはな。

 どちらも上部に紐がついているので、中の荷を紛失することはない。

 水袋はこの暑い時期の必需品だろう。


 これで残金は八千ゴールド。




 時刻はいつのまにかお昼を過ぎていた。

 お腹が空いたのでお昼を食べることにする。

 一度メインストリートの方へ戻り、適当に露店を見てみる。

 やがて露店の一つに足が止まる。

 ブラックボアという名の黒猪の魔物の串肉を購入。

 肉は少し筋張った感じだが、ボリュームがあって肉汁が溢れてきて美味しい。

 スパイシーな感じのタレとの相性も抜群だ。


 食べて少し休憩したあと、午後の活動を開始する。

 訪れたのはアイテム屋さんだ。

 半透明の瓶に入った下級回復ポーション三千ゴールド。

 中級回復ポーション七千ゴールド。

 怪我した時の保険として欲しいけど、手持ちが少ないとなかなか踏み切れないお値段だ。

 買っても、護身用になるかと言われると違う気がする。

 欲しいのは怪我したあとに必要なアイテムではない。

 魔物に遭遇しても極力怪我をせずに済むアイテムだ。


「あの……緊急用の護身アイテムとかないですかね? 使い捨てでもいいんで、お手軽に使えて効果がある」


「護身用ですか……そうですね。こちらはどうですか?」


 ここの店主は腕利きの錬金術師で、薬関係に加えて特殊なアイテムも取り扱っているらしい。

 店員に尋ねると、奥から持ってきたのは三つの石。

 石は青、黄、赤、三色で、十センチくらいの大きさだ。


「なんですか? この石」


「この石はボンバーゴーレムの破片ですね」


「ボンバーゴーレム?」


「はい、ダメージを与えると爆発する石の魔物ですね。これを投げてぶつけると爆発するんです。青、黄、赤の順に爆発の破壊力は増加します。青でもかなりの威力ですよ」


 ファンタジー版、手榴弾みたいなもんか。

 危険度も信号と似たような感じでわかりやすい。


「ただ注意点として、あまり近いと自分も爆発に巻き込まれてしまいます」


「な、なるほど」


 火力としては心強いんだろうけど。


「青石が三千ゴールド、黄石が五千ゴールド、赤石が二万ゴールドです。買いますか?」


「……も、もうちょっと考えてみます」


 安全は重要だし別にケチるつもりはないんだけどね。

 確かにお手軽なんだけど、移動中に誤作動して暴発しそうで怖い。




 時刻は夕刻前。最後の目的地は魔法屋だ。

 道路脇に魔法屋と書かれた看板を発見し、家の中に入る。


「いらっしゃいませ!」


 中に入ると来客を知らせるベルの音が響く。

 その音を聞いて少女が奥の部屋から姿を見せる。

 明るい茶髪をポニーテールにした十代前半の女の子だ。

 頬にあるソバカスがチャーミングである。


「本日はどういったご用件で」


「え~と、巻物の購入を検討しておりまして」


「巻物ですか……現在当店で置いてあるのはこちらになりますね」


 店番の女の子はそういってガラスケースの一角を指差す。

 クルクルと丸められて紐で固定された巻物が綺麗に並べられていた。

 俺は巻物の前の値札を見る。

 聞いてはいたがかなり高いな。


 一例は大体、こんな感じ。


『ファイア』二万ゴールド。

『ファイアボール』四万ゴールド。

『ウォーター』二万五千ゴールド。

『ウォーターボール』五万ゴールド。

『ウインド』二万ゴールド。

『ウインドボール』四万ゴールド。

『アース』二万ゴールド。

『アースボール』四万ゴールド。


 火、水、風、土とあり水だけ値段は高い。

 時期的な需要の問題かね。

 魔法属性は他にも雷、光、闇、氷などあるが、入荷数も少なくすぐ売れてしまうそうだ。


「あの、質問いいですかね?」


「はいどうぞ」


「巻物を使用すればすぐ魔法が使用できるようになるんですかね?」


「はい。ですが……発動させるには正しい詠唱を唱える必要があります」


「ええと、すみません。サッパリわからないんですけど。正しい詠唱?」


「……では、簡潔に説明しますね」


 魔法について説明してくれる店員さん。


「この世界には人の目に見えない、とても小さな精霊がたくさんいるんです……彼らは水の中、火の中、土の中など色んな場所にいます。魔法とは彼らに力を借してもらい引き起こす現象です。まぁ竜などは精霊の力を借りずとも独自で魔法を使えますが一先ず置いておきます」


「ふむふむ」


「いわば『詠唱』とは精霊たちの力を貸りるため、彼らにお願いする儀式です。実際にやってみましょう」


 店員さんはコホンと可愛く、咳払いをしたあと。


『火よ、我が前に集え『ファイア』』


「おおおっ!」


 手のひらの上にボワリと赤い火が出現する。


「すげえ、すごいですよ店員さん!」

「お、驚きすぎですってば。ま、まぁ……こんな感じですね。今のが詠唱です」


 間近で見たことで感激してしまう。

 俺の賛辞に少し照れた表情の店員さん。


 しまった、興奮しすぎた。


「ただし精霊に詠唱を伝えるには正確な音程、リズムで発音しなければなりません。例えば同じように……」


『火……よ、我が……前に……集え『ファイ、ア』』


 先ほどと同じ言葉を詠唱をする店員さん。

 今度は所々に間をとりながら……。


「……な、何もおきませんね」


「はい。このように正しく唱えないと詠唱失敗となります。今のはわかりやすいよう露骨にタイミングをずらして唱えましたけどね。実際に詠唱すればわかりますがこの成功判定が結構シビアなんですよ」


「なるほど」


 正しい発音ができるかが魔法発動の成功率に影響する。

 武器屋のおっさんが言っていたのはこのことか。

 リズム感とか、正確な音程で伝えるセンスの重要性。

 カラオケでも最初から結構うまい奴と、練習しても音痴の奴がいるもんな。


 俺はそれからいくつか質問して店を出た。




 夕暮れ時の道を歩き、宿へ帰る。

 一先ずの目標はできた。

 とにかく、まずは巻物を買って魔法を覚えるべきだな。


 店員さん曰く初級魔法でもゴブリンくらいなら十分倒せるそうだ。

 巻物を買わない理由がないだろう。


 それに個人的にも武器で戦うより魔法で遠くからチマチマ撃ってるスタイルのほうがいい。

 てかあんまり魔物に近寄りたくない。怖いしな。

 やはり自衛手段が一つもないのは精神的にキツイ。

 初級魔法を覚えれば高額依頼は無理でもできる仕事の幅は広がる……はず。

 お金もコツコツ貯められるはずだ。


 巻物は最低でも二万ゴールド。


 あとはどうやってそのお金を貯めるかだな。



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