軍隊蟻3
「まじ、かよ……」
わざわざ橋を破壊までして、軍隊蟻を止めたのに。
彼らは自分たちの身体で橋を作ることで、対岸に渡ってこようとしている。
『キキキ、キ』『キキ、キキキキッ』『キキキィ』
『キキ、キキキキッ』『キキキ、キ』『キキ、キキキキッ』
耳障りな鳴き声が絶えまなく響く。
し、しつこ過ぎる。
大嫌いだ、こういうRPGとかで王道を無視して突っ込んでくるタイプというか。
船がなければ泳げばいいじゃない。
そんな感じでセオリーを無視する奴。
『守護像! 蟻に橋を造らせるなっ!』
急ぎ、蟻橋が完成するのを妨害するため、近くにある石を守護像に何度も投げさせる。
蟻の橋は崩れないが、何匹か衝撃で下に落ちた。
だが、穴が開いた脆い箇所を塞ぐように別の蟻がすぐにやってくる。
抜群の連携プレイである。
くそぅ、強力な遠距離攻撃があれば。
合成魔法が使えりゃ、蟻なんてここから一掃できるんだが……。
ああ、普段できることができないって、本当にストレスが溜まる。
どう動く? 守護像が少しでも動きを止めているうちに距離を取る?
だが、たった数分走っただけでこの疲労度なんだぞ。
守護像がいても三人を守りながら、街まで移動し続けるのは難しい。
つぅか、このままじゃ蟻たちは街まで付いてくるんじゃねえのか。
「しょうが、ねえか」
「トール、さん?」
あんまり乗り気にはなれない手だが……。
「二人は先に街に戻れ……蟻たちは俺がくい止める」
「な、何を言って……」
俺はここに残って、蟻たちを足止めする。
このままじゃ確実に三人共倒れになるしな。
別に変に正義感ぶっているわけではない。
女のために、自分が囮になってと格好つけてるわけでもない。
純粋に、これがたぶん一番生存確率が高いと思っただけだ。
「む、無茶ですっ! トールさん一人であの数なんてっ! 死にに行くようなものですっ!」
当然ながら、反論するシルク。
だが、うだうだやっている時間もない。
「そもそも、今は魔法が使えないのでしょう? せ、せめて私も一緒に……防御魔法なら得意ですからっ」
「駄目だ。シルクがいると困るんだ」
「え?」
「子守歌を使うからな。守護像に俺を守らせて、その間に蟻たちを眠らす……」
基本的に俺の能力は範囲攻撃が多い。
シルクやララがいると思い切った手段がとりにくい。
二人を眠らせてしまったら、何の意味もないしな。
それに誰かが軍隊蟻のことをギルドに伝える必要がある。
予想した以上の数、こいつらが街にそのまま来たらもっと大きな被害がでる。
この状況ならギルドも動かざるを得ないだろう。
シルクが戻る頃には夕方だ。
ぼちぼちセルも街に戻ってきているはずだ。
といっても、ここから街までの往復距離を考えるともう、助けに期待するより、倒すことに賭けた方がいいだろうが。
「こ、子守歌……ですか。私も実際眠りかけましたし、確かに強力ですが一曲歌いきるのに最低でも五分ですよ。いくら守護像が側にいるといっても、あの数の蟻に全方位から囲まれて、その間……本当にトールさんだけで、耐えられますか?」
「それでも……やるしかねえだろ」
加えて歌っている間はどうしても無防備になる。
歌の歌詞を残響させるにしても、元の音になる最初の五分はどうしても、俺の口で歌い続けなければならない。
途中、なんらかの妨害が入れば歌は中断されてしまう。
そして何よりまずいのは、俺の口が塞がっているから、いざという時に守護像に細かい指示が出せない点だ。
「だが、それしかねえと思うぞ。どっちみち、誰かが街に戻ってルルの薬を作んなきゃいけねえしな。それとも、ララ一人で魔の森を行かせるのか?」
「…………だ、だけど」
取るべき選択について揉める俺とシルクだったが……。
「ちょっと…………ま、待って、二人とも」
ララの声が俺たちの意識を引き戻す。
「……お、おかしいの」
「「おかしい?」」
蟻の軍勢がどんどん迫る中。
訝しげな表情を浮かべるララ。
その視線は蟻とは別の場所へと向けられている。
なんだ? ララは何を気にしているんだ?
「ララ? どうしたの?」
「ち、近くから魔物の気配がするの……」
「ま、魔物だと?」
俺の疑問にはっきりと頷くララ。
「気配って、そこにたくさんいる蟻じゃないのか?」
「ううん……全然違う。しかも……かなり強い気配がする」
おいおい、勘弁してくれよ。
蟻だけでも手一杯なのに
警戒しながら辺りを見回す……だが、魔物なんていない。
「やっぱり、感じる……」
だが、ララは気配を感じているようだ。
緊迫した顔のララ。
しかし、何度確認しても近くには誰もいないわけで。
まさか透明化している魔物ということはないよな。
そんなの今、相手にしたくはないんだけど。
戸惑う俺たちに、ララが口を開く。
「トールさんの背中から……」
「なに?」
震える指を、俺に向けてくるララ。
その直後。
『&$#(……き、気付かれてしまった)&$#』
「っ」
小さい声が俺の背中からした。
掠れたような、濁ったような声。
「う、おおおおっ!」
やがて背負っていた袋が突然もぞもぞと動きだす。
背後から緑色の細い何かが複数本、伸びてきた。
焦る……めっちゃ焦る。
「ちょっ……な、なんだよ、これはっ!」
『&$#(ま……これも一つの縁か)&$#』
腕にグルグルと絡みついていく緑色の蔓。
そして伸びた蔓の先から咲いている赤い花。
その特徴から判断するに。
(まさか、コレは俺の荷袋に入れていたマンドラゴラなのか? だが……)
瑞々しさを感じる蔓の触感、締め付けから伝わる力強さ。
蔓もここまで長くはなかったはずだ。
そして鮮やかに咲き乱れる無数の真っ赤な花たち。
見た目もそうだが、数時間前に見た時よりも、マンドラゴラから圧倒的な生命力を感じる。
急な出来事に脳の処理が追い付かない。
『&$#(困っているようだね……力を貸そうか?)&$#』




