表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/70

軍隊蟻2

 無事ララを発見し、薬の原料となる月魔草を入手した俺たち。

 だが、帰ろうとしたところで軍隊蟻(アイアンアント)に見つかってしまった。

 

 まったく、やれやれだ。

 偶にはすんなりと最後まで行かしてほしいところだぜ。

 

『キキキ……キ』『キキ、キキキキッ!』

 

 甲高い鳴き声を出しながら、奥の草むらの中とかかから、ワラワラ出てくるアイアンアント。

 向こうに巣でもあるのか、あっという間にその数は増えていく。

 一匹いたら、その何十倍いる……そんなゴキ的光景である。


 出て来た蟻は散らばり、俺たちを包囲しようと動き出す。

 急ぎ来た道を引き返すが、蟻の足は想像していた以上に速く、着実に蟻との距離が詰まっていく。


(これが……軍隊蟻(アイアンアント)


 近くで見ると思った以上にきついな。

 蟻の頭には二本の触覚のようなものが生えている。

 体長五十センチくらいのやや青みのある黒い甲殻。

 動物とか、人間と同じサイズでも可愛げがあるけど、昆虫の場合はグロテスクさが一気に増すぜ。

 

守護像(ゴーレム)! こっちに近づけるなっ!』

 

 俺の命令を受理した守護像(ゴーレム)が、接近するアイアンアントに攻撃を仕掛ける。

 剛腕でアイアンアントを頭上から思いっきりぶっ叩く。

 

「おお……すげえ」


 軍隊蟻(アイアンアント)と呼ばれるだけあって硬いボディもその特徴の一つ。

 とはいえ、個別の能力でいえばアダマンゴーレムの方が圧倒的に上だ。

 硬いボディも、二、三回、攻撃を受ければ行動不能になる。

 単純な勝負なら相手になどならない。

 

 しかし相手は軍隊蟻(アイアンアント)だ。

 数の暴力で攻めてくる相手。

 一匹、二匹倒した程度では影響がない、つうかさ。


「お、多すぎないかっ?」


「ど、どうしてこんなにいるのっ!」


 困惑する俺たち。

 数次第では、守護像(ゴーレム)に頼んで殲滅という可能性もあったが……これは、いくらなんでも多すぎる。


 マジで軍隊だぜ……一体、どうなってんだ?

 群れの数は精々四、五十って話だった。

 それなのに、見える範囲だけでもそれ以上は確実にいる。

 

「ちっ、こっち側にも既に回ってっ!」

 

 必死に逃げる俺たち。

 だが、進行方向を先回りするように蟻が行く手を塞いでくる。

 

「トールさんっ! 右へっ!」


「おう」

 

 シルクの指示に従い、迂回して進路を変更する。

 少しでも蟻の密度が高くなさそうな場所を選んで進む。

 絶対に囲まれる前に離脱しなければならない。

 必死でララの手を引くシルクと共に、草むらを駆け抜ける。

 

「シルクお姉ちゃん、下っ!」


「っ!」

 

 いつの間にか、死角の足元から近づいていた蟻。

 危険を早めに察知した守護像(ゴーレム)の一体が飛び出して、豪腕で蟻を潰す。

 シルクの危機を救ってくれた守護像さんにマジ感謝。


 守護像はよく働いてくれている。

 だが、いかんせん数が多い。

 

「だ、大丈夫? ララ?」


「う、うん……っ」


 全力で走るが、 ララの呼吸が少し苦しくなってきた。

 今のところはどうにか全員無事だけど、このペースでずっと逃げ切れるのか?

 徐々に狭まっていく蟻による包囲網。

 

「ほ、本当にきりがねえ」

 

 蟻、蟻、蟻……どこを見ても蟻。

 無限にいるのかってくらい、視界を黒い奴が埋め尽くそうとしている。

 一応、連中には女王的存在がいるそうだ。

 そいつを倒せば群れは瓦解するらしいのだが……。


 どれだか、さっぱりわからん。


 特徴としては通常個体より体格が三パーセントくらい大きいそうだ。

 違いが微妙過ぎるっての。

 この状況で、そんなの冷静に探せるわけねえだろ。

 

 森というフィールドも最悪だ。

 蟻のサイズが小さいから、足元が死角になりやすい。

 彼らは木々や草むらの障害物があっても苦にしない。

 

 こいつら、下手すりゃ全部で百以上はいるんじゃねえのか?

 並走する守護像(ゴーレム)がどれだけ倒しても、次から次へと湧いてくる。

 既に守護像(ゴーレム)が十匹以上は倒しているはずだ。

 仲間がやられてる様子を見ても、まったく恐怖する様子がない。

 こっちはとっとと、撤退して欲しいと思ってるのに。


 くそ、チームプレイする魔物とか、超やっかい。

 俺はやられても構わない、他の仲間がどうにかしてくれる。

 俺が死んでもみんなが勝つならそれでいい。

 そんな感じの軍隊蟻。

 もっと自分大事に行動してくれ、命は一つしかないんだぞ。

 

 蟻から逃げるため、右に左に方向転換、なかなか先に進めない。

 こんなんじゃ、すぐスタミナが尽きてしまう。

 あるいはソレが蟻たちの目的なのかもしれないが。

 とにかく……このままじゃ、じり貧になるのは確か。


 蟻たちの動きを観察し、なんとか突破口を見つけるしかねえ。


(ん、これは……)


 蟻たちから必死に逃げているうちに俺はある規則に気付く。

 いや規則というほど大したものではないけど。

 

「トールさんっ! こっちは蟻が少ないですっ!」


「いや……たぶん罠だ。行くな」


「え?」


「ど、どうしてわかるの? トールさん」

 

 困惑するシルクとララ。

 

「そっちから、複数の大きなカチカチ音がした。ついさっき蟻が仲間を大勢呼んだ場所だ」


「き、聞こえるんですか? この雑音の中で」


「ああ」

 

 キキキという蟻の鳴き声や足音、守護像たちの足音。

 大混雑した状況の中だが、しっかりと集中すれば蟻の仲間を呼ぶカチカチ音の出所は聞こえてくる。


 カクテルパーティー効果……だっけ?

 騒がしい場でも興味のある情報が何故かよく聞こえるやつ。

 素人知識なんで微妙に間違ってるかもしんねえけど……まぁいい。

 

 音波耐性もそうだが、単純に吟遊詩人の俺は聴覚に優れているのかもしれないな。

 少なくとも二人よりも耳がいいのは確かだ。

 最初の蟻の時も俺が一番にカチカチ音に気付いた。

 今思えば、以前の魔の森の時も早めにゴブリンの存在に気付いたわけだしな。

 判断ミスをして囲まれてしまったけどな。

 

(落ち着いて、少しでも安全なルートを探せ)

 

 集合ルールはとてもシンプルだ。


 もっとも大きなカチカチ音のところに集まろうとする習性。

 そして一定数集まると音は止まる。

 たぶんだけど、面積あたりの仲間の密度とか、獲物との距離、進行方向を大雑把に総合的に判断して音を出しているのだろう。


 そして獲物が逃げないように囲い込む。

 その上で、俺たちはどう逃げればいいか。

 

「二人ともっ! 俺についてきてくれっ!」

 

 選んだのは蟻の数が少ないルートではない。

 守護像(ゴーレム)を引き連れ、数の多そうなやや危険目なルートに突っ込んでいく。

 そして。

 

「方向、変えるぞっ!」

 

 最短距離を突っ切るのではない。

 視界と耳を頼りに、少しでも蟻たちの行動の虚をつく。

 行動の裏をかき、包囲網を乱しつつ進んでいく。

 



 そして……逃亡から五分が経過。


 蟻に捕まることなく、ようやく行きに通った橋が見えてきた。

 どうにか包囲されずに、ここまで来たわけだが……。


「はぁ、はぁっ……あぅっ!」


「「ララッ!」」

 

 走り続けた疲労で足がもつれて、地面に転ぶララ。

 急ぎ起こして逃げるが、このペースでは街まで体力が持ちそうもない。

 体力のない子供の足では確実に逃げ切れない。

 というか、大人だが体力のない俺も逃げ切る自信はないしな。

 

(しゃあねえ……か)

 

 見ればアダマンゴーレムの腕の指が欠けていた。

 アイアンアントの強烈な顎による噛みつき攻撃。

 ダメージも零とまではいかないようだ。

 これでもし足を止めて、あの集団に完全に囲まれたら……本当に考えたくはないな。


 ここで手を打たないとまずそうだ。

 

「シルク、ララ、橋の向こう側まで思いっきり走れっ!」


「は、はいっ!」

「うんっ!」

 

 前方の軍隊蟻を蹴散らすようにゴーレムに指示する。

 確保された進路を大急ぎで進む俺たち。

 このまま普通にやっていても、どこまでついてくるかわからん。


 シルクとララを先行させ、橋を渡らせる。

 その後ろを俺と守護像(ゴーレム)が続く。

 木の橋を縦一列になって進んでるので、ちょっと橋が落ちそうで怖かったが、耐えてくれてよかった。

 どうにか無事、全員が渡り切れたところで……

 

『今だっ! 守護像(ゴーレム)! 橋を破壊しろっ!』

 

 逃げ切るにはこれかしか手はないだろう。

 一番後方にいるゴーレムに橋を攻撃させる。


 橋が壊れて何匹かの蟻と、木片がバラバラと下の河川に流れていく。


「……こ、これで、逃げ切れたか?」


「はぁ、は……はい、おそらくは」


「ひ、ふぅ……」


 どうにか難を逃れたことで、ぐったりと地面に膝をつく俺たち。


『キキキキキッ!』『キキキキイイッ!』


「ふぅ……悪いが、鬼ごっこは俺たちの勝ちのようだ」


 壊れた橋の反対側では、俺たちを威圧するようにアイアンアントが鳴いていた。


 ざまぁみやがれ、クソ蟻が。


 どこか悔しそうに鳴いている……ように見えた。

 対岸まで十メートル以上はある。

 奴らは飛べないし、さすがにここまでは来れないだろう。

 

「トールさん、思いきりましたね……橋を壊すなんて」


「ああ、それしか方法がなかったしな」

 

 シルクが壊れた橋を見ながら呟く。


 ま、後で色々怒られるかもしれないけど、死ぬより百倍増しだ。

 だけど……やっぱ弁償とかしなきゃいけないんだろうか?

 

「橋って、また架けるのにどれくらいかかるのかな?」


「たぶん、少なくても数百万は……」


「まじかよ……ふざけんなよ、おい。てめえらのせいで俺は」


『キキキッ!』『キキッ!』


 俺はアイアンアントを睨みつける。

 やっべえな、一気に金が吹っ飛ぶんだけど。


 加えて数体のセル家の守護像には傷もつけてしまったわけで。

 各守護像の状態を確認する俺。


(や、やっぱ……怒られるかな?)


 セルが大切にしてそうな気がする個体。


 十七号と十八号が傷物になっちまったんだけど。



「だ、大丈夫ですよ。緊急時の免除規定がギルドにありますから……」


「そっ、そうか……」


「ええ……橋を壊さなければ軍隊蟻が街まで来る可能性もありましたし、勿論、私もきちんと正確に証言します」

 

 今回、ルルとララのために動いてくれた俺に、不利になるようなことは絶対にさせないとシルクが力強く言う。

 シルクの言葉に少しホッとする俺。

 守護像(ゴーレム)の方はどうなるか知らんけど。


 それにしても、軍隊蟻……予想以上の数だった。

 こんなのが街の近くにいたなんてどうなってんだよ、マジで。

 戻ったらすぐにギルドに知らせなければ。

 

「ララ……大丈夫、歩ける?」


「う、うん……ありがとう、シルク姉」

 

 シルクがララの手を引いて立ち上がるのを助ける。

 ララの呼吸が、少し落ち着いたので移動を開始する俺たち。

 

「行きましょう。どこかにこちらへの迂回路がないとも、いいきれませんから……」


「そうだな」

 

 ちょっとヒヤリとする場面もあったけど。

 どうにか逃げ切れそうでよかった。

 

 俺は背後の蟻を一瞥し、その場を離れ……。

 

「……あ?」

 

 視界に入ったのは奇妙な光景。

 蟻の様子がおかしい。

 どういうわけか身を寄せ合っている軍隊蟻。

 二段、三段と蟻同士で身体を重なり合わせていく。

 

「さ、寒くて暖でもとっているのか?」


「まさか……そんなはず」

 

 その目的がまったくわからない。

 俺と同じく、蟻の行動理由がわからず困惑するシルク。

 少しして、蟻たちの重なり方に方向性が見えてくる。

 植物の蔓が伸び、成長していくように一つの形を作り始めた。


 そしてようやく……俺たちは気づく。

 

(まさか……こいつらがやろうとしているのは)

 

 ぞわり……と嫌な予感が脳裏に走る。

 冗談だろ? だが、考えたくない想像ほど当たるものだ。

 仲間の身体を土台にして上へ上へと高く積み重なる蟻たち。

 少しずつアーチを描くようにこちら側へと伸びてくる。

 

「は、橋を作って……自分たちの身体そのものを橋の一部にして」

 

 安堵できたのは、わずかな時間だけ。


「「「……」」」

 

 蟻たちの行動に呆然とする俺たちだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍一巻、二巻GAノベル様より発売中です。
クリックで購入サイトに飛びます
初級魔法カバー画像
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ