声帯模写2
習得した声帯模写スキルを使い、マンドラゴラの声を再現できるか試してみることにした。
マンドラゴラを握りしめ、では早速……と、思ったが、成功して万が一にも外に声が漏れたらまずいことに気づく。
セルの家は広く、隣家と距離はあるので大丈夫とは思うが、念のため少しでも声の漏れない場所に行こう。
昨日家を案内してもらった時、遊戯室は防音だと話していたので、そちらに移動する。
中の部屋にあるこの世界の遊具らしきもの。
直径三十センチくらいの黒く、点数が外周に表示された的が壁に立てかけてあったり、窪みが四隅に空いた長方形のテーブルが置かれていたり。
テーブルの中央には、二つに分断するようにネットのようなものが張られている。
前者は近くに投擲用の小剣が傍にあったので、きっとダーツっぽい何かだと推測できる。
後者は卓球なのかビリヤードなのか、はっきりして欲しいが。
まぁ、今日の目的はそれじゃない。
そのへんの考察は一先ず置いておこう。
テーブルに荷袋を置き、マンドラゴラを取り出す。
「さて……声帯模写、スキル説明には所持すればいいとあるが」
こいつを普通に握っていればいいのかな。
若干戸惑いながら、ギュッとマンドラゴラを握る。
本当にできるのかちょっとドキドキしているぜ。
「あ~、ごほん。あ~、あ~」
軽く発声練習をしたあと。
スキル発動を願い、声を出してみる。
以前引っ込抜いた時のマンドラゴラの悲鳴は記憶に残っている。
あんな感じになるように、調律してイメージと合致するよう、声を出す。
「ヴ、ア……うん?」
な、なんか、違うな……。
これは俺の声質だ。
風を引いた時のガラガラ声とか、こんな感じだった。
おそらく声帯模写スキルは発動していない。
「ア、アァ……ヴェ、ア」
我ながらなかなか気持ちの悪い声、ゾンビか俺は。
「グ、ヺウェ、イイグ、ッピピデ…………駄目か」
うーむ、何度か試すが、うまくいかない。
失敗の原因はなんだ?
やはりサンプルがマンドラゴラなのが駄目なのか?
いや、それを判断するにはまだ早いか?
時間はあるんだ。
とにかく試行錯誤してみることにしよう。
ふむ、持ち方を少し変えてみようか。
スキル説明には所持すると曖昧に表記してあるが、装備的な感じにしてみる。
マンドラゴラの根から伸びる緑の蔦。
蔦を腕にぐるぐる巻いて絡ませてみる。
より身体に密着させた状態で、もう一度トライ。
【……$%“!】
(お、おぉ……?)
きたっ、きたぞ……いい感じだったぞ。
聞いた覚えのある声がちょっと出た気がする。
今のは模写スキルが発動したっぽい。
「っ……の、喉が」
通常、人では出しえない声の強引な再現。
喉に負担がかかるのか、詰まるような感覚があった。
それでも……この挑戦に確かな手ごたえを感じ、心が躍る。
よし……では。
今度は思い切っていくぞ。
【$%$%‘$%“$#”#$“#%!】
いいぞ……できてる。
つうかこれ、完璧に近いんじゃねえの?
ふはは、やったぜ。
あとは実際にライフドレイン的も効果があるのか?
外に出て魔物相手に試したいところだ。
まぁ、それは今度町を出た時にでも試すとしよう。
とにかく、うまく行ってよかっ……。
「……あ?」
強くなる希望が少し見えてきて、喜んでいた時。
ぽたっ……と、テーブルに赤い雫が落ちた。
なんだ、これ? ……まさか、血液?
鼻にツンとした違和感を感じる。
鼻血か? 手で血を拭おうとするが……。
(ち、ちょっと…………待て)
グワングワンと揺れ始める視界。
徐々に生じる身体に異常、ソレは次第に大きくなっていく。
ま、ず、い……このまま模写を続けたら。
緊急事態に急ぎ、声を中断する……が。
「があああああああっ!」
鼻血から一拍遅れ、急激に全身に焼けるような激痛が走る。
浮かぶ脂汗、信じられないほどの痛み。
「はぁ、はぁ……ぐ、があ」
何故、だ?
マンドラゴラの声は生命エネルギーを奪うんだろう?
どうして、痛みなんてものが俺の身体に走る?
立てず、テーブルに寄りかかりバランスを崩し、膝を床につく。
冷たい汗が全身に噴き出す。
汗が服が、べったりと皮膚にくっつき気持ち悪い。
ス、ステータスはどうなっている?
*****************
名前:池崎透
LV:25
HP(生命力):108/242
MP(魔力):1668/1658
力:93
素早さ:92
体力:87
*****************
ぼんやりとした視界の中、どうにかステータスウインドウを確認する。
何故だ?
HPが大幅に減っていやがる。
魔物の声を再現することは不可能なのか?
いや、声自体の再現はできている……なら、これは。
というか、このステータス。
そもそも何かが、おかし……。
「はぁ、ふぅ……」
考察は後回しだ。
それどころではない。
俺は部屋を出てズルズルと身体をひきずりながら、廊下を移動する。
今の俺は回復魔法が使えない。
訓練の後、ポーションの保管場所をセルに聞いておいてよかった。
早くライフを回復させないと……。
(あ、れ……部屋って、どっちだっけ?)
意識が朦朧として、方向感覚が狂いだしている。
視界がぐるぐる回転して、定まらない。
どっちだ、どっちにいけば?
視界がぶれて部屋の扉が複数見え、どこが正解なのかわからない。
誰もいないはずの家で、一人孤独に危機的状況に焦っていた時。
「セルいるっ! いたら返事してっ!」
バタンと、どこかから扉が派手に開く音がした。
「大変なのっ! ルル君が……セルっ! いないのっ?」
誰かが、バタバタと慌ただしそうに廊下を走る音。
この声……どこかで。
「って……えぇっ? ト、トールさんっ!」
「……あ?」
歪んで見えるが、あれはシスター服、か?
加えて、金色っぽい髪、てことはシル……ク?
「ど……どどっ、どうして、こんなところで倒れているのっ?」
シルクの激しい動揺が声から伝わってくる。
「と、とにかくっ! 急いで回復魔法をかけないとっ!」
俺の隣にしゃがみこむ彼女。
柔らかな光が俺の身体を心地良く包み込んだ。
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