表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/70

声帯模写1

 

 朝、冒険者ギルド。


「おい馬鹿、押すんじゃねえっ! いてえだろうがっ!」


「ちょっと待て、その紙のは俺が狙っていた奴だぞっ! 勝手に持っていくな」


「こういうのは早いもの勝ちなのよっ!」


 一日の中で最も活気があり、混雑する時間帯。

 そこには少しでもいい仕事を受けようと、依頼用紙の貼られた掲示板に集まり、押し合いひしめきあう冒険者たちの姿があった。


 板一面にあった紙がみるみるうちに剥がされていく。

 そんな様子を横目に、指名依頼を受けたセルは受付へと向かう。


「おはようございます、ユリアさん」


「セルさん! おはようございます」


 朝の挨拶を交わす二人。


「今日はよろしくお願いしますね。採掘場の作業員の方が、そちらの部屋で待機していますので、後は彼の案内に従っていただけると」


「了解です。しかし、ジャイアントワームとはまた珍しいですね」


「……ええ」


 ジャイアントワーム、Bランクと相応に危険な魔物である。

 普段は地中深くに潜んでおり、山で遭遇する機会は少ない。

 出現する場所によっては土壌改良の恩恵を受けたりできる側面もあるが……。


「山で暴れられたら、地盤が崩壊して採掘場が埋まりかねません。鉱石はこの街の収入源の一つですし、放置はできませんしね」


「そうですね」


 ユリアの言葉に頷くセル。


「それにしても最近、魔物の生息場所の変化に起因する被害が本当に多いですよね。つい先日にも魔の森で軍隊蟻の巣が見つかりましたし」


「軍隊蟻、アイアンアント? ……ですか」


「はい。できたらこちらも後日、巣の駆除の協力をお願いしたいです。結構近い場所に巣がありますので」


「あの、巣のせん滅はさすがに私一人では無理ですよ?」


「勿論、こちらは数が多いのでセルさん一人ではなく、他の方にも協力をと……」


「そういうことでしたら……」


「助かります。ここ最近はイレギュラーな事態が多すぎますから」


 眉を顰めるユリア。

 結界があるとはいえ決して楽観視はしない方がいいと考える。


「やはり、これも古竜の戦いの影響なのでしょうか?」


「どうですかね? 全部そうだと決めつけるのは少し危険な気がしますが……」


 ユリアの問いに、考えるセル。


「あ、そういえば……その騒動の渦中にいたトールさんが昨夜ギルドに来られたらしいんですよ。私は休みだったので会えなかったんですが」


「トールなら今、私の家にいますよ」


「えっ? ど、どうして?」


 混乱するユリアに昨夜の件を伝えるセル。

 レイスに襲われていたところを助けたこと。

 その流れで家に保護していること。


「本当にトールさんて、運がいいのか悪いのか。でも……無事ならよかったです。よろしく伝えておいてください」


「はい」


「あ、あの、セルさん」


「なんです?」


 別れて、依頼人のところに向かおうとしたセルを呼び止めるユリア。


「その、余計なお世話かもしれませんが、一緒に暮らすなら、トールさんだって年ごろの男性ですし、その……」


「大丈夫ですよ」


「そうですか? セルさんは見ていて少し、異性への警戒が緩い気がしましたので」


 心配そうにユリアが言う。


「トールを信じていますから。それに、父さんも家にいましたし、その辺りは……」


「うん、温いです……やっぱり」


「え?」


「トールさんと父親とは全然違いますよ。お風呂に入る時間とか二人でキチンと決めていますか? 洗濯物とか置きっぱなしにしていませんか?」


「そ、そういえば今日汗かいて脱いだ服……そのまま、籠に」


「もう……信じるといっても、相手の理性だけに期待するのは酷です。女性の方でも色々と配慮しないと駄目ですよ」


「は、はい」


 詰め寄るユリアに、たじろぐセル。


「セルさんは少し男性的な部分があるというか、ご自分の魅力に気づいていないというか……」


「き、気を付けます。あ、あのぅ……そろそろ、あまり依頼人を待たせるわけにも行きませんので」 


「そ、そうでした……」


 ユリアから逃げるように去るセルだった。







 その頃、セル家にて。



(ふふ……来た、ついに来たぞ)


 久しぶりのスキル習得にちょっと興奮する俺。

 いや、ぶっちゃけもうこの先覚えないのではと思っていたが。


 レベルが一つ上がっただけ。

 なのに、セルは俺の動きの差異によく気付いたな。

 本当にすげえ。



 さてさて、新スキルの名前は声帯模写とある。

 どれどれその効果は?



 *****声帯模写*****

 対象の声を模写する。

 模写発動条件として、その対象を(皮膚、髪、体液など)を一定量所持する必要がある。



 まぁ今回は言葉からしてイメージがしやすい。

 要するに声真似をするスキルだ。

 物真似選手権とかこの世界にあれば、優勝できるようになるのだろうか。


 せっかく覚えたのだ。

 時間もあるし、このスキルを今日は検証してみよう。


 さて、実際どんな感じなのか。

 どこからどうやって試すか。

 となるとまずは、声帯模写の対象を誰にするかだよな。

 俺はキョロキョロと辺りを見回す。

 まぁ必然、最初に思い浮かべるのは……


 ここがどこの誰の家なのかということである。


 対象セルさんの一部(皮膚、髪、体液など)を一定量か。


 なるほど……頑張ればいけそうな気もする。


 一定量がどの程度かは不明だけど、皮膚はともかく、髪の毛でいいなら、家中くまなく探せば落ちていないということはないだろう。

 体液も汗なら、今日は訓練をしていたから、脱衣室の洗濯カゴを漁ればセルの着ていたシャツがあるはずだ。

 洗濯した素振りはなかったしな。



 よし、いけるな。


 これも日頃の行いのおかげだな。

 神様がくれた幸運だ。



「…………」


 いや、幸運じゃねえだろ、馬鹿野郎。

 好奇心で身を滅ぼす科学者とか、きっとこんな感じなんだろう。


 まあ、うん、そりゃあ俺自身、セルの声で色々と実践してみたい。

 だが友人として、家にお世話になっている身として、信頼を失いかねない行為、下手したら家を追い出されそうだ。

 かといってセル本人に汗か髪をください! なんて、言うのも冷えた目で見られそうだが……。


 まぁ下着泥棒とかなら大問題だけど、髪の毛くらいなら内緒で収集してもギリギリ許されるか?

 いや、それでもいい気持ちはしないだろうよ。

 バレなきゃいいんだよと、俺の中の悪魔が色々と囁くが……。


「……ふぅ」


 とりあえず家の中へ。

 借りている自室にてブレイクタイムだ。

 変態チックな行動をする前にちょっと落ち着こう。


(まぁ……さすがにアレか)


 とりあえずその件は保留にしておこう。

 そして、俺がブルセラ関連に興味がないことを彼女は感謝すべきだろう。


 いいのか悪いのか。

 俺は自分が思ったほど悪に徹しきれないようだ。

 割と根は善人なのかもしれない。

 いや、善人ならそんなこと考えないから半端者か。


 思えば俺、お店の買い物で釣り銭とか多く貰っても、その時はラッキーと思いつつ、最終的には罪悪感が湧いて、後日その分を募金箱とかに入れるメンドくせえタイプだ。



 一先ず、セルについては置いておいて。

 うぅむ、他によさげなサンプルがあればいいんだけど。

 何かないだろうか?

 誰に迷惑をかけることもなく、俺自身で用意できるもの。

 そんな都合のいいものがあればな。

 自分の髪じゃ、いつもと同じで検証してもわかんないしな。


 と、色々考えていると。


 ガタガタと部屋全体が揺れ始めた。


「……ん? 地震、か?」


 それなりに大きな地震である。

 頻繁に地震の起きる国に生まれた身なので、この程度なら怖がることもないが。


 まぁ、この世界の建築物の基準強度とか、耐震診断法とか知らんので、あんま楽観視しない方がいいのかもしれんけど。

 グラグラと揺れる本棚、花瓶……下からドサッと音がした。

 机の隅、不安定な位置にあった俺の荷袋が床に落下したようだ。


 被害はそれぐらいで、揺れは数十秒ほどで収まったが……。


(そういや、この街に来て地震を経験したのは初めてだな)


 そんなことを思いつつ、落ちていた自前の荷袋を拾う。

 その時、袋を締めていた紐が緩かったのか。

 中身の一部がずるりと床に落ちた。


(ん? ……これは)


 ピタリ、と……落ちたソレを見て俺の腕が止まる。

 落ちていたのは冒険者になり始めの頃。

 俺を助けてくれた麗しの君だ。


 その名は……マンドラゴラ。


(待てよ、もしかして)


 偶然発生した地震から、俺の脳裏に浮かぶ一つのアイデア。


 俺はもう一度スキルの説明分を見る。


 *****声帯模写*****

 対象の声を模写する。

 模写発動条件として、その対象の一部(皮膚、髪、体液など)を一定量所持する必要がある。



 これ……もしかしていけるか?


 体液はない、髪はない、皮膚……というか皮はある?

 だが、説明文にはなど……とか曖昧な書き方をしている。

 加えて対象の声を模写とはあるが、それが人間限定とは書かれていない。


 まぁ、そんなこと誰も考えないから、わざわざ書く必要がないだけで、全部俺に都合のいい解釈と言えばそれまでなんだが、条件は達成できるかもしれない。


 マンドラゴラの声は生命エネルギーを奪う。

 もし……こいつの声を俺がコピーできるなら。

 こいつの声を俺の意志で自由自在に再現することが可能ならば。


 最初の冒険でゴブリンを撃退した時のように。

 魔法が使えずとも……戦える力が手に入れられるかもしれない。


 剣、弓、槍、斧……そんなありふれた、誰もが扱う武器ではない。

 接近戦だろうがなんだろうが一声出せば敵を倒せる音波攻撃。


 思えば、魔法が使えないあの時も、安全確保のためマンドラゴラの近くで作業していた。

 ギルドに滅茶苦茶怒られて取りやめになったけど。

 だが、自在にコントロールできるなら、今回はわざわざマンドラゴラが生えている場所を探す必要もない。


 誰もが羨む俺専用の強力な武器が手に入る。

 しかも回復機能のおまけが付くかもしれん。


 前人未到、縦横無尽に動き回る移動式マンドラゴラに俺はなれる。


 まぁ下手なことすると、またギルドに怒られそうだし、やはり、とんでもなく迷惑な存在かもしれないが……。

 細かいことは実現できてから考えるべきことだ。



「とにかく……やってみるか」


 駄目元でも、試してみる価値はありそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍一巻、二巻GAノベル様より発売中です。
クリックで購入サイトに飛びます
初級魔法カバー画像
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ