ソードマスター
「はぁ、はぁ……ふぅ、つ、疲れたぁ」
訓練後、玄関でぜぇはぁと肩で息をする俺。
これ以上やったら朝飯が食えなくなりそうだ。
「傷は大丈夫か?」
「ああ」
ところどころジンジンするけど、回復魔法をかけてもらうほどじゃない。
「一応、そこの部屋にポーション類が保管してある……自由に使ってくれ」
「サンキュ、しかし……こんなに動きが捉えにくいとは思わなかった」
「それでもバルよりは遅いと思うがな」
「いや……俺からしたら十分速いよ」
密着されるとこんなにキツイのか。
それに、やっぱ魔法抜きじゃ一撃も当てられねえか。
これまで自分がどれだけ魔法に頼っていたのかを実感する。
「俺の型に嵌らない剣が……見事に防がれた」
「ト、トールのは技術的問題で剣筋が安定しないだけだと思うが……」
ド素人程、基本ができていない癖に自由な剣とかほざくものである。
最後の方、できもしない癖に二刀流なんて馬鹿な真似もしてみたが無意味だった。
「いや、そんなに悔しがらずとも、今のトールに負けたら私の立つ瀬がないぞ」
結果を誇るでもなくセルが言う。
「トールが望むなら、時間のある時でも剣を教えようか?」
「剣、かぁ……俺が覚えても微妙じゃないか?」
「まぁ、そこまで真面目に取り組む必要はないだろがな。トールの魔法ですら倒せない相手が、その場凌ぎの剣でどうにかなるはずがないし」
「それは……うん」
「剣はともかく、接近戦で魔法を封じられた可能性を踏まえ、距離を詰められた時の対処を学ぶために、こういった戦いに慣れておいて損はないだろうが」
そういった意味では、今日のような模擬戦も意味はある。
「でも、なかなか楽しかったよ」
「そうか……じゃあ、また明日だな」
明日……まぁ、いいか。
やってみたら案外悪くはなかった。
適度な緊張感があるというか。
なにより、これまでみたいなデッドオアアライブなバトルじゃないのが最高である。
「しかし、さすがに剣術は修練の差がモロにでるな」
「そうだな。まぁ戦士系には剣の扱いが向上する剣術スキルもあるがな。あれも結果論に近い、訓練やレベルアップの結果、得るようなものだから」
「へぇ」
「私なんかまだまだだぞ。父さんなんか斬撃が殆ど見えない」
「まじか、セルって剣は親父さんに教わったのか?」
「ああ、そうだ。本当に凄いんだぞ、父さんは」
憧れの人を思い浮かべるように。
目を輝かせて楽しそうに話すセル。
「親父さんて、何のジョブなんだ? 秘密でなければ教えてくれ」
「かなり有名なんだが、知らないのか? ソードマスターだぞ。魔剣、聖剣、あらゆる剣を扱う剣のエキスパートだな」
ソードマスター……名前からして格好いい響きのジョブだ。
これも賢者や聖騎士同様、特別職の一つとのこと。
「剣術スキル(特大)まで持っている人を父さん以外、私は知らない」
「特大か……俺と同じだな」
「……やはり、そうなんだな」
親父さんの話題から一転。
俺に向けられたセルの目がすっと細まる。
「トールは持っているんだな? 魔法の方で、特大スキルを」
「あれ?……俺、セルにはスキルについては話していたような」
「言ってないぞ。残響スキルについては聞いていたが、いや、まぁ……ティナとの模擬戦の時から、察しはついていたが」
ジッと俺を見つめるセル。
そうでもなければ、あんなに大魔法をボンボン撃てるわけもなく、俺の異常な成長速度が説明できないとセルが言う。
「内緒にしていたわけでもないんだけどな、セルが言いふらすとも思ってないし」
「ああ、ごめん。責めているわけじゃないよ。スキルを公開するもしないもトールの自由だ。以前話した時と違って、仮にバレても十分に自衛できるだろうし。まぁ、今のトールは薬のせいでアレだが」
薬でアレいうな。
「そういえば……気のせいかもしれないが、以前虹竜と戦っていた時よりもトールの動きがよかったような。また少しレベルが上がっているんじゃないのか?」
「でも、虹竜を倒したわけじゃないぞ」
「いや、あれほどの広範囲の一撃だ。周辺の魔物を何体か巻き込んでいる可能性もある。現在進行形で行っている湖の修復作業は大変らしい」
なんか……色々すいません。
壊すのは簡単だけど、元に戻すのは本当に大変だ。
「話は戻るが、別に明日からは剣に限らずともいいぞ。どんな方法でも、なんでも使って好きに戦えばいい、私もいい訓練になる」
「いいだろう。魔法抜きでも本当に一泡吹かせてやるぜ……いつかな」
「楽しみにしてるよ。というかトールの場合本当にやりそうで怖いよ」
楽しそうに笑うセル。
相手がいるのはセルも嬉しいようだ。
それから、朝食の準備へ。
「トールはお皿を並べてくれ……食器はそこの棚にあるやつを使ってくれ」
「おう」
二人で協力しながら食事を作る。
まぁ俺は料理ができないので、野菜切ったりとかセルの補助役だが。
見事な包丁さばきを見せるセル。
手際よく調理は進み、作った朝食がテーブルに並ぶ。
「美味しいぞ、意外と料理とかできるんだな、セルって」
「し、失礼だな。というか、トールが何もできなさ過ぎだと思う」
セル曰く、意外でもなんでもなく、冒険者をしていれば自然とある程度は身につくそうだ。
野営で毎回保存食では味気ないし気分も下がるとのこと。
食後、ソファーに座り紅茶を飲みながらセルとのんびりした時間を過ごす。
そして、セルが立ち上がる。
「さて、そろそろ出る時間かな」
「仕事か、ギルドの?」
「ああ、北の山まで出かけてくる。良質な鉱石がとれる、いくつかの採掘場でジャイアントワームが確認されたらしく、採掘員の護衛の仕事だ」
「じゃあ今日は帰ってこない?」
「いや、日帰りの仕事だから夜には戻ってくる。トールはどうするんだ?」
「まだ、決まってないからこれから考える」
「そうか……昨日のように魔物に襲われるのが不安なら家の中にいてもいいが、一応家の鍵も渡しておくよ」
セルが白い鍵を俺に手渡す。
「そうだセル。帰ったら晩飯を一緒に食べに行こうぜ。今日のは俺の負けだしな」
「別に、トールが負けた時の決まりはなかったはずだが……」
「いいんだよ……つうか、家に泊めてもらってるんだから、それぐらいは俺にさせてくれ」
「ふふ……わかった、楽しみにしてるよ」
そう言って、セルがほほ笑む。
「それじゃあ、気をつけてな」
「ああ」
玄関でセルが家を出るのを見送ったあと。
さて、どうしようか? 別に予定はないが、あまり他人の家でダラダラゴロゴロするのも、なんだかなぁという感じもする。
暇なんだし、今日ぐらいは真面目に戦いの反省なんかも踏まえて、セルへの対抗策、今の俺でもできそうなことを考えるか?
ティナは半年で魔法が使えるようになると言った。
俺ならそれより早く薬の副作用が消えるとのことだが、具体的な日程は不明だ。
セルが助けてくれているとはいえ、昨日のレイスの件のようなことがあってもいいように、最低限の自衛能力はあって損はしない。
手堅くいくなら、今のような普段着ではなく、誰かに相談して、もうちょい上等な装備品でもこの機会に揃えるべきか。
俺から魔法を抜いたら殆ど一般人そのものだからな。
まぁ他の能力として、歌も一応あるが。
死にスキルだと思っていたが、なんだかんだで活躍してくれている子守歌。
とはいえ、戦闘中の一対一の状況で呑気に歌う余裕はないだろう。
シルクにも効果があったし、セルにもそれなりに効きそうだが、即効性がない。
竜王の卵のように、動かずジッとしているタイプならいいんだが。
俺は考える。
まあ、ちょっと考えたくらいでは、強くなる方法なんて思いつきそうもないが。
(あ、そういや……)
ふと、思い出す。
模擬戦でセルが俺に言っていたな。
俺のレベルが上がっているかもとか、なんとか。
とはいえ、最近残念というか。
レベルが上がっても魔力以外、あまり変化がないんだよな。
レベル七で残響スキルを習得してからは、単純なステータスアップしかしていない。
ぶっちゃけ、そんなに期待していないが、でもまぁ……一応確認しておこう。
ステータスウインドウをオープンである。
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レベルが上がりました!
スキルを一つ習得しました!
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名前:池崎透
LV:25
HP(生命力):242/242
MP(魔力):1658/1658
力:93
素早さ:92
体力:87
取得魔法:
ファイア(3) ファイアボール(5)
ウォーター(3)ウォーターボール(5)
ウインド(3) ウインドボール(5)
アース(3) アースボール(5)
ヒール(5)
ジョブ:吟遊詩人
スキル:
魔力回復(特大) 魔力増量(特大)
歌 調律 残響
言語伝達 言語伝達 言語伝達
言語理解 言語理解 言語理解
声帯模写(NEW!)
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なるほど……文句を言っていたら。
ここに来て空気を読んでくれたらしい。




