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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第三章

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太るぞ

 二人で話をしていたら、夜遅くなってきたので就寝する。


 そしてセル家で迎える初めての朝。

 夏特有のむんむんした空気で目が覚めた。


 起きてリビングに向かうと。


(……あれは)


「…………はっ、ふっ」


 外、窓越しに庭で剣の素振りをしているセルの姿が見えた。

 額に汗を浮かべており、とても真剣な表情だ。

 俺が窓を開けた音に気付いたセルが素振りを中断する。


「おはよう、トール、昨日はぐっすり眠れたか?」


「ああ……おかげさんでな」


「それはよかった。あとお前……寝ぐせで髪がボサボサだぞ」


「おっと、すまねえ」


「そこに井戸がある、自由に使ってくれ」


 やれやれ、レディの前だというのに油断した。

 共同生活をしているんだという実感が、今更ながら湧いた俺である。

 外に出て、井戸水を桶にくみ上げ、ダイナミックに頭から水を被る。

 冷たい水のおかげで眠気も取れる。


「さっぱりした、セルは精が出るな。こんな朝から訓練とかよく頑張るよ」


「習慣だからな、さぼると後で大変だ。その分を取り戻すにその倍の時間が必要だ」


「真面目だな、俺にはとても真似できそうにないよ」


 不真面目な俺には無理だ。

 バルさんに筋肉つけろと言われたけど、結局筋トレしてないしな。


「と、いうよりも……日課になっているから、動かないと落ち着かないというか」


「なるほど」


 そう言い、再び素振りに戻るセル。

 実戦でイメージ通りに動けないのでは話にならない。

 彼女は毎朝こうして、自分の動きを確認しているらしい。

 繰り返し、繰り返し……何度も何度も。


「綺麗な……フォームだな」


「トールにわかるのか、本当に?」


「いや」


「だろうな……また適当な発言を」


「まったく適当というわけでもないけどな」


「ほう?」


 あくまで素人目ではあるがな。


「剣を振る際、体の芯がぶれず、力が下半身から上半身に淀みなく流れているというか」


「お、おぉ……思ったよりちゃんとした」


「ああ、水が上から下へ、穏やかに流れるような流麗な動き、綺麗だ。剣とセルの身体が一体化している。一朝一夕でできるものではない。熟練された確かなもの。見ていてただただ素直に、そう……美しいと思えたんだ」


「……わ、わかった、ありがとう。もうわかったってば」


 ほめ殺しに少し照れた表情のセル。

 それでも悪い気はしていないようだ。

 だが……本当に大したもんだと思う。


「俺の視線を受けても、こうして会話していても、動きに乱れがないな」


「子供の時から、何百万回と繰り返してきた動作だからな」


「詠唱の時は視線とか滅茶苦茶気にしてたのにな。すげえ違いだ」


「う、うるさいなぁ、もう」


 あ……歪んだ。

 ちょっと心に乱れが生じた様子。


「トールも、そこに突っ立っているだけでは退屈だろう? ほれ」


 ぽいっと、近くに置いてあった木剣を投げてくるセル。

 なんとなく、ニュアンスは伝わるが……。


「どうした? ほら、早く握れ」


「剣なんて握ったことねえけど」


 なにこれ、強制? 少しご機嫌を損ねてしまったか?

 剣なんて中学の時、剣道の授業で竹刀を握ったくらい。

 高校も柔道を選択したしな。


「あんま気分じゃないんだけどな」


「トール……この前会った時より、少し丸くなっている気がするぞ」


「え? まじで」


 昨日、三日分ドカ食いしたせいじゃないのか?


「休息は必要だが、冒険しないにしても少し運動したほうがいいぞ。お前……このままだと確実に太るぞ」


「……」


 こ、ここでマジ顔すんのやめて欲しいんだけど。


「さぁ、かかってこい」


「ん、かかってこい?……素振りじゃないのか?」


「実戦形式の方がトールには向いているだろう」


 よくわかってんじゃねえか。

 確かに俺は実戦でこそ光り輝くタイプだぜ。


「素振りはすぐ飽きそうだし……」


 よくわかってんじゃねえか。


「やる気が出ないなら、また晩御飯でも奢ろうか? 一撃当てたらのルールで」


「以前の雪辱戦てわけか? おもしれえ」


「ふふ……じゃあ、やろうか」




 久しぶりのセルとの勝負。


 あの時は一応魔法も使えたが、今回は純粋な剣のみ。

 だが、俺はあの頃のままではない。レベルもかなり上がった。

 虹竜なんて化け物とも戦ってきた経験もある。


 だから、きっと、きっと……。



 と、俺なりに意気込んで挑んでみましたが。



「はああああっ!」


 気合の雄たけびを上げながら、セルへと木剣を振りかぶる。


「……足元がお留守だぞ」


「うぶっ」


 近接の対人戦なんて未経験だ。

 当然、そんなにうまくいくわけもない。

 まあ俺は剣なんてど素人だし。


 死角の足元に置かれたセルの剣に引っ掛かり、地面を転がる俺。

 繰り出される俺の剣をすべて、軽くさばくセル。

 湖で模擬戦した時よりレベルが二十近く上がっている。

 それでも、セルは俺のレベルの倍はある。

 ジョブの違いもあるし、単純な身体性能じゃ全然勝てないよな。


「さて……そろそろ、今回は私からも行くぞ」


「あぇ?」


 え、来ちゃうの?

 そりゃ仕掛けてこないとは言っていないけど。


 一瞬にして、俺の目前に踏み込んでくるセルさん。


「ふっ!」


「は、速っ!」


 即座に木剣を頭上に掲げ、どうにかこうにか受け止める。

 セルは手加減してくれているようで、スピードはあっても剣撃自体に威力はない。


「なかなかの反応速度だ……以前より、かなり動きがいいな」


「そ、そりゃどうもっ」


「少しずつ、速度をあげるぞ」


「いや、それは駄目だ」


「はっ!」


 くそっ、話を聞いてくれない。


 止まらないセルの攻撃、やばい、やばい……あかんて。

 これは一撃当てるどころじゃない。


 ゲームや漫画の聖騎士って、大盾を構えて前線を支える、ガチガチの重装甲のもいたけど。

 セルはそういうタイプではない。

 装備している鎧はハーフメイル……機動力重視だ。

 武闘家のバルさんほどではないんだろうが、スピード優先、回避重視って感じ。

 ブラッドヒュドラから見たら、バルさんもこんな感じだったんだろうか?

 至近距離で、こうやって動かれると目で追うのが難しい。


 攻撃から逃げるため、俺はとにかく走る。

 どうにかこうにか、飛んでしゃがんで、逃げて避ける。


 高速の斬撃、それでも今こうして俺が無事な理由。

 それはぶっちゃけ、運動不足解消目的で、セルの思うように走らされているからだろう。


「はっ、ふっ……くそっ」


「そのペースだとすぐにばてるぞ。初動を見て相手の動きを予測し、無駄な動きを減らすんだ。今のトールならこれぐらいのスピードには慣れれば対応可能なはずだ」


 む、無茶言いやがるぜ。

 前世でこんなに早く動く人間はいなかったんだから、慣れてねえんだよ。



 違うんだ……全然。

 これまで対峙したどのタイプの相手とも。

 ブラッドヒュドラとの遠距離魔法戦、ティナとの魔法技術戦。

 そして虹竜(MAP兵器)とのバトル。


 四苦八苦している間にも、セルのスピードが増す。

 挙動を見逃さないように必死に目を凝らすが、何度か姿を見失いそうになる。

 俺のステータスが上がっていなければ、そうなっていただろう。


 正直、最高速という意味では虹竜の方が速いはずだ。

 だが、虹竜と対峙していても、ぎりぎりで姿を見失うことはなかった。

 それは巨体のおかげで挙動が大きく、動きが単純だからだ。


 対して、人間の少女であるセルは動きが細かく立体的だ。

 緩急を織り交ぜ、前後左右上下と小刻みに動く。

 前の模擬戦でのセルは、俺の魔法練習も兼ねていたため受け身だった。


 今と動きが全然違う。

 まぁあの時、こんな動きされたら魔法を当てるどころではなかったが。


 今度のセルは少しマジというか、油断がないというか。

 万が一でも、今の魔法が使えない俺相手に連敗したくないという気持ちが伝わってくるぜ。


 繰り出されるセルの剣。

 それでも俺は必死にセルの動きにくらいつき、合わせる。


 素人なりにどうにか一撃当てようと……。


「はぁ、はぁっ」


 だが……スタミナ切れはもう近い、息切れしてきた。

 呼吸が苦しい……もう長くは戦えない。


 それでも、俺は諦めない。


 カウンターだ、こうなったらカウンターしかない。

 大抵、こういう追い詰められた時はカウンターで一発逆転と相場が決まっている。


「そ……そこおおおおっ!」


 セルが攻撃体勢に入り、俺の間合いに入った瞬間を狙い、薙ぎ払い。


 勝負に絶対はない。

 それは俺自身がよく知っている。


 続ければマグレあたりすることだってある……はず。

 だが、俺の剣はセルの身体を透過(・・)する。


「ふ……残像だ」


「うそぉ」


 いつの間にか、俺の背後に回っていたセル。

 まさか、リアルでそんな台詞を聞くことになるとはな。


 ぶん、と背後で風を切る音がした。


 これは……無理だな。


 この体勢でできることはもうない。

 避けられない、剣を構える暇もない、確実にくらう一撃だ。


 振り向けば、猛スピードで迫るセルの木剣。


 だが最後まで気持ちでは負けない。

 絶対に諦めない。


 これまでの戦い、そうすることで俺は活路を開いてきたのだから……。


 ここからセルの剣を止める。

 そのための方法を脳裏で全速で模索。


 それには……これしかない。



「ふ……それは残像だ」


「う、嘘つけええっ!」


 一瞬、セルが困惑顔になったが……。

 かかったなとばかりに余裕の笑みを浮かべても、そんな戯言でセルを騙せるわけもない。


 本体だよ、馬鹿野郎。


「ぐはっ!」


 剣は止まらず、ゴンと頭部に衝撃が走る。


 まぁ、本当に何言ってんだこいつ……という感じでセルの剣が揺れたので無意味ではなかったのかもしれない。

 その分、セルが力加減に失敗したので痛かったんだけど。



 それからも、ぜぇはあ言いながら、適度に休憩を挟みつつ、朝食の時間までセルと一緒に健康的な汗を流した。




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