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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第三章

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トール、迷う

 このまま椅子に座って話をしていてもなんなので、続きの話はティナと晩飯を食べながらにする。


 さすがに腹も減ったし。


「お姉さん! 注文お願い!」


「は~い!」


「このファラウ牛のステーキと、キリンギ茸のバター焼き、それから、この厚切りベーコンの……」


 眠り続け、ここ数日食べていない分を取り戻すように、もくもくと食べる。

 カリカリに焼いたベーコンを五枚同時に口に入れる。

 脂っこかろうが、今の俺なら無限に食える気がする。

 とにかく、体がエネルギーをカロリーを欲しているぜ。

 

「トール、凄い食べる、そんなにお腹が空いていたの?」


「ふぐ……ごくん、そりゃ、三日三晩なにも食ってねえからな」


「そういえばそうだった」

 

 あんなに睡眠をとったのは初めてだ。

 竜の卵を封印したあと宿に戻り、ずっと眠り続けて。

 それでもまだ寝足りない気がしたんだから、どんだけだ。


「そういや」


「ん?」


「ティナはどうしてギルドに? あ、もしかして、俺が無茶して勝手に依頼受けたりしないように、ここで待っていてくれたのか?」


「……………………もち、トール超心配」

 

 絶対違うなコレ。

 目逸らしたし、明らかに間があったし……。


「でも……半分くらいは本当、一応トールが勝手に受注しないように、細かい事情は伏せてだけど、ギルドに伝えておいたし……」


「そ、そうか、まぁいいけど。理由の残り半分は」


「ふふ、ふふふ……」

 

 よくぞ聞いてくれましたとばかりに、謎の含み笑いをするティナ。

 そこで、グッと拳を上に突き出す。

 

「私、ついにBランクになったっ。今日は更新カードをギルドに受け取りに来た」


「おお、すげえじゃん」


「ふふ、拍手を、拍手を是非お願いします」


「おお~」

 

 ご希望通り、ティナにパチパチと拍手してあげる。

 

「おめでとうございます!」


「ありがと、これで受けられる仕事がぐんと増える」

 

 ティナは元々実力だけならAランクでも文句なかった。

 話としては以前からあったそうだ。


 ただ、Bランクとなると貴族なんかに直接紹介することもある。

 副ギルド長の一存で決定できたDランク試験の時と違い、色々と手続きなども面倒らしい。

 面談をするなど、人格とか年齢的なものを含めて総合的に査定し、ランクアップに時間がかかっていたそうだ。

 

「もしかしたら模擬戦でトールに負けたことが査定にちょっと響くかも、と思ったけど心配いらなかった。これで、行動範囲も大分広がる」

 

 Bランクになればかなり自由に行動ができる。

 危険度などから、一定ランク以上でなければ入れないダンジョンもあるそうだ。

 

「あと一つでAランク。馬鹿バルに追いつく。昨日もCランクだった私を置いて、ギルドの臨時クエスト、エレメントタートルの討伐に出かけた。どや顔で、私を置いて……おのれぇ、馬鹿バルめ」

 

 悔しそうに、小さな拳をギュッと握りしめるティナ。

 

「なんだ、ランク不足で一緒に受注できなかったのか?」


「選抜抽選で落っこちた」


「ただの逆恨みじゃねえか」

 

 人の沢山集まる人気依頼だと、公平性を期すため運任せの手段で決めることもあるらしい。

 当然、受注条件を満たした冒険者の中からではあるそうだが。

 

「そういうわけで、トール、私も街を留守にするから」


「なにがそういうわけなのかは知らんけど……そうなの?」


「ちょうど時間もあいたし、いい機会だから、実家に戻ることにした」

 

 なんだ、ティナもいなくなるのか。

 

「寂しく……なるな。お別れ会でも開こうか?」


「そんな大げさなものじゃない。私一人だし、箒で飛んでいけば、数日で戻ってこれる」


「あれ、そうなの?」


「ん、まぁ状況によって、多少日程が伸びるかもしれないけど」


「そっか、まぁ……気をつけてな」


「トールこそ気をつける。キチンと大人しくしている。少なくとも魔法が使えるようになるまでは絶対に一人で街から出ないように……絶対に、確実に」

 

 そんな何度も言わなくても、わかってるって。

 言われたことは守る男だよ……たぶん。





 食事を終え、ティナとギルドの酒場で別れたあと。


 ギルドで聞いた今夜の宿へと向かうことにする。

 宿まで徒歩で三十分くらいかかるが、食後の運動にはちょうどいい。


 しかし、ティナも心配性だな。

 古竜騒動の件だって、俺は結果的に巻き込まれているだけで、こちらから事件に首を突っ込む趣味はない。

 まぁ……起きた結果だけ見ていると、うん。

 あんまり、俺の言葉に説得力はないのかもしれないけど。


 心配せずとも、これまで戦い通しだったし、当分はのんびりと暮らしたいと思っている。

 せっかくの二度目の生、生き急ぐつもりはない。


 そんなわけで、今回はせっかくだし奮発してみることにした。

 宿は少しグレードの高い家が建ち並ぶ区画内にある。

 ま、これまで戦い詰めで大変だったんだ。

 これぐらいの贅沢は許されるだろう。

 お金なんて使わなきゃ意味がない。


「ふふふ~ん♪」


 鼻歌交じりに適当な歌を口ずさみながら。

 街灯に照らされた夜道をゆっくりと歩く。

 夏の夜の涼しげな風が頬をなでて心地よい。



 と、どんな宿なのか楽しみにしながら移動していたが、ここでちょっとしたアクシデントが起きる。

 

「あれ……もしかして道に迷ったか?」

 

 一応ギルドで地図も書いて貰ったが、何分初めての道だ。

 歩いているうちに、徐々に細い道にはいり込んでいる。


 困ったな。


 とりあえず誰かに道を聞ければいいんだが……。


 周囲をキョロキョロと見回してみる。

 まだ時刻は午後九時を過ぎたところ。


 少しは人通りがあってもよさそうなものだけど。

 

「……お、よかった。いたいた」

 

 前方にある二階建ての木造建築物。

 その屋上に立つ、白いロングスカートをはいた黒髪女性。


 彼女に道を聞くことにしよう。

 

「でも……なんで、あんな危ないところに立っているんだ?」

 

 話しかけるため近づこうとしたが、ふと思い止まる。

 彼女がいるのは落下防止用に設置された柵の外側。

 一歩踏み出せば下に落ちる位置取りである。

 風でも感じたい気分なのだろうか?

 

 不思議に思った俺は彼女をじっと観察する。

 まだ、下にいる俺には気づいていない様子だ。

 何もない虚空をぼんやりと見つめている。


 しかし、あれだ。

 高い場所にスカートをはいている女性がいると、反射的に見上げてしまうのは男の性。

 透き通るような白い足にふと目を奪われてしまう。



(妙な……雰囲気だな)

 

 気配というか、生気を感じない。

 別に俺は武術の達人というわけでもないのだが、はっきりとそう感じた。

 触れただけで壊れてしまいそうな繊細さがある。

 そして透明感がある、そう……透明感が。

 

(つぅか……本当に透けてない?)

 

 よく見ると彼女の身体。


 その向こう側にしっかりと、背後の雲が見え……。


 

『……見てた、わよね、私を』


「え?」

 

 くるり、空を見上げていた女の顔が下を向いた。

 虚ろな顔をしていたはずが、表情が一変する。

 

 な、なんか嫌な雰囲気が。

 ぞわり……と背中を走る嫌な感覚。

 

「あ、あの……」

 

 俺を見て、にたぁ……と笑う女。

 うぅわ。

 危険な雰囲気を感じ、急いで目線を下げるが時すでに遅し。

 

『あなた……い、いい、今、目があったわよね?』


「いや、あの……俺はちょっと道を教えて欲しかっただけで、それで」


『見えているのね、視界の中に入っているのね? わ、私が』

 

 こ、コミュニケーションが成立していない。

 これ、お近づきしちゃいかんタイプのやつだ。

 よく見れば、全体的にピンボケ写真のように顔の輪郭もぼやけている。

 どう見ても普通の女ではない。

 

『わわ、私と目があああああああああっ!』


「俺、すぐに向こうに行きますんで、それじゃ……」

 

 奇声を発する女。

 ジッと見ていても禄なことにならなそうなので、さりげなく、その場を待避しようとするが。

 

『おお、おおおおおっ!』

 

 先ほどまで静けさが嘘のようだ。

 うめき声をあげて屋上を飛び降りる女性。

 

『ににに、逃げないでええっ!』


「うおおおっ」

 

 んなこと言われても逃げるに決まっているだろうが。

 女性は標的である俺へまっしぐらに絶賛飛行中。

 だが、全力でダッシュしても向こうは飛んでいる。

 移動スピードは段違いだ。


 な、何故? 目が合っただけで、どうしてこんな目に。

 ティナの言う通り、忠実に街から出てすらいないのに。

 どんなに悪質なキャッチセールスでもここまで酷くはないぞ。

 

『見てっ! こっちを、私をもっと見てええええっ! 意識してえっ!』

 

 くそう、こんな時に魔法が使えねえとか。

 向こうは壁や屋根を透過できるらしく、障害物という概念が存在しない。

 走っているうちに、徐々に確実に追い込まれていく。

 もう数秒もしないうちに捕まってしまう。


 そんな時である。

 

「こっちだっ! 全速で走れっ!」


「っ!」

 

 正面から大きな声がした。


 すれ違い、俺の横を高速で駆け抜ける影。

 影を追うように後ろを見ると、空を走る銀刃の煌めき。

 

『ぐああああああああああっ!』

 

 俺を襲っていた女の身体が、剣閃により悲鳴をあげながら霧散していく。

 

「……ふぅ」

 

 一息つき、剣を鞘の中におさめる少女。

 威風堂々と登場し、夜の闇をバックに、銀髪を風になびかせて立つその凜々しい後ろ姿にはよく見覚えがある。

 

「セ……ル?」


「??? どうしてトールがこんな場所にいるんだ?」

 

 一体何がどうなっているのか、理解できていないが。

 間一髪のところでセルが俺を助けてくれた。


 

 

 

「た、助かったよセル……いや、驚いたぜ」


「それは私の台詞だ。家に帰る途中、聞き覚えのある声がしたから走って来てみれば……」

 

 この道はセルの家への近道らしく、よくこのあたりを通るそうだ。

 

「とにかく、助かったよ」

 

 俺はセルに何度も礼を言う。

 彼女が丁度通りがかってくれてよかった。

 

「それで、その……なんだったんだ? さっき襲ってきた女は?」


「おそらく、なりかけのレイスだと思う」


「レイス? え~と、人間じゃないってこと?」


「ああ、はっきりとした表情が見えなかっただろう。下位アンデッドの一種だな」

 

 アンデッド、魔物……でも変だな。

 このアナセルの街には確か。

 

「ここには魔物避けの結界があるのに……なぜ」


「確証はないが、以前、一時的に結界が弱まったことがあっただろう。その時に街の内部に入り込んだ可能性はあるかもしれない」


「…………ふむ」

 

 なんとなく理解する。

 結界の中に入ってしまったら、あまり意味がなくなる的なやつか。

 

「実際、その影響か、今年は害虫となる魔物も街中で例年より多く見つかっている」


「そうなの?」


「ああ……飲食店は特に大変らしいぞ。この季節(夏)天敵となるゴクローチとかな」


「そ、それってまさか……」

 

 話を聞くに、この世界にも黒光りする虫は存在するらしい。

 しかも、地球産の数倍大きいらしい。

 

「……遭遇しないことを祈ろう」


「トールの感覚は少し変だな。不衛生だし伝染病は怖いが、あの虹竜に比べれば……」


「恐怖のベクトルが微妙に違うんだよ」

 

 あの虫は、夜中に電気をつけないで家の廊下を歩いていたら、素足で踏みつぶした経験があるせいか、どうにも苦手だ。

 田舎とかだと頻繁に遭遇するから、嫌でも慣れるんだろうけどな。

 

「?? ……よくわからないが、まぁ、バルもあまり好きではないと話していたしな。人それぞれか……」

 

 バルさん……虫ダメなのか。

 虫を倒す宿命の元に生まれた名前だろうに。

 まぁあの人は武闘家だし、アレを拳で殴るのは抵抗あるかもしれない。

 

「まぁゴクローチはともかく、さっきのレイス、考えてみると少し妙だな」


「妙って……なにが?」


「いや、グールやレイス、スケルトンといった下位のアンデッドは特に生者に近づこうとする傾向を持つが、先ほどのはまだなりかけのレイスに見えた。こちらからはっきりとした意思を持って接触しなければ、襲撃してくることはないはずなのだが」


「ああ、道を聞こうと思ってガン見していたから……」


「あ、相変わらず……普通の人が絶対にしないことをするなぁ、トールは」

 

 頬をひくつかせるセルさん。

 まったく、無知とは怖いもんだぜ。

 

「とはいえトールならレイスの一体くらい。物理攻撃は効きにくいが魔法なら簡単に……あ、そうか」


「ああ、虹竜戦で使用した秘薬の後遺症で魔法が使えないんだよ」

 

 薬の件とティナに聞いた現状をセルに説明する。

 

「参ったな……まさか街中で襲われることになるとは」


「それは、今回みたいに、自分から危険に飛び込む真似をしなければ大丈夫だと思うが」


「いや……ティナ曰く、俺は今、魔物を引き寄せやすくなってる的なことを話していたのを思いだしたからさ。少し不安になってしまった」


「なるほど……」

 

 思案顔のセル。一度あることは二度ある。

 どんなに安全な街でも、百パーセント安全ということはない。

 ある程度は割り切るしかないのかもしれないけど。

 街から出るなと言ったティナも、今回のようなイレギュラーまでは読めなかっただろう。

 それが嫌なら二十四時間側にいるボディガードを雇うしかない。

 

「仕方ない……それならトール、少しの間私の家に泊まるか?」


「え? ……いいのか?」


「いいさ、トールには……大きな借りもあるしな」


「え、あったっけ?」


「黒竜が街に来た時、私を守ってくれたじゃないか」


 あのお酒の勢いで格好つけて、盛大に自爆した奴か。

 正直、あれは貸しだという自覚はまったくないんだけど。

 セルは律儀だな。


「結構大きい家だから、部屋はいくつか余っている。今の状況だと、何か起きた時に色々と不安だろう? 今回のようなことが起きても対応しやすい。初めて泊まる宿より安心できるだろう」


「それは……そうだけど」

 

 セルからの提案、そりゃあ話はありがたい。

 街中で可能性が低いとはいえ、レイスの襲撃みたいことがあるなら、リスクは徹底的に排除したいところではある。


 だけど、一つ屋根の下に男女が一緒に暮らすって……いいのか?


「一方的に世話になることに気が引けるなら、また詠唱の練習を手伝ってくれたらそれでいい」

 

 そういう問題ではないのだが。

 男女共同で、パーティ組んで頻繁に外に出たりなんかすると、あまり抵抗とかなくなるのかな。

 まあ、変に意識するほうがあれか。

 

「今日からよろしくお願いします」


「ああ」


 命大事、俺は素直に生きていく。

 

 


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