古竜騒動13
本日二話更新します
一話目です
「ん、んぁ……」
重たい瞼を開けると。
「トールッ!」
「よ、よかった……」
「目が覚めたかっ!」
「セル、ティナ……バルさん」
耳にはいってくる三人の声。
(あ……あれ?)
背中から伝わってくる地面の感触。
どうやら最後の一撃を放ったあと、俺は意識を失っていたらしい。
「身体の方はどうだ? 動けそうか?」
「えぇと」
俺の状態を気遣うセル。
仰向けの状態から上半身だけ、ゆっくりと起こす。
「大丈夫だ。というか、あんまり痛みが……」
「ああ、ティナがさっきトールに回復魔法をかけたんだ」
「酷い怪我だったから、そのままだと危なかった」
「そっか……さんきゅ、ティナ」
正直、無我夢中だったからな。
後先なんて考えず、滅茶苦茶に突っ込んだし。
「ん、よく……頑張った……凄く、頑張った」
「ティナ……」
ティナがポンポンと優しく俺の頭を叩く。
年下の女の子に子供扱いされても、今はまったく気にならない。
「肝を冷やしたぜ……さすがに今回はもう駄目かと思ったのによ、やっぱ土壇場に強えな、トールは」
「できたら土壇場になる前にどうにかしたいんですけどねぇ」
「はは、ちげえねえな」
ガハハと笑うバルさん。
「そっか……勝ったんだな、勝利したんだな、あの虹竜に」
「ああ、見事だった。あの状況でよく諦めずに戦った……いや、もう、本当に凄いとしか言い様がないよ」
本当によくやり遂げたとセルが言う。
「はは、ははははっ! はは……」
三人の祝辞を聞いたことで。
勝利したという実感が一気に湧いてくる。
「しゃおらああああああっ! 勝った! 勝ったぞっ! 勝利だ!」
拳を空に突き上げて、勝利のポーズ。
いや~ここまで精神的ストレスが半端なかったわ。
「ははははっ! ふはははっ! はははははははっ!」
やばい、解放感がものすげえ。
生きてるって素晴らしいわ。
「さんざん偉そうなこと言った癖に馬鹿竜が、ざまぁみやがれっ! 刻み付けてやったぜ、敗者の刻印を!」
まぁ……あくまで賭けに勝ったという話なんですけど。
「お、おいトール……その」
「なんだ、セル」
今はこの勝利の気持ちを全身で表現したい気分なんだけど。
「そ、そこ……そこ」
セルが気まずそうに、指を震わせて俺の背後を指さす。
俺はゆっくりと後ろを振り向く。
気絶していた場所から十メートルほど離れたところに。
『ようやく起きたか……小僧』
「…………げ」
に、虹竜いたのかよ。
『ち……随分元気そうじゃないか』
「え、ええ……まぁ」
『ふん……』
な、なんだろ……夜中に大音量でエロ動画見てたら、窓が全開でご近所さんに筒抜けだったことを後で知ったみたいな。
ぜ、絶対に聞いていたよな、俺の発言。
「な、なんでまだ普通にいるんですかね?」
『我がここにいては、いけないのか?』
「い、いや……そういうわけじゃないんですけど」
いるならいるで、もう少し存在感だしてくれよ。
『休んでいるのだ。さすがの我も先ほどの一撃は……効いた』
ジロリ……と俺を睨み付けたあと、自身の身体を眺める虹竜。
身体の前がほぼすべて赤黒くなっており、見ただけで痛々しい。
まぁ酷い目に遭ったのはお互い様だけど。
『ここまでのダメージを人間に与えられるとは、今だに信じられんが、貴様を認めるしかあるまい。気に食わん小僧だ……まったく』
複雑そうな表情で虹竜が呟く。
『治癒に時間がかかりそうだ……敗者の刻印の治癒には、な』
「そ、そっすか」
やべえ……超きまずいわ。
「え、え~と」
『ふん、何を言われようが我の負けだ……今更お前たちに危害を加えるような真似はせん。一度言ったことを曲げはしない』
「そ、そうか」
『まさか時間切れ後に一撃を当てられるとは思わなかったがな』
十分以内に当てられなかったので約束は無効だ……とか虹竜が言い出さなくてよかった。
まぁちょっと虹竜の反応が素直すぎて、不気味な感じもするけど。
『だが図に乗るなよ、あくまで我が負けたのは今回の賭けの内容でだ……図に乗るなよ』
「わ、わかってるよ」
二回も言わなくてもいいよ。
それでも、やっぱり相当悔しかったんだろうな。
「さて……俺は街に戻るぜ。トールの無事も確認したし、副ギルド長にトールが賭けに勝ったことを報告しねえとな」
「そうだな。住民たちもこのままでは落ち着いて眠れないだろう、私も行くよ」
バルさんに同意するセル。
夜中だし、湖でのドンパチ音が街まで聞こえてそうだ。
「んじゃあ……俺も、っ」
立ち上がろうとして、よろめく脚。
「無理すんな。あれほどの激戦のあとだ。傷は癒えても疲労は相当蓄積しているはずだぜ」
「ああ、トールはもう少し休んでから戻るといい。ティナ、頼んでいいか?」
「わかった。私がトールと一緒に帰る。今のトールは戦えないから夜道危ない」
二人は俺を労い、湖を去っていった。
「トール、来る……膝枕してあげる」
「お、マジで」
「ん……今日は大変だったから、お疲れさんの特別サービス」
ティナのお言葉に甘えることにしよう。
今日ぐらいはいいよな、ご褒美をもらっても……。
ティナの膝から伝わってくる弾力が心地いい。
俺はのんびりと空を見上げる。
「今度月見なんかやってもいいかもな」
「月見? なにそれ」
「ああ……俺の故郷でな」
生きていることの素晴らしさを実感しながら雑談する。
ティナと二人、しばしの間、穏やかな時間を満喫していると。
そんな空気をぶち壊すように。
『レライアッ、大変だぞ!』
『リナリアス?』
黒竜が慌てた様子で、魔の森の方角から飛んできた。
そういや、黒竜の姿が見えないなぁと思っていたが。
『先ほど確認した竜王様の卵だが……』
竜王の卵。
思い返せば今回、古竜たちが代理戦争なんて考えたのは竜王の世話役にどちらがなるか決めるため……って話だったな。
『もう間もなく、孵化準備段階に入ろうとしている』
『な、なに?』
『予想よりずっと早い、この様子だと……すぐにでも孵化準備に入らねばならないかもしれない』
古竜たちから緊迫した空気が伝わってくる。
『早急に決めるぞ……どちらが担当するか』
『……っ』
あ~だ、こ~だと……言い争い始める古竜たち。
なんだか知らんが今すぐ決めなければならないらしい。
「時間がないんだし、もうじゃんけんで平等に決めたら?」
『き、貴様……女の膝で寝っ転がりながら、他人事のように』
虹竜が文句を言うが、実際他人事だからな。
ティナに膝まくらしてもらいながらの適当発言である。
「いや、そりゃ竜にとって竜王の世話役になるのは名誉なことだから、キチンと納得いく形で決めたいかもしれないけど……時間が迫っているなら、仕方ないだろ」
『…………は?』
『小僧、貴様は何を言っている?』
あれ? ……なにこの古竜たちの反応?
「いや……だって、代理戦争で勝った方が竜王の世話係になる予定だったんだろ? 名誉だからじゃないのか?」
『違うぞ、小僧』
『逆だ……』
「逆?」
『言葉の意味通りだ。世話係なんて担当したくないから我らは争っていたのだ』
『そう……ゆえに勝負して、負けた方が担当する予定だった』
え? なにそれ。
つまり俺が勝手に思い込んでいただけってことか。
「ま、負けた方……って、どうして? 何故古竜同士で戦闘したりしてまで嫌がるんだ? 竜王はお前らの王なんだろ?」
『まぁ……いいか、簡潔に説明してやろう。ここまで貴様を巻き込んだわけだしな』
語り始める虹竜。
『まず竜王様についてだ。その名の通り、貴様も言ったように我ら竜族の王であるお方だ。数千年に一度、竜王様はお目覚めになられる。今は卵の状態だがな……』
なんでも、竜王は死期が近づくと卵を産むらしい。
卵は即時孵化するわけではなく、数千年という長い休眠期間を経て孵化し次の竜王となるとか。
虹竜が数千年とアバウトに言ったのは、具体的な孵化時期や周期性などは不明だからだ。
まぁ、大体平均してその程度という話らしい。
ただ、孵化時期が近づくと卵に模様が浮かぶようになっているそうだ。
『卵全体に斑模様が出始めると、卵の孵化準備に入らなければならないのだが……この時、孵化を担当するのが世話係だな』
「ふむふむ」
『模様が出て孵化準備段階に入った卵は、竜の母体の中で一定期間温める必要がある。ゆえに世話係とは母体となる竜を指すのだが……』
「ふむふ……ん?」
さらりと話が進んでいったが……。
「ま、待て、今母体と言ったが……てことはお前ら、雌なのか?」
『『あぁ?』』
俺を睨む黒竜と虹竜。
『見ればわかるだろうが、本当に失礼な男だ』
『然り、感じないのか? 我らから感じる雌の色気を?』
「わ、わかるわけねえだろ……馬鹿野郎」
いや……野郎じゃねえのか。
その口調で、その姿で、犬の雄雌より判別つきにくいわ。
「せめて、人化してくれなきゃわからん」
『できないこともないが……面倒だ』
虹竜が言う。
できるのか……見てみたいようなそうでもないような。
『話がずれた……続けるぞ』
「おう、悪い」
『この孵化がとにかく大変で……とにかくしんどいのだ』
顔を顰める虹竜。
『人間の女だって、相当な出産の痛みがあるだろう?』
「ああ……みたいだな」
俺は男だし、そのへんは想像するしかないわけだが。
『我らのソレは貴様ら人間の女が経験する陣痛の数万倍の激痛だと考えろ……、想像を絶する苦痛の連続だ。母体のエネルギーを絶えず吸収し卵の中で竜王様は成長する。それが長期間に渡ってずっと続くのだ』
「……」
『ゆえに我らのように強靱な肉体を持つ古竜の雌でなければ耐え切れず、痛みで発狂しかねん』
なるほど、一応の事情は理解したが……。
まぁ種族によっては卵を産むのも命がけだしな。
『まだ少し解せないといった顔だな』
「いや……なんつうか、あきらかに、卵をやっかいごと扱いしているから……」
王のために喜んでこの身を捧げます! ……みたいな感じなのかと、勝手に思っていたから。
でもリアルで考えればそんなもんかもしれない。
人間だって、王様に絶対的な忠誠を誓うわけでもないしな。
『我もリナリアスも竜王様のことを伝聞でしか知らんのだ、過去の竜王様の姿も見たことはない』
「え? そうなの」
『ああ、だから親近感のある存在というわけではない。小僧、自分が我らになったつもりで考えてみろ。顔も見たこともない存在を激痛を味わって、積極的に身体を痛めて生みたいと思うか?』
「……いや」
考えれば、代理出産みたいなもんだからな。
ちょっと生々しい話だけど。
まったくの無関係とはいわないが、母と娘の関係性とか愛のある深い繋がりならともかく……。
『そもそも、竜王様の世話係が名誉なことなら、我とリナリアス、二人だけでなく、他の古竜たちも進んで名乗りをあげているだろう』
「それは……確かに」
『一部では災厄の卵と呼ばれているぐらいだ。だから平等に……現存する古竜の中でペアを複数組み、期間を設定して持ち回りで卵を管理しつつ、孵化時期に当番だったものが世話係となるシステムだったのだ』
一種のロシアンルーレットみたいなもんじゃねえか。
いや、風船割りゲームの方がイメージ的に近いか。
それにこいつらは見事当たってしまったわけか。
「わざわざ古竜同士でペアをつくる理由は?」
今回の虹竜と黒竜のように、争いの元になるなら意味がないのでは。
『管理を楽にするのと、孵化準備中、母体の竜は動けなくなるからだ。残った一体が母体の竜をサポートするわけだ』
「ああ……なるほど」
大体の事情を理解する。
まだ少し納得できない部分はあるが……。
災厄の卵と呼ばれているくらいだ。
忠誠心がそこまであるわけでもないし、古竜たちも、そんなに嫌なら役割放棄しちまえばいいじゃねえか。
見た感じこいつらもそんな殊勝な性格じゃないだろうに。
『では急いで決めるぞ!』
『ああっ!』
説明は終わり、再び言い争いを始める虹竜と黒竜。
まぁ……もうなんでもいいや、疲れた。
巻き込まれなければそれでいい。
喧嘩だろうがなんだろうが好きなだけやってくれ。
「ん? ところで……どちらも世話係にならず、孵化サインが出てもずっと卵を放置していたらどうなる?」
『そうだな……』
『その時は、下手すれば』
俺の質問に古竜たちが少し考える素振りを見せる。
そして同時に口を開く。
『『世界が滅びるな』』
こんな時だけ、仲良くハモりやがって。
次回で二章エピローグとなります。




