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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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古竜騒動10

本日三話分更新予定です


一話目です

 

 湖にて、虹竜との勝負が始まった。


 空に浮かぶ月を背景に虹竜が俺を見下ろしている。


「「……」」


 開始から十秒程経過したが、お互いに沈黙したまま動かない。

 時間だけが経過していく。


 睨めっこしていても仕方ないのはわかっているが。

 多少考えてはみたものの、こんな奴を相手に実際問題どう攻めればいいのか。


「どうした……こないのか小僧?」


 じっと動かない俺に虹竜が語りかけてくる。

 言葉通り、時間になるまでは向こうから仕掛けるつもりはないようだ。


 余裕ぶっていて少しだけ腹が立つが。

 とにかく、この戦いで最初に確認しなければならないことがある。

 フルファイアが虹竜に通じた理由、セルの推論が本当に正しいのか。


 そして、虹竜の自信が一体なんなのか?


「いいのか? さっきのファイアボールを撃つぞ。痛いのが嫌なら避ける準備をしておいた方がいいんじゃないのか?」


『……ふん』


 俺が露骨な挑発をすると、不敵に笑って返す虹竜。

 どんな攻撃でも絶対に受けきれる。

 虹竜からそんな自信が伝わってくる。


 だったら……もう一度いってみるか? 全力合成弾(フルファイア)


 本来なら一時的とはいえ魔力が空っぽになるから、全力合成弾は躊躇するところだが。

 奴が自分の発言を守るのであれば時間内は積極的に仕掛けてこないはず。


 遠慮なく行かせてもらおう。



【【【【【ファイアボール(300)】】】】】


 先程と同じ、ほぼ全魔力をつぎ込んだ合成ファイアボールを発射。


 あれだけ大口叩いて逃げたなら、それはそれで俺の一撃を虹竜が危険に思っているという証明になる。


(どうする?)


 目前に迫る攻撃魔法に対し虹竜は動かない。

 虹竜に動揺は一切見られない。


 どうやら避ける気はないらしいが……。


『ガアアアアアアアアアッ!』


 ここで何故か、虹竜が大きく吼えた。

 だがブレスで相殺するということもなく、勢いそのまま虹竜に火球が着弾。

 ドオォンと大爆発が生じ、大音量が湖一帯を支配する。


 さっきと同じ流れなら、虹竜はダメージを負っているはずだが。

 爆発の煙が消えていき、虹竜の身体が少しずつ露わになっていく。


 そしてそこには……予想外の光景。


「おいおい……おいおいおい」


 今度はまったくの無傷……。

 その身体に残った爆炎を纏ったまま、涼し気な顔で佇む虹竜。 

 それと、無傷なのはいいんだが。

 いや……まったく良くはないんだが、これに関しては予想していた範疇ではあり、驚いた点は他にある。


(な、なんだぁ? あの鱗の色は)


 そこには、炎のように真っ赤な色の虹竜の姿。


「お、お前虹竜だろ……何変身してんだよ、その姿は火竜とかそんなんじゃないのか?」


『その通りだ。癪だが虹鱗では貴様の攻撃を受けられそうにないのでな。火耐性の最も高い火竜の身体へと変質させた』


「そ……そんなんありかよ」


 き、汚くない?

 なにバリアチェンジみたいなことしてんの。


「虹鱗は各属性の耐性が平均して高く、総合的には最も魔法耐性に優れているのだがな。バランスはいいが特化しているわけではない。さすがに火なら火竜、水なら水竜に耐性は及ばん」


「…………」


 なんかご丁寧に解説してくれる虹竜。

 サービス精神旺盛で助かるけどな。

 あるいは俺が驚いたことに気をよくしたのかもしれない。


「誇りに思え、我に変化まで使わせた人間は貴様が初めてだ。本来、人間の魔法では虹鱗を傷つけることも不可能なのだからな。これは同格の竜相手を想定した戦い方なのだぞ」


「察するに、常に相手が不得意とする形態で戦えるってことか?」


「そうだ。我は魔力の波長を変化させることで、リンクするように肉体の性質までも変化できる。ほぼすべての竜になれるわけだ。まぁ、さすがにその竜の能力を十全に引き出すとまではいかんがな」


 まぁ……制約無しなら強すぎるだろうしな。

 そこにいる黒竜相手でも勝ててるだろう。

 しかし竜の癖にカメレオンみたいな野郎だ。


 つっても俺の場合、どの属性になろうがあんまり関係ないような気もするが。

 攻撃力に対して耐久力は紙に等しい。どれが来たって同じだ。


 これがガチンコ勝負でなくて本当に助かった。

 虹竜がなりふり構わず突っ込んできたら俺は持たない。

 ティナみたいに飛べないし、機動力ないからたぶん避けられないし……。


 つまり、こいつが遊んでいる制限時間内に突破口を見つけて、どうにかしなければいけないわけだが。


『さぁかかって来い……全力で足掻いてみろ、小僧』


 生物の頂点に立つ王者らしくというか。

 真っ向から受けて立ってくれるようだ。


 さて、どうやって虹竜のガードを突破するか。

 さっきのやり取りで俺のフルファイアは防がれたが、奴の防御をぶち抜く方法はあるはずだ。

 ある……はずだ、きっとな。


 すぐには思い浮かばねえけど。


【【【【【ウォーターボール(300)】】】】】


 と、考えている間にも魔力が回復したので、虹竜に全力合成弾を発射。

 先ほどの巨大火球に見劣りしないサイズの水球。


『アアアアアアッ!』


 咆哮しながら、赤から青色へと変化していく虹竜の身体。

 今度は水竜とかそんな感じか?

 マジでほとんど全部の竜に変化できるみたいだ、こいつ。


 虹竜に着弾、水球が破砕、周囲に拡散し豪雨が湖に発生する。

 また……あっさりと防がれてしまった。


『ふん、威力は大したものだが……実にわかりやすいな、貴様の魔法は』


「ち、ちくしょう」


『精霊を介する魔法は詠唱を聞けば即座に内容を予測できる。いかなる魔法攻撃であろうが、短縮詠唱を使っていようが、我なら対応するのに十分な時間がある』


 偉そうに俺を見下ろして言う虹竜。

 言うだけあって、滅茶苦茶変化が早え。

 おそらく、変化に一秒もかかっていないんじゃないか。


 これじゃ普通に短縮詠唱を使っても間に合わない。

 反応も早い、虹竜にしてみれば最後まで詠唱を聞かずとも、属性さえ判別できればすぐ動けるしな。

 しかも空中と地上で物理的な距離がある……奇襲が難しい。


『貴様の魔法、先読みできればなんということはないな。油断さえしなければ大したことはない』


「こ、この野郎」


『しかも簡単に手の内を一つ見せてくれおって、我は貴様の扱える魔法が火属性のみと思っていない。どの場面で使ってくるか当然警戒もしていた、だというのに貴様は』


「…………」


『どうせ火なら水が効果的などと考えたのだろう。まったく捻りなく、実に安直で単純で愚直な攻撃、考える頭がないのか愚か者めが、温い温い……ふはは』


 ね、ねちねち、ねちねちと……は、腹立つわぁ。


 しかし、なんか嬉しそうだなコイツ。

 俺が困っているのを見て楽しそうだ。


「余程俺にブレスを跳ね返されて傷つけられたことが、頭にきてんだろうな」


『それは当然だろう』


「え、こ、黒竜?」


 独り言に反応があるとは思わなかった。

 丁度、真後ろにいた黒竜が話しかけてきた。


『七色に輝く虹鱗、高い魔法耐性と、どの竜にも勝るその美しさは虹竜の誇りなのだ』


「……」


『しかも、傷つけた相手が同じ竜ではなく人間ときた。加えて本気でないとはいえ、人間である汝にブレスで押し負けた。守りで負け、攻めで負け、プライドはズタズタに引き裂かれたというわけだ……無理もない、同情する、実に無様である』


『う、うう、うるさいぞっ! リナリアスッ!』


「ひ、必要以上に煽るのやめてくれ」


 その分こっちにお怒りが飛んできそうなんで。

 でも……ちょっとだけスッキリしたんだぜ。


「だが、てめえの防御法は無敵じゃねえな」


『ほう? 何が言いたい』


「火竜とか属性が一つに決まっている相手ならともかく、複数属性を扱う相手に対する防御としては不完全だ」


 まぁ、そういう相手でも通常のバランスの良い虹鱗状態で対抗すればいいのかもしれないが。

 複数属性を扱え、かつ超高威力の魔法が扱える相手なら話は別だ。


『ふん……確かにそうだが、竜の一撃に匹敵するあれだけの破壊力の魔法。貴様の魔力量では一度に一撃が精一杯だろう』


「…………」


 くそ、完全にこっちの状況を見切っているな、こいつ。


 残響スキルで詠唱を遅延すれば、一種類目の詠唱と二種類目の詠唱のタイミングを近づけることはでき、別属性の魔法をほぼ同タイミングで発動可能になる。

 それ自体は不可能ではない。

 俺の魔力量はおよそボール系魔法三百回分だ。

 例えば百五十のファイアボールとウォーターボールをほぼ同時に発動させるなら今の俺でもできる。


 だけど、三百を二回分となると魔力が圧倒的に足りない。

 魔法の魔力消費は精霊が詠唱を受理した時(魔法発動時)に生じる。

 同タイミングで発動させるとなると六百の魔力が一度にまとめて必要となる。


 一応、ティナから渡された魔力回復アイテムがあるが。

 秘薬は一気に魔力回復できるだけで、最大魔力量が六百になるわけではない。

 そのため三百を二発同時には撃てない。


 一発目を発動させる→秘薬使用で魔力回復→二発目を発動させる


 急いでもこのような流れになる。

 必ずワンアクションを挟む必要があるため、複数同時発動とはいかない。

 回復まで数秒のタイムラグもあるという話だしな。


『しかし、なんだ。魔力量は我から見ればそうでもないが、とてつもない速度で魔力が回復していくな貴様は……どうなっているのだ、さすがに少し気持ち悪いぞ』


 まさか、規格外の化け物に気持ち悪いとか言われるとは。

 俺が考えている間に、元の虹鱗形態に変身して戻る虹竜。


『さて、お喋りしている間に魔力は全回復したな……次はどうする?』


 虹竜は自分が負けるわけがないという確信を持っている。

 俺の実力を十分に理解して、一見俺有利に見える賭けの提案。

 希望を持たせて落とす……本当に性格が悪いよなコイツ。

 既に開始から三分近くが経過、残り七分。


 少しずつ焦りも出始めていく。


【【【【【ファイアボール(150)】】】】】


 以前、湖で交戦した時、虹鱗で合成数百だと防がれた。

 どの程度なら虹鱗を貫けるのか、一応確認しておく。

 三百だと通るが、その半分ならどうだ?

 もし……半分の魔力量で済むこれが通じるなら、二属性同時も狙いやすい。

 少し話は変わってきそうだが。


『半端だな……その程度なら変化する必要もない』


 虹竜は身動き一つせず、着弾するが傷一つない。

 だ、駄目なのかよこれ……本当に参ったな。

 半端つっても俺なら間違いなく死ねるのに。


 何度か威力を調整して試すが、マジで全力合成弾でないと虹鱗はぶち抜けないらしい。


 くそ、どうしよ、どうしよう。

 どうすればアイツにダメージを……。


「……ふぅ」


 パンと頬を叩く。

 落ち着け……焦って魔力と時間を無駄にするな。

 とにかく冷静に、思いつくことを全部やっていくしかないんだ。


 虹竜が絶対的有利な状況、時間制限もある。

 だからこそ焦っちゃ駄目だ。


 どうにも視野が狭くなっていた。

 よし、戦い方の発想を少し変えてみよう。

 最終的にダメージを与えられればいいんだ。


『『『『『ファイアボール(50)』』』』』


『……む?』


 質より数を優先し、ファイアボールを大量展開してみる。

 いきなりゴールを目指す必要はない。

 まずはジャブ的なので態勢を崩してから大技を決めるんだ。


『ほう、そんな真似もできるのか……』


 虹竜が火球の群れを見て興味深そうに呟く。


『だが……その程度なら我にもできるぞ』


 俺に対抗するように。

 虹竜の周囲に展開される大量の火球。

 ファイアボールを発射するが、虹竜の魔法で簡単に相殺されていく。 

 ならば、ちょっと変化をつけてみる。


『『『『『ファイアボール(10)』』』』』

『『『『『ウインドボール(10)』』』』』

『『『『『アースボール(10)』』』』』

『『『『『ウォーターボール(10)』』』』』


 相手を少しでも攪乱できるように。

 魔法の種類を変えて発射してみる。

 縦横無尽に飛び交う各種魔法の詰め合わせ。


『ふむ』


 再び対抗するように虹竜が展開する魔法球体。

 火、水、風、土の四タイプ、同属性の同数。迎撃準備は万端な様子。

 そっくりそのまま同じ属性、同じ程度の威力の玉をぶつけて相殺していく。

 リアルで落ちモノパズルゲーみたいことをされるとは。


 来る前、セルから古竜についていくつかの話を聞いた。

 竜の魔法と俺の魔法が似ているとは聞いていたが……確かに。


 竜は魔力を制御、操作する能力が抜群に高く、魔法発動までのプロセスをすべて自分で行える。

 ゆえに精霊に力を借りる必要がなく、無詠唱で魔法を行使できるそうだ。

 制御さえできれば好きな数だけ展開可能。


「これで終わりか? ……遊びには丁度いいのだが」


 挑発するように言う虹竜。


「そうか……なら」


 だが、決して魔法におけるすべての面で竜に劣ることはないと信じる。



『『『『『ファイアボール(40)』』』』』

『『『『『ウインドボール(40)』』』』』

『『『『『アースボール(40)』』』』』

『『『『『ウォーターボール(40)』』』』』



『ず……随分増えたな』


「存分に遊んでくれ……適宜追加していくから」


 一気に増えた俺の魔法、弾幕をプレゼントだ。

 順次相殺していく虹竜だが、ほんの少し頬をひくつかせている。

 どうやら予想以上に多かったっぽい。


『む、おお……おおお』


 無詠唱ができるといっても、魔法の最大展開数に関しては俺の方が上らしい。


 竜は魔法構築を全部自力で行う。

 対して俺は詠唱して、精霊に魔力を提供すればそれだけでいい。

 細かい制御について考える必要がない。展開数に差も出るはずだ。

 マニュアルが、扱いやすいオートマにすべての面で勝るわけではない。

 まぁ、これは残響させて詠唱(魔法実行命令)を簡単に増やせる俺に限られる話だろうけどな。


『ふ、ふん、だが、どれだけ数を増やそう……っ』


 途中で台詞を止める虹竜。

 威力は貧弱なので虹竜の皮膚に傷一つ与えられない。

 そんなことは承知。


『貴様……まさか』


 虹竜は俺の狙いに気づいたらしい。

 最初からまともにダメージが与えられるなんて思っちゃいねえよ。

 時間内は仕掛けてこないって話だし、それを利用させてもらう。


 どこか弱点部位とかあるかもしれないし、顔面とか色々徹底的に狙ってみた。

 図体がでかいから人間の急所を狙うよりは簡単な気がする。

 何発か小さい土弾が、虹竜の鼻の中に入ったが痛みなどはない模様。

 竜は中も相当硬かったりするんだろうか?


 なんかリアクションして欲しいところだが……。


『…………』


 無駄なことを……といった顔で、つまらなそうに俺を見る虹竜。

 まぁいいさ。てめえが無抵抗でいるならそれでいい。

 こっちはこっちで好き勝手やらせてもらう。


 よし、強引にこいつを貴様の鼻の穴にねじ込んでやる。


『『『『『アースボール(100)』』』』』


『っ!』


 ここは一つ、窒息死的な戦い方を狙ってみよう。

 みっちりと土をプレゼントしてやるぜ。

 鼻づまりとか起こしていただけると助かります。


 さすがに連続で異物が入り込んでくるのは不快に感じたようで。

 ふん! と大きい鼻息で異物を出し、上昇する虹竜。


『さっきから陰湿な攻撃を……』


 陰湿上等、こっちは命が賭かってんだ。

 戦いに汚いも綺麗もあるかっての。


 そんな虹竜の言葉を無視して攻撃を続ける俺。

 正直、ボス級存在に対する戦い方じゃねえけど。

 リアルでそんな甘いこと言っていられるか。


 そんなわけで顔面を狙って魔法を連射、連射。


『わ、我が反撃しないで、大人しくしていると思って、いい気になるなよ。うっとうしいわああああっ!』


 やられっ放しの現状に、どうやら我慢の限界を迎えたらしく。

 虹竜はおもいっきり翼を羽ばたかせて、強烈な風を引き起こす。

 嫌な予感がしたので全速力で駆け出す俺。


「ぐっ! うおおおっ!」


 風により土弾が方向転換、まるまるこっちに戻ってくる。

 痛烈なカウンターに焦る。

 慌てて打ち返すが、あの数を狙ってピンポイントに全弾迎撃はさすがに無理。

 何度か、ボディに衝撃を受けながらも、急いで湖の中に緊急ダイブだ。


 水面から上がり、俺はヒールで傷を癒す。


「はぁっ、はぁ……て、てめえ、時間内は攻撃しないんじゃねえのかよっ! 大嘘つきがっ!」


 好きに攻撃しろといった癖に、反撃とか。


『こ、攻撃はしていない……』


「ああ? してんだろうがっ!」


『これは貴様が自分の魔法で自滅しただけだ。き、貴様の不注意なのだ』


 なのだじゃねえよ。

 なにその子供みたいな理論。


『そもそも、賭けの内容は我の鱗に傷をつけられるかだぞ。アレを一撃とは認めんぞ』


 そりゃ、そうだろうけどさ。

 まぁ、今の戦法は虹竜が受け身だからこそ通じるやり方。

 さすがに窒息寸前まで大人しくしてくれないだろう。

 子守歌なんかもちょっと考えたんだが、仮に通じたとしても最後まで大人しくは聞いてくれないだろう。


「へっくしゅっ! ふぇっきしっ!」


 全身が濡れたせいで、身体が冷えてくしゃみが出る。

 夏場とはいえさすがに夜の湖となると冷たいぜ。


 冷えた身体で考える。

 奴のガードを越えるために再び問題を整理する。


 ・全力合成弾以外の魔法は虹鱗であっさりと防がれる。

 ・だが、耐性の高い竜に変化されると全力合成弾も通じない。

 ・変化スピードは俺の短縮詠唱よりも早い。


 一先ずはこんなところだろうか。


 さっきも虹竜に言ったが、虹竜の防御は決して完璧ではない。

 虹鱗では全力合成弾を防げない。

 各属性攻撃に適した竜に変化させなきゃ、俺の最大魔法は受けきれないという点。


 四属性の魔法をうまく扱い、属性変化でも対処できないようにぶち当てる。

 攻略のためにやることは結構はっきりしている。

 だが、俺は虹竜に変化を強制させる威力の決め弾が一発分しか撃てないという大問題がある。


 要するにだ。


 基本的には、単発で相手の裏をかく奇襲戦略を立てなければならない。

 き……厳しいなオイ。


 ティナから渡された秘薬を飲んで、すぐ撃っても数秒のタイムラグがある。

 奇襲を成功させるには長すぎる時間だ。

 普通に使っても、虹竜の変化速度を見るにそれじゃ間に合わない。

 せめて、何かしらの工夫をしねえと駄目だ。

 二つしかないから、軽々とも使えないし。


(ダメージを与えられるビジョンが……なかなか見えねえ)


 さすがに今以上に、詠唱を早くすることはできねえしな。

 ファイアボールでなくファイアなら文字数が少なく詠唱も早いが、指向性がなく、コントロールがきかないため超威力に自分自身を巻き込みかねない。


 くそ……今以上の魔力が欲しい。

 魔力が今の十倍あれば、虹竜相手でも普通に勝てそうな気もする。

 ないものねだりをしたくなるぜ。


「ひっくしゅっ! はっくしゅっ!」


 ああ、ちくしょう、湖に落ちて身体が冷えて鼻水が出てきた。

 考えがうまくまとまらねえ。

 できることなら、こんな戦い放棄して、ゆっくりと温泉にでも浸かって温まりたい。


『本当に脆弱だな、人間というのは……湖に落ちただけで』


「うるせえ、ほっとけ……ふぁっ」


 虹竜に攻撃を仕掛けようとするが、くしゃみのせいで詠唱が中断される。

 ちくしょう……こんな時にイライラするな。

 しかも、くしゃみが出そうででない。

 これでは詠唱に支障が生じてしまう。


「ふあっ! ふぁっ、ふぁ……ふぁ」


 だったら……もういい。


 めんどくせえ。



【【【【【ふぁいあぼおおる!(300】】】】


『おおおっ!』


 このまま行け!

 無理やり詠唱に繋げて攻撃だ。


 さすがの虹竜も、このタイミングで攻撃魔法が飛んでくるとは思わなかったのか。

 火竜の肉体に変化するのが若干遅れる。


 それを見て俺は。


(こ、これは……)


 一見、ふざけているとしか思えない攻撃だったが……。

 今のやり取りで脳裏にある閃きが走った。

 虹竜に一撃を当てる、奇襲を行う方法。



 もしかしたら……いけるかもしれないぞ。

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