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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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古竜騒動9

「賭け……だと?」


『そうだ』


 突然の虹竜からの話に戸惑う俺。

 この状況での提案。

 まさかポーカーをしようということでもないだろう。


「てっきり問答無用で殺されると思ったが……なんのつもりだ?」


『いやなに、考えてみると先ほどの貴様の言い分にも、ほんのわずかばかり、理はあると思ってな。我なりに反省しているのだ』


「……はい?」


 虹竜からの予想外の言葉。


『貴様を我らの事情に一方的に巻き込んだのは事実だ。その点も鑑みての、我からの心優しく慈悲深き提案というやつだ』


 いきなり何言ってるんだ、こいつ。

 まさか改心したとでもいうのか? ……冗談だろ。


『難しいことは一つもない、簡単な賭けだ。我と一対一の勝負、そして……』


「そして?」


『最初、十分間……貴様に時間をくれてやる。その間、我から仕掛けることはせん。勿論、黒竜(リナリアス)にも一切手出しをさせん。もし貴様が我が鱗に再び傷をつけることができたなら、貴様が我らにしたことをすべて水に流してやろう』


 なんだ、その条件? これ……絶対に何かあるよな。

 間違いなく、さっきはダメージが通ったってのに。


『無論、時間が過ぎたら……わかるな』


 巨大な爪を俺の眼前に持ってくる虹竜。

 時間が過ぎたら、身体を引き裂くつもりなんだろう。


「その提案、別のニュアンスで解釈するなら、俺を殺すこと自体はいつでもできるってことかよ?」


『できるさ。大した威力の魔法だがそれだけでは絶対に我に勝てんぞ。先ほどの魔法だろうがなんだろうが好きに放てばいい、全力でこい……奇跡は二度起きんということを教えてやる』


「……」


『どうする? ……受けるか小僧?』


 ここまでの話。

 虹竜は本気で言っているように思えるが。


「てめえが賭けの約束を守る保証がないだろう。口約束なんかで俺に信用しろと?」


『必ず守るさ……そもそも、貴様にだけは約束うんぬんを言われたくはないな』


 おっしゃる通りで。


『別に拒否しても構わんぞ。どちらにせよ、ここまで我を侮辱した貴様を逃すつもりはないが』


「…………」


 悪くない……というかあまりに俺に都合の良すぎる話だ。

 向こうの思惑がどうあれ、生き残る確率があがるなら拒否する理由はない。


 だが……虹竜は何を考えている。


 心優しきといったが、さすがにその言葉通りということはないだろう。

 あれだけ激怒しておいて、今の提案をするのは不気味だ。


「……何が目的なんだ?」


『ふん、人間の魔法で傷つけられたなど、我が生においてあまりに大きな不名誉。このまま激情に任せ、ただ貴様を消したとしても心に大きなしこりが残ったままだ。まったく、この我ともあろうものが本当にいいお笑い種だ、はは……ははは』


 自嘲するような笑みを見せる虹竜。


『己の無力さを知り、絶望し……そして散れ』


 冷えた目で俺を一瞥する虹竜。

 視線だけで、全身の血が一気に冷え込む感覚を覚える。

 先ほどまでの熱い怒りとは違う。

 その一言に込められたのは冷徹で静かに燃え上がる怒り。


 本当に勝手な奴だな。

 昼は俺の攻撃を受けて喜んでいた癖に、今度は怒ってんだからよ。


 さて……拒否する理由はないが、返事をする前に確認しておくことがある。


「虹竜が勝手に話を進めているけど、黒竜の方はそれでいいのか?」


『……え?』


 え? ……とか困惑顔で言ってますけど。


 君たち、意志疎通ちゃんとしておいて欲しいんだけど。

 虹竜との賭けに勝った後、黒竜がそんな約束は知らないとか言って襲ってきたら、たまったもんじゃない。


『かまわないか? リナリアス』


『まったく……まぁ、結果はわかりきっているしな』


 自分をスルーされたことに若干渋りながらも、虹竜の提案に納得する黒竜。


「虹竜、場所を変えてもいいか? さすがに街近くだと……」


『……いいだろう』


 ここでドンパチやるわけにもいかない。

 場所移動の提案に虹竜は素直に頷いてくれた。

 変に気遣った俺を倒しても意味はないってことなのだろう。


「じゃあ先に前に会った湖に行って待っていてくれ。俺飛べないし……」


『ああ……』


 そう言い、一瞬飛び去る態勢を見せた虹竜だったが。


『い、いや……我も共に行く。貴様が逃げる可能性もあるからな』


 し、信頼されてねえなぁ……まぁ当然か。


 虹竜は俺が逃げないように、きっちりと空から監視するそうだ。




 虹竜との話が決まり、一時的ではあるが緊張した空気が和らぐ。


「そういうわけで……皆は街に戻ってくれ」


 俺は話をしに皆のところに戻る。


「いや、私も一緒に行くぞ。このままでは向こうでトールが孤立してしまうじゃないか……役に立てないかもしれないが、トールに最後まで付き合う」


「だが……」


『ふん、心配せずとも我の狙いは小僧だけだ。他の者などどうでもいい。小僧の最期を見たければ勝手についてこい。勝負の邪魔さえしなければ何もせん』


 丁度、上空で話を聞いていた虹竜がどうでもよさそうに呟く。


 結局、セルとティナ、バルさんが一緒に付いてくることになった。

 副ギルド長は街の中へと戻っていった。

 万が一のケースに備え、住民を迅速に避難できるよう、準備を整えておくそうだ。

 さっきの爆音で絶対に大騒ぎになっているだろうしな。





 湖へと続く夜道を歩く。


「………トール」


 隣にいるバルさんが、虹竜に聞こえない程度の声で話しかけてくる。


「率直に聞くが賭けに勝つ算段はあんのか? 例えばまだ切り札を温存してたりは……」


「わかんないです……加えて切り札もないです」


 さっきの今で虹竜の自信、きっと俺の知らない何かがあるのは間違いない。

 何か確実に防ぎきる手段がなければあんな提案はしないはずだ。


「はっきり答えやがったな、おい」


「事実ですからね」


 苦笑するバルさん。


「……トール、その」


「ティナ?」


「そ、その……これから戦う前に言うのも、と思ったけど。動揺するかもだし、ずっと黙っているべきなのかもしれない、けど……でも」


 ティナがもごもごと口を動かす。

 その沈んだ顔を見れば大体わかる。


「この状況だ。言わなくてもいい。見えてんだろ?」


「ん……でも、感じるんだけど、一瞬だけ感じなかったりもする、というか」


「点滅しているイメージってこと?」


「そう……きっと、まだ未来は不確定なんだと思う、だから……」


 そうか……なら、決して悪い情報ではないな。

 いや、死相が出ている時点でアレなんだが……感覚が麻痺してんな。


「とりあえず、二体同時に相手にせずに済んでよかったと思うことにしよう」


「まぁ、前向きに考えなきゃやってらんねえよなぁ、この状況」


「です……最悪のケースだけは避けられたってことで」


 これで黒竜も追加となると……確実に詰んでいた。

 単体でも無理っぽいのに、最強種二体となると、今の俺ではきっとどうあがいても不可能だ。

 加えて、勝利条件は倒すことではないのが救い。

 普通に一対一で戦ってあんな化け物に勝てる気がしない。


 さっきの全力の一撃でも虹竜は倒せなかった。

 つぅか……なんでアレくらって生きてんだよ、絶対おかしい。

 俺なら蒸発してるぜ。

 さすがに無傷とはいかなかったようだが……ガードが堅すぎる。


「でも、どうして……虹竜にダメージを与えられたんだろう?」


 できれば戦う前に知っておきたい。

 虹竜は絶対防御を持っているはずなのに。


「これは私の推測だが……」


「セル?」


 背後のセルの声に振り向く。


「絶対防御はあくまで人間視点での話ということだろう」


「どういうことだ」


「単純な理由だ。湖でも虹竜が言っていただろう。人間の魔法で自分に傷をつけることは不可能、と。さっきのトールの一撃は人間が放てる魔法の限界を超えていた。最高の破壊力を持つ最上級魔法……それをも超えた、本来、人には出せない一撃、だから虹竜に通じた」


 要するに魔法耐性にも限界があるってことか。

 確かにファイアボールを百発合成した時点で、最上級魔法に匹敵するって話だったしな。

 さっき撃ったのはその三倍の数だ。


「まったく……お前と言う奴は本当に、いつも想像を超えてくるよ」


「問題はここからだけどな」


 俺は空の虹竜に視線を送る。

 意地でも賭けに勝たなければ……。


「トール、私が古竜について知っていることを全部教えておく」


「頼む、セル」


「古竜は人間と比較して、魔力量も魔力制御能力も魔法攻撃力も魔法防御力も物理防御力も物理攻撃力も生命力も機動力も高い」


 本当、どうしようもねえ生物だよな。


「そして虹竜の目立った特徴としては、まず一つ目に高い魔法防御力、二つ目に魔力の波長を変化することができる点だ」


「波長を変化?」


「ああ、魔力の波長を変化させることで、ほぼすべての属性の魔法を扱えるらしい。先ほどの光景を見ただろう」


 雷とか突風とか豪雨とか地震とか色々起こしてましたね。

 あんまり思い出したくないけど。

 それから、古竜の扱う魔法の基本的な特徴とかセルは色々教えてくれた。


 最強種、古竜。

 その中でも虹竜は魔法使いが戦う相手としては最悪の相性の相手。

 俺にとってこの世界で一番の難敵かもしれない。

 それでも……やるしかねえよな。


 もう数分で湖に着くというところで。


「トール……これ、受け取って」


「ティナ?」


「私のとっておき、役に立つと思うから、渡しておく」


 ティナが俺の手に丸い何かを握らせる。

 見ると、青い丸薬のようなものが二つ。


「なんだこれ?」


「超希少な魔力回復の秘薬、食べれば数秒で魔力が全回復する」


 なにそれ、すげえ。 


「ただし、当然効果の代償に大きな副作用もある。だから使うかどうかは自分で決めて。一つならオーケー、だけど二つ目を食べたら……」


 そこで、少し言いづらそうに口ごもるティナ。


「命に関わる副作用か? 元に戻るのか?」


「それは……大丈夫、一応は。二個目を食べた瞬間、動けなくなるということもない」


 一先ずそれだけわかればいい。


「二つ目を使うのは最後にして、無理に魔力を回復させた反動がくる……回復分を使い切ったら最後、当分魔法が使えないと思って」


「わかった……ティナ、サンキュ」


「ん、トール…………頑張れっ」


「おう」


 激励してくれるティナ。


 どちらにせよ、ここで死んだら何の意味もないんだ。

 ならば迷うことはない。必要とあらば使おう。




 皆と話をしていると、あっという間に湖に着いた。


 夏場とはいえ、湖から吹く夜風は少し肌寒い。

 やれやれ、昼間のんびりしていたのが遠い昔のことのようだ。


 皆の声援を受けたあと。

 俺は再び虹竜と対峙する。

 今度は一人、純粋な一対一だ。


『さて……勝負を始める前に』


 湖の端部、戦いの邪魔にならない位置に虹竜が炎の球体を十一個展開する。

 一分につき一つ消滅、十個消えたら十分経過を意味するそうだ。


『あの火が一つ消えたら勝負を開始しよう。見物人のお前たちもそっちに行け。それと、リナリアス……済まないが』


『ああ、わかっている』


 困惑しながらも虹竜の指示通りに炎の元に近づくセル、ティナ、バルさん。

 その隣にくる黒竜リナリアス。

 さすがに落ち着かない様子の三人だったが、彼らを無視して、黒竜の展開した半透明の膜のようなものが三人を包み込んだ。


「「「……っ!」」」


 膜の中で皆が口を動かしているようだが向こうの声が聞こえてこない。


「な、なにを……」


『貴様が仲間を気遣わずに済むようにしただけだ。これで集中して遠慮なく戦えるだろう?』


 魔法の巻き添えを受けないよう、黒竜が三人を結界で守ってくれるらしい。

 至れり尽くせりというかなんというか。

 完膚なきまでに俺を叩き潰す、負けた言い訳はさせない。

 そんな意志が虹竜から伝わってくる。

 声が聞こえないのは少し寂しい気もするが……まぁ仕方ない。


『なんだ? 仲間にしっかりとお別れを言う時間が欲しかったか?』


「いや、いい……こんな場所に墓を建てるつもりなんてねえし」


『言うではないか……その威勢が最後まで持てばいいがな』



 火が一つ消え、最強種(虹竜)との勝負が始まる。



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