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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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古竜騒動8

「うるっせえええええええええええ!」


 こうなったらもう知るか。

 我慢しようと思ったがもう限界だ。


 このまま死ぬかもしれないってんなら、その前に積もり積もった鬱憤。

 全部、この馬鹿竜共にぶちまけてやる。


「さっきからごちゃごちゃと、大人しく黙って聞いてればこっちの気持ちも考えずに、てめえらの事情で俺を巻き込んだ癖によぉ……ちょっと上手く事が運ばなかっただけで、ピーチクパーチク言ってんじゃねえぞ!」


 謝罪が通用しないってんなら。

 聞く耳持たないってんなら……もういい。

 なにも遠慮する必要はない。


「虚仮にされただぁ? それがどうしたってんだ。大した事じゃねえだろうがっ! 俺がてめえらの身勝手な騒動のせいで何回死にかけたと思ってんだ。てめえらの知らないところで、どれだけの人間が迷惑をかけられたと思っていやがるっ!」


『『……』』


 俺の怒号にぽかんとする虹竜と黒竜。

 まさか、最強種の自分たちに真っ向からぶつかってくるとは考えなかったらしい。

 此奴らの場合、普段悪口なんて言われる機会がないだろうし。


 今の俺からすれば、そんなの知ったこっちゃねえけど。


「一体なんなんだお前らは、どうしてそんなに傲慢になれるんだ? 俺にはさっぱり理解できねえ」


『き、貴様……さっきから言わせておけば』


『ひ、百年も生きていない小僧が……我らに対し』


「ああ? 長く生きてんなら、培った経験値を活かして身内の問題はきちんと身内で解決しろや。会話ってもんを知らねえのか、コミュニケーション下手くそか!」


『『……な、あ?』』


 じゃんけんでもなんでもいい。

 平和的に決めてくれ、他人を巻き込むな。

 代理戦争なんかしてんじゃねえよ。


 怒りのせいか、唇をわなわなと震わせる古竜たち。


「気に入らねえ、周囲の存在を完全に見下しやがってよ。そもそも、口調からして偉そうなんだ。(われ)とか偉そうな一人称を使いやがって、人を(なんじ)とか呼びやがって……人生で初めてそんな呼び方されたわ」


『『……』』


(なんじ)だぁ? そんなに聞きたきゃお望み通り答えてやんよ。午後十時をお知らせしますってんだ! 時計見てこいや馬鹿野郎!」


『き、きき、貴様あああぁ……』


 怒りの感情を全力でたたきつける。

 気づくと子供の喧嘩みたいになりかけていた。

 だが……もういい、知ったことか。


 言いたいことは言い切った。

 後悔はちょっとしかない。


『こ、の……人間如きがああああっ!』


『お、おいっ! ……レライア!』


 ここでついに、我慢の限界を超えたのか。

 黒竜の呟きを背後に更に空高く上昇する虹竜。

 そのまま、高さ五十メートルくらいのところでストップ。


『オオオオオッ!』


 大気を震わす虹竜の咆哮。

 巨大な顎を開くと同時、中に球体が光っているのが見えた。

 その狙いは間違いなく俺だろう。


 凄まじいほどのエネルギーが虹竜の口に集中していく。

 この感じ、似た攻撃に覚えがある……おそらくブレスだろう。

 今更感満載ではあるが、皆を巻き添えにしないため距離をとろうと走る。


 ついに虹竜がブレスのエネルギーチャージを完了。

 虹竜の口から放たれたブレス。

 ブラッドヒュドラすら比較にならない超極太の光線。

 家一軒余裕で飲み込む大きさのレーザー砲。

 人間一人に向けるにしてはあまりに大きい。

 まるで虹竜の怒りを形にしたかのよう。


 だが……怒ってんのは俺も同じだ。


 やってやるぜ。

 勝てずとも全力で抵抗してやるっ!



 行くぜ……全火力(フルファイア)



【【【【【ファイアボール(300)】】】】】



 詠唱が終了。

 瞬間、ぐにゃり……と眼前の空間が歪んだ。


 展開された三百個バージョンのファイアボール。

 百個バージョンよりかなり巨大化している。

 二十メートル以上ある古竜の身体をも余裕で飲み込むサイズである。


「おおおおおおおおっ!」


 絶対に負けないという意志を声に込めて発射。

 サイズに加えて火球の周りには輪っかみたいなのも複数追加されている。

 見た目も一段階派手になったファイアボール。

 ちょっとした惑星の模型みたいな感じ。

 正直輪っかに意味があるのか知らんけど。

 これならきっといける気がするぜ。


 大気中で轟音をたてて衝突する虹竜のブレスと俺のファイアボール。

 どちらに軍配があがるか……とにかく俺は祈るしかない。


『っ!』


 この距離でもわかるぐらい虹竜の目が大きく開いたのが見えた。

 祈りが通じたのか、ファイアボールが虹竜のブレスを押し戻していく。


 虹竜の一撃を俺の全火力が上回る。

 そのままファイアボールがブレスを跳ね返し虹竜の身体に着弾。


 ……そして。


『ぐ、があああああああああああっ!』


 虹竜の絶叫と同時、大爆発。

 迸る閃光、夜空が一瞬にして昼間のように変わる。

 ドオオオンと、大気中を伝わって身体に響く轟音。


 こ、これ……訓練場で撃たなくてよかったな。

 たぶん身代わり壁を貫通して、街中にとんでもない被害が出るぞ。


(だが……虹竜には絶対防御がある)


 どうにか虹竜に一泡吹かせられたが、今のを直撃したとしてもダメージは……。


 風で爆発地点の煙が少しずつ晴れていく。


「……え?」


『………………ぐっ』


 予想外の結果。


 煙が消えるとそこには上空でよろめく虹竜の姿があった。

 地面へと全身からポタポタこぼれる血液。

 ところどころ焼け焦げた翼。


 ……てことは、理由はわからんけど。


(つ……通じた? 虹竜に魔法が……)


 ど、どういうことだ?


 俺のファイアボールが虹竜にダメージを与えている。

 虹竜には絶対防御があるはずなのに。



『…………』


 虹竜の方は何が起きたのか、理解できていないようで。

 想定外の事態にまだ呆然としている。


『…………い、痛い』


 でしょうねえ……見た感じ痛そうだわ。

 虹竜レライアの直球過ぎる言葉。


『う、撃ち負けたというのか? ……人間相手に』


 じっくり確認するように、己の身体を眺める虹竜。

 虹竜の体から下へと落ちていく血液。


『全力では……なかった。だが決して、手加減したつもりもなかった。間違いなく殺すつもりで撃った。だというのに……負けたというのかっ!』


 徐々にその身に起きたことを認識していく虹竜。

 自身の身体を見つめる虹竜。


 月が照らす美しい虹鱗、その一部が焦げて変色している。


『この我が、竜族随一の魔法耐性を誇る虹竜であるこの我がっ! 人間如きの魔法で傷を負ったというのかあああっ!』


 わなわなと身体を震わせる虹竜。


『がああああああああああああああああああああああああああっ!』


(あ、これまず……)


 虹竜の怒りの咆哮。

 どうやら俺は虹竜の逆鱗に触れてしまったらしい。

 

 いや……正直、今日だけで逆鱗に三回くらい触れている気もするんだが。


 虹竜の怒りに呼応するように出現した上空を埋め尽くす雨雲。

 振り出す豪雨。同時、空を水平に切り裂く幾本もの雷。

 耳をつんざく大騒音。

 大気から地面へと激震が伝わり、地面に亀裂が走っていく。

 更には虹竜を中心に荒れ狂う突風が発生し一帯に襲い掛かる。


「うぐっ!」


 強烈な風に吹き飛ばされて背中から木に衝突。

 肺から零れだす息。

 背後の巨大な木に支えられ、どうにか立っている状況。


 網のように空に張り巡らされた雷、そこから枝分かれしたように何本かの雷が地上に落ち倒木が散らばった。

 森の所々で火の手があがる。


(いや、こんなのと戦うとか、ありえないだろ……)


 自由に身動きをとれず、じっとその光景を眺めるしかできない。

 世界の終末を見ているような、あまりにも現実離れした光景。

 地震、雷、火事、洪水……すべての自然災害を詰め合わせたかのような現象を引き起こす虹竜。 


 あれが全部地上に向けられたら、この街なんて簡単に消し飛ぶぞ。


 まだ覚えたばかりで未熟な俺の魔力感知だが、これだけ魔力が大きければ、はっきりとした差があればわかる。

 今の俺の何倍もある比較にならない魔力量。

 昼間はわからなかった、虹竜の潜在魔力が解放されている。


 最強種とされる竜、大陸を滅ぼすとか一国を消したとか。

 いくら強いったって、幾分か誇張されている話かもと思っていた。


 だけど……まじだわ、これ。

 天災という意味をはっきりと理解する。


 轟音とその光景に目を取られ、虹竜に意識を割いていると。

 突如、巨大な黒い存在が俺の視界に入った。


『信じられん。あの小僧、まさか虹竜(レライア)に届く一撃を放つとは……魔力を消費している今、確実に始末しておいた方がよさそうだ』


「っ!」


 正面から猛スピードで迫る黒竜。

 しまった……古竜は二体いたんだった。

 俺が警戒すべき相手は虹竜だけでないのだ。


(くそ……いくらなんでも無理過ぎる!)


 ちくしょう、まだ魔力も全回復してねえってのに。

 黒竜はもうすぐそこまで来ている。

 巨腕を振り上げる黒竜。

 その爪で引き裂かれる寸前というところで。


(……え?)


 眼前に影が出現し、強烈な風が吹く。

 先ほどまで上空で怒り狂っていた虹竜が、俺を守るように黒竜の前に立ち塞がったのだ。


『何故止めた、レライア? ……この小僧は危険過ぎる。今、確実に始末しておいた方がいい。これ以上成長したら我らにすら牙が届きかねんぞ』


『…………』


 虹竜レライアの謎の行動。

 何故黒竜リナリアスから俺を庇うような真似をする?


『リナリアス……小僧のことはすべて我に任せて欲しい』


『……なに?』


『このまま、あっさりと始末しては我の気が収まらん!』


 俺を睨みつける虹竜。

 そして……。



『小僧、我と賭けをしようか。無論……命を懸けてな』

 


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