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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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古竜騒動6

 黒竜が去ったあと。

 セルに連れられ大急ぎでギルドに戻る。


 バンと大きな音を立て、入口の扉を開けるセル。

 普段のセルならあり得ない乱暴な行動。

 ギルドの酒場で飲んでいた冒険者たちは何事かと驚いていたが、セルはそれを無視してズンズンと歩いていく。


「うぉ? ど、どうした血相を変えて?」


「バル! ティナを起こしてくれっ! 急いで副ギルド長に報告しないといけないことができたっ」


「な、なにかあったのか?」


「トールがとんでもない事をしでかしたっ!」


 バルさんがセルの焦りように戸惑う。

 セルが荷袋の中から酔い覚ましの薬が入った小瓶を取り出す。


「トール、飲むんだっ!」


「え? あんまり素面に戻りたくない気分なんだが……禁断の箱をあけてしまうような、すげえ嫌な予感がするというか」


「いいから飲むんだっ!」


 かなり強引な形で酔い覚ましをセルに飲まされる。

 バルに起こされて半覚醒状態のティナを連れて、四人で執務室に移動する。

 既に午後九時を回っていたが、虹竜の件もあってか遅くまで残っていた副ギルド長。



 それから十分後。


「おお、おおおおおおおおっ!」


 執務室には頭をおもいっきり抱えている俺がいた。

 酔いが覚めていくと同時、記憶が鮮明に蘇っていった。

 ヒュドラ酒の効果で封印されていた記憶。

 そう、先ほどまで忘れていた虹竜の件を思い出したのだ。


「どうやら完全に理解したようだな。自分の言ったことの意味を……」


「あ、ああ……お、俺は……俺という男は」


 な、なんつうことをしてしまったんだ。

 凄まじいほどの後悔の波が襲ってくる。

 全員、セルから俺の身に起きた話を聞いて呆然としていた。


「ト、トールは……相変わらず信じられないことをする。まさか古竜を手玉にとるとは……」


「……」


 ティナがぽつりと呟く。

 俺だってこんなことになるとは思わなかったわ。


 しかし、やばいぞこれは。


 このままでは俺は怒った古竜たちに殺されるかもしれない。

 虹竜一体だけでもどうしようもないのに、黒竜まで……。


 ど、どうしたらいいんだ。


 ショックでしゃがみこむ俺。

 そんな俺を何とも言えない顔で見つめる四人。


「せ、誠意を込めて謝れば古竜たちも許してくれるかな?」


「「「「……」」」」


 ティナ、セル、バル、副ギルド長、誰一人頷いてくれない。

 口に出さないだけで、ぶっちゃけ期待しない方がいいってことだろう。


「……バルさん」


「な、なんだトール?」


 突然俺に話しかけられ、戸惑うバルさん。


「お酒を飲む前、もし三角関係になったら相談に乗ってくれるとか、その手の相談は得意とか色々話していましたよね?」


「……い、言った、けどよぉ」


「二股かけてしまったんですけど……助けてもらえませんかね?」


「い、いや……その」


 返答に戸惑うバルさん。


「どうしてっ! どうしてこんな危険な効果のお酒を俺に飲ませてしまったんですか! こ、こんなことになるなら俺はっ!」


「お、おおっ、俺だってこんな事態になるなんて読めるかあっ! こんなに酷い二股は聞いたことねえっ!」


「お、落ち着け、トール」


 そこで俺の肩をがっしりと掴むセル。

 いかんいかん……取り乱した。


「す、すみません……バルさんに当たっても仕方ないことなのに」


「い、いや……気持ちはわかるからいいけどよ」


 誰かに当たってもしょうがない。

 せっかく、バルさんが善意で用意してくれたお酒なのに。

 俺もあんなに楽しんでいた癖に。


 ここで黙っていた副ギルド長が口を開く。


「トール君……君はすぐにこの街から逃げたほうがいいかもしれない」


「ふ、副ギルド長」


 副ギルド長の提案について考える。


 まぁ説得(謝罪)に失敗したら、ほぼ間違いなく古竜たちに殺されるだろう。

 というか高確率で失敗するだろうな。

 ここはそれしか選択肢がないかもしれない。


 よし……逃げるか。

 プライドなんかないわ。


「冒険者ギルドとしても、ブラッドヒュドラの件で君には借りがある。だが……さすがに古竜二匹が相手となると、ここにいるすべての冒険者の力を合わせたとしても絶対に勝てない。本当にどうしようもないのだ……すまない」


「いえ……まぁ、それは」


「だが、できる限りの支援はしよう。必要な荷、お金は今すぐにでも用意させよう。他の街で活動しやすいように紹介状も書いておこう。ほかにも私にできることがあれば言ってくれ」


「ありがとうございます」


 しかし、まさか俺が逃亡者になる日が来るとはな。

 何も悪い事なんてしていないのに(人間には)。


 ここに来て平穏な日常とはおさらばか。


「私も付いて行こう。せめてトールが少しでも安全な場所に辿り着くまでは」


「仕方ない……私も付き合うとする」


「セル、ティナ……二人ともどうして?」


 一緒について来てくれると言う二人。


 彼女たちの行動に戸惑う俺だったが……。


「結果はどうあれ、トールは命を懸けて黒竜から私を助けようとしてくれた。だから今度は私がトールに恩を返す番だと思う」


「セル……」


「黒竜に言ったトールの言葉、凄く嬉しかったよ……ちょっと、もやもやしたけど」


 笑みを浮かべるセル。

 感激して……じわりと目に浮かぶ涙。

 台詞の最後に引っかかる部分があったが、そこはスルーだ。


 ああ……仲間っていいなぁ。


 彼女たちが近くにいればどんな困難でも超えていけそうだわ。


「二人とも……すまない。ありがとう」


 俺は二人に頭を下げる。


「礼なんていらないさ、これは私がしたくてしてるんだ」


「と、いうか……私、虹竜に湖でトールと一緒のところを見られてる。街に残って見つかったら絶対碌なことにならない」


 マジですみません、ティナさん。

 それでも俺と一緒の方が危険度は圧倒的に上のはずなんだが……。

 それはティナも承知の上だろう。

 なんだかんだで付いてきてくれるんだから本当にありがたい。


 俺たちは急いで出立準備をする。


 できれば今夜にでも街を出たい。





 一方その頃。


 アナセルの街近郊の東の空では……。


『……レライア』


『来たか、リナリアス……』


 夜空に浮かぶ虹竜レライアと黒竜リナリアス。


『待たせたな。ついに決まったぞ……私の代わりに戦う人間が』


『そうか……ではこの長かった戦いに、ついに終止符が打たれるのか』


 ようやくか……といった顔で虹竜レライアが感慨深そうに呟く。


『竜王様の卵の様子はどうだ?』


 黒竜が虹竜へと問いかける。


『先ほども確認してきたが今は落ち着いている。だが近日中にはおそらく……』


『……そう、か』


 返答を聞き、目を閉じる黒竜。


『私は絶対に負けるわけにはいかない……竜王様には申し訳ないがな』


『いや、勝つのは我だ。竜王様には申し訳ないが』


 そんな会話をする二体の古竜たちを空の半月が照らす。


『なかなか満足気な顔をしているな、リナリアス。其方も自信がありそうだな』


『ああ……なかなかの人間と巡り会えた』


『そうか……だがこちらは逸材だぞ』


『ふん、逸材だろうと、どんな困難だろうと見事打ち破って見せるだろうさ。私に立ち向かったあの少年なら……』


『少年? ……我が選んだ逸材も少年だぞ』


 黒竜リナリアスの言葉に虹竜レライアが反応する。


『ほう……それは奇遇だな』


『ああ、奇遇だ……だが同じ人間の少年だからといって実力まで同じとはいかない。あの少年は正しく逸材の中の逸材、我が名前を憶えてもよいと思う程にな』


『……ほう』


『確か名はトールと呼ばれていたな。傍にいた銀髪の女騎士にそう呼ばれていた』


『なに? 私が選んだ少年もトールと呼ばれていたぞ』


『ほう……それはまた奇遇だな、これも運命というものか』


『かもしれんな……傍にいた銀髪の女騎士にそう呼ばれていた』


『……ふむ』


『……うむ』


 風の音だけが聞こえる中。


『『…………』』


 しばらく、沈黙の時間が続いたが……。

 顔を見合わせる二匹の竜。



『『……本当に奇遇?』』





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