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吟遊詩人

 受付嬢が水晶玉の文字を見ながら言う。


「なんと、ジョブは吟遊詩人ですか……初めて見ました。これはかなり珍しいですね」


「吟遊詩人?」


 吟遊詩人、まったく予想していなかったジョブだ。

 戦士、魔法使い、神官あたりは定番だし想像できる。

 吟遊詩人て何ができるのかよくわかんないな。


 てか、なんで俺が吟遊詩人?


 歌は好きだし、趣味で友人とカラオケにはよく行ったけど。

 楽器なんてほとんど扱ったことないよ。

 音楽の授業のカスタネットとリコーダーぐらいか。


「吟遊詩人は後衛職ですね。通説では味方の後ろで歌を歌ったりとサポートがメインの職になります。その特性上、基本的には大人数の集団戦で強さを発揮するジョブとされています」


 集団戦と言っても俺には仲間がいない。

 現時点ではあまり意味がないな。


「ところで今、通説ではって言いました?」


「はい、通説ではと言いました」


 なんか引っかかる言い方だな。

 少し嫌な予感がする。

 もうちょい踏み込んでジョブについて聞いてみよう。


「どうなんですかね? 吟遊詩人の世間からの一般的評価って? 説明を聞く限りは大ハズレ……って感じはしないんですけど」


「えと、その……じ、実はですね」


 ちょっと、口ごもるのやめてくれよ。

 渋い顔をする受付嬢さん。


「吟遊詩人のスキルである『歌』の取得条件がほとんど判明していないのですよ」


「……え?」


「元々数が少ないジョブで謎が多いんです。文献では過去に士気や身体能力を高めたりする歌を覚えた者もいるそうですので、色んな歌が実在するのはわかっているのですが、正確に取得条件がわかっているのは一つしかないのです」


「その歌は?」


「昔から語り継がれている子守歌です。歌を聞いているものは味方だろうが敵だろうが全員がひとしくウトウトするというものです。即効性はなく、相手が興奮状態だと通じません」


 少し気まずい顔で説明する受付嬢さん。


「ち、ちなみに魔法は?」


「使えません。魔法職ではないので魔力が存在しません」


(おいおいおい……)


 話を聞くにどう考えても外れ職だ。

 殆ど歌えない吟遊詩人とかただの無職だろ。


「ジョブ変更とかってできないんですよね?」


「残念ながらできないです」


 どうしようもないじゃん。


 あ、危ねえ危ねえ。

 事前に神様が魔法スキルをプレゼントしてくれなかったら完全に詰んでいたぞ。


「ちなみに数が少ないジョブは特別職と呼ばれています。基本的には最初から強力な職が多いです。すべてのステータスが高めの勇者や魔力の最も多い賢者、聖騎士、召喚士、聖女などが該当しまして、一応吟遊詩人もこれに含まれているのですが……」


 そう聞くと、凄い潜在能力がありそうに思えるんだけどな。

 引き続きジョブについて説明してくれる受付嬢さん。

 話を聞いていくうちに落ち込んでいく俺。


「そ、その、頑張ってください。ファイトです!」


「ありがとう……」


 ジョブで落胆した俺を慰めてくれる受付嬢。


 心配してくれているのが伝わってきて、心が少し暖かくなる。

 気持ちを切り替えよう。



 そのあとは冒険者についての説明を受ける。


 冒険者にはランクがあるそうだ。

 カードには俺の氏名と冒険者ランクなどの文字が表示されている。


 上からS、A、B、C、D、E、Fとなる。

 基本的にFからのスタートだ。

 Sランク冒険者は世界でも五人しかいないとのこと。

 成功し功績を積めばランクがあがり、何回も失敗すればランクは下がる。

 一定ランクを上回っていないと受注できない依頼も存在するが、複数人でチームを組むことにより難易度の高い仕事を受けられるそうだ。


「こちらのカードはギルドでの身分証になりますので、失くさないでくださいね。再発行にはお金もかかります」


「わかりました」


 特殊な紙でできているという、身分証を受けとる。


「えと、じゃあ早速何か仕事を見繕って欲しいんですけど。俺一人でもできる安全な仕事をお願いします。お恥ずかしい話ですが……とにかく無力なので」


「わ、わかりました」


 なにせ武器もないし魔法も使えないからな。


「そうですね、一番安全となるとポーションの原料となるルルル草の採取でしょうか?」


 仕事内容を丁寧に説明してくれる受付嬢さん。

 受付嬢が俺に採取する草の絵が描かれた紙を見せてくれる。

 ジョブはちょっと、あれだったが……落ち込んでも状況は変わらない。


 頑張ろう。魔法が使えるようになれば何か変わるかもしれないしな。


「そうだ、参考までに聞きたいんですが、魔法ってどうやって覚えればいいんですかね?」


「先程も話しましたが、吟遊詩人は魔法が使えませんよ……あれ? もしかしてトールさん魔力持ちですか?」


「魔力持ち?」


「はい両親が高レベルの魔法職の場合、ごく稀に魔力を持つ子供が生まれるそうです」


 あ、いるにはいるんだ。

 じゃあ吟遊詩人の俺が魔法を使えても、そこまで不思議がられずに済むか。


「ちなみに魔法はレベルアップすることで習得できます」


「ん? レベルアップで覚える? 吟遊詩人の俺でもレベルがあがって習得できるんですか?」


「……たぶん、覚えないと思います」


「ですよね……ちょ、ちょっと待ってください! てことは魔力を保持しても俺は魔法がつかえない?」


 あの爺さん、魔法を使えるって嘘をついたってこと?


「いえ……初級魔法なら覚えられますよ。初級魔法に限り魔法巻物(マジックスクロール)が存在して、それを使用すれば習得できるんです。巻物は少々値がはりますが、魔法屋でも入荷するので手に入りやすいかと」


「……な、なるほど」


 一応、最悪のパターンは避けられたか。

 初級魔法しか使えないのはネックになりそうだが……。


 もう少し説明して欲しかったよ、爺さん。

 まぁ吟遊詩人になるなんて予想もしてなかったからかもしれないけど。


「ちなみに巻物は迷宮などで宝箱などからでてくることもあります」


 迷宮とか、宝箱があるんだな。

 本当にゲームみたいだな。

 命がかかっているから、タイムアタックの低レベルクリアとか挑戦する気にはなれないが。

 なんにせよ、この世界で暮らすのは予想以上に大変そうだ。


 気を引き締めていこう。


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