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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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古竜騒動4

「大丈夫か、セル?」


「あ、ああ……」


 トールの声に黒竜が反応し動きが止まる。

 その隙をついて私は黒竜から離れてトールの方へと駆け寄る。


「ど、どうしてトールはここに?」


「いや、バルさんと飲んでいたんだが、セルが戻ってくるのが遅いんで俺だけ様子見に……そしたらってわけだ」


 黒竜に視線を送るトール。



『……ほう』


 黒竜もトールをじっと観察していた。


『結界の中に入り込んでくるとは、汝もなかなかやるようだ。感じるぞ、かなりの魔力を……だが汝に用はない。私はこの娘と大切な話をしているのだ、邪魔をするな』 


「邪魔するに決まってる。セルはどう見てもてめえを嫌がっていたじゃねえか」


『……汝はこの娘のなんだ?』


「彼女は俺がここに来てお世話になった大切な友人だ。さすがに見て見ぬふりはできねえんでな」


 面と向かい、はっきりと断言するトール。


 あ、相手はあの黒竜だというのに……。


「ト……トール」


 胸がじ~んと暖かくなる。

 そ、そこまで私のことを考えていてくれたのかトールは。

 恐怖のせいなのか、微かにトールの足は震えている。


 それでもこうして私のために……。


 こんな非常時なのに。

 トールの言葉を凄く嬉しいと思ってしまう。


(やっぱりトールと戦いたくない)


 正面から黒竜と張り合い、普段より強気なトール。

 普段とのギャップもあるのかもしれないけど、数割増しで凛々しく見えた。 


 実はよく見ると整った顔をしているんだな、トールって。


「っと……うっぷ、や、やべえ……少し走ったせいか、ちょっと気持ち悪い」


「ちょ、だ、大丈夫か?」


 ふらつくトール。


 え? も、もしかして震えているのお酒のせい?


 さっきまで飲んでいたトールの表情は近くでみるとかなり赤い。

 だ、大丈夫だろうか。

 今は酔い覚ましの薬を持っていない。


 私はそんなトールの様子に少しだけ不安を覚えたが……。

 そんな事情など黒竜は当然知らないわけで。


『ふん、その気概は見事だ……だが』


 ゆっくりと言葉をつむぐ黒竜。


『誰にそんな口をきいているのか、本当に理解しているか小僧っ!』


「「っ!」」


 瞬間、黒竜から発せられる凄まじいほどの威圧。

 空間を満たす膨大な魔力に全身が震える。

 周囲の温度が一気に下がったような感覚。

 絶対的な存在から発せられる死の気配。


「はぁっ」


「な、なんつう……」


 その圧力に息を荒くする私たち。


 なんとか呼吸を整える。


(……待、て)


 この状況は……よく考えるとまずいかもしれない。

 今トールを黒竜と引き合わせるのは。


 トールが虹竜に選ばれた人間であることを黒竜が知れば何をするか。

 もし黒竜が賭けに勝とうと本気で妨害行為をするなら、下手すればトールを殺そうと動く可能性もある。


「ト、トール……だ、駄目だぞ、黒竜には……」


「ああ……わかってる」


 私はトールにそれとなく伝える。

 絶対に虹竜の件を黒竜に話さないように。


「対峙してわかる。こいつがとんでもねえ奴だってことは、絶対に戦っちゃ駄目な奴ってことは……俺の本能が全力で戦いを拒否しようとしている」


 酔っているから少し不安だったが、トールは理解してくれたようだ。


「今も心臓がバクバクしていやがる」


『それでもなお、我を真っすぐ睨むか……』


 黒竜が興味深げな視線をトールに送る。


「黒竜……セルへの話とは何だ?」


『ふむ、まぁいい……ついでだ、汝にも話してやろう』


 黒竜が私に伝えたことと、同じ内容をトールに話す。


『……というわけだ。理解したか?』


「なるほど……そういう話かよ」


 事情を知り、顔を顰めるトール。


『そういう事情でな。その娘には虹竜が選んだ者と戦ってもらう』


「み、身勝手だな。てめえはよ……」



(……うん?)


 トールの発言にほんのかすかな違和感を覚えた。


 てめえ? ……ここは複数形ではないのか?


 ああ……いや、虹竜との関係をここで悟られるとまずいからか。


 私の考えすぎだったようだ。



「トール……いい」


「セ、セル?」


 黒竜に抗おうとするトールを私は制止する。


「い、いいって……何言ってんだ! いいわけねえだろ! このままではセルが黒竜に選ばれちまうんだぞ……そうなったら」


「わかっている。わかっているさっ! ……だがっ、だが!」


 一先ず、ここは黒竜に返事して考える時間を作る。

 そのあとトールと一緒に切り抜ける方法を考えるしかない。


 だが、どうすればこの状況を変えられるのか。

 古竜の誘いを拒否し、私がトールと戦う未来を回避できるのか?

 そんな抜け道的な方法が本当にあるのかは疑わしい。


 最悪、最終的には玉砕覚悟で立ち向かうしかないかもしれない。


(くっ! せめて父さんがここにいれば……)


 立ち塞がる絶望的な未来を前に。


 俯き、血が出るほどにぐっと強く拳を握る私だったが……。



「……え?」


「……大丈夫だ、セル」


 そっと優しく私の手に、自分の手を重ねるトール。


「……トール?」


 顔をあげると、そこに見えたのはトールの笑顔。

 少しでも、私が安心するように微笑みを浮かべている。

 自分がこの場を全部どうにかする。

 ここは任せておけ……と言っているように。


 私も冒険者だ……その顔に覚えもある。

 あれは覚悟を決めた男の顔。


 ゆっくりと、一歩ずつ黒竜へと近づいていくトール。


「黒竜……セルはてめえの思い通りにはさせない。セルはてめえの玩具じゃねえんだ、戦いの駒になんてさせねえ」


『ほう……ならばどうするつもりだ?』


 黒竜とトールの視線が交錯する。


(な、なんだ、とてつもなく嫌な予感がする)


 何か……私は何かとても大事なことを見落としてないか?


 後の話だが……。


 この時の私の予感は本当に正しかった。

 思い返す度にこの時のことを激しく後悔することになる。


 この時、意地でもここでトールを止めるべきだったと。

 そうすればあんな事態にならなかったのに、と。


「聞け黒竜。だったら、だったらよぉ……」


 トールが黒竜へと、大声でその決意を叫ぶ。



「セルの代わりに俺が戦ってやらぁ! 誰が相手だろうと全力でぶっ潰してやる!」



(な、何を言ってるんだ? ……この酔っ払い)



 その言葉の意味を理解するのに私は長い時間を要した。

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