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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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古竜騒動3

セル視点です

 私は酒場を出て通りをゆっくりと歩く。


 火照った身体に夜風が心地良い。

 皆で飲むのも偶には悪くないものだ。



(黒竜の選んだ相手……か)


 先ほどのバルの言葉を聞いた時、不安がよぎった。

 私の脳裏に思い起こされたのは少し前の出来事。


 魔の森で黒竜と会った時、黒竜が去り際に私に告げた言葉。


『娘、汝を候補に入れておくとしよう』


 今日の虹竜の代理戦争の話、古竜たちの事情と黒竜の発言を合わせて考えると。

 黒竜の言葉の意味が理解できる。


 もし……私が黒竜に選ばれることになったら。


 トールの方はそこまで考えていないようだったが。



(……あれ?)


 夜道を歩いていると違和感に気づく。


 時刻は午後八時。日は暮れたとはいえまだ通りは人で賑わう時間だ。

 普段なら、仕事帰りの冒険者が肩を組んで歩いていたり。

 ここは大通りだというのに……人の姿がない。


「…………」


 何か別の空間に迷い込んだような感覚。

 ぞわり……と、酔いを覚ます嫌な予感。


 直後、何者かの強い気配。


「……だ、誰だっ!」


 人間? いや、これは……。

 私が困惑していると。


『久しぶりだな……勇敢な女騎士よ』


 静かな路地に響き渡る声。


 その声は私の警戒心を最大まで引き上げさせる。


『私のことを覚えているか?』


「こ、黒……竜」


 夜空に紛れるように浮かぶ漆黒の巨体。

 忘れるはずもない。 

 夜でも、その姿は一度見れば間違いようもない。


「こ……この状況はやはり」


『そうだ。ここを中心に認識阻害の結界を張らせて貰った。話の邪魔をされたくないのでな。結界はかなりの実力者でなければ近づけん。私は騒がしいのが嫌いでな。人の街では目立つゆえに』


「…………」


『すぐ周囲の異変に気づいたな……いい反応だったぞ』


 黒竜が嬉しそうに言う。


 なんとなく、昼間の虹竜とトールのやり取りが思い出される。


『さて、ここに来たのは大事な話をするためでな……汝の力を借りたいのだ』


 この話の切り出した方。

 もっとも考えたくない可能性だったが。


 嫌な予感ほど、当たるというのは本当らしく。


『実は私は虹竜と、ある賭けをしているのだが……』


 私に会いに現れた黒竜が、その理由を語る。


 話は残念ながらというか……予想通りの最悪の内容だった。

 虹竜が昼間トールに話したことと同じ。


『……と、いうわけでな。汝に虹竜(レライン)が選んだ人間と戦ってもらいたいわけだ』


「そ、それは……」


 どう黒竜に返答するのが正解なのか必死で考える。


『夕方、虹竜(レライン)と会った時、奴はとても嬉しそうに話していた。逸材を見つけた、戦いの時を楽しみにしていろ……とな』


「……」


虹竜(レライン)の様子から、選んだ人間に相当な自信があることが伝わってきた。あの他者に厳しい虹竜(レライン)があそこまで認めるなど余程のことだ。生半可な者では勝てまい」


 この口ぶりだと、トールのことを黒竜は知らないようだが……。


(ど、どうする?)


 既に私は虹竜の選んだ相手がトールであると知っている。

 いくら半ば強制に近いような古竜の頼みとはいえ、トールと戦い、傷つけ合いたくはない。

 二匹の竜が、どのような戦いの形式を選択するかは知らないが。

 彼らの熱心な探しようを見るに半端な結末では満足しないような気がする。


 トールに私が黒竜に選ばれたことを隠して戦うというのは論外だ。

 正面からぶつかれば、今のトールに勝つのはかなり厳しいかもしれない。

 それでも……私の生き方として絶対に譲れないものはある。


 とにかく、ここで黒竜の話に頷いた時点でいい未来はない。

 どうにか黒竜の私に対する興味を失わせて、話を断るしかない。


「こ、黒竜よ……その、代理で戦うのは私でなければ駄目なのだろうか? 話を聞くに相手は虹竜が認める逸材なのだろう。とても期待に応えられるとは、私より強い者などたくさんいるし、買いかぶりすぎだと思うのだが……」


『なに、謙遜することはない』


「い、いや、その……これは謙遜などではなく事実を」


『自信を持つのだ、娘よっ!』


「っ!」


 いきなり黒竜が大声を出したので驚いてしまう。


『森での汝の気迫は私の心にしっかりと響いた。汝なら勝利を必ずもぎ取れる。単純な力などではない、気高き意志の強さが汝の心にはあった。この黒竜リナリアスが認めたのだぞっ! ……誇りに思えっ!』


「い、いや……ええと、その……」


 まさか、黒竜にこうやって激励されるとは……。


 だ、駄目だ。

 黒竜は話をまったく聞いてくれない。


 というか、根性論や精神論でこられると対応にすごく困る。


 私以外の誰かに変更してくれる可能性にかけて黒竜に聞いてみたが。

 わざわざ街中までこうして現れるくらいだ。

 もう黒竜の中ではほとんど決定事項なのだろう。


『私は汝のような者が好きでな。例え力が弱かったとしても心の強い者には一定の敬意を払うようにしている』


「……だ、だけど、私は」


『さぁ……首を縦に振るのだ。娘よ』


「私は、わ、私はぁ……うう」


 いつの間にか目前、鼻息がかかる位置まで近づいてきていた黒竜。

 巨大な爪を私の頭の乗せ、強制的に頷かせようとしてくる。

 虹竜然り、古竜は全員がこんな強引な性格なのだろうか。


 迫る黒竜にしどろもどろになる私。

 もう、どうしたらいいのかわからず。


「……だ、誰か助けっ」


 認識阻害の結界で、誰も近くにいないと知りつつも反射的に出た声。

 だから反応などない。


 そのはずだったのだが……。



「おい、てめえ…………セルに何をしてやがる」


「え?」


『……む?』


 背後からとても聞き覚えのある少年の声。


 どうにか爪から逃れ振り向くと、そこにはさっきまで酒場で一緒に飲んでいたはずのトールの姿があった。





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