古竜騒動1
湖に突然現れた虹竜と戦った結果。
何故か俺は虹竜に気に入られてしまい、古竜たちの代理戦争に出るように言われてしまった。
穏やかだった時間は遠いどこかへ。
俺たちは急いで街に戻り、湖で起きたことを副ギルド長に報告する。
古竜たちが戦っていた原因を知り、副ギルド長が神妙な顔をしていた。
すれ違いでの情報になるが、『悠久の風』と呼ばれるベテランパーティが、昨日北の山で虹竜に襲われたらしい。
今日の午後、疲労困憊といった様子で街に戻ってきたそうだ。
もう少し早く知ることができれば虹竜を警戒できたかもしれないのに。
副ギルド長に報告を終えて部屋を出ると……。
「ト、トール、その……大丈夫か?」
「大丈夫って、何が?」
セルが俺の横顔をのぞき込み、心配そうな表情で言う。
「い、いや。だって突然こんな事に巻き込まれて、私がトールの立場だったら……」
「ははははははははははははははははは、あはははは……まじよゆう」
「す……凄く無理してそうなんだが」
「か、空笑いが……痛々しい、トール」
二人はどう反応すればいいのかわからない様子。
「トール、セル、少しギルドで休も……」
「そ、そうだなティナ。落ちついて話もしたいし」
夕陽が窓から差し込むギルドの酒場。
その角っこの円形テーブルに三人で座る。
「な、なにか適当に注文しよ」
「そ、そうだな」
「いつ、最後の晩餐になるかわからないしな」
「「重い重い重い……」」
口にした言葉に空気が重くなる。
頑張って強がってみたが……余裕のわけがない。
虹竜の件、滅茶苦茶気にしてるよ……当たり前だろ。
当然、空元気だっつうの。
(ちくしょう、なんで俺がこんな目に……)
一応、虹竜に正式な了解の返事はしていないつもりだが……。
あの強引に事を進めようとする感じ。
(適当に逃げようとしても通用しないよなぁ……たぶん)
想定外の事態に頭を抱えてしまう。
古竜、なんて身勝手な奴らだ。
人を駒扱いしやがって、絶対的強者特有の傲慢な考え方だ。
せめて虹竜に魔法の絶対防御がなければ、俺にも対抗手段はあるのかもしれないが……これでは勝負の土台に立つことすらできない。
相性がいくらなんでも悪すぎる。
俺自身、この世界に来て強くなっているという実感はあった。
だけど……。
(相手が圧倒的に強かったら帳消しになるんだよ!)
ブラッドヒュドラに虹竜、なんで滅茶苦茶な化け物と連続で戦うことになってんだ。
俺は戦闘狂でもなんでもないぞ。
命を賭けてまで戦いを楽しむ趣味はない。
しかも下手すればこの後に黒竜が選んだ強者と戦う可能性まである。
「大体、なんだよ竜王って……」
そんなの知らねえよ。
そういう存在は将棋の世界だけで十分なんだよ。
「まさか虹竜から竜王の名が出てくるとはな……」
「ん……私も驚いた」
セルの言葉にティナが頷く。
竜王についてセルに尋ねてみる。
「竜王は謎の多い存在だ。私も詳しく知っているわけではない。その名の通り竜たちの王と呼ばれている。何百、何千年という長いスパンで世に姿を現すという話だが……」
「ふむふむ」
正直、情報が殆ど増えていないけど。
とりあえず気になるのは。
「竜王は人間の敵なのか? 味方なのか?」
「それは……本当にわからないんだ」
返答に困るセル。本当に謎の多い存在のようだ。
敵味方すらわかんないとなると対応に困るな。
まぁあの虹竜が王と呼ぶぐらいだ。
人間なんかにどうにかできる存在じゃなさそうだが……。
「トール……一応文献だと、竜王に人間の住む大陸が焼け野原に変えられたって記録もある」
ティナがセルから俺への説明を引き継ぐ。
「じゃあ竜王は敵なのか?」
「でも、東の大陸には竜王を祀っている国もある。遥か昔、その国で魔物の大発生が起きたのを竜王が助けたらしい……」
なるほど……つまり話をまとめると。
「竜王は情緒不安定ってことか」
「そ……そういう解釈もできるといえばできる」
ともかく、簡単に敵味方で判断できるものではなさそうだ。
人間を襲撃する竜もいれば、そうでない竜もいるのかもしれない。
古竜も同族同士で戦うこともあるみたいだしな。
まぁ……竜王のことは一度置いておこう。
世界のことより、今は自分自身のことの方が百倍大事だしな。
「……はぁ」
さすがにため息を吐きたくなるぜ。
まじでこれからどうしよう。
癪だが、本当に古竜どもの代理戦争に参加するしかねえのか?
仮に代理戦争に参加するとしても、戦いの形式も不明。
与えられた情報が一切ないからさっぱりわからん。
もしデスマッチとか言われたら嫌だなあ。
一応相手は人間とのことだが相当な実力者が相手だろう。
虹竜も本気で選別していたし、黒竜が生半可な奴を選ぶわけがない。
Aランク冒険者どころか、下手すればそれ以上の相手かもしれない。
まぁ……冒険者とは限らないんだけど。
くそ、どうにか虹竜の話を拒否したいところなんだが……どうすれば。
「あ~~~っ! くそっ!」
「……ト、トールッ」
「げ、元気を出す」
ああ、すべてを投げ出して逃げたい気分。
あまり長くウジウジする性格じゃないつもりなんだが……。
俺がテーブルに突っ伏して唸っていると……。
「なんだなんだぁ? 街に戻ってきたら、見知った顔がたくさんいるじゃねえか」
ギルドの入り口から聞き覚えのある声がした。
(こ、この……声)
荒っぽい口調の中にどこか優しさを感じる声(俺基準)。
どこか安心する頼りになる男の声。
テーブルに突っ伏した顔を上げると、そこには……。
「久しぶりだな……トール」
「バ……バルさん」
「おう」
ニカリと笑みを浮かべるバルさん。
ブラッドヒュドラ相手に共に戦ったバルさんが、ハイオークの討伐依頼から戻ってきた。




