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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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虹竜来襲

 ドラゴン、ファンタジー世界の超有名生物。

 とにかく強く格好いい……そんなイメージの生物。


 せっかく異世界に来たわけだし、見てみたいという気持ちはあった。

 でも……それはあくまで自分の安全が確保されているという条件での話だ。

 動物園にいる檻の中のライオンと同じ。

 生命の危険を冒してまで見たいとは思わない。


 だってのに……。


「に、にに、にじりゅ……」


「い、生きていたのか」


 ティナとセルがその巨大生物を見て唇を震わせながら呟く。

 やはりこいつが虹竜で間違いないようだ。


 魔の森で行われた黒竜と虹竜の古竜同士の戦闘。

 黒竜の存在は確認されたが、虹竜の死体は見つからなかった。

 生死すらも不明という話だったが……。


(どうして、虹竜が湖に……?)


 ゆっくりと俺たちの正面に空から下降してくる虹竜。

 近くで見ると余計に図体がでかく見える。

 威圧感が凄まじい。


『……お前たちに問う』


 まだ困惑している俺たちに、虹竜がその巨大な口を開く。

 生暖かい風が頬に当たって気持ち悪い。


『少し前、この近くに大きな魔力を持つ者がいたと思うのだが……心当たりはないか?』


 大きな魔力だと?


『探していたのだが、二時間程前に反応が突然消えてな。ゆえに最初は我の勘違いかと思ったのだが妙に気になってな。確認のために来てみたわけだ』


 二時間前っていうと、確か俺が詠唱の検証をしている時だな。

 ここにいたのは俺とセルとティナの三人だけだが……。

 突然魔力の反応が消えたってのはどういうことだ?


 俺がなんのことだかわからずにいると。


「「……」」


 ティナとセルが俺に視線を送ってくる。

 具体的には俺の指のところに視線が集まる。


 そこには、二時間前に装備した魔力隠蔽の指輪が嵌められており……。


 な、なるほど。

 つまりコイツの探している人物ってのは。


「そ、その魔力反応の人物のことを知ってどうするつもりなんですかね?」


 俺は古竜へと問いかける。

 ビビってつい敬語になってしまったが……。


 探している人物が自分であると、素直に答えるべきか否か。

 虹竜の目的が見えない今、正直に答えちゃ駄目だと本能が訴えている。

 絶対に碌でもないことが起きると。


『我はとある目的のために強い人間が必要で、探しているのだ』


 強い人間……だと?


「さ、探してどうするつもりなんでしょう?」


『そこまで、今のお前たちに答える理由はないな』


 なんだそれ? 傲岸不遜というか偉そう。

 ちょっとだけ腹立ったが、直接言うのは怖いので心の中で反抗する。



『……ふむ』


 虹竜の視線が俺とティナの間を交互に動く。

 すると、何かに気づいた様子。


『なるほど……先ほどの魔力はそこの黒髪の子供か小僧。お前たち二人のどちらかだな』


「「「……」」」


 どういうわけか、あっさりとバレてしまったようだ。


『魔力を隠蔽しているようだがこの距離なら間違えようもない。我がこれまで出会った人間たちの中で最も魔力が多いな。見ればそこの鎧娘もなかなかの覇気ではないか、これは期待できそうだ』


 どこか嬉しそうに虹竜が言う。


 やべえ、すげえ嫌な予感がする。



『では早速、確かめさせてもらうぞ! お前たちの力を……』


 て、展開早え……なんて迷惑な野郎だ。


 翼をバサリと大きく広げる虹竜。

 話し合いは時間の無駄、問答無用と虹竜が動き出す。


 突然の大ボス級とのエンカウント。

 こっちは準備なんてできてねえんだよ。



「……トール、バカあぁ」


「……すみません」


 見ると、ちょっと泣きそうな顔のティナ。

 くそ。

 ちょっと指輪を付け忘れただけでこんなことになるとは。


「ふ、二人ともボ~ッとしている場合じゃないぞ!」


「「っ!」」


 セルの言う通りだ。

 今更後悔しても後の祭りだ。

 例えドラゴンだろうと来るなら戦うしかない。

 というか俺の足ではこんな奴から逃げられそうもない。


 降下しながら、猛スピードで突っ込んでくる虹竜。

 俺は右手を前へと突き出す。


「ト……トール?」


「な、なにをするつもりだ?」


 背後からセルとティナの声が聞こえる。



【【【【【ファイアボール(100)】】】】】


 とりあえず離れようぜ、虹竜さんよ。

 こっちに来るんじゃねえ、お前さんでけえから怖いのよ。


 ブラッドヒュドラを一撃で仕留めた百発分の合成ファイアボールをプレゼントだ。


『……ほう、これは』


 巨大火球を見て虹竜が感心したような声を出す。

 目前に高速で迫る火球に対し虹竜は……。


(ま、真っすぐ突進してきただとっ!)


 突っ込んできた虹竜が火球に向けて腕を伸ばし、巨大な爪で抑え込むようにガッシリとキャッチする。


「……うそお」


 おいおい、ドッジボールやってんじゃねえんだぞ。


 火球を片腕で抑え込んだまま突進してくる虹竜。

 結局、殆ど減速しないまま、虹竜はもう俺の目前に。


 やばい……避けられねえ。



「トールッ!」


 背後からセルが俺の手をガッシリと掴む。

 そのまま凄い力で強引に真横へと放り投げる。


「グッ!」


 虹竜に接触、衝撃で吹き飛ばされるセルの身体。


『ウインドバリア!』


 後方のティナがセルに『ウインドバリア』を即座に展開。

 セルの身体を纏う風のバリアが緩衝材代わりとなり、衝撃を軽減するも、そのまま草むらを転がっていくセルの身体。


 強力な魔法を扱えても俺の防御力は低い。

 一撃でも貰えば無事ではすまない……セルに助けられた形だ。


「セルっ! 無事かっ!」


「ふぅ、はあっ……だ……大丈夫だ」


『立ち上がるか鎧娘、手加減していたとはいえなかなかの防御力だ。それに、後ろの子供もいい反応をするじゃないか』


 ゆっくり起き上がるセル。

 どうやら、骨が折れたとかそういうことはないようでホッと一安心する。

 ティナが急いでセルの元へ走り回復魔法をかける。


 しかし、ここからどうする?

 破壊力だけなら最上級魔法に匹敵するとされる百発分の合成ファイアボールだってのに、ブラッドヒュドラ以上の火耐性持ちってことか?


「ファイアボールが無理なら……」


「トール! 虹竜に魔法は駄目っ!」


「な、なに?」


 ティナが俺が動こうとしたのを見て、大きく叫ぶ。


「虹竜は魔法に対して絶対防御を持ってるっ!」


「ぜ、絶対防御だぁ? ……てことは、火以外の属性も通じないってことか?」


「そう、七色に輝く虹鱗はすべての属性攻撃を防ぐっ!」


『そこの子供の言う通りだ』


 な、なんだそれ……滅茶苦茶過ぎんだろ。

 だが事実、巨大火球をこいつはあっさりと止めた。

 くそ、それじゃ魔法メインの俺やティナじゃどうしようもないじゃないか。


『人間の扱う魔法で我に傷をつけることは不可能だ。このようにな』


 虹竜の腕には俺が作り出した巨大火球が今も存在している。

 自身の魔法防御性能を俺たちに見せつけるように、バスケットボールを指先で回すみたいに、ファイアボールを爪先で回転させる虹竜。

 俺のファイアボールで遊ぶのやめて欲しい。


『だが、なかなかの一撃だったぞ小僧。我より魔法耐性の低い他の古竜であれば傷はつけられたかもしれんが……相手があまりに悪かったな』


 虹竜の超上から目線。

 実際、上にいるのだろうが。


『続けよう。お前たちはなかなか楽しめそうだ』


「「「……」」」


 ここで、先ほどまで玩具にしていた俺の巨大火球(ファイアボール)を胸にガッシリと抱え込む虹竜。


『さて……今度は防げるか?』


 なにをして……。


『魔法防御力が圧倒的に高ければこんな芸当も可能だ』


「まさか……トールッ! 急いで火球を撃ち消すんだっ!」


『……遅い』


 セルの叫び声が聞こえると同時。

 両腕で巨大火球をおもいっきり抱きしめ、爪を立て強烈な圧を火球に加える虹竜。

 直後、紅蓮の火球が割れて破砕。


 虹竜を中心に広範囲を巻き込む大爆発が発生した。




『……ふむ、これはなかなか』


 爆心地の中央、メラメラと燃え上がる炎の中。


『我の想像していた以上に、火球に秘められたエネルギーが大きかったというわけか』


 爆発の影響で地面は広範囲で陥没。

 深く抉れた地面、突如湖に出来た火の海。

 だが、虹竜はその中で何事もなかったかのように平然と佇む。


「ああっ……」


「ト、トールッ!」


 虹竜から距離をとっていたセルとティナも無事。

 だが、最も虹竜の近くにいたトールは。


 トールを助けようと、燃えさかる火の海の中に入ろうとするセルだったが……。


「く、駄目だっ! 火が強すぎて近づけ……ティナッ!」

「わかってるっ!」


『己の強すぎる牙が仇になったか……』


 急ぎ詠唱するティナを見つめながら、虹竜が呟く。

 この強い炎の中では詠唱を成功させるのも難しい。

 仮に少しばかり回復できたとしても、炎の中ではすぐに火傷を負う。

 苦しむ時間が延びるだけ。

 既に小僧は息絶えていると虹竜は考える。


『ち、殺すつもりはなかったんだがな。所詮は人間、期待し過ぎたか。力加減を誤った……む?』


 心底、残念そうな顔を浮かべた虹竜だったが……。



【【【【【……ール】】】】】


『な……なんだ? 今、確かに小僧の声が聞こえた気が……』


 耳に入ってきた少年の声。

 燃え盛る炎の中に視線を送る虹竜。


【【【【【ヒール】】】】】

【【【【【ヒール】】】】】


『……まさか』


 その声は何度も繰り返し聞こえてくる。

 想定外の出来事に虹竜の目が大きく開く。


【【【【【ヒール】】】】】

【【【【【ヒール】】】】】

【【【【【ヒール】】】】】

【【【【【ヒール】】】】】


「セ、セルっ! この声っ!」

「ああっ! ……間違いないっ!」


【【【【【ウォーター】】】】】


 瞬間、消滅する火……消えた火の中から姿を見せたのは。




「し、しし……し、死ぬかと思った」


「「トール!」」


 ティナとセルが俺の無事を喜び、駆け寄ってくる。


「よ、よかったっ!」


「あの炎の中、よく無事でっ……」


「あぁ、どうにか凌げた……危なかったぁ」


 正直、本当に危なかった。

 ティナとの模擬戦の時に習得したことが役に立った。

 合成した回復魔法の連続展開、いわゆる持続型ヒールってやつだ。

 かなり強引だがどうにか爆発にも耐えきることができた。


『ば……馬鹿な、信じられん。あの爆発を受けて戻ってきただと……』


 虹竜が驚愕した様子で俺を見る。

 ここに来て初めて動揺した声を聞いた気がする。


 俺たちは再び虹竜と向き合うが……。



『く、くくっ……』


 虹竜の様子が豹変する。


『ふ、ははっ、ははははははははっ!』


「な、なに嬉しそうに笑ってんだ?」


『嬉しいに決まっている。いやなに……我も長く生きているが、ここまでの人間は初めて見たぞ』


 こっちは死にかけたってのによ。

 俺は笑う虹竜を睨み付ける。


『決めた。小僧……貴様にする』


「な、何わけのわかんないこと言ってやがる」


 まったく話が読めない。


『まぁ聞け、貴様が我にした質問の答えでもある。先ほど強い人間を探していると話したな』


 そんなこと言っていたな。

 あの後、即攻撃を仕掛けてきたけど。


『我は黒竜(リナリアス)とある賭けをしているのだ』


「黒竜? 少し前に魔の森で虹竜と戦っていたって話は聞いたが……」


『それを知っているのであれば話は早いな』


 虹竜が説明を続ける。


『我ら竜族の王、竜王様が遠くない未来、永き眠りからお目覚めになられるのだ』


「り、竜王……?」


 なんかまた、いきなり話が大きくなってきたな。


『そうだ、竜王様はまだ卵の中で眠られているがな。で……だ、簡潔に言うと我と黒竜(リナリアス)、どちらが目覚めた竜王様の世話役となるか……それを決めるために我々は争っていたわけだ』


 それが魔の森での古竜たちの争いの理由か。

 てことは、よくわからんけど、竜王様とやらの世話役になるのは彼らにとって名誉なことなのだろうか。


『だが、黒竜(リナリアス)と何日戦っても決着がつかなくてな……そこである賭けをしたのだ。黒竜(リナリアス)と我、互いに一人ずつ人間を選出し戦わせ、その結果で決めようとな』


 要するに代理戦争ってやつか。

 巻き込まれる側にしてみればなんて迷惑な話だ。


「それで俺を選ぼうってわけか……」


『そうだ……その回復力、魔力量、貴様は人間の中でも逸材と言ってもいい』


 こんな奴に褒められてもまったく嬉しくないんだが。

 できれば全力でお断りしたいんだけど。


「ち、ちなみにだけど……嫌だと言ったら?」


『無理矢理、力尽くで聞いて貰うぞ』


 虹竜が鋭い視線で俺を射貫く。 


「……トール、だ、駄目……今は絶対駄目」


「ティナ?」


 俺の腕をギュッと強く掴むティナ。

 まさか、アレが見えているのか?


『我としても貴様ほどの逸材をここで殺すのは惜しい。それに貴様が拒否したら、そこの二人から選ぶことになるかもしれんぞ』


「……」


 き、汚い話の進め方をするなあ……こいつ。

 ど……どうしよう。


『理解したな。では黒竜(リナリアス)に伝えねばな。戦いの日時、場所などの詳細は後で知らせにくる……身体を万全の状態にしておけ』


「あ、ちょっ……」


 どうにか反論しようと考えるが……。


 身勝手な虹竜は自分の言いたいことだけ話し、俺たちの前からあっという間に去っていった。


 

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