冒険者ギルド
冒険者ギルドに着いた俺は建物を見上げる。
ギルドは木造四階建ての建物だ。
規模的には都会のビルとか見たことある俺からすればそうでもない。
だが、低い建築物の多い周囲との比較でかなり大きく見える。
少し緊張しながら入口の木の扉をくぐる。
中に入ると、ワイワイガヤガヤと声が聞こえてくる。
皮鎧や鱗鎧っぽいのを着た冒険者と思われる人たちがテーブルに座って談笑していた。
既に仕事終わりなのか、昼間っから酒を飲んでいる者もいる。
今日は休みなのかもしれないが、休みならわざわざ鎧を着ないだろう。
従業員らしき、ミニスカートをはいた女の子が忙しそうに動き回っている。
「……い、いいじゃないか」
この雰囲気悪くないな。
冒険者っぽくて嫌いじゃないぞ。
入口扉の横には各フロアごとの説明が書かれた紙が貼られていた。
一階が食堂兼酒場、二階がギルド、三階から上は事務室や、ギルド関係者の諸室があるそうだ。
一階は吹き抜けのある開放的な空間となっており、頭上を見れば二階の様子が見える。
統一された服を着たギルド職員の女性たちが、それぞれ集まって説明している。
とりあえず、あそこに向かえばいいんだろう。
初めてギルドに来た人が迷わないように、うまく動線が設計されているようだ。
上から冒険者たちの様子もわかるしな。
俺は吹き抜け横に隣接された階段を上る。
二階には受付用カウンターがいくつかあり、冒険者と受付嬢が話している。
どこに並べばいいのか少し悩んでいると、案内係らしい職員さんが話しかけてきた。
「こんにちは……もしかして初めてのかたですか?」
「えと……はい」
「やはりそうでしたか、困っているようでしたので……本日はどういった目的でギルドへ?」
「ええと、冒険者の仕事に興味があって……」
「なるほど……ではこちらをどうぞ」
そう言って、職員の女性は木の板を渡してくる。
板にはこの世界の数字が彫られていた。
「この番号が呼ばれましたら、あちらの中央のカウンターへ」
「わかりました。親切にありがとうございます」
番号が呼ばれるまで暇なので、邪魔にならないように適当にフロアを歩き回る。
掲示板を見てみると、依頼に関する紙が貼られている。
『ロイヤルキャンディーの原料であるキラービーの蜜を採取してほしい』
『元魔族四天王、激怒のゴルセッソスの討伐』
『街の畑を荒らすヒュージモグラを討伐してほしい』
依頼の内容は採取系(?)やら、賞金首やら、魔物の討伐らしき案件まで。
その仕事内容はかなり多岐にわたるようだ。
てか一つ、おかしいのが混じってんな。
何だよ元魔族四天王って。
元四天王の紙は他の依頼のものに比べ経年劣化でくすんでいる。
最近張られたものではなさそうだ。
まぁ……普通に生きていれば関わることはないと信じよう。
「七十二番でお待ちのかたどうぞ~」
依頼を見ていると、自分の数字が呼ばれたのでカウンターへと向かうことにする。
「こんにちは、冒険者について話を聞きたいとのことですが」
「はい、そうですね。それと実は他にも聞きたいことがありまして、遠い遠い場所から来たもので、無知でお恥ずかしいのですが」
「いいですよ。なんでも遠慮せずに聞いてください」
ドンと自分の胸を叩く受付嬢さん。
「なんでもって、沢山あるんですけど本当に聞いていいんですか?」
「はい、なんでもどうぞ」
知りたいことは山ほどある。
でも爺さんも困ったら冒険者ギルドに聞けって言ってたしな。
聞くだけ聞いてみよう。
「その、世界の経済情報、地図、危険な魔物、文化文明、歴史、魔法、スキル、とにかく詳しく色々知りたいんですが」
「え、ええと、とりあえずその……細かいことが知りたければ王都の図書館を訪ねてみてはいかがでしょうか? なんでもと言ったのに申し訳ないんですが、さすがにその……時間とか色々ですね……」
「なるほど、なんかすいませんね」
やっぱりだいぶ図々しいよな。
あの爺さん……適当なことを。
わからないことを質問するのは大事だけど、一から十まで聞くのもよくない。
学校生活でもそうだった。
「テスト前だけやたら電話かけてくるよね」って言われた経験あるし、気をつけないと。
そんなやりとりのあと、冒険者ギルドについて説明を聞く。
この世界における冒険者ギルドは元は世界中にはびこる魔物対策のための戦力確保を目的として、国を跨がって設置されたという成り立ちだ。
世界的にギルドは中立の立場をとっているとかなんとか。
元は魔物対策として存在していたのだが魔物溢れる時代もあれば、平和な時代もあり、その重要性は変わる。
結果、年月が経ちニーズに合わせて魔物関係でなくても採取依頼、腕っ節を活かした用心棒の依頼、個人でも細かい依頼が頼めるようになったりと、仕事内容は多岐に渡るようになったそうだ。
そのせいなのか、縛りはそこまで厳しくはない。
基本的には犯罪者でなければ誰でも冒険者登録することができ、実力次第では短期間で一攫千金も夢ではない仕事だそうだ。
当然、報酬が高額なら危険も増し命を落とす人も多くなる。
依頼失敗は冒険者も依頼人も得をしないため、ギルドの方でも実力に合わせて各依頼に受注制限を設けたりしているが、それでも死ぬ時は死ぬ。
まぁ、大体そんな感じで、俺の抱いていた冒険者のイメージと一致する。
話を聞き、俺は冒険者登録することにした。
年会費や登録料を払う必要もなく、特に大きなデメリットは存在しないしな。
そりゃ死ぬ時は死ぬんだろうが、ギルドの方でもそうならないようにフォローはしてくれている。
その一環で初心者演習が八日後にあるので原則受けてくださいとの話を受けた。
西の森に設置されたベースキャンプで一泊して戻ってくるというシンプルな内容だ。
ベテランの冒険者も同行してくれるそうで、その際色々教えてもらえるらしい。
「それではこちらの紙の必要事項に記載をお願いします」
字については特に意識することなく読み書きできるので問題ない。
受付嬢に手渡された紙にパパっと記入していく。
氏名はトールと……記載するのは苗字を省略して名前だけ。
先程、掲示板を見た時、依頼人の名前に苗字は存在しなかったからそれに合わせよう。
ええと性別は男、齢は十六歳、ジョブは……。
「あの? 自分のジョブがわからないんですけど、どうすれば?」
「え~と、トールさん?」
「はい」
受付嬢が俺の記入用紙を一瞥して言う。
「トールさんは成年ですが、まだ神殿で宣託を受けていないと」
「ええ……まぁ、ちょっと人里離れたところに住んでいたもので」
適当な言い訳に訝し気な顔をする受付嬢。
宣託とか知らないっての、こちとらこの世界に来たばっかだよ。
あと俺、成年なんだな。
この世界では十五歳で大人扱いされるらしい。
堂々と酒が飲めるらしいよ。
「ジョブって、神殿とか行かないとつけないんですかね?」
「いえ、大丈夫ですよ。トールさんのような方も偶にいらっしゃいますし、大掛かりなものではないので、ここで宣託を受けられますよ」
「よ、よかった……」
俺は安堵の息をこぼす。
「では、こちらの水晶に触れていただけますか? この世界を統べる神、女神アルターナ様に繋がるので」
「え? 女神様本人が教えてくれるんですか?」
「まさか……女神様はご多忙らしいので、この水晶玉を通して女神様のいる空間と繋げることで加護をいただくことができるのです」
受付嬢が水晶玉をカウンターに置く。
俺が手を水晶玉にのっけると文字が浮かんできた。