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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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トールVSティナ

少し長いです。

 

『『『『『ファイアボール(100)』』』』』



 残響スキルでファイアボールを大量展開。

 戦闘開始早々の先制攻撃だ。


「うぁ……え?」


 何が起きているのか。

 目の前の光景を信じられないのか、まだ放心状態のティナ。


 俺に魔法戦に関する知識、経験はほとんどない。

 初っ端から物量と展開速度で一気に押し切る。

 わざわざ、相手のペースに付き合う必要はない。


「……ふ、ふざけっ!」


 火球が動き出すのを見て即座に意識を戦闘に戻すティナ。

 ティナが戸惑っていたのはわずか一秒に満たない時間。


 それでも……こうして対応が遅れたのは大きい。


「……っ!」


 ティナが年季を感じさせる木の杖を空へとかざす。

 なんだ? この数を迎撃、もしくは回避する手段があるのか?


 杖の先端に埋め込まれた宝石が輝き出し、ティナの足元の土が隆起する。

 ティナの前面に生成された土の壁に火球が着弾。

 火球の射線を遮りティナへの攻撃を妨害する。


 だが、壁の強度はそこまで頑丈ではないようだ。

 一発、二発は防げてもこの数を防ぐには不十分、間もなくその形を失っていく。



『精霊よ、地の鎖から解き放ち、空へと導け……レビテーション』


 壁の向こう側から聞こえてくる声。

 壁が崩壊すると同時、巻き起こる土煙と大きな音。

 瓦礫の中から空へ、一つの影が高速で飛び出す。


「ふぅ……緊急用に杖に込めておいた中級魔法『ストーンウォール』、いきなり使わされるとは思わなかった」


 頭上、煙の中からティナの声が聞こえてくる。

 ティナが地上に降りてくる気配はない。

 飛行魔法とか、そんな感じのやつで脱出したらしい。


 魔法のストック……以前セルに少し話を聞いた記憶がある。

 模擬戦のあとで、マルチスペルについて尋ねた時だったかな。

 細かい内容は忘れたけど確か、制約はあるがいくつかの魔法を宝石にストックができるってやつか。


 Aランク並の魔法職相手、さすがに一瞬で決めるのは無理か。


「驚かされたけど、ここからが本番、トール……続ける!」


 煙が晴れてティナの姿がはっきりと見えるようになった。

 空に浮かぶ木の杖、その上に器用に腰かけて頭上から俺を見下ろしている。


「……ん?」


 そこで、俺はとある変化に気づく。

 ティナの身体から強烈な輝きが発せられていることに。


(な、なんだ? あの光……)


 点滅する光、その眩しさに思わず目を瞑ってしまう。

 まるでこれから凄まじい大魔法が発動しそうな雰囲気。

 危険な雰囲気を感じ取る俺。


「あの強い光……ティナはファイアボールを相当数、被弾していますね」


「その……ようだな」


「あれだけの数を撃たれたらストーンウォール一つじゃ防ぐのは無理でしょう」



 ダ、ダメージエフェクトじゃねえか。


 どうやら発光しているのはティナの魔法と関係なく。

 被弾すると、そのダメージに比例して強く輝く仕様らしい。


「ト、トール…………くる」


「いや、くる……じゃないよ」


 全然、避けれてないじゃんティナ。

 何で「惜しかったな」みたいな雰囲気をだそうとしたの?

 既に本番終わってんじゃないの?


「え……? これ俺の勝ちで終わりじゃないの?」


 訓練場の隅っこに立つセルに大声で聞いてみる。


「ま、まぁ……実戦なら、この時点で確実にトールの勝ちだろうな」


 ファイアボールをあれだけ被弾したら『レビテーション』も詠唱できず、逃げ切れずに押し切られただろうとセルが言う。

 あくまで壁が衝撃やダメージを肩代わりしているから動けているわけで。


「つ……続ける、続けさせて」


「ど、どうするトール君?」


 このままでは終われないと、副ギルド長と俺に懇願するティナ。


「君さえよければもう少し……当然だが、その結果がどうなるにしろ、これだけの光景を見せてくれたんだ。ランクアップ試験については合格で構わない」


 試験に受かったのは嬉しい。

 でも、確かにこれで終わるのはちょっとあっけなさ過ぎる気もする。


「さっきのは私の負け……でも、それはそれとして再戦したい。まだ私、何もしてない」


「わ、わかった……いいよ」


「さ……さすがトール、話がわかる男」


 喜ぶティナ。


 まぁうん……気持ちはわからないでもないしな。

 俺の魔法スタイルは相当初見殺しだし。


「じゃあ、地上に降りてきてくれよ」


「今いる場所からスタートじゃ駄目?」


 ティナが空、俺が地上……この場所からの戦闘再開という提案。


「最初の位置だとトールとの距離が近すぎる、事前準備していいならまだしも、弾幕に対応する手段が現時点で思いつかない。たぶん同じ結果に終わる」


「まぁ……いいけど」


 俺にとって不利な条件だが、既に合格は決まっているしな。

 実戦で常に有利な条件で戦えるとは限らないわけだし。

 いい経験になるだろう。


「じゃあ今度こそ……準備はいいか?」


「うん、くる!」


 そんなわけで戦闘再開である。

 俺は先ほど同様にファイアボールを一斉発射。


「今度は……負けない!」


 火球を回避しようと飛行魔法で更に高度を上げるティナ。

 そして訓練場の端に向けて急加速。俺から更に距離を取ろうとする。


『ウォーターバリア』


 迫る火球に対し、ティナが眼前に大きな水のバリアを展開。

 バリアに衝突し霧散していく火球たち。

 百とはいわずとも、数十の火球がティナの元に届いたのに……。

 ティナの姿は平面距離で三十メートル以上離れている。

 高さを加えればもっと距離がある。


(ファイアボールの有効距離外ってやつか)


 一定距離を離れると魔法の威力が減衰する。

 ブラッドヒュドラ戦の時も有効距離は約二十メートルだったしな。


「なるほど、さっきは驚いたけど、火球の射程距離、一発の威力はファイアボールと変わらない」


「そいつはどうかな?」


「数に惑わされそうになるけど、単発として見れば……ファイアボールと全く同じ?」


「そ、そいつはどうかな?」


 分析をはじめるティナ。

 観察するようにジッと俺の表情を見つめている。

 主導権を握られる前に動いたほうがよさそうだ。

 ティナに落ち着いて考える時間を与えないように。


「ふっ!」


 だが、攻撃魔法がティナに当たらない。

 少しでも接近しようと地上を走るが、一定距離を確実にキープするティナ。


 二人の移動速度が違いすぎる。


 それでも偶に距離が狭まった瞬間を狙ってファイアボールを放つが、高速飛行で回避するティナ。

 杖に乗って旋回したり、緩急を織り交ぜたり、うまく動きを読ませないようにしている。

 その動きは見ていて惚れ惚れする。


 すげえな、飛行魔法ってあんなに精密に動けるのか。

 それともティナがすげえのか。


「ティナ! あまり高度をあげると壁の身代わり効果が切れる! 気をつけろよ!」


「ん!」


 セルがティナに高度に注意するよう叫ぶ。



「むっ!」


 ティナがこちらに猛スピードで突っ込んでくる。

 まさかここでティナの方から仕掛けてくるとは……。


 予想外の行動に戸惑うが、これはチャンスだ。

 ティナは今、俺の真上を通過しようとしている。

 上空二十メートル、この距離ならファイアボールは届く。


『『『『『ファイアボール(50)』』』』』


『ロックバレット!』


 火球発射と同時、ティナの足元、俺の頭上の視界を遮るように展開された無数の石塊。

 石塊は火球と衝突、バラバラに粉砕されていく。

 そんなやり取りの間に、ティナはいつの間にか再び視界の隅へ移動。


 当て逃げ戦法(ヒットアンドアウェイ)か。


 逃がすものかと、魔法を発動させ追撃しようとするが……。

 詠唱しようとしたところで、空から体に降ってくる砕けた石の破片たち。



 あ、ちょっと今のタイミングはまず……。



「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」「痛」



 俺の悲鳴が訓練場に何度も何度も残響する。


 くそぅ。

 スタ〇ド使いのフィニッシュみたいになっちまったじゃねえか。



「……な、なに、今の?」


 ティナがポカンとした顔でこちらを見ていた。


「わ……わたし、トールにそんなに酷いことした?」


 こ、これ……完全に攻撃方法のタネがばれたかな。

 おお……落ち着け俺。

 ここで大切なのは失敗をリカバリーすることだ。

 動揺を悟られないようにしなければ。


 これは対人戦、心理的駆け引きにも勝たねばならないのだ。



「ふん……少しは楽しめそうじゃないか」


「トール……ち、超、不自然」


 恰好つけても時すでに遅し。

 だよなぁ、今のを聞いておかしいと思わない方が変だ。

 実際は壁が痛みを肩代わりしてくれるから痛みはないんだが……。

 反射的に声を出しちまった。


「同じ声が聞こえてくる、何度も何度も繰り返し、吟遊詩人の何かしらのスキルで魔法そのものではなく、元となる詠唱を複製、結果として魔法を増やしているの?」


 色々とティナにばれる俺。

 だがその特性上、何度も聞けばわかること。


 一つ二つ音を重ねるくらいなら、難聴とか耳の異常とか言えば誤魔化せるかもしれない。

 でも、これだけ何度も残響させればそりゃ気づくわな。


 つうか、さっきのアホな失敗は痛い。


「コピー、複製……ということはやっぱり、ベースが初級魔法だということは変わらない。つまり気を付けるべき間合いは……」


 ティナが円を描くように俺の周囲を旋回する。


『『『『『ファイアボール(30)』』』』


 ファイアボールを一斉発射。

 だが間合いのギリギリ外、絶妙な距離を保つティナ。

 簡単に回避、防御されてしまう。


「……ダメか」


「ここまで自分でも何千回と使ってきた初級魔法、その間合いは体に刻み込まれてる」


 くそ、こうなると経験の差がはっきりと出る。

 じわじわティナから伝わってくるプレッシャー。

 俺の行動、全てを見透かされているような嫌な感じだ。


 どうすれば当てられる?

 どれだけ数を増やしても攻撃が届かなければ意味がない。

 合成魔法を使うか? ……だけどあれは単発仕様になるという欠点がある。

 近づいてこないティナに当てられるか?


 俺が思考していると、ぶつぶつと呟き始めるティナ。

 ティナがまた俺の知らない魔法を発動させる。


『ディープミスト!』


 こ、今度はなんだ一体!


 詠唱終了と同時に濃い霧が発生、訓練場一体を埋め尽くす。

 霧がティナの姿をくらませる。

 ど、どこだ? 完全に見失っちまった。


「うおっ!」


 霧の中から勢いよく飛来する石の塊に驚く。

 避けきれず、身体に直撃。

 身代わりの壁がダメージを肩代わりしてくれるから痛みはない。

 それでも、突然飛んでくればビビる。

 ダメージを受けた証として、光りだす俺の身体。


「っ!」


 ボ~ッとしている暇はなく。

 その後も背後から横から途切れることなく飛んでくるティナの魔法。

 そのほぼすべてを予測できずに受け続ける俺。

 魔法が飛んで来た方向に即放ち返してみるも手応えはない。


 まずい、完全にティナのペースに嵌っている。

 こうやって絡め手でこられたのは初めての経験だ。

 ねちっこい攻め方だが効果的だ。一方的な展開に焦る。

 ティナは魔法の使い方がうまい。



(待てよ、霧なら……)


 ったく……さっきから何やってんだ俺は。

 ファイアボールは使い慣れてる魔法だし主軸にするのはいい。

 だが、今の俺が使える魔法はそれだけじゃないんだ。

 せっかく覚えた他の魔法を有効活用しないでどうする。


 訓練場全体に風を送り込むつもりで風魔法『ウインド』を大量に発動。

 一気に霧が晴れていき、急ぎ周囲を確認する。


 右斜め上空にティナの姿を確認。

 ここで攻撃魔法を切り替える。


『『『『『ウインドボール(20)』』』』』


 さっき軽く試した時、風魔法ならもう少し有効距離が伸びた印象だが……。

 ティナはまったく動じない。

 火球よりも比較一割増しくらい射程が伸びた気がするが……届かない。



「成程……トールのこと、大体理解した。膨大な魔力と変な声のスキルを使って初級魔法を大量展開、独特のスタイル」


 ティナがここまでのやり取りを経て語りだす。


「魔法職同士、一対一の勝負は自分のペースを握るため、初級魔法や中級魔法での牽制、駆け引きとても大事……だけどトールには無意味、普通にぶつかったら圧倒的魔法展開力で押されてしまう。せめて、今みたいに攪乱しながらなら別だけど」


「………」


「でも、欠点がないわけじゃない。数を増やしても元が初級魔法であることは変わらない。そして吟遊詩人で魔法職じゃないトールは初級魔法だけしか使えない」


「……つまり?」


「トールに超長距離砲はない。つまり、この位置の私を攻撃する手段はない……それなら、これで一気に決める!」


 様子見は終わり、ここからは私の時間とティナが動き出す。


「トールの連続魔法は確かに超強力。出鱈目な展開力のせいで近中距離戦ならまず勝てない。でもこの距離なら私は勝つ」


「……ち」


 ティナの言う通り、この距離で不利なのは確かだ。

 だが……ティナは大きな勘違いをしている。

 ここから攻撃する手段が一つもないわけじゃない。

 俺にはもう一つだけ隠し玉がある。


 合成魔法を使えば速度、威力、飛距離は伸び長距離砲を作れる。

 だが合成魔法の性質上、質の向上の代償として攻撃回数が犠牲になる。

 単発では正直この距離で撃っても当てられる気がしない。


 彼女の飛行速度はブラッドヒュドラと比べ物にならないほど速い。

 加えて的もブラッドヒュドラより小さい。


「見せてあげる。私が習得した魔法の中で一、二の破壊力を誇る魔法」


「……なに?」


「コレは魔力をすさまじく消費する、詠唱も長いし対人戦では威力過剰になるから使うことはないとまず思っていたけど」


 ティナの口が滑らかに動きだし、詠唱が始まった。


『狂い狂え、踊り踊れ、舞えよ舞え、灼熱の火炎よ……』


 な、なんか超やばそうな感じの詠唱。

 きっと放置すれば今度こそ大魔法が展開するのだろう。


「あ、あの詠唱……まさかティナは最上級火魔法、クリムゾンフレアを放つつもりか?」


 ティナの詠唱に、セルの驚愕の声が訓練場に響き渡る。


 さ、最上級火魔法だと?


「副ギルド長……一応、私の後ろに」


「あ、ああ!」


 巻き添えを受けないようにセルの後ろに移動する副ギルド長。

 俺も逃げたいところなんだが、そうもいかない。

 だが、対策を立てようにも魔法の内容を知らなければ後手後手になる。


 こんな時は……。


「セル! クリムゾンフレアってどんな魔法なんだ!」


「え?」


「答えてくれ! 時間がないんだ早く!」


 サシの模擬戦の最中だが、別に聞いちゃいけないルールはない。

 ただ普通は聞かないだけだ。何の問題もない。


「あ、ああ、クリムゾンフレアは飲み込んだすべてを焼き付くすほどの、まるで小規模な太陽ではないかと見紛うほどの超高熱の巨大火球を作り出し分散……対象を囲むよう前後左右上から」


「よ、要するになんなんだっ!」


「と、とてもおっきくて、とても熱い五個の火の玉を、逃げられないように撃って、同時複数攻撃する魔法だっ!」


 セルさん……わかりやすい説明サンキュ。


 さて……ここで取れる選択は端的に二つ。

 ティナの詠唱を意地で妨害するか、受けて立つか。


 しかし、巨大火球の複数攻撃か。

 発動に時間はかかるが、自分なら俺以上のことができるって言いたいのか。

 負けず嫌いなティナに、真っ向勝負で受けて立ちたくなるが……。


 クリムゾンフレア、合成魔法で迎撃できるか?


 話を聞いた感じ、各方位からの同時複数攻撃となると、ファイアボールとかボール系の直線的攻撃の魔法一つでは迎撃できない。

 かといって垂れ流しとなるファイア、ウォーターとかは合成しても指向性がないから却下だ。

 小規模ならまだしも、攻撃範囲が絞れないのは大問題だ。

 合成したらここにいる全員巻き込んでしまうかもしれない。

 下手すれば自分も危ないかもしれない。


 と、なると。


 無茶でもボール系の合成魔法をどうにか増やして迎撃するしかないか。

 矛盾しているようだが、合成魔法を単発ではなく連続して放つ方法。

 これまでと同じやり方だと、残響間隔を極限まで零に近づけ、最初の第一声に声をすべて集中させるため一回しか放てない。


 もっと別のやり方……そんなのあるか?


 合成魔法、要するに声を一つに重ねるわけだが、それを更に繰り返す方法となると。

 単純なやり方として、とりあえずパッと思いついたのは……。


『ファイアボール』


 詠唱と同時、頭の中でカウントダウン開始。

 一秒間隔で詠唱が残響するように設定した。


 ポツンと一つ空に放たれる火球。


 勿論ティナには届かないことも理解している。目的は別にある。

 ジャスト一秒を狙い……もう一度同じ設定で詠唱する。


 一秒間隔で残響する詠唱を二セット用意。

 各セットの詠唱が重なるように照準を絞り、二つのセットの詠唱発声タイミングが一致すれば、声が二つ重なってそこから連続で続くはずだ。


『ファイアボール』『ファイアボール』


 だが……失敗。二つ、バラバラに飛んでいく火球。

 くそ、詠唱タイミングがずれたか?

 もう一度試してみるがうまくいかない。


 つうかこれ……かなり難しくないか。

 そもそも一回目の声を二回目の声に手動で重ねているわけで。


 戦いながら丁寧に正確な時間を図る。

 相当練習すれば話は別かもしれないが、いきなり狙えるもんじゃない。

 それによく考えたら、二つ分初級魔法を合成したくらいで最上級魔法を迎撃できるとは思えない。


「???」


 俺の行動を不思議に思い、訝しむティナ。

 やはり合成魔法の連続魔法は不可能か?


 ティナの詠唱は俺がこうして悩んでいる間も続く。



『我は問う、力無き者に、真の火とは何か? 我は問う、力在る者に、真の火とは何か? 我は問う、すべての者に、真の火とは何か?』



 同じ質問なら整理してから言えや。


 最後の一文だけで十分だろ。

 まぁ詠唱が無駄に長い分には助かるが……。


 既に詠唱開始から余裕で三十秒以上は経過している。

 さすがに、もう時間はなさそうだ。



『顕現せよ! 万物を灰塵と帰す深紅の炎……クリムゾンフレア』


 ティナの詠唱がついに完了してしまう。


 ティナの頭上に出現した煌々と輝く紅蓮の豪火球。

 直径十メートル近くあった、俺のファイアボール百発分の合成魔法に匹敵する超巨大サイズ。


 高温のせいなのか、空が揺らめいて見える。

 ダメージを肩代わりしてくれるとはいえ、さすがにあれは怖い。


 火球が割れて分散し、五つの火球に分かれる。

 サイズが一回り小さくなったが、それでも直径五メートルはある。

 超巨大火球が巨大火球になっただけで、その脅威度は変わらない。


 上空……中央、前、後、左、右、それぞれに俺を囲むように配置された火球。

 あれを撃たれたら、絶対に避けられないな。

 合成魔法の迎撃もやはりファイアボール一つだけじゃ無理そうだ。



 時間はもうない。

 考えろ、集中して考えるんだ。

 合成魔法で連続魔法を成立させる方法を。


 声を複数重ねる……そして重ねた声を繰り返す。

 このプロセス自体に間違いはない。

 さっきの挑戦だって、失敗したが方向性としては間違えてないんだ。

 必要なのはもっと確実性のある手段というだけだ。

 もっと簡単な工程でミスなくいける手段はないか?


 残響スキルは声を出すときに回数、残響間隔を設定できる。

 こいつを更にうまく応用すればどうにかならないか?


 今までは一つ目、二つ目、三つ目その間の残響間隔を一秒刻みのように、等間隔に設定していた。

 でも、そう……例えば、0.1秒後に二回分詠唱を残響。

 そして、その0.1秒後に二回分詠唱を残響。


 要するに。


 0.0秒(一回目)0.0秒(二回目)→合成魔法一回目

 0.1秒(三回目)0.1秒(四回目)→合成魔法二回目

 0.2秒(五回目)0.2秒(六回目)→合成魔法三回目

 0.3秒(七回目)0.3秒(八回目)→合成魔法四回目

 0.4秒(九回目)0.4秒(十回目)→合成魔法五回目


 こんか感じで詠唱を複数回一組にして、繰り返せばいい。

 例なら成功すれば0.1秒刻みで合成魔法が展開される計算になる。


 この設定がうまくいけば……。


「……ふぅ」


 さぁ……失敗するか、成功するか。

 細かく試行する時間はない。

 ぶっつけ本番! 狙った通りにいくことを祈るだけだ。



 ティナが手をゆっくりと降りおろす。



「さらば……トール」


「え? 殺すつもり?」


 ついに上空から解き放たれるクリムゾンフレア。

 圧倒的サイズの火球たちが高速でこの身に迫る。


 いくぞ。


 上空、五方向から猛スピードで迫るクリムゾンフレア。


 そのすべてに照準を合わせ……。



『『【【【ファイアボール(60)】】】×5』』



 詠唱終了と同時、展開される巨大火球。

 六十発分合成したファイアボール。


 それが……五発分(・・・)


(よし! 成功だ……だが)


 生成された合成ファイアボール。

 俺はそれを見てふと思う。


 ティナの最上級魔法に対抗するために展開された火球だったが。

 これは……。



「ト、トールがクリムゾンフレアああぁっ!? いいっ、一体どうしてえっ!」


 隅っこで大声で叫んでいるセルさんだけど、違う。

 クリムゾンフレアではない……ファイアボールだ。


 まぁ勘違いするのも無理はない。俺もそう思った。

 ティナの作り出した魔法と、俺の魔法は見た目なんら遜色ない。

 サイズも直径五メートル以上、数も五……クリムゾンフレアとまったく一緒。


 後の問題は破壊力だが……。


「らああああああああああああっ!」


 掛け声と同時、発射される火球。

 初級魔法のファイアボールと最上級魔法のクリムゾンフレア。

 最低ランクと最高ランクの攻撃魔法の大激突。


「ぐっ!」


 衝突する五対の巨大火球。

 ドオオオォンと訓練場に響く凄まじい轟音。

 連続して起きる衝突。伝わってくる空気の振動と地面の揺れ。

 加えて目も眩みそうな強烈な閃光。

 目も耳も、この場にいたらおかしくなりそうだ。



「そ、んな……」


 静寂が戻り、視界が晴れた時。

 火球は一つも残っておらず、さっきまでの現象が嘘のような晴れ晴れとした青空が広がっていた。


「か、完全相殺……ク、クリムゾンフレアを……ファイアボールで?」


 放心状態で俺を見つめるティナ。

 まだ勝負は続いているのだが、さすがに防がれるとは思っていなかったのだろう。


 いや、実際……うまくいったからいいけど、失敗してたら負けてたな。

 思いついたのもギリギリだし。

 本当に生死がかかっていたらこんな危険な挑戦しなかったかも。


 凄いな残響スキル。

 数も破壊力も、両者のバランス調整も可能とか。


「さて……」


 それはともかく、まだ勝負は終わっていない。

 追撃だ。


『『【【【ファイアボール(3)】】】×20』』


「ち、ちょっとまっ……」


 三発分の合成魔法の連続魔法。

 さっきの疑似クリムゾンフレア(?)と比べると威力は低いが、数も多く通常時に比べたら射程距離は倍以上、威力も向上。


 必死に火球から逃げるティナだが、さっきの最上級魔法で相当魔力を消費したせいなのか、飛行速度も遅くなっている。

 今なら……当たる。


「お、おかしいっ! ……なんでトール、大魔法を撃って、他にも何百発も撃ってるのに魔力切れしないっ!」


 そりゃ回復してるからだよ。

 俺もさっきので、ほぼ空っぽ近くまで魔力を消費した。

 それでもこれぐらいなら数十秒あれば回復する。

 一応大雑把にだが魔力残量も計算しながら撃っている。

 滅茶苦茶に発射しているように見えて、計算できる男なのさ……たぶん。


 今の俺なら秒間五回までならファイアボールを発射しても魔力が減らない。

 マシンガンみたいな真似もできる。


 焦燥の表情を見せるティナ。

 さすがに防ぐ手段はなかったようで。


「……ま、参った」


 ティナが降参の声をあげる。

 最後は力業のごり押しで突っ切った形だ。


 ここでセルと副ギルド長の完全ストップが入る。

 さすがにここまでの戦いは想定外だったらしく、地面や壁の所々に亀裂が入っていた。

 一度修復しないとさすがにこれ以上は危ないかもしれないとの判断だ。



 二戦目。


 お互いにダメージを受け、色々と反省点はあったが……どうにか勝利することができた。



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