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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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占術

「トール、久しぶり……」


「いや……久しぶりっつうか、なんつうか」


 まだ別れて一日も経過してないんですが。

 昨日、死相が見えるとか意味わからんこと言っといて、普通に挨拶してきたな。


 ティナのいきなりの登場に困惑する俺たち。


「ティナ、遠征依頼から戻ってきていたのか」


「うんセル、昨日ね」


 どうやらティナはセルとも知り合いらしい。


「ところで……何故トールとティナが知り合いなんだ?」


「昨日戻ったら丁度フリマが開いてて、そこでトールと会った。副ギルド長、これイラル村名物のトロンベリケーキ、甘い物好きだったよね。奥さんと一緒に食べて」


「おお……」


 ティナが荷袋の中から小さな箱を副ギルド長に手渡す。

 箱からはほんのりと甘い良い匂いがする。


「箱に冷却効果を付与してあるから保存状態は問題ないけど、明日には切れるから早めに食べてね」


「わかった、気を遣ってくれてすまないな」


 ティナに礼を言う副ギルド長。


「それで……トール」


「なんだ?」


「トールの試験相手役、私がやる」


「……え?」


 予想外の言葉に戸惑う俺。


 こんな発言するってことは、絶対ドアの向こう側で盗み聞きしてたよな。


「駄目? 副ギルド長」


「いや……悪くないかもしれないな」


 少し提案に乗り気な様子の副ギルド長。


「あの、ちょっと置いてきぼりなんだけど、そもそもティナって一体何者?」


「私は私……それ以外の何者でもない」


 そういうことを聞いているんじゃねえのよ。

 相変わらず妙なペースの女の子である。


「ティナはCランクの冒険者だ。まだ冒険者登録して半年程だが、彼女もトールと同じように推薦による昇進試験を受けて、凄まじい速度でランクアップしてきた。私は彼女のCランク昇進試験を担当した縁がある」


「てことは……ティナはセルと戦ったのか?」


 セルが俺の聞きたいことに答えてくれる。


「いや、ティナの場合はトールと違い個人の模擬戦ではない。冒険者同士で臨時チームを組んでの依頼だ。北にある山の洞穴に棲みついた盗賊の討伐依頼、私は三人いた試験官の一人として同行した。まぁ他の二人が試験監査係で、若い私はサポート的役割だったが、万が一失敗したケースに備えてだな。結果として無用な心配だったが……」


 ティナのジョブは特別職の賢者。

 習得できる魔法の数が最も多いとされる。

 敵の攪乱、仲間の回復、攻撃……様々な状況に対応できて役に立つ。


 実際、彼女の活躍は他の冒険者に比べ目覚ましいものだったらしい。

 ティナ一人でも依頼を完遂できたろうと、セルが言う。


「ティナはまだ大きな実績がないためCランクだが、戦闘の実力だけで言えばAランクの魔法職と遜色ないぞ」


「まじっすか」


「……ん」


 ティナに視線を送ると、少し自慢気に頷いた。

 本当は君の口から聞きたかったんだけど。


 見た目は小さな女の子なのに、人は見かけによらないというか。

 街の新人冒険者の中で一番の期待株と言われているそうだ。


 そんなティナが俺の相手役に名乗り出たとなると……。


「なるほど。出る杭は徹底的に叩いて、プライドをへし折って、上下関係を教えておこうってわけか」


「ち、ちち、違う……そこまで性格歪んでいない」


 心外だとばかりに首を振って否定するティナ。


「負けたくない気持ちは当然強くある……けど、それよりも昨日フリマで会った時から、トールの得体の知れない魔力が気になっていたから」


「そんなこと言ってたな」


 興味深げなティナの質問に対し、機会があったら教えるとか、適当なことを言って逃げたけど。


「力を知る絶好の機会がこんなに早く来るとは思わなかった」


「…………はは」


 でも俺、あんまりグイグイ来られると逃げたくなる性質なんだよね。


「トール君、彼女ならさっき君が言っていた条件にも一致するんじゃないか?」


「まぁ……いや、まぁ……うぅん」


 年下で、女の子で、ゴツくなくて……フリマでも俺を助けてくれたし。


 ただアフターケアに関しては……かなりもの申したいところ。


 まぁ、そもそも試験官を俺が選ぶなんてことができるはずがない。


 結局ティナが俺の相手に決定する。


「ふむ。ではいつに試験をするかな? 今日、特別訓練場は空いていたはずだが……」


「私はこれからでもいいけど」


 ティナが俺を一瞥する。

 今日か、随分急だな。


「あの……戦う前に少し時間を貰ってもいいですかね? 魔法を覚えたいんで」


「魔法? トールが昨日フリマで買ってた巻物?」


「ああ」


 模擬戦を始める前に、せめて購入した初級魔法を覚えておきたい。

 昨日は色々あって魔法を覚える暇がなかった。

 後、少し試し撃ちをしておきたい。


 副ギルド長は、俺のお願いに快く頷いてくれた。




 特別訓練場に向かうのは俺、ティナ、セル、副ギルド長の四人。

 訓練場はギルドの裏側にあり、特別とつくだけあって普通の訓練場とは違う。

 頑丈な高い壁にぐるりと囲まれ、出入り口は一つしかない。

 空からは認識阻害系の魔法が張ってあるとかで、覗き見される心配もない。

 できれば人目につかない場所で戦いたいという要望を考慮してくれた形だ。


「そうだ、ティナ」


「なに?」


「昨日の別れ際の台詞はなんだったんだよ?」


「別れ際……死相のこと?」


「他に何があるんだよ」


 模擬戦が始まる前にティナに聞いてみる。


「占いだかなんだか知らないが、適当に言ったんなら悪趣味だぞ」


「確かに占いは気休めとされているものが殆ど、全部とは言わないけど」


 花占い、石占い、星占い……この世界にも色々な種類があるそうだ。

 ティナも趣味で占いをしている。

 あくまで占いで予知ではない、そのあたりの認識は理解している。


「でも、適当に言ったわけじゃない。今回は世間一般的な占いの結果からトールに言っているわけじゃない。それとは別に私には占術スキル(微微微微弱)がある」


「び、びびびびじゃ?」


 何その噛みそうなスキル。


「占術って、あんまり賢者っぽくない名前のスキルな気がするけど」


「自分のジョブとは無関係に特殊なスキルを得るケースも稀にある。所持している人も少ないマイナースキル。トールが知らないのも無理はない」


「…………」


「占術スキルを使えばその人の運勢が上り調子か、下り調子かが、なんとなくわかる、といっても……どの程度調子があがっているのかはわからないけど」


「運の上下」


 良いか悪いか、二択で絞ることができるスキルってことか。


「そして、私の所持している占術スキルは効果が(微微微微弱)。百万人いたら、そのうち九十九万九千九百九十九人はその違いが、運が上下どちらに向いているかがわからない。正直殆ど役に立たないスキル」


 ダメじゃねえか。

 さすが効果(微微微微弱)。


「でも……だからまずい」


「なに?」


「そんなスキルでも感じ取れるくらい、あの時のトールの運勢が下がっていた。酷く不安定だった。別れる時は安定してたけど」


 目盛りの凄まじく広い物差しみたいなものか。

 中間値は一切測れないが、物凄く酷い厄日だけは当てることができる。


 商人に騙されそうになったのもその一環なのだろうか?


 いや……でも、その程度の不幸なら。


「別に怖がらせたくて話したわけじゃない。死相と言ったけど、それぐらい運が乱れてたってだけ……それに今は感じないから大丈夫、まぁ、しばらくは気をつけた方がいいかもしれないけど」


「……」


 ジッと俺の顔を見て呟くティナ。

 と、いかんいかん……あんまり考えないようにしよう。

 考えるとドツボに嵌まるとシルクにも言われたしな。




 特別訓練場にたどり着く。


 ぐるりと囲むように設置された頑丈そうな壁。

 四十メートル四方くらいあり、それなりに広い。

 戦うのに困ることはなさそうだが……。


「ところで副ギルド長、勝利条件はどうなります? 回復魔法があるとはいえ、さすがに、どちらかが倒れるまでってなると、ちょっと」


 変にフェミニストを気取るつもりはないが。

 年下のティナ相手に全力で魔法ぶっ放すのは抵抗がある。


 いや……自分で年下希望とかいっといて何だけどさ。

 それに俺、経験少ないからうまく手加減とかできないんだよ。


「勝利? トールは……私に勝算があるの?」


「正直……わからん」


 吟遊詩人が賢者に勝つ。

 通常の基準じゃあり得ない話なんだろうけど。

 そもそも、ティナのことをよく知らないしな。

 バルさんは俺をAランク冒険者並と評価してくれた。

 そしてティナの実力もAランク並。


「トール……もし私に勝ったら、昼食を奢ってあげる」


「ティナ、軽はずみな発言はおすすめしないぞ。同じようなことを言って、賭けに負けて飯を奢ることになった奴がいた」


「私はその人とは違う。今もトールを普通のFランクとは考えていない、未来を想像する力が、勝つイメージがその人には足りなかった」


「お、おい……さりげなくこっちを攻撃するのをやめろ、お前たち」


 なんかセルが呟いているがスルーする。


「私は勝つ。負けたら、おまけで三十万ゴールド相当の買値がついた品もつけてもいい」


「……そいつは楽しみだ」


 大した自信じゃないか。


 俺は戦闘準備に入る。


 俺の不安を払拭するように、副ギルド長が模擬戦の説明をしてくれた。

 結論から言うと先ほどの心配は不要だった。


 なんでも訓練場の壁が、事前登録した人物のダメージ、衝撃を肩代わりしてくれる特殊なものらしい。

 訓練場から出ると身代わりの効果も消えるが、最上級魔法でも数発は十分耐えられるそうで、遠慮なくやって欲しいと言われた。


 そんな特殊設備なのでギルドが許可した者以外は使えない。

 登録の仕方が面倒なのと、高額な維持費用と定期的なメンテナンスが必要らしい。

 それでもお互いに命を気にせず全力で戦える場というのは貴重だ。


 戦いは一定ダメージを受けるか、その人物が意識を失うなどした場合に戦闘終了ということになった。


 まぁ試験の合格条件はティナに勝利することではない。

 実力を認めてもらえばそれでいいわけだが。


 事前に伝えた通り俺は巻物を使用して初級魔法を習得する。


 さて、ステータス確認といこう。


 *****************

 名前:池崎透

 LV:24


 HP(生命力):210/210

 MP(魔力):1518/1518

 力:91

 素早さ:89 

 体力:80


 取得魔法:ファイア(3)(NEW!)  ファイアボール(5) ウォーター(3)ウォーターボール(5) ウインド(3)(NEW!)  ウインドボール(5)(NEW!)  アース(3)(NEW!)  アースボール(5)(NEW!) ヒール(5) 

 ジョブ:吟遊詩人

 スキル:

 魔力回復(特大) 魔力増量(特大)

 歌 調律 残響

 言語伝達 言語伝達 言語伝達

 言語理解 言語理解 言語理解

 *****************


 大物(ブラッドヒュドラ)を倒したおかげだろうか。

 レベル十二からレベル二十四へと、一気に上がっている。


 なんつう魔力量だ……すさまじいな。


 数値がついに四桁突入、一点特化にもほどがあんだろ。

 マックスで合成魔法とか撃ったらどうなるんだこれ。

 一応、壁はファイアボールなら何発ぶつけても傷一つつかない、という話だけど。


 念のため合成魔法の全力使用は気をつけた方がいいかもしれない。


 それでも……魔力が増えた分だけ数は増やせる。

 以前よりもアグレッシブに攻めることができそうだ。


 しかしこれだけレベルがあがればスキルの一つも習得するかと思ったが。


 まぁ……いいか。

 その分、魔法をたくさん習得したと考えよう。


 戦う前に、一応習得した火以外の初級魔法が発動するか確認しておく。





「……セル君」


「なんですか? 副ギルド長」


 訓練場の隅、戦いに巻き込まれない位置に移動し、魔法の練習をするトールを眺めていると、隣の副ギルド長が話しかけてきた。


「二人をよく知る君に聞きたい、この戦いをどう見る? ティナ君相手にトール君に本当に勝ち目はあるのか?」


「初手次第ですかね」


 ティナのジョブは賢者、攻守両面に渡って多彩な魔法を使いこなす。

 魔力量も最も多く、魔法職の最高峰といっても過言ではない。


 以前聞いたトールのMPは二百、レベル三十の高レベルの魔法使い並だ。

 だがティナのレベルは五十を超えていたはず。


 賢者の魔力量は同レベル帯のすべてのジョブの中で一番多い。

 魔力増量スキル(大)の恩恵もあり、MPは優に千を超えていたはずだ。


 まだ成人に満たない年齢のティナ、どうしてそこまでレベルが高いのか?

 彼女の生い立ちなどに関係するのか、修練の果てなのか……理由は不明だが、まともにぶつかればティナに軍配が上がる。


 だけど、その代わりトールの戦闘スタイルの奇襲性は高い。

 魔法展開力はトールが上。

 うまく立ち回ればきっとチャンスがあるはずだ。


「魔法勝負では当然ティナが有利です。でも、番狂わせはあり得ると思います」


「ほう……君がそこまで言うか」


「たぶん……副ギルド長も吃驚しますよ」


 話していると、トールが手を上げて準備ができた合図をする。


「トール……来る」


「ああ、いくぜティナ」


 訓練場の中央で向かい合う二人。


「最初に言っておく、さっきの詠唱練習を見てた、とても綺麗な詠唱だった……乱れない旋律、私の知る限り一番完璧に近い詠唱かもしれない。とても覚えたての魔法とは思えない精度、短縮詠唱が発動するのも頷ける」


「お、おう……ありがと」


 ティナの素直な賛辞に照れた顔を見せるトール。


「うん凄い、正直少し感動した。でも……それだけじゃあ、私に勝てないよ。初級魔法の短縮詠唱、熟練の魔法職ならできる人も結構いる」


「ま、始まりゃわかるさ」


「そう……楽しみにしてる」


 会話を終え、二人は距離を取る。


 両者が中央位置から十メートル離れた、開始線へと立つ。


 さて、トールが私との模擬戦の時点からどれぐらい成長しているか。

 本当に楽しみだ。


 湖でトールとの模擬戦で見たトリプルスペル。

 ティナは私に未来を想像する力が足りないと(とても偉そうに)言ったけど。

 短縮詠唱と残響スキルを使った速射には戸惑うだろう。

 初級魔法とはいえ、手数の多さはそれだけ大きな脅威となる。

 私やバルなら多少被弾しても正面から強引に突っ切れるが……。

 魔法使いのティナはリズムを崩したら一気に押し切られる可能性がある。


「では、二人とも準備はいいな」


 副ギルド長の言葉にコクリと頷く二人。


「「…………」」


 沈黙の時間、風の音だけが聞こえてくる。

 ティナとトールの視線が交錯する。


 緊張感のある空気がこちらに伝わってくる。



「それでは……はじめっ!」


 副ギルド長の合図と同時に模擬戦が開始される。


『ファイアボール』


 開始と同時。


 ティナが杖を構え、トールに牽制のファイアボールを先制発射。


 負けず嫌いな部分があるティナのことだ。

 自分にも初級魔法の短縮詠唱はできるという証明も兼ねていそうだ。


 そしてティナに応じるようにトールが口を開く。



 くるか、トリプルスペ……。



『『『『『ファイアボール(100)』』』』』



 詠唱終了と同時。

 トールの前方に展開された超大量の火球。



(な……な、んだ……あれ?)


 眼前の光景に私は目を疑う。

 想像を圧倒的に上回る数。


 トリプルどころではない……その三十倍以上はある火球。 

 信じられないほどの数。


(い、一体、どれだけ魔力をつぎ込めばあんなことになる?)


 頬から一筋の冷たい汗が流れる。

 模擬戦で見た時とは比較にならない。


 火球が密集し、最早それは火の壁といってもいい現象。


「うぁ……え?」


 言葉になっていないティナの呟き。

 火球の群れに呆然とし、脳の理解が追いついていない様子。


 当然だ、トールのスキルを知っている私ですら、こうなんだ。

 ティナの驚きは私の比ではないはずだ。



 開幕から度肝を抜かれる形で二人の戦いが始まった。




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