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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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原因

 シルクに歌と泊めてくれたことの礼を言い、ユリアさんと一緒に教会を出てギルドへと向かう。


 副ギルド長室の扉を開けて中に入る。


「セル!」


「おお……トール!」


 銀鎧を纏った銀髪の女性。

 古竜の戦闘跡の捜索に出かけていたセルが街に戻って来た。


「いや~久しぶりだな! 元気か?」


「ああ、トールも元気そうでなによりだ」


 再会を喜び挨拶を交わす俺たち。本当に久しぶりだ。

 いや……まぁ、実際は別れて十日も経過していないんだけどさ。


 セルは今朝方ギルドに戻ってきたそうだ。


「無事帰って来てくれてよかった。最近は森の様子がおかしいから少し不安だったんだよ。まぁ、セルなら大丈夫と思ったんだけどな」


「あ、あまり過大評価されても困るんだけどな……実際、今回はアクシデントが起きてかなり危ないところだったんだよ」


「アクシデント?」


「ああ、丁度そのことを副ギルド長に話していたんだ」


 セルの鎧には汚れもなく、怪我などはないようだが……。

 魔物との交戦による大きな跡などは見当たらない。

 一先ず俺はセルの話を聞くことにする。


「黒竜に遭遇した?」


「ああ、もし黒竜がその気なら私たちは全滅するところだった」


 セルたちが森の中、戦闘跡を辿って歩いていると黒竜と遭遇したらしい。

 途中で見つけた、古竜同士の戦いで切り落とされたと思われる黒竜の尻尾。

 その尻尾の処分をしに黒竜が戻ってきたそうだ。


「正直、黒竜に殺される覚悟もした。でも、黒竜は私を見て……なぜか見逃してくれた」


「セルを見て……セルに脅威を感じたとかじゃなくて?」


「有り得ない。古竜はそんな次元の相手じゃない」


 キッパリと俺の発言を否定するセル。

 まぁ同じAランクのバルも古竜は格が違うとか言ってたしな。

 謙遜というわけでもなく事実なのだろう。


「黒竜が退くのに思い当たる理由はないのか?」


「う~ん」


 口元に手を当てて考えるセル。


「そういえば去り際、候補がどうとか口にしていたんだが……断片的過ぎてなんのことなのか」


「……候補ねえ」


 なるほど……考えてもさっぱりわかんねえな。

 ボスとか大物っぽい奴に限って、中途半端に意味深な発言残してモヤモヤさせるよな。

 教えたいのか教えたくないのかどっちだよと思う。


「黒竜が生きていたということは、戦いの勝者は黒竜ということでいいのか?」


「普通に考えればそうかもしれませんが、虹竜の死体が見つかったわけでもありませんので……それに、黒竜が虹竜の死体を焼き払った可能性もあります」


 副ギルド長の問いになんとも言えない表情を見せるセル。

 戦闘していたのは黒竜と虹竜の二体。

 その結果はどうなったのか? 虹竜の方は生きているのか?

 確たる証拠となるものはない。


「今回の件を踏まえ、王都で仕事に当たっているギルド長に早く戻ってきてもらえるように手紙を出した」


「……お父さんに」


「街に古竜が来るとは限らないが、何が起きるとも限らないしな。相手が古竜となると私たちでは対処できない。一応、先日、戦闘があった時点でも手紙は送ってあるんだが……」


 待っているのだが、まだ返事は来ていないそうだ。

 ギルド長……ドラゴンスレイヤーでセルの父親とバルさんが言っていた。

 彼が戻って来れば百人力なんてものではないのだろうけど……。


「最悪のケース、ギルド長なら二体同時に古竜が来た場合でも対応できるんですか?」


 副ギルド長に聞いてみる。


「その時はもう詰みだろうな。逃げるしかない」


「……マジですか」


「ああ」


 あっさりと勝てない宣言されてしまう。


「だから古竜は天災扱いなんだ。うまく付き合うしかないのさ。巨大な力を前に人は無力だ、少なからず例外もいるが……本来は数こそが人の力であり個の力というのは弱い」


「……」


「だが、誰かが死んだとしても残った者が意志を継ぎ、時代を繋いでいくのが人間だ。そのしぶとさ、粘り強さが人の強みだ」


 なんか急に語り出した副ギルド長。

 まぁ地球でも身体能力で言えば人間を超える動物なんていくらでもいた。

 それでも力で劣った部分を武器を作るなど知恵で埋め、長い年月を経て技術を向上させて最終的に食物連鎖の頂点に立つ生物となった。

 当然、成長過程の中で失敗や大きな犠牲もある。

 だが、それを経験として無駄にしない。


 本当人間って凄いよな。

 立派だ……でも、好んで犠牲側になりたくはないわけで。


「あの、ちょっといいですかね?」


「ん?」


「ギルド長って一番偉い人なのに随分長く街を留守にしている気がするんですけど……色々と大丈夫なんですか?」


 気になっていたことを副ギルド長に質問する。


「ああ……今回のように大きな戦力が必要でなければ問題ないさ。ギルドの運営や実務的なものは私がほとんど担当しているしな。Sランク冒険者に事務作業をさせても活躍の場を腐らせるだけだろう」


 そりゃそうか。適材適所ってやつだな。

 ギルド長といっても現役の冒険者らしく、世界で五本の指に入る冒険者となると各地から呼ばれることも多い。


「この街でSランク冒険者がギルド長となっているのは、優秀な冒険者をこの街に呼び込むためだ。要するにギルド長と言っても形式だけの役職だな。まぁこれはこの街に限っての特殊な例だが……」


「なるほど」


 広大な魔の森が西に広がるアナセルの街は、他の街と比較して圧倒的に魔物の数が多い。

 この街は東の王都方面に魔物が移動しないために必要な防衛の要でもある。

 過去、魔の森で魔物の大量発生が起きたこともある。

 だから街の周囲をグルリと囲む大きな壁を作ったり、強力な魔除けの結界を展開したりするようになった。


 今はそれなりに落ち着いているが、昔は魔物の襲撃が絶えなかったそうだ。

 そんな街なので優秀な冒険者がとにかく必要だ。

 Sランク冒険者の名前はそのための広告塔らしい。


「と、話が少し脱線したがトール君」


「はい、なんでしょう?」


 いきなり触れられてちょっと吃驚する。


「君を呼んだ理由も少しセル君の話と関係してくるんだ。ブラッドヒュドラの件について聞きたいことができてね」


「そういえば、トールは大変な目にあったようだな。初心者演習のブラッドヒュドラの件は聞いたぞ」


「はは……まぁ、死ぬかと思ったよ」


 今でこそ、こうして笑ってられるけどな。


「でも、バルさんじゃなくてどうして俺に聞くんです?」


「バルは昨日から緊急依頼で南東の村に討伐へと出かけている。村近くにハイオークが現れてな、今は街にいないんだ」


 ああ、それで。


「話を戻そうか、初心者演習で現れたブラッドヒュドラ、あの個体の強さは通常の個体を大きく凌いでいたとバルは言っていた。特に再生能力が異常だったと……」


「まぁ、数十秒で失った首が再生していましたね」


「じ、数十秒で再生って……お前たち、よくそんな化け物を倒せたな」


「まぁ火魔法を切断面にひたすらぶちこんだりして、再生を遅らせたりと色々と工夫したりして……」


「な、なるほど?」


 まぁ最終的にファイアボールの合成魔法でゴリ押ししたんだけど。


「それが、どうして古竜と繋がってくるんですかね?」


「実は竜と類似した魔力成分がブラッドヒュドラの皮膚から検出されたのだ」


「なんですって!」


 驚きの声をあげるセル。

 副ギルド長は、それが尋常でない強さの理由に関係するのではないかと話す。


「え~と、よくわかんないんだけど、別の生物の魔力と類似した魔力を他の生物が持つっていうのは、そんなに驚くようなケースなのか?」


 よく理解できていない俺はセルに聞いてみる。


「と、いうよりも古竜の魔力がブラッドヒュドラから検出されたのが問題なのだ。捕食者側の魔物から、食べた魔物の魔力が見つかったという事例はいくつかある。だが生態系の頂点に立つ古竜を獲物とする魔物など存在しない」


「逆パターンってやつか」


 あのブラッドヒュドラであっても、古竜を倒すことはできない。


「それでも実際に古竜の魔力がブラッドヒュドラから出てきた以上、何かしらの原因、古竜と接触があったはず。考えられるケースは……」


「魔力の移動経路で思い当たるのはブラッドヒュドラの食事だな」


「はい、経路を考えれば主食となる血液が一番可能性が高いはず……ですが、古竜の血を吸うなんてどう考えても、そもそも竜鱗を牙で貫けないはず」


 あ~だ、こ~だと相談している二人。

 古竜の血ねえ。


「古竜の血だったらわざわざ竜鱗を貫かなくたって手に入りそうだけどな。古竜同士の戦闘が森の上空であったんだろ? 血なら身体から流れて森に降ってるはずだ」


「「あ!」」


 二人揃って声をあげる。


「い、いやでもトール……そんな、ブラッドヒュドラがいるところに偶然空から血液が降ってくるか? いくらかは地面に染み込んでるかもしれないけど」


「まぁ、そういわれるとなんとも言えないけどさ」


 丁度餌を求めてブラッドヒュドラが口を開けたところに、血液が降ってきたとは確かに考え難い。

 地に落ちた血液も雨が降れば薄まるだろうし、土や泥の不純物の混じった血液をブラッドヒュドラが吸うだろうか? とセルが言う。


「いや……トール君の言うことは大きく外れてはいないかもしれないぞ。直接の吸血は無理でも、黒竜の尻尾が森に落ちていたんだろう? それもおそらくは数日間放置される形で、なら尻尾の中から綺麗な古竜の血液を吸うこともあり得るはずだ」


「なるほど! 確かにそれなら……」


 ポン! とセルが掌を叩く。


 尻尾の放置されていた場所から、ブラッドヒュドラが現れたベースキャンプまでは数日歩けばたどり着く距離、そこまで離れてはいない。


 信頼性の高い推測ではありそうだが……。


「でもそれって、ブラッドヒュドラが古竜の血を得ることができた理由で、あの場所に元々いた理由にはならないような」


「いや、元々ブラッドヒュドラはいなかったのかもしれないぞ」


「え? どういうこと?」


「思い出したんだ。落ちていた黒竜の尻尾の断面に嚙み跡のようなものが見えたことを。そのあと、黒竜が来たからじっくり観察したわけではないのだが……確かにあった」


「嚙み跡っていうと、ブラッドヒュドラのか?」


「いや……似ているが小さい穴が二つだけだったから違うと思う。ブラッドヒュドラなら沢山の跡が確認できるはずだ」


 確かに、演習で見たオークの死体は穴が複数あったな。


「尻尾が落ちていたのは血吸蛇(ブラッドスネーク)の生息地だ。血吸蛇(ブラッドスネーク)が尻尾から古竜の血を摂取し、蛇系魔物の最上位種のであるブラッドヒュドラに、つい最近の間に進化したのかもしれない」


「そういや……バルがあのブラッドヒュドラは鱗の密度が高くなく、若い個体って言ってたな」


「そうなのか……だとすれば一気に可能性が増したな。街近くまで来ているのに発見できなかったのはそういう理由か」


 今回の古竜の騒動。

 戦いが終結しても予期せぬ場所で問題が起きてるな。

 結界の異常もそうだし、ブラッドヒュドラの出現もそうだし。


「一歩間違えば、私たちがブラッドヒュドラとぶつかっていたかもしれないな」


「そうだな」


 本当、何も初心者パーティのところに来なくてもいいのにな。


「なんにせよ、当分の間は森での活動を警戒、制限したほうがよさそうだな。尻尾は黒竜が処理したとのことだが、他にも危険な魔物がいるかもしれん」


 そこで古竜の話がひとまず終わり、話題が変わる。



「ところで……トール君」


「なんですか?」


「昨日話したDランクへの昇進試験の件はどうする? 返事は決まったかな?」


「そうですね……せっかくだし、挑戦してみようかなと思います」


「ランクアップ試験?」


「ああ……バルさんが推薦してくれたんだよ」


 セルにバルさんから推薦を貰ったことを伝える。


「なら、あとは模擬戦の相手を誰にするかだな」


 副ギルド長が口に手を当てて考える。


「トール君、相手の希望はあるか?」


「え? まさか俺が相手を決めて良いんですか?」


「いや……参考程度で聞いてみただけだ」


「そ、そりゃそうですよね。まぁ……見るからにゴツくて威圧感のある、殴り合い上等って感じの相手は嫌ですね」


「ゴツい……戦士タイプが嫌ってことか、まぁトール君は魔法メインとのことだし、あまりタイプの違う相手だと、相性の問題で実力が測りにくいしな。同じ魔法職のほうがいいかもしれない」


 頷く副ギルド長。


 バルさんみたいに、突っ込んでくるようなのはちょっと怖い。

 同じ模擬戦でもセルは防御オンリーだからよかったけど。


「他にはあるか?」


「後は……そうですね」


 ま、まぁ……言うだけ言ってみるか。


 言うだけならタダだしな。


「あんまり対人戦の経験がないもので、そのあたりを考慮していただけると」


「と、いうと?」


「できたら俺と同じか、低年齢の冒険者でお願いしたいです」


「「……」」


「それと……年下の男にコケにされると若干腹立つので、できたら女の子で、負けてもチクチク責めない子、アフターケアのしっかりできる子なら最高です」


「な、なんか一気に面倒くさくなってきたな」


 そんなセルの言葉をスルーする。

 誰にしようかと、ぶつぶつと呟く副ギルド長。


 と、そこで……。



「……どんぴしゃすぎる」


 バタン、と勢いよく部屋の扉が開く。

 物音に驚く俺たち。


「……呼んだ?」


「え? テ、ティナ?」


 部屋に入ってきたのは記憶に新しいフリマで出会った黒髪の少女。



「私を……呼んだ?」



 誰も呼んでないのに、なんか現れたぞ。




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