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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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歌1

(……死相)


 フリマが終わり、シルクに会いに教会へと向かう道中。

 頭の中で別れ際の言葉がリフレインする。


(死相、死相……死)


 ああ、一度考えだすと頭からこびりついて離れない。


 くそぅ、最後に超重量級のワードぶっこんできやがって。

 せっかく気分よく歩いていたのに。

 「しそ~」とか可愛い言い方しやがるから、適当に流しちまった。


 一度死んだ身だとしても、死というのは怖い。

 考えれば考えるほど怖くなる。 


 確か、俺が死を初めて認識したのは小学生二年生の時だった。


 家族に連れられプラネタリウムを見に行った時だ。

 星の一生みたいな題目で、誕生から最後までを巨大スクリーンに映した映像。

 太陽が恒星の寿命を迎え爆発した時、地球の生物は死滅することを知った。

 逃れられない死の運命に、当時の俺はワンワン泣いていたそうだ。


 ガキの俺は何十億年生きるつもりだったんだろうか?

 星の神にでもなるつもりだったのか?


 正直、今考えると馬鹿だなぁと思うんだけど当時の俺は真剣だった。

 自分が死ぬなんて考えたことがなかったから、相当に衝撃的だったんだろう。


 と、話がそれるので、それはさておいて。


 年配者ならともかく、死なんて俺ぐらいの年齢なら日常の中で考えないようにしている人の方が多いだろう。

 理由は単純で、考えないことで心の安寧を保てるからだ。


 せめて具体的に何に気をつけろとか、そんなアドバイスが欲しかった。

 無駄に不安を煽るスタイルって大嫌いだ。




「トールさん。お待ちしてましたよ」


「お、おっす」


 教会につき、玄関横の呼び鈴を鳴らすと、シルクが出て来て出迎えてくれた。


「どうしました? 気のせいか元気がないような。よければ少し横になりますか?」


「あ、ああ……いや、大丈夫、大丈夫」


 ネガティブ思考を頭から振り払う。


 シルクの案内で建物の中に入ると……。


「あ、トール兄ちゃんだっ!」


「おお」


 俺を見て、子供たちがやってくる。

 以前、教会の庭で一緒に鬼ごっこして遊んだことを覚えていてくれたようだ。

 子供たちの髪をワシャワシャといじってやる。


「ん? なんか甘い匂いがするよ」


「あ、ホントだ」


 すんすんと鼻を動かす男の子、犬みたいだ。


「はは、鼻がきくなお前ら。シルク、これフリマで買ったクッキーだ。よかったらみんなで食べてくれ」


「「「やった~、クッキー!」」」


 喜ぶ子供たち。

 せっかくなのでお土産用に買っておいたのだ。


「わざわざ、そんな……気を遣わなくてもよかったのに」


「いいっていいって、これぐらい」


 箱に入ったクッキーを手渡すと申し訳なさそうな顔をするシルク。

 子供たちの元気な声は光だ。

 俺の中の黒い気持ちを少し吹き飛ばしてくれる……気がする。


 クッキーを食べようとする子供たちを夕飯が食べられなくなるからと諌めるシルク。


「じゃあ……せっかくですし晩御飯を食べていきませんか? 今日助けてくれたことも含めてお礼がしたいですし」


「いいのか? 迷惑じゃなければ、お言葉に甘えようかな」


「はい! 是非」


 にこりと微笑むシルク。


「それで、どうします? 先にご飯にしますか? 歌にしますか? 夕飯にはまだ少し早いですけど」


 なんとも、おかしな二択を突きつけられる。


「歌って、一曲通してどれくらいかかる?」


「そうですね……大体、五分ぐらいですかね」


「それくらいなら、あまり時間をかけずに覚えられそうだし、先に用件を済ませてしまおうか」


「わかりました。あ、でも、その前に料理の下処理だけは済ませたいので十分程待ってもらえますか?」


「なら俺も手伝うよ、待ってる時間暇だし……」


「では……お願いできますか」



 シルクと一緒に教会の台所へ。


「シルク、なんか……楽しそうだな?」


「はい、私、料理は好きなので」


 エプロンを身に着け、腕まくりをするシルク。

 普段から夕方の食事当番はシルクが担当しているそうだ。

 ちなみにシルク以外のシスターたちは教会にいない。

 彼女たちはフリマの実行委員らしく、終了後の食事会に参加するとか。


「今日はいいお肉が入ったんですよ」


 台所にはかなり大きな肉の塊。

 沢山あっても、育ち盛りの子供たちがいるのですぐなくなってしまうとか。


「……ん?」


 肉の隣にはシルバーの棒が置かれている。

 棒の先端にはびっしりと小さな棘がついている。


「これ、今日のフリーマーケットで買ったメライト鉱石で作られた高級肉叩きなんです。ほとんど力もいらずに肉質を均一にできるんですよ。ずっと欲しかったんですっ」


「ふ~ん、肉叩きね」


 嬉しそうに手に持った肉叩きを見つめるシルク。

 なんかシルクと肉叩きの組み合わせって違和感のある絵だな。


「…………」


 なんかあれだ。


 見ててちょっと怖いな。


「シルク……肉叩きは、人間を叩くものじゃないってわかってるよな?」


「わ、私をなんだと思ってるんですかっ!」


 シルクに怒られる俺。

 死相の気配が出てるとはいえ、まさか彼女が俺を攻撃することはないと思うけど。



 夕食の下準備を終えたシルクと、防音室である聖堂へと一緒に移動する。


「やっぱり今のトールさん。どこか変ですよ」


「い……いや、そんなことはない。いつも通りだ」


「さっきの発言がいつも通りなら、それはそれで問題だと思いますが……その、もし何か、悩みがあるなら私でよければ聞きますよ」


 教会には懺悔室もある。

 悩みや反省を聞く機会も多いらしい。


 いや……別に悪いことをしたわけじゃないんだけど。

 せっかくなのでシルクに打ち明けてみる。


「実はフリマで変な女の子に会ってな。仕事が終わったあと彼女と一緒に回ったんだけど」


「女の子、ですか?」


「ああ、その娘に別れ際、死相の気配がするって言われてさ」


「し、死相……ですか?」


 シルクの確認の視線に俺は頷く。


「まぁ悪戯半分で言ったのかもしれないな。占いが趣味の女の子とか言ってたし……嘘にしては少し悪質な冗談な気もするけど」


「……占い」


 真剣な表情でジッと俺を見つめるシルク。


「トールさん……失礼します」


「シ、シルク?」


 シルクが俺の頬に優しく手を添える。

 細く柔らかな手から温かな体温が伝わってきて、ちょっとドキドキしてしまう。

 そのまま、シルクが何かを探るように目を瞑る。


「うん……大丈夫だと思います。少なくともトールさんに悪い物が憑依しているとか、呪いがかかっているとか、そういう気配は感じないです」


「……」


「だから安心してください。それに、こういうのは意識し過ぎない方がいいですよ。アンデッドがいい例ですが、生じた恐怖の感情に引き寄せられて本当に近づいてますから」


 彼女は聖女らしく、その手の気配があればわかるとか。

 てか、やっぱりいるのか……この世界にもアンデッド。


「でも少し意外というか、トールさんもそういうの気にするんですね」


「い……いや、なんつうか」


 実際、地球ではあまり占いとかそういうのを気にしなかった。

 前世の星座占い、血液型の占いなんて根拠がないし、非科学的なものだと割り切れた。


 だが……ここはファンタジー世界。


 魔法だってありの未知の世界となると、多少は気にしてしまうさ。


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