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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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ティナ

「どうだ? うまいか」


「ちょっとだけ……すっぱいかも」


 公園のベンチに二人並んで腰掛ける。

 商人に騙されそうになった俺を助けてくれた少女(身代わりになったともいう)が、ちびちびとスムージーを飲んでいる。


(なんか小動物みたいだ……)


 少女の横顔を見てそんな印象を持つ。

 そういや、この世界に来て黒髪の女の子って初めて見たな。

 まだ幼なさを残しており、綺麗というよりは可愛いといった雰囲気の彼女だが、あと数年すればかなりの美人さんになりそう。


「すっぱかったか……俺はうまいと思ったんだけどな」


「ううん、十分美味しい。果物の酸味がいつもよりすっぱく感じるのは、今のわたしの気持ちが味覚に影響しているのかもしれない」


「……そ、そうか」


 なんともコメントに困る回答だ。


「あの商人許すまじ、絶対許すまじ……捕まったけど、勝ち逃げされた気分」


 きっと内心にはやり場のない感情が渦巻いているのだろう。

 後日、お金くらいは返してもらえそうだけど。

 相手が牢屋の中では無茶なことはできない。


「あ~コホン。そういやまだ名前も言ってなかったな。俺はトール、この街で冒険者をしている」


 少しわざとらしい感じもしたが、話題を変えることにする。


「トール……覚えた。私はティナ、ちなみにトールと同じ冒険者」


「そうか」


「うん……でも、トールのことを見たことがない。私も基本この街を拠点にしているけど」


「俺がここに来たのはつい最近だからなぁ」


「なるほど……それで、私もここ最近、外に出ていたから」


 ティナは冒険者か、恰好を見るにそんな感じはしたけどな。

 しかしなんつうか……全体的に黒いよね、この子の服装。

 黒の帽子に黒のマント、時々見えるマントの隙間から見えたスカートも黒。

 そして髪の毛まで黒……全身黒づくしだ。


「なぁ……あ、暑くないのか? その恰好?」


 当然のように浮かんだ疑問。

 真夏に黒色一式って、熱を吸収してとんでもないことになりそう。


「服に耐暑の付与が掛けられた魔法服だから問題ない」


 セルも付与で暑さ対策をしていたな。


「もしかして、魔法服を知らない?」


「そうだな。あまり詳しくは……」


 正直言うとまったく知らないけど。

 なんとなく、謎の見栄を張ってしまった。


「魔法服と普通の服との違いは?」


「大雑把に言うと付与が込められる服と、込められない服の違い。同じように魔法鎧というのもある」


 まだまだ暑いし……俺も一着欲しいな。


(……ん?)


 考え事をしていると、ティナの強い視線を感じる。

 じ~っとティナが凝視するように俺の身体を上から下まで見つめている。

 ちょっと落ち着かない気分になる。


「な、なんだよ?」


「…………」


「ちょっ!」


 俺の胸に手を当てるティナ。突然の行動に戸惑う。

 撫でさするのやめて欲しいんだけど。


 これ、男女逆転したら完全に逮捕案件だ。

 な、なんだ急に……痴女にジョブチェンジしたのか?


「なに……これ? 私と同じくらいある? いや、それ以上かも……」


「い、いや……いくらなんでもそれはないだろう」


 マントの上からでもティナの体の曲線はなんとなくわかる。

 まだ発育途中とはいえ、ティナの胸部は年齢なりにそれなりに膨らんでいる。

 どう見ても男の俺より小さいってことはないはずだ。


「トール……誇っていい」


「まじかよ」


 俺はこれを誇っていいのか。


「謙遜しなくていい」


「いや、謙遜しなくていいってのは、こっちの台詞なんだが」


「いやいや……」


「いやいやいや……」


 訳の分からない譲り合い合戦が始まる。

 なんだか話がかみ合わないな。

 俺は確認するように、ティナの胸と自分の胸をチョイチョイと指さす。


 すると、ティナが俺の意図に気づいたようで……。


「ど、どこ見てる! 私が言ってるのは魔力の話っ!」


「まぎらわしいんだよ! 突然過ぎてなんのことかと思ったわ! キチンと主語を明確にしてくれ」


 顔を真っ赤にして叫ぶティナ。


 胸じゃなくて魔力の話かよ……これは俺、悪くないと思う。

 この子、マイペース過ぎる。


「トール、冒険者ランクは?」


「Fだ」


「これでF……もしかして、冒険者ギルドに登録したばかり?」


「そうだ、十日前くらいにな」


「だから……アイテムについてよく知らないの?」


「あぁ……まぁそんな感じ」


 俺の返答に納得した表情のティナ。

 知らないのは冒険者登録うんぬん以前に、この世界に来たのが最近だからだけど黙っておく。


「なら、これもせっかくの縁、私も一緒にいいのがないか選んであげる」


「いいのか? 助かるけど」


「うん、任せて」


 さっきの結果はどうあれ、彼女の観察眼は頼りになるはずだ、きっと。

 グッと拳を握るティナ。

 もしかしたら、名誉挽回しようとしているのかもしれない。


 そんな彼女をちょっと微笑ましく思った。





「……ふむふむ、ふむふむ、つまり全体的な戦力アップが目的と」


 俺はティナに何を探しているのかを話す。


「じゃあ別に、具体的にこれが欲しいという装備品があるわけじゃないってこと?」


「まぁ、そうだな」


 さっきのパワーリングみたいに、あると便利だなぁみたいのはあるが、実は結構ふわふわしている。


 割と方向性が定まっていないというか。


「トール、ジョブは何? 魔法使い? 賢者?」


「どれも違う、吟遊詩人だ」


「え? ……ぎ、吟遊、詩人?」


 予想外のジョブだったらしくティナが困惑する。


「トール、わけがわからない、じゃあ本職の魔法職じゃないのに……この大きな魔力?」


「そうなるな」


「それで、普段どうやって戦ってるの? 吟遊詩人は初級魔法しか使えないよね、武器は?」


「武器は持ってない……だからこう、初級魔法でチョイチョイと」


「……ふぅん」


 ティナは疑問の顔を浮かべている。


「トール、なにかありそう。私の第六感」


「そいつはどうかな」


「でも聞かない。相手のスキル、魔法、あまり探るのはマナー違反……私は相手を困らせるのは好きじゃない」


「それは殊勝な心がけだ」


「うん」


 ティナはキチンと分別のある女の子らしい。


「でも、トールが言いたいなら止めない、私は口が固いから信頼してくれていい」


「そうか」


「そう……トールの方から言う分には問題ない。私には止めることはできない」


「そうか」


「……むぅ」


 頬を膨らますティナ、そんな顔しても言わないよ。

 一緒にパーティ組んだりとか、必要とされる機会があったら別だけど。


「参考までにティナは吟遊詩人の知り合いとかって?」


「いない。そもそも、吟遊詩人のほとんどが冒険者になってないと思う」


「あ~、そうだな」


 俺と違い魔力のない吟遊詩人では厳しいだろう。

 もし、吟遊詩人特有の武器とかあれば知りたいところだけど。


「ごめん、よく知らないジョブだし、もしかしたら役に立てないかも」


「いや……」


 ケースが特殊過ぎるとティナが言う。


「でもまぁ、せっかく来たわけだし少し回ろうか」


「わかった」


 まだシルクとの待ち合わせ時間の夕方までには時間がある。

 俺たちはベンチから立ち上がり、もう少し見て回る。


 適当に何店かぶらついていると……。


「ティナじゃない、いつ街に戻って来たの?」


「あ……ルンだ。今日戻って来たところだよ」


 ティナの知り合いらしき、女性が話しかけてくる。

 青い髪をポニーテールにした二十五歳くらいのお姉さん。


「ルンとは、よくパーティを組んだこともある。彼女は魔法使いのお姉さん」


「こんにちは」


「どうも、こんにちは~」


 なかなか明るい感じの人だ。


 ジョブゆえか、店に並んでいるのはマジックアイテム系の類が多い。


「結構高そうなものも混じってるような」


 あくまで見た目の判断だけど。

 中央に赤い宝石の嵌められた切れ味の良さそうな短剣とか、見るからに高価そう……正確な値段はよくわからんけど。


「ルン、どうしたの? ここで店なんか開いて?」


「ちょっとお金が必要になってね。売れるかわかんないけど持ってきた。ギルドを仲介して売買すると、どうしてもいくらか引かれるしね。フリマなら個人取引だから少しは高く売れるかもと思ってさ。ここには冒険者も含めて色んな人が集まるからね」


「ああ、それで」


「と……いっても、店売りよりは結構安いはずだよ」


「お姉さんはもう使わないんですか?」


「実は私、冒険者を引退して結婚するんだ、だから必要最低限だけ残して整理しようと思ってね」


「え! そうなの?」


「おぉ、それはそれは……おめでとうございます」


 二人でパチパチと拍手なんかしてみる。


「ふふ、ありがと。旅の途中で寄った村の男性と意気投合してね。これからは畑を手伝いながらのんびりと暮らしていくつもり」


 まぁ無理して続けても婚約者を心配させてしまう。

 冒険者を引退するにはいい機会だろう。


「お腹には赤ちゃんもいる。これからの新生活の前に色々とお金が入り用なのよ」


「なるほど」


「そんなわけでお二人、何か興味のあるものはないかな?」


 そう言われると買ってあげたい気持ちはある。


「私は、このモンドーリーの牙と骨、メリンゲの葉を」


「ティナ……もしかして、占い用かな?」


「ティナ占いなんてできるのか?」


「うん、私のちょっとした趣味みたいなもの」


 なかなか可愛らしい趣味だ。


「そっちのお兄さんは何かあるかな?」


「あのお姉さん、魔法使いでしたら巻物とか売ってないですか?」


「巻物か、ちょっと待ってね」


 後ろの袋に手を入れ、丸められた巻物を取り出すお姉さん。


「うん、いくつかあるね、前に迷宮で見つけたのが、でも魔法屋で売ってる類のものばかりで、光や闇の希少なものはないよ」


「いえ十分です、買いますよ」


 近いうち魔法屋に行って買うつもりだったしな。

 ここで少しでも安く手に入るならその方がいい。


 お姉さんから購入した巻物は六つ。


 火魔法『ファイア』、水魔法『ウォーターボール』、風魔法『ウインド』、風魔法『ウインドボール』、土魔法『アース』、土魔法『アースボール』


 これで火、水、土、風の四属性の攻撃魔法を覚えられる。

 全体で考えれば光魔法のヒールを加えて五属性か。


 まとめ買いに、まいどあり! と嬉しそうにお礼を言うお姉さん。



「他にはなにかあるかな?」


「そうですね」


 気になったアイテムの効果についてお姉さんに尋ねると、丁寧に答えてくれる。

 短剣に魔力を込めると刃の部分に炎属性が追加されるフレイムダガーとか、迷宮に潜らないと手に入らない希少な商品もあった。

 商品を吟味しているとお姉さんの視線を全身に感じた。


「君……さ」


「なんですか?」


 ツンと俺の額を指でつつくお姉さん。


「せっかく悪くない顔してるんだから、もう少し着飾らないと勿体ないよ。そうすれば絶対モテるのに」


「あ、ははは……」


 とりあえず、適当に笑ってかえす。

 一応褒めてくれてるんだろう。


「若い時期なんてあっという間なんだからね。私だって結婚できたからよかったけど、一時期はちょっと焦ったりしたんだから」


 二十五歳くらいなら全然若いと思うけどな。

 この辺の違いは前世での価値観の問題か。

 成人が十五歳って話だしな。

 貴族なんかだと売れ残りとされる年齢らしい。


「……で、どうかな? 今ならお姉さんが隅から隅まで色々アドバイスしてあげるよ」


「いや、でも……どうかなと言われたって」


 俺はお姉さんの扱っている商品を見る。


「……あ」


 お姉さんも俺の意図に気づいたようで。

 いくら素材や性能が良くたって、ここにある衣類品はどう見たって女性物だ。


「こ、このマジックスカートとかどうかな? 下のフリルがポイントなんだけど」


「ありえないですね」


「やっぱりサイズが小さいかな」


「そういう問題じゃなくてね」


 すげえな、強引に押切る気か?



「……この腕輪は?」


 お姉さんの発言をスルーしてふと、目に留まったのはシンプルなシルバーの腕輪。


「ただの腕輪じゃないような、精霊の気配を感じるというか」


「それは詠唱補助の腕輪だよ。詠唱成功率が格段にあがる代物だね」


「へぇ……これがそうなのか」


 魔法は精霊を介して発動する。

 腕輪の中央に嵌められた精霊石には精霊を周囲に引き寄せる効果があるとか。


「トール、もし持ってないなら絶対持っておいた方がいいよ、生存率に直結するから、これは良質の精霊石だし損はしないと思う」


 ティナがおすすめする、詠唱補助アイテムか。

 でも、今のところ詠唱に失敗したことがない。

 そういう意味では必要があるのか微妙なところ。

 ブラッドヒュドラ戦で窮地に陥った時も成功したし。

 むしろ、どうすれば失敗するのかわからないくらいだ。


(失敗条件くらいは調べておいたほうがいいかもしれないな)


 あまり過信し過ぎると危ない気もする。


 まぁ、それはさておき。


 カモフラージュ的な意味でも腕輪を買っておいて損はないかもしれない。

 セルも言っていたが詠唱補助アイテム抜きで、短縮詠唱できるのはハイエルフだけだって言ってたしな。

 持っていれば怪しまれずに済む。

 用途は違えど、どこかで買う必要があるアイテムだ。


「でもこれ……ちょっと高いよ。負けても精々五十万ゴールドまでしか」


 申し訳なさそうにお姉さんが言う。


「いえ、買いますよ」


「え、本当にっ!」


 俺の発言に驚くお姉さん。

 幸い今は懐も潤っているし、問題ない。


「巻物の纏め買いといい、君、意外とお金持ちなんだね」


「はは……まぁ、ちょっとした臨時収入があったもんで」


 財布袋の中身を確認する。

 さすがに全財産持ち歩いているわけではないが、手持ちの硬貨で足りそうだ。


「よし! じゃあ少しサービスしちゃうよ! おまけつけちゃう、この中から一つ選んで」


「お、本当ですか?」


 どれにしようかな。


「だったらトール、これなんてどう?」


「なんだこれ?」


「体内魔力の漏出を防ぐ指輪、トールの大きな魔力は少し目立つ、見る人が見ればすぐにわかる。これをつけて抑えた方がいい」


「な、なるほど」


 そんな感じでティナのアドバイスを受けながら買い物をしていく。


 沢山購入した俺にお姉さんはホクホク顔をしていた。





「ねぇ、トール」


 店を離れたあと、後ろで立ち止まるティナ。


「どうした、ティナ?」


「さっき考えたんだけど……トールくらいの魔力があれば、ここで売ってる服や鎧はほとんど意味がないかも」


 え? ここで話の全否定するの?


「間に合わせならともかく、ちゃんと大きな魔力を活かせる装備品を作ることをオススメする」


「魔力を活かす?」


「うん、さっきの魔法服の話に戻るけど、装備者の魔力を防御力に変換できる特殊な付与で加工された服もある。重くないし身動き取りやすい、パワーリングとかで力を強引に底上げして重い装備で防御力アップを図るよりは効率的」


「……なるほど」


「オーダーメイドになるけど……お金があるならそこでキッチリと作ってもらったほうがいい。私の知り合いで、そういうの得意な人がいるからよければ紹介するよ」


 ティナから参考になる意見をいただいた。



 そのあとも適当に見て回ると、気づけば夕方になり、フリーマーケットは終了。


「それじゃあ、また」


「うん、なんかトールとはまたすぐ会う気がする」


 赤い空をバックに俺は公園でティナと別れる。


「あ、そういえば、まだ聞いてなかったな」


「なに?」


「なんで最初、俺に話しかけたんだ? あの商人に騙されそうになったからだけじゃないってポツリと言ってたよな」


「そうだ、大切なことを言い忘れていた」


 俺はティナに尋ねる。


「トールから、ちょこちょこ、しそ~の気配がしたから気をつけてと言いたかった」


「……そうか」


 なんだかよくわからねえけど、頷いておく。

 そう告げ、ティナは去っていった。




 俺は夕焼け空の下、教会に向かってゆっくり歩く。


「ふーん、ふふふーん♫」


 今の俺は気分がいい。

 鼻歌交じりにテンション高めな歌を歌いながら道を歩く。


「ふふふふふーん♫」


 実に平和な一日だった。

 少しトラブルに巻き込まれそうになったが、年下の可愛い女の子と知り合い、ちょっとしたデート気分も味わえた。


 魔法巻物も沢山買えたし、いい買い物ができた。

 後で魔法を試し撃ちするのが楽しみだ。


 いやぁ、これまで外に出ても魔物と戦ってばっかりだったからな。

 悪くない時間を過ごせたな。

 いつもこんな感じならいいのに、


 しかし、しそ~ね。しそ~ってなんだ。

 別れ際のティナのセリフを思い出す。


 しそ~に気をつけて。

 しそ~、しそ……ん?



(……え、もしかして、()()?)


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