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初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第二章

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一人数役

 シルクたちの依頼で急遽、お店の手伝いをすることになった俺。


 フリマが開始されるまで時間はない。

 ギルドを出て街の北東区画の公園前通りへと向かう。

 着くと時刻は十時半になっていた。


「すごい人だな……まだ始まってないのに」


「そうでしょう。フリーマーケットといっても、最近は半年に一度開かれるお祭りになってますからね」


 開催三十分前だというのに通りは準備をしている人たちや、参加を楽しみに待つ人で賑わっており、熱気が伝わってくる。

 道の奥まで色とりどりのテントがずらりと並び、各自が持ち込んだ商品を陳列している。

 公園では大道芸などを行うパフォーマーまでいるそうだ。


 フリマか、こういう雰囲気いいな。


 ネット通販とかにはない、人同士の温かみがある交流というか。

 あとで見て回るのが楽しみになった。



「あんた、連れて来たよ!」


「ほ、本当か!」


 公園の一角にある、今日手伝う店のテントへ。

 店の主人がヘルプに来た俺を見て顔を綻ばせる。


「いや~助かった! 来てくれてありがとな! 今日はよろしく頼む!」


「はい、こちらこそ」


 店主のおっちゃんが、俺の肩を強く叩く。

 喜んでもらえて何よりである。

 頑張ろうという気が湧いてくるね。


「シルクちゃんもありがとな!」


「いえ、いつもお世話になってますので」



 挨拶を済ませた後、早速テント奥で店の制服に着替え簡単な説明を受ける。

 俺に与えられたのはウェイターの仕事。

 注文をとり、完成した料理を客のいるテーブルにお届けする。


 テント横、通りに面するように確保されたスペースにテーブルと椅子がずらりと並んでいる。

 想像していたよりかなり広い。小さなビアガーデンみたいだ。


 これは一人じゃ回せないだろう。


「欲を言えば客引きする係もいればよかったんだけどね。仕方ないか」


「……客引きですか」


 ここには俺とシルク、店の従業員の女性が一人、それと奥さんと旦那さんの計五人。

 接客と調理係だけで人数はギリギリだ。

 普通なら、そこまで回す余裕はないだろうが……。


「簡単な客引きなら俺やりますよ」


「いや、アンタには接客もしてもらわないと困るし、さすがにそんな余裕はないだろう?」


「ええ、さすがに持ち場を外れるわけにはいかないので、客引きも面と向かってではなく、呼びかけがメインになりますけど……それでよければ」


「???」


「喋って欲しい台詞があれば始まるまでに紙に書いておいてください」


 理解できないといった様子のみんなに、考えていることを説明していく。

 こういう時にうってつけのスキルがあるしな。

 最初にセッティングすればいいだけなので、そう面倒な作業でもない。


 開始時刻までに急いでメニューを頭に詰め込む。

 事前に聞いた通り、そこまで種類が多いわけでもない。

 これならたぶん……どうにかなるだろう。

 まぁ間違えても、きっと誰かがフォローしてくれるはず。

 潔く他力本願だ。


 集中していると、あっという間に開催時刻になった。

 各自持ち場に着きいよいよ仕事が始まった。




「いらっしゃいませ~、ボロロン亭、本日臨時出店してます! 味、量、大満足をお約束します! ご飯は是非こちらで!」


 公園に響き渡る、俺の呼びかけの声。

 声に反応して何人かがこちらを見る。


「炎天下、暑く火照った汗だくの体にご褒美を! キンキンに冷えたエールとベルン鳥の焼き鳥のセットはいかがですか!」


「い、いらっしゃいませ~」


 隣からはシルクの声も聞こえてくる。

 普段、大声を出す印象のない彼女だが、頑張って声をあげる。

 シルクは普段のローブ姿だと動きにくいので一度教会に戻り、半袖のシャツとスカートの給仕しやすい動きやすい服に着替えている。


 周りから注目を浴びているシルク。

 教会の美人シスターさんということで、彼女は街でも有名らしい。

 中にはよそ見する彼氏の頬をつねる彼女も見えた。

 けしからん野郎だ、そのままねじ切るといい。


 だがまぁ、気持ちはわかる気もする。

 普段の神聖なローブ姿もいいけど、こういうのも親近感があっていいな。


「いらっしゃいませ! こちらの席にどうぞ!」


 さて、俺も負けずに元気よくいこう。

 最高の営業スマイルを見せてやるぜ。




「おーい、兄ちゃん、こっち注文頼む!」


「はいはい、今行きま~す!」


 野外に設置されたテーブルの間をすり抜けるようにして動き回る。

 中年男二人組のテーブルへ。


「お待たせしました。ご注文どうぞ」


「おう、え~とな。この……」


 メニュー表を見るお客さん。

 注文を口にするのを待つ。


『いらっしゃいませ~、ボロロン亭、本日臨時出店してます! 味、量、大満足をお約束します! お昼ご飯は是非こちらで!』


「「……うん?」」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()聞こえて来た俺の声に、顔を見合わせる男二人。


「どうかしましたか? 何か気にな『炎天下、暑く火照った汗だくの体にご褒美を! キンキンに冷えたエールとベルン鳥の焼き鳥のセットはいかがですか!』る点でも?」


「「…………」」


 呆然とする二人組。


「い、いや……どうしたっていうか、なんていうか……な、なんだ今の?」


「さっき向こうから聞こえた声、お前さんと同じ声じゃねえか? 双子の弟でも働いてんのか?」


「はは、違いますよ」


 お客さんの疑問の声に応える。


「まぁ……俺が使えるちょっとしたスキルみたいなもんで」


「ふへぇ……面白いことできんだなお前さん」


「いきなり聞くとびっくりするけどな」


 興味深げな顔をする男性客。

 俺が考えたのは難しいことではない。

 残響スキルを発動させて、音声を繰り返してみた。

 呼びかけの声をリピートってやつだ。


 せっかくのスキルなので有効活用しないと勿体ない。

 声は三十秒間隔で残響するように設定してある。


 ちなみに声は俺がその言葉を発した場所を発生源として残響する。

 テントで発した声はテントから聞こえる。

 何もない空間から声が聞こえたら、驚くからな。

 誰もいない夜中とかだと特にやべえ。


「まぁいいや、エール二つ頼む! それからビッグボアの香草焼き、ヌング豆の塩茹でも頼む」


「はい、了解しました。オーダー!」


 厨房の奥にいるマスターへ大声で注文を伝える。


「エール二! ビッグボアの香草焼き! ヌング豆~!」

「エール二! ビッグボアの香草焼き! ヌング豆~!」

「エール二! ビッグボアの香草焼き! ヌング豆~!」


「あいよ~!」


 奥の厨房にいる店主から返事が聞こえてくる。

 間隔をあけて店内に響き渡る声。

 こうして残響スキルで注文を復唱することでオーダーミスをしても客が指摘してくれるし、従業員もフォローをしやすくなる。


「べ、便利だなぁ。少し変なスキルだけど」


「まぁ、やりすぎると手抜きと言われそうですけどね」


「はは……そいつはちげえねえな」


 ガハハと笑う男たち。





 開始から三十分が過ぎ、時刻は十一時半。


「ねぇ、まだぁ? 待ってるんだけど」


「お~い、シルクちゃん。こっち頼む!」


「もうちょっとお待ちくださいませ!」


「は、は~い!」


 お昼の時間に近づき、混雑具合がどんどん増してきた。

 席も半分以上が埋まっている。ああ忙しい、忙しい。

 どこかから、ガシャンと何かが落下する音がした。


「す、すみません! 子供が飲み物を落としちゃって……」


「は、は~い! えぇと……えぇと、うぅ」


 舞い込んで来る注文に混乱するシルク。

 彼女は本職ではないのだから無理もない。

 店の従業員の女性も今は別の客についているため動けない。


 俺はすかさずシルクのところへ、助け舟に入る。


「シルク、注文は俺が対応しておくから、まず子供の方を頼むよ。たぶんテントに拭くものぐらいは置いてあるだろ。もしコップが割れてるようなら、破片の処理には気をつけてな」


「ト、トールさん! はい、わかりました!」


 シルクが急いでテントに駆けていく。

 協力しながら、どうにかこうにか客を捌いていく。




「トールさん。さっきは助かりました」


「はは……いいって、いいって」


 少し落ち着いた頃合いを見てシルクが話しかけてくる。


「トールさん、接客がすごく堂に入ってますね。パパパと臨機応変に動けてすごいです」


「そ、そうか?」


 接客とかコンビニバイトくらいしかやったことねえけどな。

 でも褒められると悪い気はしない。


「はい。結界の件でも思いましたけど、人前で緊張とかしないタイプというか、そういうところ少し羨ましいです」


「こんなもん、変にビクビクおどおどしなきゃいいんだよ……完璧にやろうとすると気負いすぎて失敗するし、客は敵じゃないんだ。多少のミスをしたって真剣にやれば大体は許してくれるもんさ」


「そうかもしれないですけど、実際にキッチリ割り切れるところが凄いというか」


 まぁ……一部例外もいるけどな。

 お客様は神様かもしれないがランク付けはある。


 下級神から上級神までいる。


「お~い、こっちいいか?」


「早く来てくれ、俺たち腹減ってペコペコなんだよ」



「……と、仕事に戻らねえと。は~い、すみません、今行きます!」


 会話を切り上げ、次のテーブルへと移動する。

 メニュー表を見ていた男が口を開く。


「ええと、ホーンラビッドの煮込みシチュー、あと蜂蜜酒頼む」


「はい、了解しました。オーダー!」


 大きな声で注文を読み上げる。


「ホーンラビットの煮込みシチュー、蜂蜜酒~!」

「ホーンラビットの煮込みシチュー、蜂蜜酒~!」

「ホーンラビットの煮込みシチュー、蜂蜜酒~!」


 残響スキルを発動させることも忘れない。

 俺の声に奥の店主が「あいよ」と声を返す。


「あ、悪い。蜂蜜酒じゃなくて果実酒で」


「わかりました。蜂蜜酒やめて果実酒~!」


「あ、いやごめん、やっぱ蜂蜜酒で」


「果実酒やめて蜂蜜酒~!」


 またスキルを発動させオーダーの修正を伝える。

 優柔不断なお客さんにも特に動じたりはしない。

 ある程度、働いていると慣れてきて自分なりのリズムができあがる。


 少しずつ仕事も楽しくなってくるのだ。


 だが、そういう調子に乗り出した時こそミスも起こりやすいもので……。


「蜂蜜酒やめて果実酒~」

「果実酒やめて蜂蜜酒~」

「蜂蜜酒やめて果実酒~」

「果実酒やめて蜂蜜酒~」


「「「どっちだよ!!」」」


(……やっべ)


 一つ目のセリフと二つ目のセリフが交互に響く。

 残響する声に対し、奥のマスターと客を加えて重なるツッコミの声。


 嘘の嘘の嘘の嘘みたいになってしまった。

 スキル発動のタイミングと間隔と回数には気をつけないとな。

 口に出したセリフ全部残響させると、誤情報が大量に錯綜してしまう場合もある。

 結果、今みたいにどれが真実かわかんなくなる。


 魔法詠唱とかも、楽だからって調子に乗って残響させるとわけがわからなくなりそうだな。気をつけよう。


 そんな風にちょっとしたアクシデントを起こしながらも、仕事をこなしていく。


 シルクはイベントの準備で、軽く挨拶して十二時半頃に抜けた。

 彼女とはフリーマーケットが終わったあとに会う予定だ。

 夕方過ぎに教会に行くことになっている。


 午後二時、客足も落ち着いてきた頃。


「お疲れさん、もうピークは過ぎたと思うからあがって大丈夫だよ」


「そうですか……いやぁ、いい汗かいたぁ」


「今日は来てくれて本当に助かったよ。色つけておいたからね!」


「お! 本当ですか、嬉しいです!」


 なんつうか、お金よりもそういう心遣いが嬉しいね。

 ついでに、賄いを店で作ってくれたのでいただいた。


「今日の働き、とても初めてとは思えなかったよ。よかったらウチで働かないかい?」


「はは……お話はありがたいんですが、これでも一応、冒険者をやってるもんで」


「そうかい? まぁ気が変わったらいつでも来な。アンタだったら即戦力だしウチは大歓迎だよ」


「あはは……そん時はよろしくお願いします」


 仕事が終わり、奥さんがもう一度俺に礼を言う。

 給金をいただき、挨拶して外にでる。

 シルクにも礼を言っておいてくれと言伝された。



 さて、と。


 仕事も終わったし……残り時間、のんびりとフリマを見て回るとするか。

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