表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか使えず、火力が足りないので徹底的に攻撃魔法の回数を増やしてみることにしました  作者: 大地の怒り
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/70

初心者演習5

前話のブラッドヒュドラに関する会話などを少し追加しました

「行くぜっ! 援護しろよっ!」


「おおっ!」


 俺が若干ヤケクソ気味に元気な返事すると同時。

 地を蹴り、凄まじい速度でブラッドヒュドラとの距離を詰めるバル。

 正面から最短距離を駆け抜けるつもりらしい。


 ブラッドヒュドラは九頭により全方位見渡せる。

 どこから近づいてもほとんど同じだ。

 迫るバルを視認したブラッドヒュドラの首が振動を始める。


 ブレス溜めのモーションに入るが……。


「「「「ファイアボール(10)」」」」


 バルの邪魔をさせはしない。

 残響スキルでファイアボールの十連発をプレゼントしてやる。

 ブラッドヒュドラに着弾していく火球。

 身体がでかいのでどこかに必ず命中はする。

 だが首がやたらうねうね動くので、狙った首にピンポイントで当てるのは結構難しい。


 そんなわけで……。


「「「「ファイアボール(10)」」」」


 再びファイアボール十連だ。

 一回で無理なら数を増やせばいい……それだけのことである。


 無事、ブレスチャージを中断することに成功する。


『ギイイイィ!』


 ダメージはないが、ブレスを邪魔をされて不快気な鳴き声を上げるブラッドヒュドラ。

 上空から大量の視線が俺に降り注ぐ。


(やばい、超怖えって……)


 でもここは安全圏だから大丈夫のはず。

 俺はバルの指示通り一定距離をキープする。

 ブラッドヒュドラから二十メートル離れた場所で様子を伺う。

 ブレスを溜めさせなければここまで攻撃が飛んでくることはない。


「やるじゃねえか。マジで……」


 気づけば、伸びた首のすぐ近くまで接近したバル。

 バルの頭上にブラッドヒュドラのブレスが降り注ぐ。

 溜めを短くした速射タイプの近距離ブレスはファイアボールでの妨害が難しい。


「こっちも負けてられねえっ!」


 ブレスが着弾する直前、バルの身体を半透明の青い光が覆った。

 瞬間、急加速するバル。


 何か身体能力を向上させるスキルを使った模様。


「らあああああっ!」


 速射ブレスが何発か当たるがバルの加速は止まらない。

 ブレスを無視して突っ切るバルは、ついにブラッドヒュドラの胴体に肉薄する。

 そしてそのままスピードを味方につけた拳で殴りつけた。



『ギイイイィ!』



 拳の衝撃で背後の木々を倒しながら吹き飛ぶブラッドヒュドラ。



(……す、すんげえ、あの巨体が浮いたよ)



 ズウウン、と落下音がして地面が大きく揺れる。

 し、信じられない身体能力だ。

 そのままブラッドヒュドラに飛びかかり追撃するバル。

 立て直す間も与えないように乱打を繰り返す。


 殴る、蹴る、殴る、蹴る……実に原始的なバルの戦い方。

 そのシンプルさゆえにバルの強さがよく理解できる。

 本人曰く格闘戦しかできないそうだが、そのパワーがとんでもねえ。

 圧倒的な大きさのブラッドヒュドラ相手に近接戦で押している。


 これがAランクってやつか。


『ギイイイィ!』


 殴打の痛みで悲鳴をあげるブラッドヒュドラ。

 九の首がバルを止めようと、その皮膚に牙を突き立てようとする。

 だが、自身に襲いかかる複数の首、そのすべてを二つの拳を高速で動かして迎撃する。


(む、無茶苦茶過ぎんだろ)


 噛みつき攻撃は一撃でも受ければ血液を奪われるそうだ。

 一歩間違えば死ぬかもしれないってのに、よくあんなに正確に捌けるもんだ。


 ブラッドヒュドラは巨体と長い首ゆえ、遠くを見渡せ視界も広い。

 だがその身体の特性上、懐部分が死角になり至近距離で攻撃されると弱いようだ。

 また、首が各々好き勝手に動くせいで上手に連携がとれていない。

 九の首はそれぞれが独立した意志を持っているのが仇となる。


 しかしまぁ、あれでよく首同士が絡まったりしねえなおい。


「ちっ!」


 着実にダメージを重ねていくバルだったが、左腕に太い首が巻きついた。

 拘束されて一瞬動きが止まるバル。

 その隙を逃さず他の首が襲いかかる。


「おおおおおおおおおおっ!」


 刹那、バルの右腕は強く光り輝く。

 巻きついた首を右拳で殴ると、その首が弾け飛んだ。

 拘束がゆるんだ隙に背後にジャンプして脱出するバル。


「……まずは、一つだ」


 再び距離を取り、態勢を整えるバル。

 一度の攻防で倒せずとも首を一つ減らすことができた。

 俺の魔力もバルが接近戦をしている間に回復している。


 残りの首は一つ減って八。

 まだ先は長いんだろうが、ここまでいいペースで戦いは進んでいるんじゃなかろうか。


 と、思っていたのだが……。


「なっ……馬鹿なっ!」


 俺は楽観的に考えすぎていたらしい。

 なんと、ニョッキリと失った首が再生したのだ。

 信じられない再生能力である。

 あんなのバルから聞いてないぞ。


「こいつ、再生までするのか」


「いや……生命力の強いブラッドヒュドラだが、戦闘中にこんな短期間に再生する個体なんて聞いたことがねえ」


 理由は知らないが、バルの知っているブラッドヒュドラと違うとのこと。

 この場所に出現したことといい、何か原因があるのかもしれない。


 なんにせよ、振り出しに戻っちまった。


「さっきの青い光のパワーアップスキルでなんとか倒せないんですか?」


「あれは生命力と体力をパワーに変換させる特殊なスキルでな。乱発はできねぇ……」


 バルのスキルは瞬間的な火力は高い。

 だが、その特性上長期戦には向かないとのことだ。


 くそ、せめて奴の鱗に火耐性がなければ、俺のファイアボール連射で押し切れたかもしれないのに。

 まぁ代わりに向こうの咆哮は俺に通じないんで相性が悪いんだか、いいんだか微妙なところだが。


「なら、どうやって攻めますか?」


「へっ! 決まってる。俺が倒れる前に一気に奴を倒すんだよ!」


「な、なるほど」


 結局、基本方針はそのままのようだ。

 再生能力が追いつかない速度でダメージを与える。

 悩むまでもねぇ……という感じのバルさん。

 ゴリ押しスタイルだけど、わかりやすくて嫌いじゃない。


「それとてめぇに追加注文だ。余力があったら傷口をファイアボールで狙え。外の鱗は耐性があっても中は違う。それで多少は再生が遅れるはずだ」


「わかりました」


「……期待してるぜ」


 そう、不敵に笑ったあと、息を整えて再突撃するバル。


 その突撃速度は先ほどの攻防の時以上だ。

 目で位置を追うのがどうにか。


「「「「ファイアボール(10)」」」」


 またブラッドヒュドラがブレスチャージの挙動を見せたのでファイアボールを十発。


 俺が援護している隙に更にバルが迫る。

 バルは短期決戦を挑むつもりだ。


(なら……俺もそれに合わせて全力で援護する)


 バルが死んだら俺も間違いなく死ぬ。出し惜しみはなしだ。

 奴はさっき、バルが近づくと短い溜めの速射ブレスに変化させていたが、それすらさせないつもりで撃つ。


「「「「ファイアボール(20)」」」」


 ファイアボールを大増量の二十連発。

 大量の火球による大爆撃だ。

 ブレス起点となる首は九だが、こっちの魔法数はその倍以上だ。

 徹底的に溜めを妨害してやる。

 火力が通らないからダメージは殆ど入らないけどな。


 さぁ、もういっちょいくぜ。


「「「「ファイアボール(20)」」」」


 再び追撃の二十発、合計五十発のファイアボール。

 雨あられと降り注ぐ火球により、ブレスを一切溜められない。



『ギイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアィ!』


 咆哮をあげ、激怒するブラッドヒュドラ。

 めっちゃキレてる。


(……そりゃ腹立つよな)


 自分じゃ勝てない癖に妨害だけは一級品。

 ボ●バーマンの外野が五十人いるみたいな感じだもの。



「ブ、ブレスを完封かよ……絶対おかしいだろ、あいつ」


 今度はさっきよりもあっさりと懐に入り込むことに成功したバル。

 再びブラッドヒュドラとの肉弾戦へと移行する。

 輝きを増した青い光がバルの身体を覆い、再び猛攻が始まる。


 超高速で動くバルの拳がブラッドヒュドラの首を撃ち抜く。

 まず首一つ。


『ギイイイィ!』


 だが、残り八つの首は怯まない。

 首は減ったがブラッドヒュドラの攻撃は苛烈さを増していく。

 バルは大量の首がうごめく中、視界が悪いにも関わらず、どの首に対処すべきかを瞬時に判断して見事に捌いていく。

 そんな彼らの戦いを見ながらも、俺は自分の仕事をしなくてはならない。


「「「「ファイアボール(10)」」」」


 傷口目掛けてファイアボールを連射する。

 勿論、バルに当たらないように注意しながら。


『ギアアアアアッ!』


 十発撃って何発かが、失った首の傷口にヒットする。

 苦悶の声をあげるブラッドヒュドラ。

 これまでと鳴き声が微妙に違う……気がする。

 どうやらそれなりに効いているようだ。

 新しい首が再生する気配もない。


 ねちっこく、しつこくファイアボールで傷口を狙う。

 魔力回復(特大)があるとはいえ、短期間でかなりハイペースに魔力を消費している。

 あまり撃つと魔力切れが心配だが、どうにか突っ切るしかない。

 首の数が減ればバルも多少は楽になるはずだ。


 そして。


「らあああああっ! これで二つっ! ……うん?」


 順調に攻撃を重ね、二つ目の首を潰すバル。


 首を二つ失ったところで……ブラッドヒュドラが妙な挙動を見せた。

 左右二つずつ、計四つの長い首が身体全体を隠すようにぐるりと巻きつく。

 上部がとぐろ状になったブラッドヒュドラができあがる。


「なにをしている? 傷ついた首が再生するまで他の首で守っているのか?」


 その不可解な行動に戸惑う俺たち。

 バルの攻撃に恐れをなして防御態勢に入ったのか?

 まるで、亀が硬い甲羅の中に閉じこもるように。


 今もバルが外から攻撃しているのに反撃することすらしない。


「微かに身体が揺れている? これはまさかっ、中で!」


 何かに気づいたバル。

 焦った顔で振り向き、俺に向かって叫ぶ。



「急いで後ろに下がれっ! ……避けろおおおおっ!」


「……え?」


 バルが叫ぶと同時、身体を包むように渦を巻いていた四つの首が解けていく。

 中に隠れていた三つの首が姿を見せる。

 その口には轟轟と燃え盛る火炎が見えた。

 完全にブレスの溜めは完了している。


 先ほどの行動は中の首を隠し、守護してブレスを溜める時間を得るのが目的だった。


 魔物だって人間同様に学習する……俺は甘く考えていた。



(……や、ばい)



 しかもブレスの矛先は俺に向き、完全にロックオンされている。


 ここまで、調子に乗ってヘイトを溜めすぎたらしい。

 俺は距離を取ろうと全速力で走るが間に合いそうもない。



 フルチャージされた火の息が解き放たれ、三本のブレスが紅蓮の閃光となって重なり高速で迫る。



「「「「ファイアボール(50)」」」」



 避けられないと判断した俺は残存魔力でファイアボールを発動。


 全力で抵抗するため、火に火をぶつけて少しでも相殺しようとするが……。


 (だ、駄目だっ)


 レーザーのように威力を凝縮したブレスはそれでも止まらない。


 多少減速はしたが……それだけ。



 必死の抵抗虚しく……ブレスが着弾した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍一巻、二巻GAノベル様より発売中です。
クリックで購入サイトに飛びます
初級魔法カバー画像
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ