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初心者演習2

 周囲に注意しながら俺は薄暗い森の中を進んで行く。


 先日、ゴブリンと遭遇したルルル草の群生地の先へ。

 これまで踏み入れたことのない森林の奥地へと。


 結界が働いているおかげかまだ魔物と遭遇していない。

 特に問題はないと思いきや、順調に一時間ほど歩いたところでバルから声がかかる。


「おい、てめぇ」


「なんですか?」


「ずっと気になってたんだが、ちゃんと定期的に移動方向を確認しているか?」


 基本的に彼らは口を出さない方針だそうだが、バルは我慢できなくなったらしい。


「でも地図通りなら、当分は真っ直ぐ進めば……」


「今が真っ直ぐ歩いているってどうしてわかるんだ? どこも同じ景色、同じような木だらけのこの場所で何を基準にしてんだ? 人は目印がねえと真っ直ぐに進めねえんだよ」


「……え、えぇと」


「半日足らずの移動とはいえ甘く考えるなよ、手を抜くと余計な体力の消費に繋がるぜ」


 そんなこと言っても過去、登山経験があるわけでもない。

 どうすればいいのかわからない。

 この世界に位置情報検索システムとかないしな。


「では、どうやって方向を確認すればいいんですかね?」


「お前……まじで聞いてんのか」


 俺は素直に頷く。

 恥をかくことになろうが、変に知ったかぶりをしないほうがいい。

 ここは素直に先輩に教えを乞うたほうがいいだろう。


「はぁ、魔物との戦闘とか以前に旅の基本が出来てねえぞ……」


「すみません」


「仕方ねえなぁ……黙って見守るつもりだったがてめぇに全部任せていたら夕方までにベースキャンプに辿り着けなそうだ」


 溜息を吐くバル。


「方向を調べるのに手軽なのは、太陽と影の関係性とかから判断することだな」


 そういや、授業でやった気もするなぁ。

 あん時、もうちょっと真面目に勉強しておくべきだった。


「つってもこのやり方でわかるのは大まかな方角だから、できれば正確に方位を探る道具が欲しいところだけどな。空間魔法が付与された方位石を使えば任意の目印となる点を設定して、そこから相対的な座標、方角を測るなんてこともできる」


「なるほど」


「ちょっと待ってな。まず現在地を確認しねえとな」


 そう言いバルは、ヒョイヒョイと木の幹の上にジャンプ。

 軽快な動きであっという間に木の天辺まで登り降りてくるバル。


「街の位置を見るに予定した方向から大分南にずれてるな、ルートを修正するぞ」


「はい」


「ったく、冒険者どころか、ガキの面倒を見ている気持ちになってきたぜ」


 文句を言いながらも、キチンと教えてくれるバル。

 確かに口調は荒いし怖い感じもあるが、面倒見はいい人なのかもしれない。





 出発から一時間半ほど過ぎたころ、切り株に座って小休憩することに。


「この先は魔物が出現する確率が一気に上がるぞ。気を引き締めて行けよ」


「はい」


 バルの忠告に頷く。

 街から離れると魔除けの結界の効果も弱まる。

 慎重に移動するとしよう。


「そういやお前、荷物はそれだけで大丈夫なのか? 水場はまだ先だぞ」


「あ、大丈夫です……俺、水魔法使えますんで」


「さすがに、飲み水の確保ぐらいは考えていたか」


「えぇまぁ……さすがに」


「しかし魔力持ちとは……幸運だな、お前」


「まぁ、魔力がなければジョブ的に詰んでましたしね。ウォーター!」


 昨日、雑貨屋で購入したコップに魔法で水を注いでいく。


「おい……今……さらりと短縮詠唱しなかったか?」


 かなり驚いたらしく、ポカンと口を開けるバル。


「はい。といっても初級魔法しか使えないんですけどね」


「初級魔法だけって、それでもそれなりの武器になるだろうが……さも普通のことのように言いやがるな。いいのか? そんなにホイホイと見せて」


「まぁ、魔物が来たら遅かれ早かれバレますし俺の武器は魔法だけなんで、変に隠そうとフル詠唱で戦ったら、普段と戦いのリズムが違いすぎて危ないんですよ」


「なるほどな。ま、わざわざ言いふらすようなことはしねえが……」


 残響スキルは隠すとしても、これぐらいは事前に見せておくべきと考えた。

 無論、魔物が出て本当に危なくなった時はバルが助けてくれるけど。

 彼も俺の戦闘スタイルを知っていた方がそのタイミングを掴みやすいだろう。



 小休憩を終え、俺たちは立ち上がり再び目的地へと歩き出す。

 バルに教わったことを踏まえ方向を確認しながら進んでいく。 

 失敗し、叱られながらも外で活動するために必要な知識が増えていく。


 そしてついに。


「うおっ!」


 休憩後、歩き始めて一時間、魔物が登場する。

 十メートルくらい先の木陰からガサガサと物音がして、バカでかいウサギが現れた。

 体長は六十センチメートルくらい、その額には長い角が生えている。


 俺を確認すると、すぐさま敵認定したようだ。

 尖った角を武器にマイボディに向けて突進するウサギ。


「ファイアボール!」「ファイアボール!」「ファイアボール!」


 慌てて真っすぐに三連射、一発は逸れたが二発命中……煙をあげて沈黙するウサギ。

 び、吃驚したぁ……心臓がバクバク言ってるよ。

 発見から、すぐ攻撃に移ってきたからな。

 アグレッシブなウサギだぜ。

 昨日までの相手が動きの遅いスライムだったから、比較で滅茶苦茶早く感じたよ。



「悪くねえ展開速度じゃねえか。あの距離から普通に仕留められるのか。火球がでけえから、命中率も下手な狩人の矢よりもよっぽどいい」


「あ、ありがとうございます?」


 バルからお褒めの言葉をいただく。

 内心、すげえ焦ってたけどな。


「ところで、その……この魔物は?」


「ホーンラビットだ。Fランクの魔物で角はギルドが買い取ってくれるぜ。ぼちぼちお昼だし、昼飯はコイツを焼肉にして食うか」


「おお、焼き肉! いいですね!」


「ちなみにだが、てめぇ解体の仕方くらい知ってんだろうな?」


「まったく知りませんね」


「自信満々に言うんじゃねえよ。なんつうか……ここまでの言動からそんな気がしたよ。現地調達は冒険者になるための最低条件だぜ……ついでに教えてやるからよく見てろ」


 バルがてきぱきとホーンラビットを手元のナイフで解体していく。

 血を抜き、内臓をと……ちょっとだけグロかった。


 見ているだけなのも申し訳ないので、せめてもの仕事で枯れ木は俺が集めてきた。

 木の枝で作った串に刺さったウサギ肉に、バルが荷袋から調味料(塩)を取り出して、振りかける。

 解体の仕方がよかったのか、肉はジューシーで柔らかく食いがいがあった。

 ウサギ肉はかなりたくさんあったのだが空腹のせいか、ほとんどがお腹の中に。


 身体の大きいバルは俺の倍近く食べていた。

 少し残った分は後で小腹が空いた時に食べよう。

 この暑さなので日持ちはしないが、夕方くらいまでは十分持つ。


 他にもバルが疲労回復に効く実を教えてくれたり、毒消しの効果のある草を教えてくれたりと。


 なんか冒険者演習というよりどんどんサバイバル演習みたいになっていくな。 




 昼食をとり、再び出発。


 歩き始めて、ホーンラビットがもう一匹出てきたがファイアボールで倒す。

 そしてまた見たことない魔物とエンカウント。

 体長は二メートルくらいのフォレストグリズリーという茶色の毛皮を纏った熊の魔物が出てきた。



「ファイアボール!」「ファイアボール!」「ファイアボール!」「ファイアボール!」

「ファイアボール!」「ファイアボール!」「ファイアボール!」「ファイアボール!」


 ファイアボール連射……ひたすら連射。


 その巨体に一瞬戸惑ったが、的が大きいのと速度がウサギより遅いので、距離を保ちながら撃てば意外と戦いやすい相手だった。



「やっぱお前……他の奴と組まないで正解だったよ」



 俺の戦う様子を見てバルが言う。


「新人がこんな特殊なスタイルの奴と合わせられるはずがねえ……それにボンボンボンボン周囲の状況も考えずに打ちまくりやがって、森火事にならねえよう俺が気を張ってるの気づいているか?」


「……あ」


 バルの言うことはもっともである。

 今度はファイアボール以外を習得しておこう。

 次は風魔法なんかいいかもしれない。


「もしパーティに入るなら遊撃役あたりか、火力を担当するには初級魔法だけじゃ限界はあるが、機動力や取り回しは魔法職としては抜群にいいしな」


「なるほど」


「だがパーティを組むとなると新たな問題も増える。短縮詠唱は便利だがデメリットもある。それが何かわかるか?」


「えぇと……早すぎるってことですか?」


「そうだ。詠唱が早すぎて周囲との連携がとりづれえ。どの魔法を使うか周りに知らせる時間がない。てめぇのことを熟知している奴なら予測できるかもしれねえがな。今はファイアボールオンリーだからまだいいが魔法の種類が増えたらもっと……、俺の言いたいことわかるな」


「はい」


「そういう意味じゃソロ向きかもな。それと……てめぇの戦闘スタイル、大きな欠点を見つけたぜ」


「え、なんですか?」


「うるせえ」



 そ、そんなこと言われたってさ。

 残響スキルも使ってないのに。



「にしても……妙に魔物の数が少ない気もするな」


「そうなんですか」


「ベースキャンプまであと少しってところだが、もう少し魔物が出てきてもいいはずだ。本当に古竜の影響がこの辺まで及んでいるのか」


 バルがポツリと疑問を呟く。


「古竜……バルさんやセルでも勝てない相手なんですかね?」


「格が違えよ。この街のギルドマスターがSランク冒険者で、古竜を倒してドラゴンスレイヤーと呼ばれているが……あれは運が良かった、二度勝つ自信はないって言ってた程だしな」


「なるほど、というか、ここのギルドマスターってSランクだったんですね」


「知らなかったのか? ちなみに聖剣姫の親父だぜ」


「え……セルの?」


「ああ、今は王都の方に出ているけどな」


 そいつは初耳だ。

 そのうち会う機会もあるのだろうか。

 結界修復の依頼の時、セルが上の方と繋がりがあるって話していたのはそういうわけか。


 父親がギルドマスターね。


「ああ……だからセルにはちょっかい出さないのか」


「あん? 突然何の話だよ」


「いや、バルさんが女性関係で問題起こすとか、どうとかセルが話していたんで……」


「元々、あんな小娘に興味はねえよ。女は三十過ぎてからだろ。てめえはガキだからわかんねえかもしれないけどな」


 単純に守備範囲の問題だったのか。

 そういやこの人が手を出そうとしたのは副ギルドマスターの奥さんだもんな。

 似たような立場だった。


「まぁ今は興味なくても、十五年後はわかんねえけどな」


「……そ、そうですか」


「俺って奴はいつも遅れて女の魅力に気づくんだ。そのせいでちょっと知人の平和な家庭がおかしなことになったりもするんだが……」


「……そうですか」


 なんつうか、ある種の時限爆弾みたいな人である。




 出てきた魔物を倒しながら先へと進んでいく。


 そして夕方、予定時間より少し遅くなったものの、バルの指導のおかげでどうにかベースキャンプに辿り着くことができた。

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