初心者演習1
前回前書きに記載した回数表記に関するコメントがたくさん来ててビックリしました。
参考になるご意見ありがとうございます。
それから、誤字報告や感想も全部返信はできていませんがキチンと読ませていただいています。
励みになるコメント感謝です。
とりあえずストック分(一章)については現状の表記のまま突っ切ろうと思います。
その後で反応を見ながら考えようかなと思っています。
よろしくお願いします。
翌朝。
昨日はぐっすり眠れて、気持ちよく起きることができた。
宿を出て、初心者演習の集合場所である街の西門へと向かう。
明日まで戻ってこないことは宿の女将さんには伝えてある。
若干の緊張と期待と興奮を抱きながら道を歩く。
今回の演習は新人さんと繋がりを作るいい機会になるはずだ。
セルはAランクだし、俺と組むと彼女に寄りかかる形になってしまう。
今後の冒険者として活動していく上でもっと近い立ち位置にいる仲間が欲しい。
初級魔法を覚えた俺なら、仲間に加えてくれるパーティもあるかもしれない。
門に着くと既に数人が待機していた。
二十代中頃の皮鎧を身につけた男が二人。
どことなく漂う風格から、おそらく引率役のベテラン冒険者と思われる。
その隣には同年代の女が二人と男が一人、集まって話している。
俺と同じ、演習に参加する新人冒険者だろう。
挨拶ついでに話しかけると、まだ全員揃っていないそうなので一緒に待つことに。
それから五分後、少し遅れてやってきたのは……。
「……うぅわ」
「お前は」
やっべ……うぅわとか口に出しちゃったよ。
現れたのは以前、吟遊詩人であることで俺を馬鹿にした三人組の男たちだ。
なんだよ、偉そうに言ってたけどこいつらも新人だったのか。
「驚いた、お前も来ていたとはな」
「なんだ、まだ冒険者やめてなかったのか」
「俺たちに迷惑をかけるようなことはすんなよ」
顔を合わせ、いきなり毒を吐かれた。
火の粉を振り払うのではなく、振りかけるという超攻撃的スタイルらしい。
場が険悪な雰囲気になりかけるが。
「いてぇっ!」、「ぐっ!」、「うごっ!」
彼らの背後から拳骨が落ちる。
「くっちゃべってねえで、さっさとそこ並べよ、時間が押してるんだ」
「なんだ、と……て、剛拳バルッ!」
最後に重役出勤よろしく登場したのはバル。
先日セルと話していたAランク冒険者だ。
「ど、どうして? 街トップクラスの冒険者がここにいるんだっ」
バルの登場にたじろぐ、三人組。
「どうしてだぁ? てめぇらをお守りするために決まってるだろうが……ほれ、とっとと動け」
口が悪いだけでなく、実力も一級品のバルは完全に彼らの上位互換である。
相手が悪すぎると悟りあっさりと引き下がる彼ら。
引率役の冒険者の一人が名簿を見て全員揃ったかを確認したあと。
演習についての詳しい説明が行われる。
今回引率するのはバルと二人のCランク冒険者だそうだ。
説明役はCランク冒険者の一人が担当、バルは面倒そうな感じで欠伸をしている。
演習内容についてだが事前にギルドから聞いていた通り。
片道六時間程度の距離にある森のベースキャンプを目指し、一泊して戻る。
俺たち新人は各引率冒険者毎に三組に別れて別々のルートで向かうそうだ。
演習は一応俺たちの実力を測る実戦的なもの。
引率役ではあるが、移動中、彼らは細かく口出ししない。
本当に危ない場面では助けに入るが、基本的に普段通りにやれとのこと。
ベースキャンプに着いたあと、一段落してからここはこうしたほうがよかったとか、色々アドバイスをしてくれるらしい。
「演習とはいえお前たちの行動は上に報告するよう言われている。こいつは優秀だと判断したらランク昇進試験に推薦することも考えているから真剣にな」
「「「「おおっ!」」」」
その発言を聞いた新人冒険者たちから、やる気に満ちた声が聞こえる。
説明が終わり、各引率者が担当する新人の名前を呼びあげる。
「アンドリュー、ジョン、ナダル……三人は俺だ」
既に誰がどの新人を担当するかは決まっているらしい。
参加者が七人で引率者が三人てことは、三、二、二で別れる感じかな。
「ナターシャ、エリス、ボストン……お前たちはこっちだ」
順次、自分を呼んだ引率者の元に歩いていく新人たち。
(ていうか……あれ?)
三人と三人……てことは残りは。
この人たち引き算できねえのかな?
「……てめえは、俺だ」
どうやら俺の担当はバルらしい。
それはいいんだけど。
(え? もしかして俺だけ一人?)
なんで? バランスおかしくない?
誰とも協力できないじゃん。
「おい、なんだその面は……俺がマンツーマンでつくことに不満だってのか」
上から俺を睨みつけるバル。
そのでかい図体で威圧されるとちょっとビビっちゃうよ。
「い、いや、そういうわけじゃないんですよ……よろしくお願いします」
ま、まぁいいか。
いい方向に考えよう。
Aランクの彼が一緒にいれば道中何が起きてもきっと大丈夫だろう。
……と、自分を納得させる。
そのあとベースキャンプの位置が記された地図を手渡されたので、確認。
一組目、二組目と門を出て森へと出発していく。
最後に俺とバルが出発する。
森を歩きながら後ろにいるバルに話しかける。
「あの……ちょっと聞いていいですかね?」
「なんだよ?」
「その、どうして俺だけ一人なんですか?」
前方からゴブリンとかが出てくるかもしれないので、顔は前を向いたままだ。
「他の奴らは元々三人組のパーティなんだよ。ベテラン冒険者ならともかく経験の浅いアイツらの中にいきなりてめぇが入ったって、うまく噛み合うはずがねえだろ」
加えて低レベルパーティは大抵同じ村出身者だったりと、繋がりがある場合が多い。
仲の良い者同士でコミュニティが出来上がっており、あとから間に入りにくいとのこと。
第三者が加入した時の協調性も大事だが、今回の演習で知りたいのは普段通りの基礎的な実力とのバル談。
「そういう理由だったんですか。いや正直、俺ソロなんで今回の演習が仲間を作るキッカケになるかもなぁ……なんて期待していた部分もあったんで、聞いた時ちょっと落胆してしまいましたよ」
「やっぱり不満だったんじゃねえか、てめぇ」
あ、やべ……本心が。
バルの拳骨が頭に届く寸前。
「い、いえ、不満なんかじゃないんですよ。その代わりバルさんという超優秀な冒険者が直々に教えてくれるっていう、貴重な機会に恵まれたわけですから……もう超幸運というか、一生の運使い果たしちゃったんじゃないか、明日死ぬんじゃないかって不安になってるくらいです、ええ」
「お、お前……あんま喋んねえほうがいいぞ、ボロが出るからよ」
「あ、はい……」
俺の怒涛の言い訳に、怒りが霧散した様子のバルさん。
拳骨を回避できたのはよかった。
でも、殴る価値もないみたいな顔するのやめてほしいな。
「つっても、一人でよかったんじゃねえか? さっきの場面を見るに男三人組のパーティと前に何かあったようだしよ……」
「まぁ、そう言われるとそうかもしれないですが……」
殴り合いの喧嘩まではならなかったけど。
揉めたのは事実だ。
「新人冒険者はああいうタイプが多い。とにかく舐められないよう相手を威圧する……怖いもん知らずの根拠のねえ自信て奴だが、実際痛い目を見るまでは皆大なり小なりそんなもんだ」
そういうもんかね。
一度鼻っ柱が折れてからが冒険者としての本番と、バル論。
「ちなみに、バルさんがわざわざ俺を担当したのはどうしてです?」
「聖剣姫が古竜の戦闘跡に向かう前、偶然ギルドで会ってな。てめぇのことを言われたんだよ。世間知らずで危なっかしいところがあるからできれば俺に面倒見て欲しいってな」
「セルが?」
「ああ、一瞬まじでお気に入りの男なのかと疑ったぜ。なんだか知らねえがあの女はてめぇを気にかけているみてぇだ。本人には内緒にするよう言われたけどな」
そ、そういうことだったのか。
セル……心配してくれてありがとう。
ジンワリと心が温かくなる。
想定していた予定と違った流れになったけど嬉しいよ。