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魔法陣

 翌朝、宿で朝食を食べたあと。


 約束していた教会へと出かけることにする。

 集合時間には少し早いが、わざわざ俺を指名してくれたのだ。

 遅刻するなどもってのほかだ、失礼のないようにしないとな。


 教会は宿から三十分ほど北東に歩いた場所にある。

 結構徒歩だと遠いけど、これもいい運動になると考えよう。

 ステータスがあがればもっと早く動けるかもしれないしな。


 街の北東側は住居が集中しており、住人の半数近くが暮らしている。

 道が入り組んでいてわかりにくいとのことで、事前に教会への地図を渡されている。

 小道が多く少し迷ったりしたが、木造平屋の似たような家屋が並ぶ中で、少し目立つ白い家を発見した。

 遠目にも屋根から空へと伸びるモニュメントが見える。

 輪っかを縦に二つ重ねたような装飾である。

 地図を見るにたぶんここが教会なのだろう。


 建物の前へとたどり着く。

 年季の入った木製の扉、ここが正面玄関で間違いないだろう。


(いきなり中に入っていいのかな? ん?)


 どうするか悩んでいると、建物の反対側から元気な幼い声が聞こえてきた。

 教会の周囲は高さ一メートルくらいの簡易な鉄の柵で囲まれている。

 ぐるりと柵を回って、声がした方へと移動する。


「……きゃははは」


「待てええええっ!」


 反対側には広い庭があり、七、八人くらいの子供たちが遊んでいた。

 見た目幼稚園から小学校高学年くらいの子まで年齢は色々。

 鬼ごっこなどをして遊んでいるようだ。


「捕まえたっ! 次、シルクお姉ちゃんが鬼ね」


「ふふ、いいわよ! 負けないぞ~」


 その中には昨日会った依頼人の一人シルクがいた。

 無邪気に遊ぶ子供たちに、優し気な笑みを浮かべている。

 シルクが子供を追いかけようとしたところで、俺と目が合う。


「え? ト、トールさん? おはようございます」


 朝のご挨拶をすると、驚いた顔を見せるシルク。


「早いですね。まだ予定していた時間の三十分前ですが」


「初めて来る場所だから早めに宿を出たんだ。なんか邪魔してしまったみたいで悪い」


「いえいえ、大丈夫ですよ。でも……まだセルが来ていないんですよね」


「なら、それまで子供たちと遊んでいれば……」


「でも、それだとトールさんが」


 せっかく皆で遊んでいるところだったのに俺が邪魔してしまった。

 子供たちからシルクをとったみたいになってしまったからな。

 今も子供たちの視線を浴びているし。

 俺の提案に戸惑うシルク。


 すると……そんな様子を見ていた子供たちが。


「なら兄ちゃんも一緒に鬼ごっこしようよ!」


「ねぇ遊ぼ! 遊ぼうよ!」


 活発そうな男の子が俺の手をグイグイと引っ張る。


「そうだな……そうするか」


「い、いいんですか?」


「ああ……いい気分転換になるしな、よっしゃ遊ぶぞ!」



「「「わあいっ!」」」


 せっかくなので子供たちの誘いに乗る。

 昨日ヤケ酒して、嫌な形で大人の階段を昇ってしまったせいだろうか。

 なんか純粋な彼らと一緒にいるだけで心を洗われる気がする。


 時間になるまで、子供たちとシルクと鬼ごっこをして遊んだ。




 遊んだあと。教会の中へ。


 俺はシルクに客室に案内されて、用意してくれた冷たい水を飲む。

 動いていい汗かいたから、水が体に染み渡る。


「……ありがとうございます。付き合ってもらって」


「いいよ、俺も楽しかったし」


「ふふ……そう言ってもらえると、嬉しいです」


 ニコリと対面に座ったシルクが微笑む。

 彼女とは昨日はあまり話す機会がなかった。

 こういう顔をする人なんだな。

 包容力というか、母性的なものを感じる。

 まぁ……俺とほとんど年齢変わらないんだけど。


「彼らはこの教会で暮らしているのか?」


「半数はそうですね。病気などで親を亡くした子供たちを教会で引き取っているんです。他の子はこの近くの家に住んでいる子どもたちです」


 説明するシルク。

 ほんの少しだけ暗い顔を見せる。

 教会では身寄りのない子供たちを預かり、一人でも生きていけるように無料で勉学などを教えたりしているらしい。


 十五歳になったら教会を出ていき、恩返しに仕送りをしてくれるそうだ。

 一応この世界では学校もあるそうだが、学費が高い。

 通えるのは裕福な商人や貴族などの特権階級だけらしい。


「でも……まぁなんだ。楽しく過ごしているみたいだしな。庭で遊んでいる時も笑顔がすごく印象的だった」


「ふふ……元気に遊びすぎて、午後のお勉強の時間になるとすぐ寝ちゃいますけどね。特に幼い男の子は」


「……ははは」


 そのへんは世界が変わっても同じだよな。

 まぁ……子どもが元気なのはいいことだよ。

 て、なんか自分のことながらおっさん臭いな。


 俺まだ十代なのに……それから二人で談笑していると。


「来てたのかトール。すまないな、待たせてしまった」


「大丈夫だ、シルクと話していたから」


 セルが部屋にやってきた。


「おはよう、セル」


「ああ、おはようシルク。他のシスターたちはもう……」


「ええ、先に行って待機しているわ。あとは私たちだけよ」


「それじゃあ早速、魔法陣のところにいくぞ」


 全員揃ったあと。

 俺は二人の案内に従い部屋を出て移動する。

 教会でお祈りをする聖堂。

 その奥には小部屋があり地下へと繋がる階段があった。


「なぁ……もしかして魔除けの魔法陣って、この教会の地下にあるのか?」


「ああ。この場所には多数の精霊が集まる精霊脈があるんだ。精霊脈は魔法の効力を増幅する特殊な場所でな。結界を張るのにうってつけなんだ」


 セルが俺の質問に答える。

 教会を集合場所にしたのはそういう理由だったのか。


「魔法陣の場所は街の住人も知らないことだ。極秘で頼むぞ」


「わかった」


 そんな話をギルドに登録したばかりの俺に伝えてもいいのだろうかと思うが。

 想定以上に俺の能力が必要とされているのかもしれない。

 嬉しいような、少し怖いような気持ちだ。



 魔除けの魔法陣のある場所へ向けて、教会地下の薄暗い石階段を下りていく。

 等間隔に設置された松明の火のゆらめきが怪しげな空間を演出する。

 コツン、コツンとやけに響く足音がちょっと怖い。


 階段を下りて、人ひとりが通れる幅の細い地下通路を歩いていく。

 すると、見えてきたのは重厚で頑丈そうな真っ赤な扉。

 なんか奥にボスとかいそうな感じがする。


「……この奥です」


 扉にシルクが手を触れると扉が淡く光りだす。

 ギギギ、とゆっくり扉が開いていく。

 特殊な扉で事前に登録した者以外は開くことができないらしい。

 扉の先に進むと、四人の女性が立っていた。

 シルクと同じローブを着た少し高齢のシスターたちだ。


 俺が会釈すると彼女たちもそれに合わせて頭を下げる。


「これが……魔法陣か」


「はい、現在は起動しておりませんが」


 床には三角を二つ反対に重ね合わせ、丸で囲んだ窪みが彫られていた。

 六芒星の魔法陣てやつだ。


「魔法陣の歪みは既に修復してある。あとは結界魔法を展開するわけだが……その前にトールに詳しい説明をしておこう」


「頼む」


 セルが俺に向き直る。


「トールに手伝ってもらいたいのは結界魔法の補助だ。吟遊詩人のスキル『調律』を持っているな?」


「……ああ」


 そんなスキルがあったと思う。


「結界で使用する魔法は上級光魔法『セイントバリア』だ。これを私たち六人全員で一斉に唱え、合成したものが魔除けの結界となる」


「合成?」


「そうだ、合成魔法といってな。複数人で力を合わせることで、単体で展開するよりも強力な効果を発揮させる魔法だ。合成魔法は特殊な魔法ゆえ、事前に綿密な準備が必要だがな」


 ここには俺を含めて七人いる。

 要は俺を除く女性六人が協力して大きな結界を展開させるってことだな。


「街全体をカバーするとなると、単一のセイントバリアでは無理だからな」


「……なるほど」


「だが、この合成魔法……かなり難易度が高い。詠唱成功率が低いんだ」


 魔法を唱えるには詠唱を行う必要がある。

 この時、正しい音程、リズムで詠唱をしなければ魔法は発動しない。


 判定がシビアだと、魔法屋の女の子が話していた。

 合成魔法も基本的には同じだが、これに加えて六人全員が極力同じタイミング、近い音程、音量で詠唱する必要があるとのこと。


 ここにいるのは俺以外全員女性だ。

 同性で組んだほうが近い音程となるし成功率はあがる。

 合成魔法を成功させるには周囲との調和がとにかく大事。


「昨日も何度か試したのだがうまくいかなくてな。そこでトールに協力を仰いだというわけだ。『調律』スキルを使用して私たちの詠唱を手伝って欲しいんだ」


「なるほど、そういうことか」


 ここにきて、ようやく依頼内容がわかったぞ。


 もう一度調律スキルについて確認してみよう。



 ****調律****

 声をスキル保有者の抱いたイメージに変化させ、近づけることができる。

 他者を対象にする場合は手で体に触れる必要がある。



 周りくどい表現ではあるが、つまり……。


 俺が触れた奴の声が、俺のイメージに従って修正される。

 要は声の指揮者になれる。

 声を修正するのだから、使い方によっては詠唱を補助することができるスキルだ。


 ……だけど。


「これって俺が正しい詠唱イメージを把握しておかなければ意味ないよな」


「……まぁ、そうだな」


 俺の疑問に何故か、少し気まずそうな顔を見せるセル。


「……とりあえず、一度皆で詠唱してもらっていいか」


「わかりました」


 シルクが同意し、他のシスターたちも頷く。


「……どうしたセル?」


「……セル、これはさすがに隠せないから、諦めて」


「う、うん」


 六人それぞれが六芒星の点の上に立つ。

 俺は集中して詠唱を聞くことにする。


「トールさん、開始の合図をしてもらえますか?」


「わかった。それじゃあ……三、二、一、ハイ!」 



 シスターたちが一斉に口を開く。



「聖なる光よ、天より降り注ぎ、我らを守護し、導きたまへ」

「聖なる光よ、天より降り注ぎ、我らを守護し、導きたまへ」

「すぇいなるヒカリよ、天よりふり注ぎ、うぁれらを守護し、導きたまふぇ」

「聖なる光よ、天より降り注ぎ、我らを守護し、導きたまへ」

「聖なる光よ、天より降り注ぎ、我らを守護し、導きたまへ」

「聖なる光よ、天より降り注ぎ、我らを守護し、導きたまへ」



 ……なるほど。


 一人、目立ちたがり屋がいるな。


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