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セルとシルク

何度かタイトル変更して申し訳ありません

 酒に逃げていると、突然舞い込んだ指名依頼。


 ユリアさんに紹介されたのは二人の少女。

 二人とも十五、六歳ってところ。俺と同い年くらいだ。

 彼女たちが俺を指名してくれたらしい。


「……き、君たちが俺を必要としているのか?」


「シ、シルク、どうしよう? 酔っ払ってて情緒不安定な感じだぞ、大丈夫かな?」


「……た、たぶん、たぶん大丈夫だよ」


 俺を見て少し不安そうな顔をする少女たち。


 一人は煌めくような金髪をセミロングにした、おっとりした雰囲気の少女。

 ゆったりとした清潔な白のローブを着ているが、豊かな胸を隠せていない。

 もう一人は勝気な瞳に、銀色の髪を腰まで伸ばした少女。

 銀色の鎧を纏っている。


 金髪の娘はシスター、銀髪の娘は女騎士と言った感じ。


「うおうっ」


 俺は立ち上がり、ご挨拶を……と思ったところでふらつく。

 かなりお酒が回ってしまっているようだ。

 銀髪の女騎士が倒れそうになった俺を腕で支えてくれる。


「だ、大丈夫か?」


「や、やべえ……立ったら急に気持ち悪くなってきた。は、吐きそう」


「お、おいやめろよ! 今やられたら私が……トイレに連れていくから我慢しろ」


「五、四、三……」


「な、何の数字だオイ! シ、シルク! 助けてえっ!」


「こ、これを飲んでください! 酔いを醒ます薬です」


 ローブを着た少女が差し出した液体。

 それを騎士の少女が受け取る。


「むぐっ!」


 乱暴に俺の喉へと流し込まれていくドロリとした液体。

 に、苦い、とても苦い。

 だが……強烈な苦味が吐き気を相殺し、忘れさせてくれる。

 少しずつ視界がクリアになっていく。




「…………えぇと、すみません。お見苦しいところをお見せしました」


 深々と頭を下げる俺。


「まったく、飲みすぎだ馬鹿者、危うく酷い目に合うところだった」


「すいません、いやほんとすいません」


「酒は飲んでも飲まれるな……自分の限界をキチンと把握したうえで楽しむものだ」


 同年代の女の子に叱られる俺、まぁ自業自得なのでしょうがないけど。

 許してください。

 今日が初酒なんで、どんぐらい強いかもわからなかったんだよ。

 説教は数分に渡って続いた。


「セル……そのへんで」


「む、かなり脱線してしまったな……まぁその、とにかく気をつけろということだ。それじゃあ……本来の用件に入るが、いいか?」


「その前に自己紹介をしておいたほうがいいんじゃない?」


「おっと、そうだな」


「お、お願いします」


 コホンと小さく咳をする女騎士さん。



「私はセル。ジョブは聖騎士だ」


「私はシルクです。ジョブは聖女です」


「私はトールです。ジョブは吟遊詩人です」


 中一英語っぽい端的な自己紹介を終える。


 まぁ、最初からチョコチョコ名前が出ていたけど。

 銀髪の少女がセル、金髪の少女がシルクというらしい。


 俺は二人と握手を交わす。

 聖女と聖騎士とか、二人とも特別職なのに鼻にかけた様子もない。


「えと、よろしくお願いします。セルさん、シルクさん」


「見たところほとんど同い年だろう、堅苦しい敬語は必要ないぞ」


「えと……んじゃあお言葉に甘えて砕けた感じでいかせてもらうわ。二人は俺に指名依頼ってことだけど……どうして俺を?」


 正直、この世界における自己評価はかなり低い。

 何故わざわざ俺を指名する?

 どんな依頼なのか想像もつかない。


「もちろん、君の力が必要だからだ」


「…………」


「ど、どうした?」


「いやその、改めてジーンときちゃって」


 いかん、目頭が熱くなってきた。


「そ……そうか。なんだかよくわからないが、依頼の詳しいことは向こうの部屋で話そう。あまり大っぴらな場所で言う内容でもないからな」


「わ、わかった」


 俺は会計を済ませて、ギルドの一室に移動する。

 こういう内密な話をするための鍵付きの部屋があるらしい。

 部屋は防音になっており、外に声は漏れない。

 部屋の使用には受付で許可を取る必要があるが、俺が吐きそうになったり、自己紹介している間に受付嬢のユリアさんが準備をしてくれた。


 設置された長形テーブルにつく。

 片側にセルとシルク、もう片方に俺で別れる。

 わざわざ別室にってことは、それなりに大きな依頼なのだろうか。

 緊張して少し身構えてしまう。


「すみません。少しだけ機密事項を含むものでして……トールさんに危険は及びませんから、その点はご安心ください」


 俺の内心を汲み取ったようにシルクが言う。


「それじゃあ改めて説明しようか。先日魔物が街の近くに現れた。街には魔物避けの結界が展開されているのに関わらずだ。これは知っているな? 君も遭遇したそうだし……」


「ああ」


「魔物が来るということは通常ありえないことだ。ゴブリンなどの魔物が街近くに来たのは過去数件しかない」


「あ、あるにはあるのか」


「結界も万全ではないからな、迷い込むこともないわけではない……といっても、数年に一度だぞ。今回のように北の山、西の森と複数同時に魔物が確認されたことはない」


 結界について説明するセル。


「ギルドはその原因究明に動いた。当初、森や山での異変も考えたがまだ異常などは見つかっていない。そこで別のアプローチ、外ではなく街の中魔物避けの結界そのものに異常が生じたのだと考えたのだ」


「……なるほど」


「ああ、そして推測は当たり、結界の効力が弱まっていることが確認された」


 それで魔物が近くに寄ってこれたってわけか。


「結界が弱まった原因はわかっているのか?」


「おそらくだがな。最近、魔の森で古竜(エンシェントドラゴン)同士の戦闘があったことが原因だろう」


「エンシェントドラゴン……」


 それ、かなりやべえ奴じゃなかったっけ?


「ああ……永き時を生きる最強クラスのドラゴンだ」


 そんなのが近くの森にいるのかよ。

 勘弁してくれよ。


「普段は森の深奥にいるがな。人里には滅多に姿を現さん」


「それが交戦していたと?」


「ああ……戦っているうちに近くまで移動して来たようだ。街に来る前に戦いは終局したようだが、下手をすれば街が巻き込まれて滅ぶ可能性もあった」


 魔除けの結界もエンシェントドラゴンなどの規格外な生物には効果はないそうだ。


「話を戻そう。その時の戦いの余波の地震などで、魔除けの結界を維持する魔法陣の機構に狂いが生じたわけだ。魔法陣を修復するには一度結界を消去する必要があり、そのあとで新しい結界を張りなおすのだが、その作業を君に助けてもらいたいというわけだ」


「いや、助けてったって、魔法陣も結界のこともわかんないぞ」


「大丈夫、何も知らなくても問題はない」


 問題はないと言われてもな。

 自分と関係がなさ過ぎて不安になるよ。


「まさかとは思うが、結界の媒体とか言って俺が生贄に捧げられるとかないよな? 今の俺の価値ってそれくらいしか思い浮かばない」


「す、するわけないだろうそんなこと! どれだけ自己評価低いんだ!」


 セルが声を荒げて答える。


 この身を犠牲にして街を守り続けるとか。

 俺はそんな人柱になる崇高な精神は持ち合わせていない。

 ところで、処女の生贄は聞くけど童貞を捧げるって聞かないよな。

 いや……捧げられても困るだろうけど。


「トールに依頼したのは結界の修復に吟遊詩人のスキルが必要だからだ! そしてこの街に吟遊詩人は一人しかいない」


 この街の住人は千人を超えるが吟遊詩人は俺一人。

 数が少ないとは聞いていたが、そんなに少ないのか。

 強さや人気はないとしても……本当にレア職ではあるようだ。


「とにかくだ! 危険なことはないから引き受けてもらえないか?」


 まぁ今の俺に選択肢なんてほとんどないしな。

 余程怪しい依頼じゃない限り、返事は決まっているんだけど。


「……ち、ちなみに報酬はおいくらで?」


「前金で一万ゴールド、成功報酬で十万ゴールド追加で払おう」


「のったぜ!」


「おお、本当か?」


 即断した俺の返事に喜ぶセル。

 危険がないという言葉に賭けようではないか。

 不安を報酬が上回ったんだぜ。


「では、今日はもう遅いし、こちらも準備があるから明日朝、教会のアナセル支部に来てくれ」


「教会って? 何教の?」


「おかしな奴だな。女神アルターナ教の支部に決まっているだろう? 何を言っている」


 そんな当然のような顔で言われても……知らないよ。

 セル曰く、この世界の宗教は一つ。

 女神アルターナがこの世界を創造したとして、唯一神として崇められているとかなんとか。

 おそらく、あの爺さんが言っていたこの世界の管理者だろう。


「てか、今更だけど……二人はどういった?」


「ああ、そういえば話してなかったな。私はこの街の冒険者だ。で、こっちは……おい、シルク」


「ふぇ? ……あ、ええと……私は街の教会のシスターですっ!」


「……あ、ああ」


 慌てて返事をするシルク。

 ここまでセルが説明していたから、急に自分に振られるとは思っていなかったようだ。


「うん? 冒険者とシスターが結界修復の依頼?」


 ちょっとだけ違和感。


 街の安全に関わる結界の異常、話を聞くにかなり大事だ。

 普通ギルドマスターとか、街のお偉いさんあたりが依頼して説明するべきじゃないか?


「その……私は上とも繋がりがあるんだ。シルクも私も今回の仕事とは深く関係してくるしな。明日、現場で詳しいことを説明する」


「……わかった」



 少し気になったが、まぁ明日聞かせてくれるならそれでいいか。


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