仲間
「仲間の集め方を教えて欲しい?」
「はい」
異世界に来て三日目。
朝、宿を出てギルドへ。
ギルドに入って、早速ユリアさんに質問する。
ちなみにユリアさんとは先日俺を担当してくれた受付嬢だ。
一昨日ギルドを出る前に聞いておいた。
巻物を購入するお金を稼ぎたい。
だが一人で外を出るのは危ない。
ならば仲間がいればと……そんな安直な考えである。
「そうですね。基本的にはギルドの酒場で気の合いそうな人を探してコンタクトをとったり、掲示板を利用して呼びかけたり、あとはご相談いただいたパーティにギルドのほうから条件の合う人を紹介したりするんですけど。トールさんが探すとなると……」
「やっぱり吟遊詩人だと仲間集めって厳しいですかね?」
「……はい」
難しい顔をするユリアさん。
外れ職だし、そんな気はしたけどやっぱりそうか。
基本的にパーティは報酬分配やら戦闘でのバランスを考慮して四、五人で組むそうだ。
ジョブ構成は盗賊など罠解除や索敵などを行う職。
体を張って味方を守り戦う、戦士系の前衛職。
パーティを回復したりする神官などの支援職。
遠距離攻撃などで敵を撹乱し、臨機応変に立ち回る狩人や魔法使いなどの後衛職。
基本は大体こんな感じらしい。
こん中に歌えない吟遊詩人なんて需要なさそうだもんな。
「勇者や賢者などの職でしたら、上からも育成援助金が出ていたりと、低レベルの方でもギルドで色々と紹介しやすいんですが」
「なるほど」
「一応、仲間募集の紙はあちらの掲示板に貼られております」
俺は受付を離れ、ユリアさんが指差した掲示板の紙を見てみる。
募集しているジョブや要求レベルが書かれている。
全体の印象として人気があるのは神官などの回復職だ。
それでも、まぁ駄目元で少しあたってみることにする。
今んところ友達一人もいないし、寂しいしな。
同い年くらいの男三人組のパーティを発見、話しかけてみる。
「あの~少しいいかな?」
「なんだよ?」
「もしよければ俺と臨時パーティを組んでもらえないかな?」
俺の提案に顔を見合わせる男たち。
「まぁ俺たちは三人だし、もう一人くらい欲しいところだけど……ジョブはなんだ?」
「ぎ、吟遊詩人だけど」
「「「は?」」」
ジョブを告げると同時、三人から感じる嘲りの視線。
「はは……ぎ、吟遊詩人て……こいつまじかよ」
「うわ、俺初めて見たよ!」
「メチャクチャ外れ職じゃねえか」
どれだけ駄目な職なんだよ吟遊詩人。
だが、生きるためにはプライドだって多少は売れる。
金が貯まるまでの我慢だしな。
黙って俺を寄生させな。
「に、荷物持ちでもいいぞ」
「後衛職の荷物持ちなんて、すぐ体力切れで役に立たねえだろうが、バカか」
「……うわ、こいつ必死すぎる」
な……殴りてえ。
例え正論でも、言い方ってもんがあるぜ。
取り付く島もない。
これ以上話すと、喧嘩になりそうなので俺は離れる。
他にも何件かアプローチしてみたが、今ほど酷い断り方はされずとも結果は同じだった。
(仕方ない……か)
若干、禁じ手っぽくて気は進まないが、俺には一つだけ魔物への対抗手段がある。
それまでは多少の無茶も覚悟して挑むべきか。
仲間集めを中断し、俺は再びルルル草の群生地で採取に励む。
早く巻物を購入する資金を貯めなければならない。
(今日も暑い、マジで暑い……でも頑張ろう)
脱水症状にはならないよう、水だけは購入してある。
宿の女将さんに三百ゴールドを支払って、飲料水を水袋に入れてもらった。
宿には井戸があり、水を浄化する魔道具もあるそうだ。
黙々とルルル草採取を続けていく。
とにかく地道に時間をかけてやるしかない。
実はまだ、魔物が出現した原因の究明はできていない。
なのに何故危険な目にあった西の森でルルル草を? と考えるかもしれないが、北の山脈の方角でも街近くで魔物が発見されたそうだ。
それなら同じ依頼を受けたほうがわかりやすいし、まだマシだろう。
一応、ベテラン冒険者たちが近くを見回ってくれているそうだ。
まぁ絶対安全とは言い難いが、お金がないので働くしかない。
万が一ゴブリンが出てきた時のことも考えてはいる。
武器もない、魔法も使えない。
ならば……森の地形や環境を利用するしかない。
ガサガサっ!
「……むっ!」
作業中、草の動く音がした。
一瞬ゴブリンかと思ったが、姿を見せたのは同業者のおっさんだった。
「「…………」」
おっさんと俺の視線が交錯する。
「……ども、こんにち」
「ひいいいいいいいいいいぃっ!」
普通に挨拶しようとしたところ、おっさんは俺を見て走り去っていった。
なかなか失礼な男である。
夕方、袋一杯にルルル草を詰め終わりギルドへ帰還する。
カウンターで依頼の完了報告をする。
「ユリアさん、これ今日の分のルルル草です」
「はい、確かに……お疲れ様でした」
報酬、五千三百ゴールドを貰う。
荷袋は今回は自前、レンタルしたのがナイフだけなので前回予定していた報酬よりも少し多い。
「その、トールさん……あのですね」
依頼完了手続きを終えたあと。
口ごもりながらユリアさんが切り出す。
「ルルル草の採取依頼ですが、このままですと次からは受注許可できません」
「な、なんでですか? まさかゴブリンとは比較にならない強力な魔物が森に?」
「そうではなく、冒険者たちからトールさんにクレームが入っていまして」
「クレーム、ですか」
「はい。トールさんと森で会った人が、マンドラゴラの近くで作業しているから怖いと、物音がするたびに引っこ抜く姿勢をとろうとすると……」
「い、いや、それはその……武器がないゆえ仕方ないと申しますか」
まぁ、話を切りだされた時点でそんな気がしたよ。
最悪、ゴブリンにあっても引っこ抜けばどうにかなるからな。
抜いても俺は音波耐性があるから死なない。
「その、アレはあくまで魔物に対する念のための抑止力です。向こうが仕掛けてこなければ抜いたりしません」
「…………」
核保有国みたいな言い訳をしてみる。
だが、ユリアさんは納得していない様子。
「ちゃ、ちゃんと相手が人間か確認もしてますし……その」
「それでも、勢いで抜いてしまったと考えたらやっぱり怖いですから」
俺がどれだけ訴えても、彼女が首を縦に振ることはなかった。
「あ~~うぁ~~!」
夜、俺は一人ぼっちでギルドの酒場で飲んだくれる。
この世界で俺は大人なので、飲んでも問題はない。
(ったく、なんだかなぁ……)
この世界に来てからどうにもうまくいかねえなぁ。
嫌になってくるぜ。
ジョブも酷く馬鹿にされたし、ゴブリンに殺されそうになるし、泣きたくなるぜ。
「お姉さん! エールおかわり! あとサラミお願い!」
「は~い!」
お酒初体験だがやけ酒だ。
滅茶苦茶に飲んで忘れてやるぜ。
明日あたりお金減ってて後悔しそうだが、知ったことか!
なぁに今は夏だ。最悪一日くらい街で野宿したって死にやしねえさ。
飲んでるうちに自然と気持ちが興奮気味になってくる。
気持ちが明るくなってきた。
今ならなんでもできる気がする。
根拠のない全能感、これがお酒の力か。
「あははははは、お姉さんエールおかわり!」
「は~い!」
スカートを翻し、駆け回る従業員のお姉さん。
酔っぱらった客の相手も慣れているようだ。
俺がお酒を楽しんでいると。
「……おい、見ろよアレ。朝の吟遊詩人だぜ」
「お、本当だ」
エンジョイお酒タイムに水を差す声。
隣のテーブルで飲むのは朝の冒険者三人組。
「あ、そういや今日、知り合いから聞いたんだけど、あいつ前にマンドラゴラを引っこ抜いたらしいぜ」
「うわ、まじかよ……狂気すぎる、そんな奴と絶対に組みたくねえわ」
「いや、誰も組んでくれねえから、頭おかしくなったんじゃねえか」
「はは、そうかもな」
「……ああ?」
好き勝手言ってくれるじゃねえか。
馬鹿にされた俺は反射的に男たちを睨みつける。
朝と違い、お酒を飲んだせいで、お互い思考が攻撃的になっているようだ。
「なんだそのむかつく目はよ?」
「やるのかてめえ?」
「ハズレジョブの癖に、まさか喧嘩売ってるのか?」
「ふん、騒々しい奴らだな……せっかくの酒が不味くなるぜ」
「「「あんだと!」」」
向こうも大分酔っているようで。
こっちの挑発に声を荒げ、男の一人が背中のロングソードに手を掛ける。
脅しのつもりかもしれねえが。
「やめとけ、ソイツを抜いたら俺もコイツを抜くぜ……覚悟はできてんだろうな?」
「こいつ? って、ま……まさかその赤い花は」
俺は袋から、赤い花を出してちらつかせる。
てめえらの態度次第でいつでも抜くぞとばかりに。
「俺には戦闘力がねえが、コイツがあればお前らなんぞどうってことねえ。そんなチッポケな剣じゃ何もできねえ、仲間が何人いようが一瞬で仕留められるぜ、見せてやんよ無敵結界」
「は……ハッタリだろ? いくらなんでもよ」
「そ、そうだ……そうに決まっている」
「ああ、こんな人のたくさんいる場所でそんな真似したら……」
疑心暗鬼の男たちだが、もちろんハッタリである。
そもそも一度抜いたマンドラゴラは、再度地中に埋めたりしない限り鳴くことはないのだが……。
酔っているせいか男たちは気づかない。
「剣を引け……じゃないと、血の雨が降るぜ」
「「「っ!」」」
降るのは俺の血だけどな。
睨み合い、場が険悪な雰囲気になりかけた時。
「ちょっと! ギルド内での喧嘩はご法度ですよ!」
受付嬢のユリアさんが騒ぎを聞きつけ上から降りてきた。
男三人と俺を注意し、場を仲裁するユリアさん。
男たちは居心地が悪くなったのか、舌打ちをしてギルドを去っていった。
「もうトールさんてば、飲みすぎですよ」
「すみません。忘れたかったんです。嫌なこと、辛いこと、全部ね。俺はこの世界で無価値な存在な気がしてきて」
「ト、トールさん……な、なんでそんなに卑屈に、そんなことないですってば!」
愚痴を零すと、俺の頭に手を置くユリアさん。
姉が弟を慰めるように優しく髪を撫でてくれる。
「大丈夫です! トールさんに朗報ですよ! なんと指名依頼が入りました!」
「しめい、いらい? え? 俺に指名依頼?」
「そうです!」
確認するようにユリアさんを見ると頷いた。
指名依頼ってことは、あれだよな?
理由はわからんけど、たくさんの冒険者の中から俺を選んでくれたってことだよな。
「え? 嘘? こ、こんな俺に? 本当に?」
「はい!」
「俺を必要としている人がいると?」
「その通りです」
不安を打ち消す受付嬢さんの言葉。
俺を必要としてくれている人がいるとは。
すっごく嬉しい。
「セルさん、シルクさん……こちらが吟遊詩人のトールさんです」
ユリアさんの後ろから二人の少女が姿を見せる。
今のところ苦労してますが、ここからどんどん話が動いていきます
メインの魔法についてはもうちょっとしたら出てきますので