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女神マシマシ勇者抜きっ! ~俺と腐女神の同人活動~  作者: 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
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第五十九話 辿り着いた先で

「着いたのか?」

「多分……」


 カラフェンと別れてから二時間近くは歩き続けただろうか。俺とマリーの二人だけとなったパーティーは、ようやく魔王の居城があると言われる《死の山》の頂上へと辿り着いたのであった。




 しかし――。


「何もない……だと……!?」




 頂上には不自然に整地された広がりがあったものの、建物らしい建物など何処にも見当たらない。何せただひたすらに真っ平なのだ。ちっぽけな犬小屋がぽつんと置かれでもしていれば、すぐにもそれに気付けるレベルである。


「嘘だろ……こんなにも苦労して、ようやく辿り着けたってのに……。それに、マクマスさんやカラフェンさんだって――」


 きっとあの二人なら大丈夫――俺は訳もなくそう信じることで自分を騙し、振り返らずに前へ前へと進んできたのだ。その結果が今目の前に広がっている光景だなんて知ってしまったら、途端に心がざわめき始めた。


「くっそおおおおお! 魔王は! 魔王は何処にいるんだよ! 俺は一体、何のために……!!」

「お、落ち着いて! 落ち着いてよ、ショージ!」

「これで落ち着いてなんていられるかよっ! 今までの旅は全部無駄だった、ってことじゃねえか!」

「も――もう一度、ちゃんと確認して――」


 あ、と小さな悲鳴を上げたマリーの手から地図の書かれた羊皮紙を取り上げて、腹立ち紛れにびりびりに引き裂こうとして――くっそ!頑丈だな!――一向に歯が立たないのでくしゃくしゃに丸めて地面に叩きつけると、何度も何度も繰り返し踏みつける。


「はあっ……はあっ……」

「……」


 俯いたマリーは、息を荒げ大きく肩を上下させている俺から目を反らし、所在なさげに視線を彷徨わせていた。


「……おい」


 びくり、とマリーの身体が震えた。


 すると、急に俺の心に冷たさが忍び込み、あれだけ猛り狂っていた感情が冷水を浴びせかけられたかのように一気に醒めてしまった。こんなのただの――八つ当たりじゃないか。本当に俺は格好悪いし、駄目な奴だ。嫌になる。


「えと……ごめんな、マリー。もう大丈夫だから」

「……いいし。別に」


 マリーの返事は短く、硬い。


 改めて周りを見渡す。

 ついでにさっき散々踏みつけた地図をしゃがんで拾い上げ確認してみた。


「この地図に書かれている場所が間違ってた……って可能性はないのかな?」

「ないと思う。それ、一応は魔法具(マジックアイテム)なんだから。一枚一枚ペン入れしてる訳じゃないし、ペプルスさんとかの印刷所で刷った物でもないよ?」


 同人誌と同レベルで話すな。


「なら、ここには確かに魔王の居城が……ある?」

「ちゃんと探してみよう。ね?」


 頷き返し、マリーの提案に従うことにした。

 だだっ広い平地の端と端に別れ、念入りにそれらしい何かを見つけようと目を凝らす。


 だが、見た目には本当に何もない。何一つない。


 ごろごろと拳大の石ばかりが落ちている地面が延々続いているだけで、あとは見えない何かがあるんじゃないかと文字通り手探りで探すくらいしかなかった。


「そういえばさ――」


 それでも文句も言わずその行為を続けながら、俺は暇潰し半分でずっと気になっていることを尋ねた。


「何か言ったー?」

「そういえばー!って言ったんだよ!」


 距離が離れているので少し声量を上げた。


「いい加減、お前の持ってる《加護》が何なのか教えてくれよ!」

「な――なんでよ! 別に何だっていいでしょ!」

「もしかして、役に立つんじゃないかって思っただけだって!」


 他意はない。


「前にも聞いたことあったけど、その時もやっぱり教えてくれなかったじゃないか!」

「もー!」


 やっぱり嫌なのか――と思っていたのだが、


「ぜっんぜん使えないわよ!? だって、勇者の冒険を助けるような《加護》じゃないんだもの!」

「そっか……」


 正直、さほどアテにはしてなかったのでショックも微々たるものだったのだけれど、マリーには聴こえていなかったらしい。


「互いを愛しいと思い、慈しむ、そんな純粋な心を思い出させる、ただそれだけの《加護》なの! 自分の意志でコントロールもできないの! ね? 使えないでしょ!?」


 確かに冒険には――使えないな。


 でも、何だかマリーには凄くお似合いの《加護》だと思えてしまい、くすり、と笑ってしまった。


「な――っ!? な、何笑ってんのよ!?」


 で……こういうのは聴こえるのか。地獄耳め。

 いや、例の《念話》のせいなのかな?


 何だか妙に嬉しい気持ちになってきて、俺は大声で笑ってしまった。


「腐女神のお前らしいな――って思っただけだよ! いいじゃんか、カップリングの能力なんてさ!」

「あ――」


 そんな風に考えたことはなかったみたいだ。途端、マリーはくすくすと笑い始めた。


「そ、そうね! そうよね! ホント、あたしらしいのかも――」

「だろ?」






 ………………え?

 そう言って、振り返った俺の笑みが凍りついた。






「……マリー?」






 マリーの姿が。

 何処にも見当たらなかった。






「マ――マリィィィィィー!」






 そんな――。

 そんな馬鹿な!!






「冗談は止めて――う、嘘……だろっ!?」


 誰の気配も感じなかった。俺だって、一応、勇者の端くれだ。少なくともその辺にいるただの高校生に過ぎなかった元の世界の俺よりはそれなりに感覚が研ぎ澄まされている。少しは不穏な気配を察知することだってできる。


「返事を……返事をしてくれよ、マリー!!」


 答えは返らない。

 静寂だけが重くのしかかる。


「何処だ!? 何処にいるんだよっ!!」


 気付けばつんのめりそうな姿勢で走り出していた。必死になってマリーがいた筈の場所へと駆け寄り、ぶんぶんと無我夢中でやたら滅多らに手を振り回す。もしかして俺に見えていないってだけで、まだそこにいるんじゃないか――そう、思ったのだ。


「な、なあ、からかうのはやめろよ……! 出て来いって! お願いだから!」




 そうだ――。




「俺が悪かったって! ふざけるのはやめろよ!」




 ここは魔王の居城なのだ。




 そう思った瞬間、ぞくり、と背筋に冷たいものが滑り込んで来た。


「マ――マリィィィィィー!」


 次の瞬間のことだった。


 がこん!


 あ――と叫ぶ間もなく、俺の足元の地面が消え失せ、刹那の後に俺の身体は漆黒の闇の中へと吸い込まれてしまった。


「う……うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ぱたん。


 そして、辺りは元の静けさを取り戻した。




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