第五十四話 俺がお前でお前が俺で
「あら? 結局来るみたいよ?」
「じゃあ、ちゃちゃっと授けちゃいますか!」
手ぐすね引いて身構える女神たちだったが、
「え……?」
やがて現れたのは――。
「えええええええええええええええええええ!?」
眩いばかりに真っ白な歯を覗かせて微笑みかける、白銀の半甲冑に身を包んだ勇者の一団だった。
いや――正確に言った方がいいだろう。
元・勇者、マクマスの一団が、えっほ♪えっほ♪とスキップを踏むように足取り軽く現れたのだ。
「あれ、元・天上神で元・勇者のあいつじゃ……!」
と、大慌てで隣にいた筈の女神を見ると、
「う――うぇええええええええええええええ!?」
「ん? ……ぎゃああああああああああああ!!」
互いが互いの姿を見て仰天する羽目に。
無理もない――その場にいる誰も彼もが、一人残らずマクマスの姿になっていたのである。
「あ――あんた誰よっ!? さては――!」
「い、いやいやいや! あたしは女神ですって!」
しかも彼女たち女神は、今回の勇者出没の噂を聴きつけて方々から集まってきただけの言うなれば烏合の衆でもあった。誰一人、見知りの者がいないこの状況では互いを信用することができないし、己を証明する手段も持っていない。
「か、《加護》を授かりなさい!」
「わ、私は女神ですぅ! やめてえええええ!」
「喰らえっ! 《女神の敵》め!!」
「ひ――っ! あっちよ、あっち!」
見る間に、その場にいた女神を含め総勢二〇余人のマクマスが入り乱れた壮絶な《加護》授け合戦が始まった。俺たち四人もそれとなく授ける真似なんかをしてみたりしていたが、実のところ俺たちには誰が誰なのかはっきりと分かっていた。
いや……ちょっと違うか。
少なくとも俺たちは、正真正銘のマクマスが誰なのか、それだけは分かっていたのである。
「んふ♪」
しゅばっ! がしん!
……ちらっ。
お分かりであろうか。
「んふふ♪」
しゅばっ! がしん!
……ちらっ。
周期的に繰り返される独特の癖。何がどうあろうと自分自身の姿に見とれずにはいられない――そう、彼こそがマクマス本人だと俺たちは知っていたのだ。
冷静に観察すれば、この大混乱の状況下で剣を抜き払い、盾を構えるような大馬鹿者はマクマス以外にあり得ないのだが、すっかり恐慌状態に陥ってしまった女神たちはそれどころではない。
「もう! 嫌ああああああああああああああ!!」
とうとう《加護》の誤爆を喰らいまくっていた一人の女神が悲鳴を上げ、混乱の輪から抜け出して脱兎のごとくその場を立ち去ろうとする――その瞬間を俺は見逃さなかった。
すっと息を吸い、
びしいっ!!
「奴だ! 奴が勇者だぁ! 逮捕だあああああ!」
真っ直ぐに指さし、何故かダミ声になって怒鳴り散らした瞬間、女神たちの視線が一点に集中した。やっべ……つい、ノリで『逮捕だあああああ!』とか言っちゃったけど……。
刹那、時が止まる。
そして――。
どどどどどどどどどどどどどどどどどど……!
「う……嘘おおおっ! 違う違う違う違う違う!」
引き攣った笑みを浮かべた偽マクマスが全力で駆け出すと、それに呼応するように他の偽マクマスがそれを猛追する。その時、出遅れた偽マクマスの一人が俺の方を振り返って慌てた口調で尋ねてきた。
「あ――あたしたちも行く? 行くっ!?」
「うぉうぃ! 行ってどうするんだよっ!」
間違いない。こいつ、マリーだろ。
そのしょうもない会話を聴きつけたどうやら本人らしいマクマスが、しゅば!ちらっ!の動きを止めて俺の耳元で歌うように告げた。
「今のうちだね、勇者クン♪ 突破するよ!」
「お願いします!」
そうして俺たちは女神たちの包囲からまんまと抜け出すことに成功したのであった。
あ。
その前に、言っとくべき科白があった。
去りゆく女神たちを一瞥し、不敵な笑みを口元に浮かべた俺は、そよそよ吹く風にひょろりとした科白を載せて送り出した。
「あーばよーぉ! とっつぁーん!!」
あー……うん。
声真似の自己評価はせいぜい七〇点ってとこかも。
ま、誰も知らないだろうし、いっか。




