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女神マシマシ勇者抜きっ! ~俺と腐女神の同人活動~  作者: 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
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第五十三話 作戦を立てよう

「目下の問題は、この先に待ち受けているであろう女神たちをどうやってやり過ごすか、です」

「話をしてみる……ってのは駄目よね、きっと」

「それは最悪の選択肢だって」


 マリーの提案には即座に首を振った。


「こっちの話がどういうものにせよ、女神たちには聞く必要性なんてないんだからな。葵さんも言ってたけれど、勇者は飢えた女神たちにとってはただの《餌》でしかないんだろ? 経験値をたっぷりドロップしてくれるレアモンスターみたいなもんさ」


 代わってマクマスが左右の稜線を見上げながら気楽そうに言う。


「素直に迂回するしかなさそうだよね♪」

「なんですけど――」


 ロケーションは最悪だ。


 さっき休憩を取った丘から下り切ったこの場所は、左右の切り立った崖に挟まれ、途中に脇道なんてものはなかった。それでも女神たちを避けるため迂回コースを取ろうとすると、かなりの距離を引き返さなければならない。


「ああ、そうだ!」


 あれがあるじゃないか。俺はマリーにそっと耳打ちする。


「この前のあれ、まだあるのか? 女体化する奴」

「ははーん。癖になっちゃった、ってこと?」

「そーそー……って違うわボケ!」


 ノリツッコミしてる場合じゃないんだって。


「あれを使えば、正体がバレずに女神たちの間をすり抜けられるんじゃないか? あんなに大勢の女神がいたイベント会場でも大丈夫だったんだしさ」


 我ながら良いアイディアだと思っていたのだが、マリーは気まずそうに顔を背けた。


「あー……えーっと。あれね、あんま使わない方が良いみたいで」

「?」

「元々あれってば、一時的に性別を変えられる薬、ってことじゃなかったのよね」

「……おい」

「なんつーか、徐々に性別を変更するための薬っていうかー。繰り返し使用すると、元の性別にうっかり戻れなくなっちゃうっていうかー」

「うぉぃっ!!」


 なんつーもん飲ませるんだよ!


 喰ってかかりそうな勢いの俺を押し留めるようにマリーは手を突き出してぶんぶん!と何度も振った。


「どどどどのみちっ! もう三人分なんて残ってないもん! その案は却下よ、却下!」

「うーん」


 あと一回くらいなら行けそうとか思ったけど。手元にないんじゃあ仕方ない。


「こういうのはいかがでしょう?」

「お願いします」


 あとはありとあらゆる魔術を極めるだけの賢さを誇るカラフェンの類稀なる叡知に頼るしかないだろう。最後の希望を託した俺の願いの言葉に促され、カラフェンは細い顎に手を当ててこう進言する。


「私を含めた男三人を、女神・マリー様に運んでもらう、というのはいかがでしょうか。マリー様にはいささか骨の折れる役どころになってしまいますが、ただの荷物に姿を変えてしまえばさすがの女神たちもよもやそれが勇者だとは思いもしないでしょう」

「なるほど」


 さすがである。

 魔法使いでなければ思いつかない発想だ。


「魔法で姿を変えてしまえば! 変化の杖的な?」

「いえいえ! 違いますよ!?」


 そこでカラフェンは嬉々として表情を綻ばせ、両手の指をわきわきとリズミカルに蠢かせて見せた。


「いいですか? まずは一旦、我々の身体をバラバラにしてですね――!」




 ……あー。忘れてた。

 この人がある意味一番頭おかしいんだった。




「はい、ストップ。もう、いいです……」


 三組のピースで立体パズルをやろうって訳である。どう考えたって事故るイメージしか湧いてこなかったし、そもそもマリー一人で男三人分の肉塊を運ぶなんてことは、到底無理な話である。ヘラクレス顔負けのマッチョな体格のマクマス一人分だって運べるかどうか怪しい。


「じゃあどうすんのよ、馬鹿ショージ」


 さんざ頭を悩ませてひねくり出した作戦を否定された三人は、期待を込めた眼差しで俺を見つめる。


「つってもなあ……」


 偉そうに駄目出ししたのだから、ここは一つ、皆が思わず膝を打つような気の利いた作戦を思いつきたいところなのだけれど、普段から苛めっ子たちに追っかけられている訳でもないし、かと言ってその逆のヒーロー的な救出劇なんて見たこともやったこともない俺の頭では何も思い浮かんでこない。




 ……いや、待てよ?

 この世界には、オタクの愛するアニメや漫画やラノベなんて物は存在しないんだったよな?


 ということは、どのオタクでもすぐ思いつくような手垢まみれのベタ展開も、この世界の住人たちにしてみたら新鮮で斬新、ってことじゃないだろうか。




「ちょっと、ショージってば!」

「す、少し、ま、待ってくれ」


 焦り、苛立ち始めたマリーに肩を掴まれ、がくがくと揺さぶられながらも、必死で脱出劇が登場するアニメを脳内で倍速で再生していく。


 真っ先にヒットしたのは、両側にそそり立つ岩壁を崩して、女神たちが呑気にティーパーティーを開いている谷ごと落石で封鎖してしまうことだ。それこそ古くは三国志にだって登場するほど幾多数多の戦記物では常套すぎる戦略だし、『涅槃島』みたいなサバイバルホラーでもこんなシーンはあった筈だ。


 だが、正直この案は気乗りがしなかった。いくら追われる身だとは言え、彼女たち女神には何の恨みもないし、そこまで敵対している関係でもない。何よりいくらなんでも可哀想すぎる。怪我でもさせたら寝覚めが悪い。


「……いやいや。これじゃない」

「何がよ?」

「あー。こっちの話。もうちょっと時間をくれ」


 次に思い浮かんだのは――。


「カラフェンさん。たとえばの話ですけど、あなたの魔法で空を飛べたりしますか?」

「空を飛ぶ? いいえ、それは難しいですね」

「難しいって……できない訳じゃない?」

「出来ますよ。出来はします」


 言いにくそうな表情でカラフェンは続けた。


「正確に言うと、対象を空に向けて吹き飛ばす、ですけれど。受けたダメージの回復と無事着地する方法は各自で何とかしていただければ」

「……じゃ、いいです」


 そーらーを自由にー飛べないやー♪


「僕ならできるけどね♪ 着地と同時にタイミングを合わせて渾身の一撃で相殺すれば大丈夫だよ」

「それが出来るのはあなたくらいです」


 やってみせようか?と早速腰を浮かせて言い始めたマクマスを身振りだけで黙らせて座らせる。考えてもみれば、空を自由に飛べる魔法なんてものががあるくらいなら、この道中の何処かでとっくに見かけている筈だし、俺たちも《死の山》までひいこら徒歩で行く必要もないだろう。


 なら、次だ。


「さっきの話だと、何か別の生き物に姿を変える魔法、ってのは……ないんですよね?」

「ありますが、元に戻せませんよ?」

「――は無しで。たとえばですけど、俺たちの姿を相手からは見えなくしてしまう、なんて魔法はあります? 存在消失(ハイディング)とか透明化(インビジブル)みたいな?」

「ええ、ありますとも」

「ですよね……って、あるんですか!?」

「もちろんです」


 早く言って欲しい。

 期待を込めた眼差しでカラフェンに続きをせがむ。


「存在消失の魔法についてはあくまで対象者の存在が希薄になる程度ですので、気付かれにくくなる、といった程度の効果です。ですので、一点を注視されるとあまり効果は期待できません」


 じゃあ、今回は駄目だ。積極的に追ってこないってだけで、女神たちは俺たちがこっちの方角へ逃げ出したのをしっかりと認識している。当然、再び姿を現すことを予見して俺たちが来るであろう一本道に注意を集めている筈なのでこの手は使えないってことだ。


「透明化はどうです?」

「条件があります」

「お願いします」


 こくり、と頷きカラフェンは告げる。


「透明化の魔法の効果は、対象者の肉体を透明にしてその背後にある風景を映し出すというものです。しかし実際には、肉体そのものが透けて見える訳ではありません。一部の生物に見られるような、保護色のような物、と考えていただければより正確な表現だと思います」

「なるほど……で、条件って何なんです?」


 問い返すと、カラフェンは意外にもマリーの方を気遣う素振りを見せてから白状した。


「対象者は、まず全裸にならないと――」

「むむむ無理っ!!」


 だよなあ。


 ちょっとそんな予感はしてた。保護色ってくらいなんだから、何か身に着けていたら、当然そっちの方には効果は働かないのだろう。


「まあまあ。あれだぜ? マリーは別に女神たちの前に姿を見せようが、特に何か危害を加えられるって訳じゃないだろ? 無理にやんなくてもいいよ」

「だね♪ じゃあ早速――」

「ちょちょちょっ! いきなり脱ぎ出さないでってばあああああ!」


 普段より見惚れている自分の姿にはよほど自信があるようで、カラフェンの話を聞くや否や躊躇なく鎧や下穿きを脱ぎ始めたマクマスの行動に仰天したマリーが真っ赤になってそれを制止する。


「ににに荷物はどうすんのよ!」


 あー、それがあったか……。


「結局それ全部を運ぶのは、残されたあたし一人、ってことなんでしょ!? そんな見るからに重そうな大剣なんて引き摺らないと運べないし、どう考えたって怪しすぎるじゃない!」

「確かに」


 渋々頷く俺。

 が、マリーの主張はそれだけで終わらなかった。


「それにっ! あんたたちの脱ぎたてのほかほかしたぱんつとかあたしに運ばせる気なの!? 嫌よ! 嫌すぎる!!」


 逆の立場なら、むしろご褒美なんだけどなー。


「カラフェンさん、さっきの答え、もう一度確認させてもらってもいいでしょうか。何か別の生き物に姿を変える魔法はあるけど元には戻せない、でしたよね? だったら、同じ生き物へであれば変えられるし戻せるんでしょうか?」

「うーん……」


 カラフェンは脳内の膨大な知識の海の中から、それに近い物を探しているようだった。

 やがて、済まなそうに首を振る。


「やはり、物質を変化させる魔法にはそれなりにリスクがあるんですよ。恐らくご存じの、錬金術、というのもその代表でして。あれも結局、本物の金よりも高くついてしまいますし。ただのまやかし程度で良いのであれば、まだ方法はあるんですが――」




 ……へ?




「あ、あるんですか!?」

「え……ええ。ありますとも」

kwsk(くわしく)!」


 必要以上に熱意のこもった催促をされて、少し申し訳なさそうにカラフェンは言った。


「幻覚・幻影を見せる魔法がそれです。ただ、あなたのイメージしている物とは少し違うかもしれません。魔法をかけられた者は一定時間幻影を生み出す力を得て、その場にいる者の姿を、別の何かに変わったかのように見せかけることができるのです。もちろん対象を自分にしてもいいんですけど」


 そのう……私は得意ではなくて――とカラフェンは済まなそうに首を振った。


「行使者は、その間、ずっと幻影のイメージを頭の中で維持しなければならないのですよ。ずっと。ほんの一瞬でもイメージが揺らげば、幻影にも瞬く間にその影響が現れてしまいます。集中力と同時に、精神力も高くなければうまく作用しない魔法なのです。そうそう、マクマスはお上手でしたよね?」

「まあね♪」


 剣と盾を操る手を止め、歯を見せて笑った。


「でも、今回は駄目じゃないかな? 僕が使っても、その場にいる全員が僕に見えるだけだからさ♪ 他の誰かの姿なんて、考えるのも嫌だし、ね」




 全員が?

 マクマスに……?




「そ……」


 俺は咄嗟に閃き、歓喜のあまり絶叫した。


「それだあああああああああああああああああ!」




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