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女神マシマシ勇者抜きっ! ~俺と腐女神の同人活動~  作者: 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
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第五話 え? 俺、勇者なの!?

「元の世界ではどういう状況になってるんだよ?」

「あ、やっぱ気になる?」


 そりゃなるだろ。

 にしー、とかちょっと嬉しそうな顔すんな畜生。


「――でも、あたしはそこまで知らされてないんだよねー。来るべき時が来ればちゃんと元の生活に戻れるんじゃん? 多分」

「多分、って……」


 不安しかないんですが。


 思わず顔に出してしまった俺の落胆を目にしたところで、自称女神(ジャージ)は素っ気なく軽く肩を竦めてみせるだけだった。でも、さすがにいたたまれない気持ちにでもなったのか怒ったように続けた。


「そんな顔されても困るってば。元の世界に戻った後で、どうなるのかまでは知らされてないんだし。あの事故の前まで時間が巻き戻されるか、別の選択肢を選んだ状態で続きから始めるか……ま、そんなところじゃない?」

「ざっくりしすぎでしょ……」


 俺の呆れ混じりのコメントへの返答は沈黙だ。

 仕方ないので話題を変える。



「じ、じゃあさ、この世界では、俺は一体どういう存在なんだ?」

「勇者」






 ……ん?






 あまりに即答だったので理解力が働かない。聞き間違いかと思って無言のまま目の前の自称女神(ジャージ)を見つめていると、溜息とともに同じ科白が繰り返された。


「聴こえたでしょ? だ・か・ら、勇・者」


 二度も言わせないで、とその表情は語っていた。


「あんたは、勇者としてこの世界に召喚されたの。正確には、これ以上クレームが拗れることがないように、勇者っていう高待遇で迎え入れたってこと。分かった?」






 次の瞬間――。


「よっ――しゃああああああああああああああ!」


 ようやく理解力が追い付いた俺は、渾身の力を込めて両拳を天高く突き上げ叫んだ。






 が、


「……うっさい!」

「ス、スミマセン……」


 怒られちゃったよ。






 しかし、そんなことで怯んでいる場合ではない。


 遂に俺は、永年恋い焦がれてきた異世界召喚ライフのスタートラインに立ったのである!






「な? な!?」


 くっそ。駄目だ。

 興奮が抑えきれない。


「そ、その、勇者、ってのは……やっぱ、常人とは異なる力を備えた存在なんだろ? 全能力チート的な? 勇者だけが持つ秘められた《力》みたいな物まで備わっていたりなんかしちゃったりしてさ!」


 異世界の住人相手に『チート』などというゲーム用語が通じるかどうか一抹の不安がないでもなかったが、目の前のげんなりした表情を見る限りどうやら問題なかったようだ。熱のこもり過ぎた矢継ぎ早の質問に露骨に嫌そうな表情を浮かべつつも、自称女神(ジャージ)は渋々答えてくれた。


「この世界の普通の人間と比べたら、身体能力はずば抜けて高いんじゃない? そうね……概ね五倍ってとこ。勇者だけが持つ《力》っていうのは、おいおい獲得していくことになると思う……けど」

「けど?」


 最後に言い淀んだ彼女の態度に違和感を覚え、せがむようにそう繰り返したところで自称女神(ジャージ)はさっきの続きとは違う、別の科白を吐いた。


「ねえ? さっきあたし……言ったよね?」

「?」

「覚えてない?――何もしないでって言ったこと」


 確かに聞いたけど。

 呆れたように薄く笑って何度も首を振り返した。


「いやいやいやいや。あなたはこの世界に勇者として召喚されました、なので、何もしないで下さいね――って聞かされて、はいそうですか、って即答する馬鹿いないだろ!」

「時間ならあげるけど? いくらでも」

「じゃなくて! 熟考したところで答えは同じだっつーの! 待望の勇者なんだぞ!?」


 待望していたのはこの世界ではなくむしろ俺だが、この際それはどっちでもいい。


 しかし、


「……いい? だったら少しだけ説明してあげる」


 一気にヒートアップした俺とは対照的に、自称女神(ジャージ)はすっかり冷え切った口調になった。


「お生憎様だけど、この世界にもう勇者はいらない。余ってるの。むしろ普通の人間の方が割合としては少ないくらい。だから、あなたは何もしなくていい――そう言ってるんだけど?」

「え……」


 何だよそれ……勇者が余ってる?

 さっぱり意味が分からなかった。


「じ、じゃあさ! 何だってそんな世界に俺を召喚したんだよ!?」

「こっちにもいろいろ事情があるの。いろいろね」


 その事情とやらを是非とも小一時間あまり問い質したいところだったが、一方の自称女神(ジャージ)にはそれ以上話す気はないらしかった。


「……じゃ、あたし、忙しいから」

「お――おいいいっ!」


 またもや扉の向こうへと姿を消そうとしている自称女神(ジャージ)を必死で呼び止める。


 っていうか、その《扉》何なの?

 奥行ゼロなのに、開けると中に部屋があるって。


 ツッコんじゃいけない雰囲気は分かるが、どう転んでも、某ネコ型ロボットのアレっぽい。


 なのか。

 どうなんだ。


 開いた扉に足を一歩踏み入れ、そこでわずかに立ち止まった自称女神(ジャージ)は、振り返るのも億劫そうに背中越しに告げた。


「……一応言っておくけど。アレとは違うから」


 ついでに自称女神(ジャージ)は、


「あとっ!」


 肩を震わせながらこうも言った。


「いちいち脳内であたしを、自称女神(ジャージ)って変換するのやめてくんないっ!?」


 ばたん!


 呆気に取られた俺の目の前で扉は閉じた。

 堪え切れずに俺は叫び声を上げる。


「心読めるなら、他の疑問にも答えろよおおお!」


 そしてまたも放置されるらしい。

 もうやだこの世界……。


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