表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神マシマシ勇者抜きっ! ~俺と腐女神の同人活動~  作者: 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
PR
49/77

第四十九話 《王の左手》

 次は、向かって右に立つ純白のローブに身を包んだ男の番だ。


「私は……ええ、今は《王の左手》などと呼ばれておりますね。名は……カラフェン、魔導士です」


 控え目にそう名乗りを挙げたカラフェンはローブのフードを取り去り、憂いを帯びた瞳を細めて微笑んでみせた。物静かな、いかにも優し気で少し翳のある痩身の青年である。


 今度は――大丈夫そうだな。

 と、隣のマリーを見ると、


「おい。まさか」

「あー……。うん、知ってる」


 マリーの血の気を失ってすっかり蒼褪めた表情は、マクマスを見た時よりもむしろ酷くなっていた。


「解説PLZ」

「博士キャラ扱いはやめてってば」


 それでも渋々ながらもやってくれるところがマリーの良いところである。


「あたしが知っているカラフェンという男は、マクマスと同じく元・勇者で、そして……神になれなかった男よ」

「なれなかったって……失敗したのか? 討伐に」

「そ、それは――」

「では、ありませんよ、勇者・ショージ」


 言い淀む素振りを見せたマリーに代わって、カラフェン本人がゆっくりと続く言葉を繋いだ。


「神々がそれを認めず、私がそれを受け入れた――ただそれだけのことです。私には神になることよりも、もっと望んでいたことがありましたので」

「――!?」


 と言うことは、拒否権はあるってことなのか!?

 俺にとって、その情報は値千金だ。


「おい! 拒否できるなんて聞いてないぞ?」

「お、落ち着きなさいってば!」


 詰め寄るように小声で問い質すと、マリーは苦い物を噛み潰したような顔で囁き返した。


「……聞いたでしょ? 重要なのはそこじゃなくって、神々が《神成り》を認めなかった、ってところよ。ちゃんとその理由を聞いてみたらどうなの?」

「む」


 確かにそこは気になるな。

 俺は変わらず静かに佇んでいる魔導士に問う。


「何故、神々は認めようとしなかったんです?」

「それは、ですね――」


 ふ、と薄い笑みを浮かべ、カラフェンは答えた。


「きっと、私の悲願がお気に召さなかったのではないでしょうか。さっき申し上げた通り、私には望んでいたこと、どうしても知りたいことがありましたので。聞きたいですか?」

「それは、まあ……仲間になるんだし?」

「なるほど。では――」


 こほん、と咳払いをして、カラフェンは大きく天に向かって両手を広げた。


「私は、この世のありとあらゆる魔法学を修めた魔導士であると同時に、治癒や蘇生にも長け、各地に伝わる医術も学び修めました。ですが、それでもなお、私には知りたいことがあったのですよ」




 今度は剣じゃなく、魔法側のチートキャラか!


 凄い。

 凄すぎる。




 ……だけに、否応なしに不安が募ってきた。




「ええと……その、知りたいこと、って何です?」

「ヒト、という生き物について、です!」


 キラキラと目を輝かせて答えるカラフェンの表情は好奇心に満ち、夢と希望に溢れていた。だが、彼の口にした、ヒト、という表現がいやに引っかかる。


「もうちょっと、聞いてみても?」

「もちろんですよ!」


 カラフェンは興が乗ってきたのか、左手をそっと胸に当て、右手を差し出し歌い上げるように言った。


「ああ! ヒトという生き物の何と素晴らしいことか! その身体には数多の不思議が詰まっているのです! 魂とは、心とは、一体その身体の何処に宿っているのでしょうか? 夢とは、どのような仕組みで見るものなのでしょう? かつての前世の記憶? それとも別次元の自分の姿? 痛みとは、単なる肉体の反射行動? それとも感情なのでしょうか? ああ! 知りたい! 知りたいです!」


 もはや恍惚となって歌い上げるカラフェンの姿に、底知れぬ恐怖に似た感情が湧き上がってきた。


「ですので!」


 最後にカラフェンは叫んだ。


「見てみようとしたのです! 私は! 知ろうとしたのです! 私は! そう、自分の身体で!」




 ………………え?

 ぞくっ、と寒気が走り、俺は震えた。




 その目の前でゆっくりとカラフェンがローブを脱ぎ、その下に隠されていた素肌を晒す。


「切り刻んだのです。自分自身を」

「!?」


 カラフェンの痩せこけた身体には、直視するのも憚られる夥しい縫合跡があった。申し訳ないが、俺は込み上げてきた吐き気を押し戻すので精一杯の有様だった。


「自分を……バラバラに切り刻んだ……?」

「その通りですよ、勇者様」


 そこでカラフェンは悩まし気に眉根を寄せる。


「しかしですね……そこが神々にはお気に召さなかったようなのです。いえ、ね? 私とて、神になぞなるつもりはさらさらなかったもので、かえって好都合だったのですが――」


 きっと真っ青になっているであろう俺の様子をどう間違えたのか、カラフェンは一転、朗らかな微笑みを浮かべてみせた。


「ああ、気になりますよね? 一番多かった時で、四十八分割までやってみました!」


 うげっ、聞いてねえってば……。


「ただ……あの時は本当に焦りましたね。何せ、バラバラになった身体を縫い合わせるための両手まで興奮のあま――いえ、ちょっとした手違いでバラバラにしてしまったもので、どうしたものかと途方に暮れてしまいましたよ……」


 想像しちゃ駄目。

 想像しちゃ駄目だ。


 つーかこの人、今、興奮のあまり、って言いかけたよね?


「まあ、人間、死に物狂いになれば必ず何とかできるものです! その時は口と両足を使って、何とか元通りに戻しました! 本当ですよ!?」


 半分ジョークのつもりで《王の左手》カラフェンことマッドな魔術師は、実に楽し気に、あっはっは、とか笑っていたが、俺とマリーはとてもそんな気になれなかった。




 かたや《超絶ナルシスト》の凄腕剣士。

 かたや《人間レゴブロック》のマジックマスター。




 またもや玉座の上でうつらうつらしている老王に向けて、俺は助けを求めるように訴えた。


「ええと……済みません老王。チェンジで!」

「ふがっ……! ん、んあ?」


 良かった、起きた。

 涎が伝い落ちる顎髭をしごきながら老王は言った。


「いやいやいや。チェンジは無理じゃよ。もうその者たちくらいしか、この地には冒険者はおらんのじゃから。きっと役には立つじゃろう……多分」

「多分は余計ですってば。余計に不安になる」


 確かに老王が言った通り、他に選択肢はない。それに、そもそも彼ら二人をこの地に遣わしたのは、あの葵さんなのである。それを頼みに信頼するしかなさそうだった。俺は咳払いをして言う。


「じゃあ、二人とも……共に魔王を討伐する仲間として、改めてご協力をお願いできますか?」


 少し意外だったけれど、マクマスとカラフェンの二人はその場に片膝をつき、ほぼ同時に迷いのない声で高らかに応じる。


「我ら《王の両手》は忠誠を誓うことをここに約束する。共に魔王を討とう、勇者・ショージよ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ