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女神マシマシ勇者抜きっ! ~俺と腐女神の同人活動~  作者: 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
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第三十話 勝利のサインはV

 《輝かしい初戦を勝利で納めるために》


 一.サークル配置図のチェック。

 二.大手サークルからの情報収集。

 三.ネットを使った新刊情報の拡散。

 四.当日持って行く物の準備とチェック。

 五.注目されるための雰囲気づくり。






「へー」

「へーじゃねえだろ……」


 リアクション薄い。

 もう少し感心してくれたっていいじゃんか。


「一に関しては、イベントの直前にならないと分からないかも知れない。しばらくしたら運営側から申込完了の通知が届く筈だから、その時にはさすがに配置図も出来上がってると思うんだ」

「ん?」


 マリーは不思議そうに首を(かし)げた。


「えっと。スペースナンバーってのはもう決まったんじゃないの? さっき言ってたじゃん?」


 よく覚えてたな、偉い。

 そして、意外。


「じゃなくてさ。自分たちの周りの状況を知るために必要なんだよ。会場の中でどの位置になるか、とか、両隣に来るのはどんなサークルなのか、とかだ。大規模なイベントだったらある程度ジャンルごとに固められて配置されるものだけど、今回のはそこまで大きくないみたいだからな」

「へー」


 最後のはかなり推測混じりだったが、何せイベントの約一ヶ月前に二次締切を設定しているくらいだし、参加申込とほぼ同じタイミングでスペースナンバーを割り当てているっていう運営のやり方を見る限りは間違いないだろう。




 コミケの場合を例に挙げると、それぞれのサークルは、属するクラスタごとにまとめられて配置されていく。一般向けかエロありか。百合向けか腐向けか。オリか二次か。そんな具合にだ。二次創作系の場合には、どの作品の二次創作なのかでさらに細分化されていく。人気作品の二次創作ともなれば一大勢力を形成するのだが、一方マイナー作品だとそれらの隙間にこしょこしょ捻じ込まれる感じになる。


 そもそも公式が存在しない《ノア=ノワール》で開催されるイベントなので、全てオリジナルってことになるのだろうけれど、いくら参加者が女神ばかりだからといってその全てが腐向けだとも限らない。それにたとえ腐向けばかりだったとしても、微妙な嗜好の違いはあって当然だ。調べておいて損はないだろう。




 また、会場内のどの位置に配置されるかは非常に重要である。


 ブロック状に配置されたサークルスペースには、その長四角い形状から必然的に当たり外れが存在する。机二つの短い辺は『お誕生日席』などとも呼ばれ、目立ちやすく、興味を集めやすい。対して長い方の辺の中間辺りは『島中』だ。ここに配置されてしまうと参加者の多いイベントでは見つけにくく、あっさり通り過ぎられてしまうこともある。実際、お目当てのサークルがなかなか見つけられずに途方に暮れてしまった経験が俺にもあった。ま、原稿落として当日不参加だった、と知ったのは次の日だったんですけどね……。




 それらとは一線を画す存在、それが『壁』である。


 そこに堂々と(きょ)を構えるサークルは、畏敬(いけい)の念を込めて『壁サー』などと呼ばれることもあり、それなりの参加経験と実績を積まなければ決して配置されることのない選ばれた存在である。


 何故壁際に配置されるかと言えば、それは言うまでもなくその人気の高さ故であり、購入しようと殺到した参加者たちによって必然的に長い行列が出来上がってしまうからだ。場合によってはその列を会場の外へと逃がし混雑を回避するケースもしばしば見受けられる。


 これが灼熱の夏コミだったりすると余裕で死ねる。

 購入制限があった場合には死んでもリスタするけど。


 あと、地味に出入り口とかトイレの位置とか重要。って、女神はトイレ行くのか?




「二の情報収集は、葵さんからってこと?」

「ま、そうだな」


 葵が自分からそう名乗った訳ではなかったが、神絵師SNSの運営をしていたりするし、日々そこに集うユーザーの言動を観察していた限りでは、イベント常連の大手サークルに所属しているのではないかと思われた。


 しかし、


「けど、だけ、じゃ駄目だ。他のサークルの人とも出来る限りコミュニケーションを取っておきたい」


 葵だけのツテでは心許(こころもと)ない。

 頼りないという意味ではなく、量の不足である。


「何せ俺たちは初参加なんだし、先人に学ぶべきところはいくらでもある。この先、助けてもらう場面だってたくさん出てくるかもしれない。俺も暇を見つけてやるようにするから、お前も神絵師SNSにアクセスして、そこに来ているユーザーたちと積極的に交流するようにして欲しいんだよ」

「了解したわ」


 ただこいつの場合、ちょっとガードが甘いところがあるから、変な(やから)(から)まれないように注意しとかないといけないなー。


「で、三は宣伝、っと。具体的に何をしたらいいの?」

「そこは任せてくれ。俺がやるから」


 そもそも説明したところで全てを理解させられる自信もなかったので、小難しい顔をしているマリーに力強く頷いてみせる。


「ただし、まりりー☆先生にはなるべく早く原稿を完成させられるよう作業を進めて欲しいんだけど」


 ようやっとネームがまとまりつつあるという段階なので、マリーは、うっ、と(うめ)き声を漏らしたが、


「だ、大丈夫だって。全部じゃなくても良いから。とりあえず、二、三ページもあれば何とかなるんだ。……実はさ、それをサンプルとして公開しようと思ってるんだ」

「立ち読み、みたいなもの?」


 おい。

 コンビニ何それ美味しいの?って世界なのに、どっから出てきたんだよその概念。




 俺が知っている《ノア=ノワール》は、呆れるほど文化レベルが似通っているマリーの所有するこの閉鎖的な空間と、ひと昔もふた昔も時間が巻き戻ったような牧歌的な風景が広がるアメルカニアのいずれかしかなかった。少なくとも下の世界には書店なんてものはないだろう。あったとしても、禁忌(きんき)の呪法を書き連ねた埃まみれの魔導書とかが並んでいそうである。そんなものを気軽に立ち読みされたら大惨事だ。


 ま、俺がまだ知らないってだけで、天界にあるのかもな、コンビニ。行ってみたい。




「あー。ま、そういうことだ」

「がんばりまーす。ううう……」

「俺も手伝えることがあればやるから。次は――」


 早く次の話題に変えたかったらしいマリーは、少し、ほっ、としたように笑って言った。


「四はさっきのそれでしょ? もう終わったわね」

「え? 全部揃ってるのか? それは助かるけど」

「ないわよ?」

「……はい?」


 馬鹿なのこいつ。


「買わないと駄目なのもあるわよ、そりゃ。テーブルクロス?なんて、あたし持ってないんだし。でも、Amazin(アメイジン)で注文すれば、明日とか明後日には届くでしょ? 常識じゃない」


 そう言って面倒臭そうに立ち上がったマリーは机に向かうと、今言った通販サイトにアクセスする。


「ほら、ここ。あーそっか。こーんな便利なサイト、あんたの世界にはないんでしょ、馬鹿ショージ?」


 ある。

 ありすぎて逆にツッコミづらい。


 もうここまで来ると、元の世界とこの世界、どっちがパクってるのか自信が持てなくなってきた。


「えっと……どういうのがいいかなー?」


 そこで急にマリーは声のトーンを跳ね上げた。


「ちょっとっ! そこで複雑そうな表情浮かべて顔のデッサン崩してる人っ! こっち来て一緒に選びなさいよ! ほら、空けたからここ座る!」

「お、おう」


 そこに?


 仕方なくマリーが指し示したそこに座ってみる。


 ぴと。


 狭いスペースにこわごわ腰を降ろした途端、マリーの太腿が密着してきて、ジャージ越しにほんのりした温度が伝わってくる。狭い。そして途轍(とてつ)もなく落ち着かない。


「あーこれ、かわいくない? こっちもいいなー」


 もぞもぞすんなってば。

 子供かお前。落ちるだろ。




 それにしても――ホント楽しそうだよな、こいつ。

 最初に会った時の印象、どっちも最悪だったけど。




 何がきっかけになったかなんて分からない。自分の妄想を認め、それと真剣に向き合うことを決めたからだろうか。だといいな、と思ったりする。


 妄想は恥ずべき事――。

 妄想してしまう自分は悪――。


 マリーを苦しめていたその負の感情から、彼女の魂を解放してやれたということは自分にとっても喜ばしいことだったし、大袈裟なのかもしれないけれど誇りにすら思えた。何だか自然と表情が(ゆる)んでしまう。その上、そのマリーとともに同じサークル仲間としてイベントに参加するという、共通の目標に向かって突き進んでいる今のこの状況が楽しくて仕方なかった。


 うまく行くこともあれば、つまらない失敗でぎゃーぎゃー言い合うこともあるだろう。それはこれまでもそうだったように、これからもずっと同じだ。






 けれど、成功しようが失敗しようが、ホントはどっちだっていいのかもしれない。






 それはきっと――。






「ねーえ? ちょっと! 聞いてるのっ!?」


 すっかりうわの空になっていたらしい俺の態度に(しび)れを切らしたマリーが苛立ち混じりにそう言って、顔を振ると――。


 う……うわわわわわっ!!


 直後、


 ごしゃっ。


 と良い匂いのするヘッドバッドが俺の顔にめり込んで、目の前に無数の星々が煌めいた。

 キラッ☆。


「ななななんであたしの方見てんのよっ!?」

「みみみ見てないっつーの!」


 ううう。鼻の奥がつーんとする。

 大丈夫、まだ顔はある。消し飛んでない。


「ちちちちゃんとスクリーン見てたってば!」


 俺はつい、こう口走っていた。


「お前の方こそ、何で顔真っ赤にしてんだよ!?」






「えっ」


 マリーがフリーズしたのは一瞬だった。






「ううううっさいっ! 馬鹿ショージのくせに!」


 すぐにも震える指を突き付けながら喚き散らす。

 俺が先端恐怖症なら漏らしてる。近怖い。


「あんただって、顔真っ赤じゃないのっ!」






「えっ」


 そんな馬鹿な。





 思わず顔に手を伸ばしかけて、やめた。

 ここで確認しちゃうと決定的な気がしたからだ。


「ままままさかっ!」


 さらに手ブレが激しくなったマリーは、あろうことかこう言ったのだ。


「びびび美少女神であるあたしに欲情して、脳内でああああんなこととかここここんなこととか考えてたんじゃないでしょうね!?」


 えー……。

 有難いことに、その一言で一気に顔の熱は去った。


 げんなりしつつ、俺は平坦な声で言う。


「わー馬鹿ですぅー馬鹿ですぅーこの人。そんなことー、ナノミクロンも考えてないですぅー」

「スススライムとか触手とかまで持ち出してっ!」


 先生、妄想がすぎます。


「もうあたし、堕天しそう……ううう……」


 あと堕天はやめような。

 まだ世界は、お前を受け入れられるほどタフじゃないんだぜ。




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