〜存在理由〜
布中、都心に近く比較的快適な土地である。
環境的に…都内のわりには緑が多く、故郷である愛媛の新居浜市に若干類似している事もあって住みやすい。この俺、長門龍紀(19)は布中に住んでいる東京農工大学一年生。大学生活は俺の予想に反してもかなり忙しいしかなり厳しいがやってる事自体は結構好きなので頑張っている。俺の専攻は遺伝子工学…ってもよくわからんだろ?ああ…つまりだな簡単に言うと、
生物の遺伝子を操作して新しいもの作ったりするのを研究してんだ。興味ねぇか…
まっ、今日は日曜日で大学は休みなわけで、サークルとか部活はサボるわけで、後諭吉さんとか!樋口さんとか!野口さんとか!色々欲しいってわけで!!バイトに向かってるのさ。
因みに俺はバイトを二つしている
一つは調布の便利なショッピング街ブリックモールにある人気店のメイド喫茶ファミーユの執事。
メイド喫茶に何故執事がいる!?という突っ込みはよしてくれ…逆に俺が聞きたい位だ!!
っと、腕時計で時間を確認。まだ七時半大丈夫だ。しかもブリックモールの正門についてるし。バイトまでにはまだ30分時間がある急ぎ足だった俺は足を止めて背伸びをした
龍紀
「ふぃ〜良い朝だ。」
???
「こんな晴れた日は大好きな人誘って〜♪行きなさ〜い♪」
この元気な歌声…
「えっと…由飛さん?」
俺は振り向いた。
由飛
「あっ、龍紀君じゃないですかぁ。おはようございまぁ〜す。」
彼女の名前は、花鳥由飛東京芸大の音楽科に通う大学一年生。因みに訳あってダブリンしているらしい。詳しい事は知らん。容姿はロングストレートで胸ボーンの美少女。特技はピアノ、だが握力は異常。俺も始めはそれを知らずひどい眼にあった。俺のバイト先ファミーユの旧メンバーの一人であり、天然ドジっ子キャラとして定着している。
龍紀
「ハヨザイマース。なんか相変わらずポヤポヤしてますね。」
由飛
「ムッ…それは私が天然でおっちょこちょいなドジっ子だと言いたいんですか?」
龍紀
「嫌々、俺は今日も元気そうに歌う…由飛さんが可愛いな癒しになるなぁ〜という意味で…」
???
「嘘ね。姉さんこの男に騙されちゃ駄目よ。」
突如後ろから声を発したのは…
龍紀
「うわっ…カトレア」
ドガンッ!!
稲妻が落ちた!!稲妻が落ちたよ今!!しかも眉間にシワなんか寄せたりして…
玲愛
「っつ!!あんた、何度言ったら分かるの!?私の名前は…た・か・む・ら・れ・あ!!」
高村玲愛バイト先の実質上店長…本当は旦那さんが店長なんだけど旦那さん尻にしかれてるからな…叔母がドイツ人のクォーター。金髪ツインテールにつり眼の超美少女。勿論超モテる。但し黙っていればの話だが。由飛とは姉妹だが、高村仁、店長と結婚してから姓が変わったのだ。何でも周囲が呆れる程の熱愛だったとか…
龍紀
「玲愛こそいやだなぁ、そんな人を姑息な詐欺師みたいな言い方しちゃって…」
玲愛
「実際あんたは姑息なのよっ!!大体いつもいつも…って無視して行くな〜っ!!」
あまりにも説教が長そうだったので由飛さんと店に向かった。
ファミーユ
玲愛
「じゃ、着替えてね…今日は大変だから。」
龍紀
「けっ。いつも大変じゃねぇか…」
実際この店の人気は凄まじい。ケーキなんてあっという間に売れてしまうし、行列も出来る程だ。
因みに元々ここは俺の行きつけの店で紅茶やケーキがとても美味しいのは言うまでも無くなんせ値段がとても安いという事だ!!貧乏な学生にはもってこいの場所なのさ。
内装や外装は西洋アンティーク等でヨーロッパの雰囲気を出している。さぁ…今日も一日頑張りますか…俺は、更衣室から出るとウエイターとして位置についた。そんな時だった。
玲愛
「仁が悪いんでしょ!!」
やれやれまた始まった…
???
「なんだと…お前俺が幾ら頑張っていると思ってんだ!!しんどい思いして働いてんだぞ!」
玲愛
「それは皆同じよっ!!」
金髪蒼眼の美人メイドがギャルソンの若い男の襟を締め上げる。
???
「くっ苦しい…玲愛苦しい…」
この喫茶店を営む夫婦、ギャルソンを締め上げているメイドが高村玲愛であり、今にも窒息死しそうなギャルソンが高村仁一橋大学経済部卒で店の経営者もといオーナーである、因みにシスコン…なんでもその仲睦まじさからこの二人はブリックモールの名物だとかそうでないとか…
俺はニヤニヤしながらその光景を眺めていたがこれ以上ほおっておくと殺人事件に発展しかねないので口を開く
龍紀
「もうその程度でかんべんしてあげなよ…」
俺がそういうと玲愛は、振りかぶって…投げたっ!?
ブンッ!!
ガシャン!!!
あ、危ねぇ!!ティーカップを投げやがった!!
玲愛
「これは、あたし達夫婦の問題なので、部外者は黙れ…」
目が笑ってない…怖い、怖すぎる…
とその間に正気に戻った仁さんが…破れたティーカップを見て
仁
「ウガァアア!!!マイセンがっ!!マイセンがっ!!」
破れた奴マイセンだったんだ…気の毒に
説明しよう、マイセンとは…言わずと知れたドイツの名門ブランドで、ロワイヤル(英国王室御用達)にもなっている。分かると思うが値段は高い。
仁
「玲愛っ!!」
仁の目が変わる…
玲愛
「何よっ!!仁が悪いのよ大事な大事なあたしの誕生日を…。」
どうやら玲愛さんは誕生日を忘れていた事を怒っていたようだ。そりゃあ怒るわな…二、三ヵ月前に結婚したばかりの新婚さんだもんな…
玲愛
「えぐっ…仁はあたしを愛してくれないの?」とうとう泣き出してしまった…
仁
「なっ…馬鹿野郎がぁ!!俺はお前の事を愛してる!!一万年と二千年前から愛してるに決まってるだろが!!!」
おいおい、そのセリフは色々な意味で不味いぞ…
気がつくと仁さんは、玲愛の唇を奪っていた。
玲愛
「んっ。…っふむ!!」
うわー…まあ、この夫婦だから仕方ない。熱々夫婦だからな。突っ込んでも仕方ない、うん仕方ない。
玲愛
「仁…ゴメンね。」
仁
「俺こそ悪かった…お前を騙したりして…」
玲愛
「えっ、…どういう事?仁は私の誕生日を忘れてたんじゃないの?」
仁
「はいっ。」
仁さんは玲愛に小さな箱を渡す。
玲愛
「これって、私がこの前いいなぁって言ってたブレスレットじゃない…高かったでしょ…」
仁
「まぁな。でもお前の笑顔が見れたから俺はそれで…」
玲愛
「仁…」
見つめ会う二人…そして一匹のお邪魔虫…
龍紀
「あの〜開店時間なんすけど?」
二人は、はっとなって俺の方を見る。
玲愛
「あんた、い、いたんだ、。」
玲愛が慌てて場をとりつくろう。いたんだって…あんた今さっきマイセンを俺目掛けて投げつけただろが!!仁さんは…
仁
「さ、仕事仕事…」
この人も同じか…やっぱり似た者同士は仲がいいのかねぇ…
玲愛
「皆、集まって〜」
龍紀
「皆って言っても俺と仁さんと玲愛と由飛さんの四人しか今日はいないけどな。」
玲愛
「あんたは、相変わらず、あぁ言えばこう言うわねぇ!?まぁ、いいわ。今日は日曜日だからお客様も多いし大変だけど頑張りましょう。厨房はあんたに任せるわよ龍紀。姉さんと私は接客。仁はカウンター兼レジね。それじゃ行くわよ。はいっ、解散。」
ちょっと前までは真向かいの有名チェーン店CURIOのリーダーだった玲愛は適応性やスキルが高い。流石だ。どっかの姉とは大違いだ。チラッと由飛さんを見る
由飛
「何か馬鹿にされてる気がするんですけど。」
龍紀
「気のせい。気のせい。メイド長、質問でーす。何でウチの主戦力であるパティシェの恵真さんとかすりさんが不在で俺なんかがクッキングしなきゃ駄目なんすか?」
玲愛
「家の用事だそうよ。あんた万能だしどうせ出来るんでしょ?」
龍紀
「嫌々、俺ケーキとか作った事無いし。」
玲愛
「………人間やれば出来るのよやれば。」
龍紀
「あんた、俺を何だと思ってる?」
玲愛
「下僕。」
ニッコリとした顔で言われた。
龍紀
「店長〜」
俺は仁さんに助けを求める。
仁
「南無三。」
丁寧に手を合わして拝まれた。どうやら助けは無いらしい。
龍紀
「ちきしょう!!こうなったらやってやる。やってやるぜ。でもどうなってもしらねぇからなっ!!」
俺は渋々厨房へ向かった。
2時間後…俺ってやればできるじゃん。
龍紀
「シフォンケーキとイチゴタルトあがり。」
見た目味とも素晴らしいお菓子が出来ていた。
玲愛
「あんた、本当に凄いわね、まさかここまで出来るとは思わなかったわ…」
由飛
「まったくです。龍紀君はやっぱり凄いです!!あれ、でもこれかすりさんや恵真さんのとそっくりです!!」
仁
「確かに初めて作ったのがこれってのはヤバイな…給料アップだなこりゃ。ハハハ」
仁さんはそう言うと笑った。
龍紀
「そんな、いいっすよ!!初めてでも今までかすりさんや恵真さんの見てましたから…」
玲愛
「じゃ、厨房任せるわね?新しいオーダーよガトーショコラとミルフィーユ出来るわよね?。」
うん?ガトーショコラ?…まずい…ガトーショコラはまずい
龍紀
「玲愛、そのガトーショコラだけはかんべんしてくれ。そいつは無理だ。見た事が無いんだ。」
玲愛
「分かったわ。」
…………………………
そんなこんなで閉店間際の夜10時…
玲愛
「いらっしゃいませ御主人様お嬢様。6名様ですね?」
???
「はい!!」
代表らしき男が答える。
玲愛
「では奥のテーブルに御座り下さい。」
???
「あの〜?」
玲愛
「何でございましょうか?」
???
「長門龍紀の友人なんですけど、龍紀はいませんか?」
龍紀の友人?…良い事思い付いた…
玲愛
「龍紀君の御友人だったのですか。今龍紀君は厨房でケーキを作ってますよ。」
???
「ええっ!?アイツがケーキ?そんな馬鹿な?」
玲愛
「やれば出来る子ですから。クスクス…ご注文を伺ってもよろしいでしょうか?」
???
「何にする?」
皆
「うーん…」
恐らくここに来るのは初めてなのだろう。
???
「じゃ、お勧めでお願いします!!」
玲愛
「かしこまりました。失礼します。他にお客様もいませんのであのよろしければ…………」
厨房
由飛
「お腹好きましたぁ〜私にピザ焼いて下さ〜い」
仁
「じゃ俺は、鯛の刺身。」
龍紀
「出来ねぇよ。つーかそういうのは食品売り場で買って来い。って…卵もうねぇじゃねぇか!!」
由飛
「ついでに私のキットキットも〜♪買って来て下さ〜い♪」
どこぞのオペラ歌手の様に歌われても、あとキットカットねキットカット…。
龍紀
「でも買いに行くのは時間がかかるし…」
仁
「こういう時こそ御向かいさんだろ。」
どうやらCURIOさんに卵を2、3個分けて貰いなさいと店長は言うらしい。
龍紀
「じゃ、行ってきます…」
俺は駆け足でCURIOに向かった…
CURIO
水菜
「ありゃりゃ、龍紀君じゃないですか
エプロンなんかつけてどうしたんですか?」
川端水菜玲愛の同僚でCURIOのメイドさん。まぁ、親しい。
龍紀
「水菜さん卵2、3個分けて貰えませんか?ストック切れちゃって…」
水菜
「分かりました。ちょっと待ってて下さい。」
板橋
「でも条件があるなぁ…」
出た、仕事をしているかしていないか良く分からない板橋店長。CURIOの店長。
板橋
「カトレア君の嬉し恥かしセリフを君に言って貰おう。」
水菜
「あぁ、あたしもそれ見たい見たい。」
とかでCURIOの職員に注目された。ええいこれも卵の為だ。
龍紀
「じゃあいきますよ…今日の朝の出来事…ウッエグっ…仁は玲愛のこと愛してないの?」、
………………………………
まずったか?
CURIO一同
「「アハハハ!!」」
板橋
「龍紀君、それ本当にカトレア君が言ったのかい?ハハハ。」
龍紀
「言ったも何も今日の出来事ですよ。」
水菜
「あの玲愛が〜!?ハハハハハハ。」
???
「随分と楽しそうな話ね。あたしも混ぜてよ……」
龍紀
「どうぞどうぞ…って玲愛!!」
振り向き様に怒りをあらわにした玲愛様が立っていた。
玲愛
「あら、どうしたのあたしにも聞かせて下さいな…」
龍紀
「それじゃあ板橋さん………御機嫌よう!!」
タメて一気に駆け出した。
玲愛
「こらぁ〜!!まてぇ〜い!!」
数分後…
龍紀
「すいませんでした。」
赤く膨れた頬を擦りながら俺はそう言った。
玲愛
「全く…もういいわ。後せっかく友達も来てるんだから挨拶してあげなさい。」
だちって誰だよ…
???
「やぁ、龍紀」
龍紀
「お帰り下さいませ御主人様お嬢様。」
景
「ちょっ、おまっ…龍紀が執事やってるって噂たってたから本当かと思って見にきたのに。」
赤神景、慶応大学法学部二年アンダーグラウンド情報に詳しい。咲子の彼氏らしい。
咲子
「まさか本当に執事やってるなんてね。けど結構決まってんじゃん執事。」
木嶋咲子早稲田大学英文学部二年俺の数少ない旧知の友人であり、スイーツに眼がない。あと強気でガチでお嬢様。中学時代のあだ名は、お嬢。
沙紀
「うん、燕尾服も似合ってるし。」
白井沙紀高校時代の学友?まっ…色々あって景達とは知り合いらしい。
龍紀
「お嬢も沙紀もありがとよ…」
曽我部
「まぁカッコいいな。お前じゃなくて服が。」
曽我部拓伊東大文一のエリート。物言いはちょいと感に触るが根はいい奴でおれが最も信頼する高校時代の友人。
龍紀
「曽我部〜相変わらず言ってくれるな…」
拓伊
「事実だろ?」
フッと鼻で笑われたぜおい…
拓伊
「で、その赤く腫れた頬は何?」
咲子
「それ、あたしも気になった。痴情のもつれって奴?」
「あ〜はっはは!!」
一同が笑う。
龍紀
「色々あったんだよバーカ。」
咲子
「まっあのメイドさんにひっぱかれてはぁはぁしてたんでしょ?どうせ?」
龍紀
「はぁはぁなどしていない!!大体な、あの人は既婚者で俺とは何でもないの?OK?」
曽我部
「こいつは驚いた。お前案外マニアックなんだな?人妻が趣味なんて…」
ガシャン!!
物音と同時に振り返るとそこにはティーセットを落として惚けている由飛さんがいた。
由飛
「…と、とんでもない事聞いちゃいました…」
龍紀
「間に受けては駄目だ由飛さん俺を、俺を信じて!!」
???
「ただいま〜。かすり姉さんが帰ってきたよ!!」
なんか異常にテンションが高くて、最もこの場にいてはまずい人(俺にとって)が小悪魔の様な笑みを浮かべてこちらへやってくる。このままだと俺が総攻撃にあって終りのパターンなので…おれもテンションに身を任せて暴走する事にした。
龍紀
「お帰り下さいませ。かすり様。」
かすり
「君はいきなり帰れと申すか…龍紀君そちらは?」
龍紀
「俺の腐れ縁者どもです。因みにこの二人の女は俺のダッチワイ…ブハッ!!」
バシッ!!と玲愛のハリセンが決まる。
龍紀
「ぶ、ぶったね…親父にもベホッ!!」
又々スパーンとハリセンが決まる。
玲愛
「何を馬鹿な事を言ってるの!!…ったく…」
かすり
「玲愛ちゃん…ひょっとしてヤキモチ?」
かすりがニタニタしながら玲愛の顔を覗き見る。
玲愛
「ち、違うわよっ!!ただあたしは龍紀がお客様に変な事言うから…」
かすり
「はいはい。玲愛ちゃんには愛する仁君がいるもんね?」
咲子
「恋人と言うよりは仲の良い兄弟かしらクスクス。」
咲子がそう言うと玲愛を除く一同が…
「「それだっ!!」」
と一斉に答えた。
玲愛
「ちょ、何言ってるのよ…」
玲愛は何故かテレ気味…
かすり
「じゃあ、それで決まりっ!!…明日からは玲愛ちゃんが龍紀君の姉という設定で行こう!!」
玲愛と俺を除く一同
「「オー!!」」
玲愛
「ちょっと皆勝手に…って龍紀大丈夫!?」
龍紀
「ハハハ、ハハハハハハ。」
龍紀は不気味に笑いながら携帯を取り出すと何処かに電話をかけはじめた。
龍紀
「あ〜もしもし、薬局ですか?あのですね、モルヒネとか売って欲しいんですけどあります?」
玲愛
「龍紀が壊れた〜!!」
もうどうにでもなれ…
閉店
龍紀&玲愛
「は〜…。」
がっくりと脱力しきった二人はカウンターの席に突っ伏せていた。
仁
「た、大変だったな…」
玲愛
「本当に何なのよあの子達…」
龍紀
「だから腐れ縁者どもだって言ったじゃねぇか…それならまだしも…」
龍紀&玲愛
「かすりさんとああも相性がいいとは予想外だった。」
仁
「まぁ、お疲れ様。かすりさんと由飛は先に帰ったよ。あとかすりさんがお前に誕生日おめでとうだってさ。」
玲愛
「明日御礼言わなきゃね…」
龍紀
「あっ…思い出した。」
ガサゴソとカバンから小包を出して玲愛に渡す
玲愛
「何よこれ…」
龍紀
「誕生日おめでとう。」
玲愛
「べ、別にあんたに祝って貰ったって嬉しくないんだから………でもありがとう…」
最後に玲愛が小さく言った言葉は俺には聞こえなかった。
仁
「龍紀君所で、プレゼントは何なんだ?」
龍紀
「まっ、帰ってからのお楽しみって事で…ってもう開けてるし!!」
ゴトッと机の上に箱から黒い塊が出て来る
玲愛
「何この黒い塊…」
龍紀
「スタンガン」
仁
「…龍紀君そんな凶器を玲愛に与えたら…まぁ、妥当だと思うけど…」
玲愛
「た〜つ〜き〜!!ついでにひとし〜!!」
龍紀
「うわ〜!!こら振り回すな馬鹿っ!!」
仁
「辞めろ玲愛!!…話せば分かる…」
玲愛
「問答無用♪」
仁
「そんなに可愛く言われても…ってギャアアァあ嗚呼!!!!」
パタリ…
仁さんが殉職した。
龍紀
「店長貴方の犠牲は決して無駄にはしない。」
思わず手を合わせる。
玲愛
「さて、大した威力だわ…龍紀…観念しなさいっ!!」
ビリビリと青い電流がながれるスタンガンを持って追いかける玲愛
玲愛
「フッフッフ…追い詰めたわよ。最後に何か言いたい事はある?」
めっちゃニコニコしとるやん!!ヤバイ!!やられる!!!
龍紀
「ギャアアァあ嗚呼!!!!」
翌日…東京農工大学農学部特殊遺伝子工学科研究室…
京
「おい…龍紀…左足引きずってる、ていうか痙攣しているように見えるんだが…気のせいか?」
宇都宮京若手の教授。時折冗談をかましたりとひょうきんな教授。俺のお気に入りでもある。
京
「龍紀…お前今日の実技試験はいい。やめとけ。」
龍紀
「そんな…単位が…」
足を引きずるのを見兼ねた京は
京
「わーった分かったよ。お前は特別単位を進呈してやるよ。その代わりちょっと終わった後付き合え。」
片手で杯を作って口許へ運ぶ動作=飲みに行こうぜ!!
龍紀
「分かりました…」
講義終了後…
チャーチャーチャッチャン!!チャーチャーチャッチャン!!♪
モーツァルトのRequiemが携帯から鳴りだす。
龍紀
「ダァあっ!うるせぇ!!…んっ!!」
携帯の画面には金髪サイドポニーの美少女が写っていた。
葵さんだ…
日向葵銀髪蒼眼のドイツ系クォーター。見た目は中学生程度だが……結構厄介な奴で…まっ極力近寄りたくない訳で…着信拒否っと
ピッ…
葵
「ほう…よく私の電話を無視出来たな…」
後ろを振り返ると葵がいた
龍紀
「電話して無視されたらいきなり背後から現れるのは、いい加減にしてくれ。」
葵
「お前が無視するのが悪いのだろうが長門龍紀…嫌、こう言った方がいいかな赤龍眼。」
偉そうな物言いをする金髪蒼眼の彼女は俺の雇主でありまた師である。唯一俺の能力を知っており、俺の力をも軽くあしらう程の実力者でもある。
龍紀
「はいはい、お嬢様。今日はどういう御用件でございましょうか?」
葵
「まぁ、お前に話たい事があってな…と言うよりは話さなければならない。立ち話もなんだ…そうだな、お前のバイト先に連れて行って貰おうか?」
龍紀
「了解しました…」
逆らっても無駄なので従う。
ファミーユ
玲愛
「お帰りなさいませ御主人様お嬢様」
龍紀
「…」
玲愛
「何よ…」
龍紀
「嫌…奥の席開いてるか?」
玲愛
「うん開いてるわよ。その子は彼女?」
龍紀
「違っ…」
間髪を入れず葵が入る
葵
「そうだ。私は日向葵。以後よろしく頼むぞ高村玲愛…ククク」
玲愛
「どうして私の事を!?」
葵
「…」
龍紀
「とにかく、奥の席をよろしく頼む。後…盗み聞きはするなよ。」
この話は極力聞かれたくない。
玲愛
「わ、分かってるわよ。」
葵
「フフフ…」
葵と席につくと俺は早速葵に問詰めた。
龍紀
「さて、話を聞かせて貰おうか?」
葵
「うむ。お前…最近左眼の調子はどうだ?」
龍紀
「良好だ。それが何か?」
葵
「一応お前の左眼について調べたんだが…その左眼の力は他者の動作を完全に模倣又は見切る能力…゛だった゛ろう?それで最初は私と同類又は霊能者とも考えたが…それは違った。」
赤い龍がとぐろを巻くように見える左目…それはコンタクトで常時隠している。これは飾りでも何でもなく、ただ意識すればどんな動作でも完全にコピーしてしまうという優れものだ。この力は生まれた時からついていた。
龍紀
「ちょっとまて…゛だった゛ってのはこれが本来の力じゃないって事か?」
葵
「まぁこれを見てくれ…」
葵は携帯情報端末のようなもの(超小型PC)を取り出して俺にグラフのようなものを見せた。
葵
「以前お前の血液をサンプルとして摂取したのを覚えているだろ。」
龍紀
「いきなり人の首筋にかぶりつく奴がいる事を初めて知ったがな…」
葵
「我々の立派な挨拶だよ…でだ上から私、霊能者、お前の順にグラフをとってある。」
龍紀
「なんだ…この異常な数値は…」
俺は葵のグラフをさす。
葵
「まぁ、我が種の中でも特に真祖の私はこんなものだ。注目すべきは、これだ。」
俺のグラフをさす。
葵
「このグラフは生命振動数と言って簡単に言うと生命力を数値化したものだ。因みにお前だが私に比較的近い力をもっている事はグラフから一目瞭然だ。」
龍紀
「馬鹿言え、最初にボコボコにされた時はお前の方が圧倒的だったぞ?」
葵
「誰がその力が戦闘力に比例すると言った?」
龍紀
「ぐっ。」
葵
「だが最初にお前と戦った時…私は初めて恐怖というものを知ったよ。ついでに私を本気にさせたのは人間のお前が初めてだ…」
龍紀
「その事だがよく覚えてないんだ…」
葵
「そう、それだ。お前は力を満足に使いこなせていない。恐らく生死を彷徨うような極限状態でないと発動しないようになっている。故にお前の力は未知数だ。
私の感では、未だ発展途上だ。」
龍紀
「つまり、今の俺が意識して使える力は動作コピーだけって事だな?」
葵
「ああ。だが私の元で修行をしているお前は必ず他の力も使えるようにはなるだろう。」
龍紀
「一体俺は何なんだ…」
葵
「こちらが聞きたいくらいだ…。」
龍紀
「そうだ血液反応は?」
葵
「普通の人間だ。」
龍紀
「だが、明らかに人間のスペックを超えている…」
葵
「ああ、あと幾つか気になった点がある。」
葵
「第一にお前も知っての通り私は視界に入った者の寿命と真名を知る事が出来る…だがお前だけは例外で知る事が出来ない。」
葵
「第二に…お前の出生先が不明の上、真の父や母も不明…。」
龍紀
「……」
葵
「まぁ、今のところそんなものだ。そろそろ私は帰る。ご苦労だったな。」
そう言い彼女は席を立つと背を向け帰っていった。
あんな小さな奴がバンパイア(吸血鬼)の真祖だなんてな…
葵との出会いは…彼女が人の血を吸う所を見て、その人を助けようとしたことが始まりだった。
その時は殺されると思ったし。俺も彼女を殺す気だった。そーしてコテンパンにやられて…
「お前は面白い…気に入った。」とか言われてそれからというものの…葵は何かと近い存在になっている。
因みに東京農工大学の京ちゃんは、この事を知っている。俺が話すとすんなりと受け入れてくれたのだ。それだけではなく、文学方面と科学方面の両側から研究して貰えるように葵と俺の血液のサンプルを東大に送りつけ研究チームを発足してもらうなど…葵と俺の謎の力の解析に尽力してくれている。
何も知らなかった俺は自分が何者なのか…
何の為に…生きているのか知りたくて…存在理由を求めて…
大きな過ちを犯してしまっていた事をこの時点では知る術などなかった…