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いつかきっと幸福な結末  作者: 染井吉野
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第26話 蒸しかぼちゃと冷凍かぼちゃ

 水に濡れた栗色の髪が水面から照り返す陽の光をうけて優しく輝いている。

 無駄な脂肪の無い均整のとれた体が眩しい。

 無造作に前髪をかき上げ、俺と目が合うと照れくさそうに、にぱっと微笑む。

 

 サイクロプスを無事討伐し終えた俺達は、村の裏山に流れる谷川で、体にこびり付いた巨人の肉片や体液を洗い流していた。


 女性陣は少し離れた大きな岩の向こう側で水浴びしている。

 いつもハブられる俺だが、今は寂しくなんかない。

 タンポポのようなボクっ子、マコトちゃんと一緒だからだ。


 マコトちゃんは全裸になっても天使であった。

 真っ平な胸も、超貧乳の超スレンダーガールで押し通せないコトもナイ。

 どうしよう・・・、がまん出来ないかもしれナイ・・・。

 グビリと喉を鳴らして手を伸ばしかけたとき、マコトちゃんが水の流れの中から立ち上がり、その股間のお母さん象が揺れた。


 お・・・、俺は、いったいナニを・・・。

 危なかった。

 ああっ!神様っ!

 俺をハンデ特盛で異世界に送り込んだだけでは飽き足らず、こんな過酷な試練を課すなんてヒドすぎるよ!

 ドキドキする、ドキドキするよ!

 恋心的なナニかじゃなくて、生理反応だよな、動悸だよな!

 跳ね上がった血圧を下げるべく、山の緑を見ながら深呼吸を繰り返した。


「マコトちゃん、俺は自分でメニューが開けなくて、ステータスが見れないから尋ねるんだけれども、こっちの世界でレベルって上がるの?」


「うーん・・・、どうなんだろう?」


「どうなんだろうって?」


「あのね、いくつか無くなったり、変わったりしている所があるんだ。その内の一つが経験値とレベル表示」


 風の流れに乗って、女の子達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 目の前にはマコトちゃんがいるのだが、象さんが揺れると俺の心も揺れる。

 何故、マコトちゃんにこんなモノが付いていなければいけないのか?


「経験値が無くなっている?それじゃあ、成長しないってこと?」


「ううん、そうじゃなくて、こっちの世界に来てしばらくしてから気づいたんだけど、基本ステータスの横に伸びている棒グラフみたいなのがあったよね?」


「うん、STRとかDEXとかINTの事だよな?」


「そうそう、それが、いつの間にか上がっていたんだ。僕はSPDやDEXが主に伸びてる。たぶん、弓を使う事が多いせいだと思う。ユカリは魔法使いだからINTやMENが主に上がるみたい。はっきりした数字の表示が無いから、具体的にどのくらい戦えば上がるのか解らないんだけど、ちょっとずつ強くはなってるみたい」


 川から上がったマコトちゃんが、俺に背を向けて体を拭きながら話す。

 ぷりぷりした小振りのお尻がとってもかわいい。


「ふーん、要するに、レベルが上がるといきなりドカンと強くなるんじゃなくて、自分のとった行動で自然に能力が伸びるってことなのかな?」


「そうだと思う。魔境に行くようなクランの人は走り込んだり、筋トレしたりしているみたいだよ?この世界で暮らしていくだけなら、この辺で狩りをしているだけで、普通以上の収入にはなるから僕達はそこまでやらないけれども。ほら、女の子ばっかりのパーティだし、魔境は怖いから」


 訓練したり、戦闘をこなすことによって、それに応じた能力が上昇する。

 うん、普通だよな。

 それにしても、筋トレと走り込みか・・・、俺も体育会系の練習メニューをこなしたほうが良いのかな?


「他に変わったことは?」


「いろいろあるけれども・・・、とにかく数字がステータス画面から無くなったんだ。ヒットポイントとマジックポントは横棒すら無くなっちゃった。ケガすれば普通に痛いし、動けなくなる。スキルを使い過ぎると体が重くなって倒れちゃう」


「熟練度によるスキルのレベルアップも?」


「うん、それも見えなくなった。でも僕の弓スキルは、こっちに来た時より強くなってるから、数字で見えないだけで、使った分はちゃんと上がっていると思う。上がっているって言うか、上達しているって言うのが正解なのかな」


「そっかあ・・・、魔境って・・・、ゴメン、失礼な言い方だけど、マコトちゃん達のパーティレベルだとキツイ?」


「いいよいいよ気にしないで。たぶん転生者の中でも僕のパーティは初心者クラスの実力だと思うから。実際に行ったことは無いんだけれども、奥の方に行くと普通にドラゴンとか大型の魔物が出てくるみたいだから、ちょっとムリかな?」


 俺は転生者というと、軒並み超人的な力を持っていて、魔物の群れに飛び込んでいく命知らずばかりだと思っていたので、薔薇パーティの実力をかなり過大評価していた。

 こっちの世界に来てからの行動で、かなり違うんだな。


「ドラゴンかあ・・・、見てみたくはあるけれども、命がけだもんなあ」


「カズヤ君のパーティならきっと行けるよ。あのソフィアさんがいるし、カズヤ君だって、さっきの最後の魔法?凄かったよね」


「うーん、俺の魔法については何とも言い難いんだけど・・・、ところで、『あのソフィアさん』って言い方は、ひょっとして、ソフィって有名なの?」


「え?知らなかったの?マラガで知らない人はいないと思うよ?たぶんバルト王国でもトップクラスの冒険者だと思う。さっきのサイクロプスもソフィアさんならソロでやれたんじゃないかな?」


「マジで?顔が広いのは軍隊の臨時教官をやってるせいだとばっかり思ってた!」


 ソフィがある程度強いのは知っていたけど、そこまでだとは思わなかった。

 あの巨人を一人でやれるのか?ちょっと想像できない。


「こうやって、直接話をしたり、一緒に戦わせてもらうのは初めてだけど、さっきは僕達に経験を積ませるためにワザと手を抜いて様子を見ていたんだと思う。風姫とか風刃のソフィアとか呼ばれてるよ?みんなソフィアさんとパーティ組みたくて誘うんだけど、臨時パーティ以外で成功した人はいないみたい。だから、ソフィアさんとパーティ組んでるカズヤ君って凄いんだよ」


 風姫ソフィア・・・、なんて美しい名前なんだろう!

 ボリスといい、ソフィといい、自分でひけらかさないところが、さらにカッコイイ!

 俺も爆炎のカズヤとか呼ばれたい!

 爆ぜろ、なんちゃって。


「いやいや、それじゃソフィが凄いだけで、くっついてるだけの俺が強いっていう理由にはなってないし」


「それもそっか、アハハ、ごめんごめん」


 マコトちゃんが笑うと、背景にタンポポの花が咲き乱れ、ほんわかした気分になる。


「マコトちゃんのパーティって、こっちの世界に来てから組んだの?」


「ううん、元の世界のゲームの時から。高校で同じ部活だったんだ」


「へぇ、何部?」


「剣道部、先にエリカ達がゲームやっていて、誘われて後から始めたんだよ」


「そうなんだ、ちょっと意外」


 文芸部とか、吹奏楽部あたりだと思っていた。

 あの美少女四人組が、ひと試合終えて、面を脱ぐ場面はさぞかし見ものであろう。

 顔の良さに性格は関係無いしな・・・。


「うん、みんな綺麗で学校でも目立っていたから、パソコンでゲームするようには見えないよね」


 陽が傾き山の影に谷が覆われ、冷たい風が流れてくる。

 体を洗い終えて、川岸の岩に腰かけながらはなしていたら、身支度を済ませたソフィが声を掛けてきた。


「カズヤ、ちょっといい?さっきカズヤが使った魔法のことなんだけれども」

 

「え?あれはですね、自分でもああなると予想していたワケではなくてですね、不可抗力っていうか、全力を出し切った結果、思いもよらぬ結末というか・・・」


 風姫ソフィア先生に、さっきの戦闘についてお叱りを受けるかと思い、つい反射でビビってしまった。


「クスッ、怒ってなんかいないわよ、どうやったのか聞きたいだけ」


「そ、そうか、でも、ちょっと話が長くなりそうだから、村に帰ってからでもいい?」


「いいわよ」


 俺の後ろで『まだ臭う・・・』『自分がクサイ・・・』『ばかカズヤ・・・』などと、しつこくのたまう薔薇のバカ女達を引き連れて村へ帰った。









 かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ・・・、

 本日の夕食当番は薔薇パーティなので、俺は村外れの広場の焚き火の横に座り、大量のカボチャを犠牲にして、電子レンジ魔法、もとい、分子振動魔法の実験をしている。

 俺の横では、ほっこりと蒸し上がったカボチャの種をアリスがスプーンでせっせとくり抜いている。


 村の山側からスケベ村長が姿を見せた。


「ま、マコトちゃんの股間に、股間に、長芋が・・・」


 やっぱり水浴びを覗いていやがったな。

 バカめ、真理の扉の向こうの厳しい事実にもがき苦しむが良い。

 目の焦点が合わなくなったスケベ村長が、ヨタヨタしながら通り過ぎて行った。






 一つ目巨人が吹き飛んだあと、俺の手の中には刃こぼれして、ボロボロになった剣があった。

 何十年も野ざらしで、雨風に当てられたような状態。

 風化した石のように少し触っただけで、ポロポロと崩れてくる。


 これはおそらく、俺の分子振動魔法のせいで、魔力の導線代わりにした剣の分子組成がばらばらになってしまったからだと思われる。


 今使っているのは、ゲーム時代頻繁にドロップした初心者用の片手剣である。

 ゲームの中では最低ランクの剣で売っても大した金額にならないので、アイテムボックスの中にほったらかしになっていたものだ。

 在庫はまだ数十本以上あるが、この世界では、一般的な兵士が使う剣に相当する。


 俺のアイテム倉庫の中で横たわっている首なしサイクロプスが、いったい幾らで売れるのか分からないが、魔物一匹につき剣一本をダメにしていたら、いくらなんでも採算が合わない。


 なので、魔物に突き刺す事さえ出来れば、何でも良いんじゃないの?

 そう思い、ソフィに説明がてら、いろんな道具を集めて実験している。

 実験材料になったあわれな生贄は、大量に採れ過ぎて村の食糧倉庫の隅に置き去りにされていたカボチャ君。


「例えばこのカボチャ、これを果てしなく半分に切っていく」


「このくらい?」


 ソフィが足元にある直径一ミリほどの砂粒を掴んで、目を細めて見ている。


「カズヤ、そんなことしたら、カボチャが美味しくなくなるよ?」


「アリス、今はカボチャの味は忘れてくれ、それに裏ごしにしてカボチャ餡にすればいいんだ。ソフィ、もっとだ、さらに果てしなく半分にするんだ」


「そんな事、できないわよ?」


 ソフィが指先の砂粒を親指と人差し指で摘まんで遠くへ弾いた。


「ソフィ、そうじゃない。仮定の話なんだ。仮に、もっと、ずっと半分にできたとする。その限界まで細かくした物体がたくさん集まってカボチャを作っている。ここまでは良いか?」


「うーん、なんとなくかな?」


「そういう事にしておく。んで、その極小の物体を揺さぶって、早く動かすと温度が上がるんだ」


「カズヤ、こんな感じ?」


 アリスが、カボチャを一個丸ごと両手で掴んで、上下に振り出した。

 顔をしかめながら一生懸命にカボチャを振るアリスが、なんとも可愛らしい。


「ちょっと違う」


「こう?」


 ソフィが地面の砂を一掴み救い上げ、両手の中でシャカシャカと振る。


「そうそう、イメージとしては、そんな感じかな?つまり、物体を構成する最小単位の動きが激しくなると温度が上がるんだ。」


 アリスは、カボチャの身を掬い上げたスプーンを咥えたまま、口をモグモグさせて聞いている。

 何度かカボチャを実験台にしているうちに、美味しく蒸し上げる魔力加減が解って来た。


 ・・・・・・。

 そうじゃないんだよ、火の通りにくい野菜を美味しく食べる圧力釜魔法を使いたいんじゃないんだ。


「それで、さっきの巨人が破裂した理由なんだけど、水ってのは温度が上がると蒸気になって、下がると氷になるのはわかる?」


「それくらい、知ってるわよ」


 ソフィがちょっと口をとがらせてむくれている。

 美人は変顔をしても、美人であった。


「ごめんごめん、バカにしたわけじゃないから。水は蒸気に変化すると一千倍以上に膨らむ。サイクロプスや魔物にも血が流れていて、体のほとんどが液体で出来ている。つまり、俺の魔力で温度が上がり、沸騰して膨らんだ巨人の血や体液が、逃げ場をなくして、皮膚を破裂させて外に溢れ出た。って事なんだけど解った?」


「う~ん、解ったような、解らないような・・・」


「すっごく、ざっくり表現すると、俺の剣を魔法を通す為のトンネル代わりにして、サイクロプスの体の中に直接魔力を流す。流し込んだ魔力でサイクロプスの体を内側から燃やしたんだよ」


 釘、ナイフ、包丁、先を尖らせただけの鉄の棒。

 ソフィに説明しながら、カボチャに突き刺して、いろいろと試した結果、剣である必要は無いが、それなりに質量がないと成功しないことが分かった。

 長さで約三十センチメートル、重さ約一キロ以上、この位質量がないと魔力が行き渡る前に鉄のほうがボロボロと崩れてダメになってしまった。


 しかも、剣を突き刺したまま、魔力が行き渡って発動させるまで魔物にしがみついていなければいけないので、ある程度、魔物が弱ってからでしか使えない。

 光の国から来た巨大人の必殺光線のように、火力はデカイが使いどころの難しい仕上がりの魔法になってしまった。


 せっかく攻撃に使える魔法が完成したと思ったのに、残念感溢れる結果であった。

 まあ、普通サイズの魔物は、普通に剣で切れば良いワケだし、サイクロプスのような大物にはめったに出会わないであろう。


 これなら身体強化で股間、もとい急所に石をぶつけるなり、剣を投擲するなりしたほうが、よほど使い勝手が宜しい。

 試しに、その辺の石ころを拾い、厚さ五センチ程の木の板に投げつけてみたら、あっさり貫通することができた。

 俺の遠距離魔法の完成であった。


 違う!こんなの魔法じゃない!

 ファイヤーボールとか、ソフィの竜巻とか、アリスの氷の杭とか、俺もそんなカッコ良い魔法が使いたい!

 だって異世界なんだし!

 ファンタジーなんだし!


「私達を作っている一番小さな材料が、細かく激しく震えると温度が上がるのよね?」


「そうそう、動きが早くなると温度が上がって、逆に動きが止まると・・・温度が・・・下がる・・・温度が下がるハズだ・・・。ひょっとして・・・」


 俺は目の前に積まれたカボチャを一つ手に取り、カボチャの中心に意識を集中し魔力を送り込む。

 そして、手で硬く握りしめて一切の動きを固めるイメージで魔力を解放する。


 俺の両手の中に、真っ白な霜に覆われて、氷のように冷たくなったカボチャが現れた。


「痛っ!」


 ドライアイスを握りしめてしまったような、手を突き刺すような痛みを感じて、慌てて手を離す。


 地面に落ちたカボチャは、白い冷気を漂わせながら、割れていた。


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