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いつかきっと幸福な結末  作者: 染井吉野
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第25話 電子レンジ魔法

 身長五十うんたらメートル。

 体重五百なんたらトン。

 きょ~たいが唸って、そ~ら飛ぶのかも。

 いやいや、これは超電磁人形のサイズだ。

 大きすぎるし、空飛ばないし。

 だいたい二階建ての民家から頭がちょっと出るくらい。

 特車二課の白黒警備ロボット巡回レイバーくらいの大きさだろう。


 地響きを立てて木をなぎ倒しながら現れた魔物は一つ目巨人のサイクロプスであった。


 およそ七~八メートル、この巨体に中肉中背という表現はおかしい気がするが、ずんぐりむっくりの体型。

 ゾウのように灰色で硬質の乾いた肌をして、何かの皮を強引に継ぎはぎしたようなシャツとパンツを着ている。

 それ自分で縫ったの?それともお母さん?

 意外と器用なのね。


 一つ目巨人がどんな逸物を股間に装備しているのか気になったが、そういう場合では無いだろう。

 手には、そこらへんの木を引っこ抜いて、適当に枝を削いだような棍棒を持っている。

 払い残した枝の残骸があちこちに残っていて、釘バットのようになっていた。

 何かの染みが、そのまま黒くこびり付いているのが恐ろしい。

 顔の真ん中にある特徴的な一つ目がギョロギョロと辺りを見回している。

 白目の部分には赤と青の血管が浮き上がりピクピクと妙に生々しい。


 サイクロプスの頭上には数匹のハーピーが飛び回っている。

 ハーピーがピーピー鳴くと一つ目巨人が重低音の唸り声で答えている。

 ハーピーの中に一匹だけ、ヨタヨタしている個体がいた。


「マコトちゃん、あのさ・・・、もしかして、アレって・・・」


「うん・・・、さっき逃げて行ったハーピー、あのサイクロプスのペットだったのかな?」


 異世界すげえな!

 人面怪鳥を愛玩動物にする一つ目巨人。

 ハーピーを腕にとまらせて、ほっこりしている巨人のほのぼの風景が目に浮かんだ。

 ハーピーはキツメだが、意外と整った顔立ちをしていて、むき出しのおっぱいもなかなかのモノである。

 実は先程、アイテムボックスに格納するとき、みんなに気付かれないようにちょっとモミモミしてみたのだ。

 まずまずの弾力性でした。

 一応、魔物っ娘に分類されるし、一家に一怪鳥もアリか?

 ただし、気性が荒いし、ご近所さんから苦情がくるだろう。


「ちょっと!お宅の鳥が、うちのネコちゃんを食べちゃったんですケド!」


 鳥と猫の立場が反対のような気がする。


 そんなアホな事を考えて俺は現実逃避していた。

 だって、身の丈七メートル以上の巨人ですよ?


「僕達、前にも一度戦った事があるんだ。きっと大丈夫だよ。カズヤ君一緒にがんばろうよ」


 ほんわかしたマコトちゃんのセリフを聞くと何だかいけそうな気がするケド。


「カズヤ、なにビビってんの、こいつ低レベルレイドじゃない、男ならドンとイイとこ見せてよ!」


 ナオミさんは目を輝かせて言うけれど、さっき犬っころにも苦労してたじゃありませんか。

 それに『男なら』とか、都合のいい時だけ男女平等を棚上げするのは女性のズルイところだ。


「久々の大物だな」


 ユキコが再び剣を抜き出し、近接型自己強化スキルを発動している。


 確かにゲームの中では序盤に出てくる初心者向けの大型モンスターだったが、今はもうゲームじゃないし、低レベルだろうが高レベルだろうが、攻撃を食らえば痛いのは一緒なのだ。

 危機感を持っているのは俺だけなのか?

 バーサクモードになっている薔薇メンバーに不安を抱いてソフィを伺う。


「村が近いから、ここで始末しておかないとダメね」


 ソフィが肩をすくめながら、仕方ないといった表情で答えた。


「そういうことですか・・・、んで、作戦は?」


「私が最初に空のハーピーも巻き込んで風魔法で攻撃するわ。生き残ったハーピーを私とマコトとアリスの弓と魔法で排除、後は全員で袋叩きね」


 ・・・、ソフィにしてはざっくりだな。

 まあ、細かく決めすぎて策に縛られ過ぎて、変化に対応出来ないといけないからこんなものかな?


「弱点は一つ目?」


「その通りだけど、むこうも簡単にはやらせてくれないから、あまり固執しないほうがいいわよ。それと・・・、直接攻撃部隊の指揮はカズヤに任せるからお願いね」


「俺でいいの?」


「私じゃ転生者の魔法はよく分からないもの、それに・・・、カズヤは何か隠して・・・、いえ何でもないわ、もう来るわよ」


「了解、ソフィの為にがんばってみるよ、上手くいったらご褒美欲しいでござる。具体的には濃いめのがっつりチューで」


「バカ言ってないでやるわよ!」


 誰もバカなど言っていない。

 俺はド本気だ。

 地響きを鳴らし、極太の棍棒を振り回しながら近づいてくる巨人を相手にするのだ。

 俺のスケベ心を刺激するニンジン的なものを目の前にぶら下げておかないと、足が震えて敵前逃亡しそうだ。

 ゲームなら何度も相手にした一つ目巨人だけど、この世界じゃ初見なのである。

 せめて攻略動画かwikiを見てからにしたかった・・・。


「ん~~、カ~ズ~ヤ~~私は~?」


「アリスのご褒美も楽しみにしてるよ。ほら来るぞ」


 おかんむりなアリスの頭に手を置いてなだめ、身体強化をかけて備える。

 ソフィが一歩前に出て。


「風よ!風よ!テミスの息吹よ!千の刃となりて切り刻め!」


 ソフィが魔力を活性化させ、イメージの中に押し込めた魔力を流麗な言葉で解放する。

 ソフィから風が流れ出し、細やかな刺繍が煌めく碧の上着の裾がはためき、陽の光を波打たせながら金色の髪がなびく。

 巨人の進路上に竜巻が現れ、砂ぼこりを巻き上げ、地面に根付く雑草を引き千切りながらハーピー諸共に魔力の渦が襲いかかる。


 サイクロプスを中心に周囲の風が吸い込まれ、全てを飲み込んでいく。

 頭の上を飛び回っていたハーピーが竜巻に引き込まれ、空しくもがき、血と羽をまき散らせながら渦にもまれる。

 一つ目巨人は地にうずくまり目を閉じて耐えているが、その硬い皮膚に次々と細い線が浮かび上がり、傷口から流れ出た血が風に飛ばされていた。


 竜巻が消え、砂ぼこりが止むとサイクロプスが立ち上がり、怒りの叫び声に周りの空気がビリビリと振動する。


 俺は足元の拳大の石を拾い上げ、魔力の循環を高速回転させ、筋力、反応速度、耐久力、全ての能力を引き上げる為に意識を集中させる。

 目標に向かい渾身の力を込め、大きく振りかぶって投げた。

 身体強化によってブーストされた石の弾丸が、歴史上どんなメジャーリーガーも出したことの無い球速で、サイクロプスの股間にクリティカルヒットした!


 悶絶し言葉も無く地面に突っ伏すサイクロプス。


「すっとら~いく!!今だ!行くぞ!」


 一声叫んで駆け出したが、誰も付いて来ない。


 あれれ?


「か、カズヤ君・・・、今のは、その・・・、どうなのかなあ?」


 マコトちゃんが、ちょっと内股になりもじもじしながら言う。


「サイテー」


 薔薇パーティの女性達がハモっている。


 え?そういう反応?

 女性陣がジト目で俺を見てくる。


 ちょっと待って。

 今からサイクロプスの目を潰して、首を叩き切って殺そうとしているのに、そういう所に嫌悪感を持っちゃうの?

 武道には金的という急所を狙った技がちゃんとあるのに。

 あるものは石でも何でも利用すべきなのに。

 サイクロプスには雄型として、アルものが有るんだから。


 実にシラッとした時間を過ごしていたら、いつの間にか巨人が立ち直ってしまった。

 ちょっとぴょんぴょんしてるけど。

 サイクロプスもそういう時の対処の仕方は一緒なのね。


「えーと、行ってもいいかな」


 一応、確認してみる。


「どうぞ」


 ぐっ・・・。


「今は細かい事気にしてる場合じゃないんだ!行くぞ!み・ん・な・で!一緒に行くぞ!」


 念を押して勇ましく駆け出してみたが、心配になって後ろを振り返った。

 とりあえず付いてきてくれていたのでほっとした。

 お前だけ逝ってこいみたいな表情だったら、泣きながら独りで逝くしかなかった。


 サイクロプスは、まさしく怒髪天を衝くが如くに、俺を狙いめちゃくちゃに棍棒を振り回してくる。


 めっちゃ怒ってる。


 噛みしめた口の中からギリギリと歯ぎしりの音が聞こえる。

 灰色一色だったハゲ頭が怒りで耳まで真っ赤に染まっている。

 あの時、速攻で攻撃していればチャンスだったのに・・・。

 バーサクモードになってしまい、余計ややこしくなってしまった。


 巨人がひとつ棍棒を地面に叩きつける度に、地響きが起こり足元がグラつきよろける。

 スキだらけの大振りなので、用心さえ怠らなければ回避は容易だが、一発でも当たれば場外ホームランは間違いない。

 振りはじめの動作を見極めて横へ後ろへステップで躱す。

 巨人の武器が体の間近を通り過ぎただけで、風圧に体が飛ばされそうになる。

 頭上を掠めて行く棍棒の下を転がりながら潜り抜ける。

 およそ数分しか経っていないのであろうが、一瞬たりとも気の抜けない緊張の連続は、俺にとって数時間にも感じた。


 そろそろ、盾受け専門職のエリカさんに変わってもらいたいなー。


「エリカ!交代、交代!お願い!」


「仕方ないなあ、ほらっ!あんたの相手は私だよ!こっち向けっ!」


 エリカが叫び、挑発スキルの魔力が広がり、巨人のタゲがやっと俺から移った。

 巨人が棍棒を振り下ろしエリカに直撃するが、その前に彼女は自己強化スキルを発動し終えており、真正面で両手に構えた盾に角度をつけて受け流していた。

 さすが盾職。

 その堂々たる佇まいは、婿に行きたくなるくらい頼もしい。


 弓矢と氷の杭が巨人の頭に向かって飛んできた。

 ソフィ、アリス、マコトちゃんの飛び道具組がハーピーの残党排除を終えたようだ。

 目をかばう為に巨人が上げた腕に突き刺さる。

 やはり、そう簡単に弱点をひと突きとはいかなかったが、切れ目なく降り注ぐ矢と氷の弾丸を嫌って、 一つ目巨人は目を守るために顔の前に上げた腕を下ろせなくなっている。

 自分の腕に視界を塞がれたサイクロプスは、ただ闇雲に棍棒を振り回すだけになっていた。


「ユキコ、ナオミ!後ろに回って踵の上に攻撃を集中しろ!」


 バタバタと動き回る巨人のアキレス腱を狙い、俺とユキコが交代で剣を切りつけていく。

 時折、回転するように水平に薙いでくる棍棒に気を付けながら、深追いせずに一撃離脱で攻撃を繰り返す。


 それにしても硬い。

 大木の幹に剣を打ち込んでいるような手応えだ。

 ゲーム時代だったら、チャット画面に『カタイ』『かてーなあ』とか『けずれねえ』などの文字が流れていっただろう。

 剣の柄を野球バットを持つように両手で握り直す。

 ソフィの魔法が刻んだ傷を狙い、外角低めのコースを強引にレフト方向へと振り抜く。

 サイクロプスの鎧のような硬質の皮膚にやっと刃が食い込んだ。


 後ろに突き出してきた足を避けて、ユキコに後を任せる。


「ユキコ!」


「わかってる!」


 同じ傷跡にユキコの強打が打ち込まれ、深く入り込んだユキコの剣を、上から俺が剣の平で叩きつけ強引に押し込む。

 一つ目巨人のアキレス腱をブツリと断ち切る感触があった。

 巨人の足から力が抜けてバランスを崩す。

 苦痛の悲鳴を叫びながら前のめりに倒れ、四つん這いになって逃げようとするサイクロプスの背中に飛び乗った。

 同じく、ソフィの風魔法によって出来た首の付け根の切り傷に剣の先を突き立てる。

 剣の先がわずかに皮膚の下へ突き刺さったに過ぎない。


 でも、こんな事は予想していたし、狙い通りだ。

 暴れるサイクロプスの背中の上で剣を両手で握り直す。

 俺の体の中を巡る魔力を高速回転させた。


 人も動物も魔物も程度の差こそあれ、魔法抵抗力が身体の周りを薄い膜となって覆っている。

 攻撃魔法はその魔法抵抗の壁を突き通す、切り裂く、押し潰すという強い意思の力で突破しなくてはいけない。

 俺の分子振動魔法は、内部に浸透し広がっていくイメージで俺の頭の中に固定化されてしまっているので、魔法抵抗力を持っている生き物にはあっさり跳ね返されてしまう。

 そもそも、体を激しく動かされただけで、ライフルの照準スコープから目標を見失うように集中のやりなおしになってしまい上手くいかない。


 それならば、先に魔法以外のもので穴を開けて、そこから魔力を流し込んでやれば良いはずだ。

 突き刺した剣を極太の注射針に見立てて、サイクロプスの体内へと魔力を侵入させる。

 剣を通して俺の魔力がサイクロプスの体内に浸透した手応えを感じると、すかさず巨人の体組織を魔力で鷲掴みにして激しく揺さぶった。


 巨人の首の付け根から肩へとかけて、幾つもの瘤がボコボコと泡立つように広がり、それが一つにまとまって大きな半球状の膨らみになる。

 突き刺した剣をさらに奥へと刺し込み、激しく暴れ回る巨人から振り落とされないように剣にしがみつく。

 やがて風船のように膨らんだサイクロプスの右肩が爆発した。


 支えを失い吹き飛ばされた俺の上に、巨人の血と細切れになった肉片が滝のように降り注ぐ。

 血の雨が降り止み、服の袖でベタベタと血と肉片にまみれた顔を拭う。

 目の前には、頭と右肩を失ったサイクロプスの残骸が横たわっていた。

 辺りには鉄臭い血の霧が、まだ漂っている。

 予想外にスプラッターな結果となってしまった。


 初めての大物を無事倒し終え、ほっとして周りを見る。

 巨人の傍で俺と一緒に戦っていたエリカ、ユキコ、ナオミも血の雨でずぶ濡れになり、真っ赤に染まった髪の毛から血の雫がポタポタ垂れている。


「お疲れ」


 おや?皆に向かって労いの言葉をかけたが、ちょっと様子がおかしい。

 ここはお互いの健闘を称え合い、抱き合いながら喜ぶ場面のはずなのに。


「カズヤ・・・、あんた何やってんのよ!」


 そう言うと、薔薇の三人娘が地面に散らばっているサイクロプスの肉片を掴みあげ、俺にベチャベチャと投げつけてきた。


「ちょっ、やめっ、やめてっ!やめろっつーとろーだろーがっ!」


 俺も負けじと手近な肉片を拾い上げて投げつける。

 血まみれの雪合戦?肉片合戦?になってしまった。


 俺の魔法は、いまひとつウケが宜しくない。

 ナゼだ?


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