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いつかきっと幸福な結末  作者: 染井吉野
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第22話 純潔の薔薇

 俺は高校生くらいの十代の美少女達に囲まれていた。


 毛先を遊ばせた栗色ショートカットの活発系美少女は、弓職特化型の軽戦士、マコト。

 肩で切りそろえた黒髪のクール系美少女は、片手剣軽戦士、ユキコ。

 赤毛の髪を後ろでひっつめたポーニーテールの勝気系美少女は、槍士、ナオミ。

 まだベッドで眠っている、日本人形のように艶やかな長い黒髪の優等生系美少女は、魔法使い、ユカリ。


 目の前には、現代日本、三次元系美少女界における各分野のトップスターが集まっていた。

 このドリームチームはナニ?


「カズヤ君、ありがとう、正直もう諦めていました。でも、でも、僕の仲間を助けてくれて、本当にありがとう」


 マコトと自己紹介したパーティのリーダーらしきボクっ娘の女の子が、にぱっと笑いながら俺の両手を握りしめてくる。


「こっちの世界に来てから、ずっと一緒にやってきた仲間だったんだ、本当によかった、ありがとう」


 中○明菜のDRSIRE風ボブカットがキマリまくっているユキコが、宝塚のトップスターのように、マコトの隣にスラリと並びお礼を言う。


「助かったわ、ありがとう!見た目のワリにはやるじゃん!見直しちゃった」


 頭の後ろで結んだ赤毛を揺らしながら快活に笑うナオミ。

 俺の胸をバシバシ叩いてくる。


 アリスと魔力の同調の練習をマジメにしている時は気づかなかった。

 改めて見るとあちこちの女子高で一番可愛い女の子を抜き出したようなハイレベルパーティーだった。


 中でも、俺より頭ひとつ低く、耳をすっきりと出した小顔ショートのマコトちゃんは、ソフィともアリスとも違う魅力の持ち主で、俺のハートを打ち抜いてきた。

 全体的に引き締まった体は、ちょっとスレンダーすぎるような気がするが、俺の愛は胸の大小に左右されない。

 いや、おっぱいは大事だが、とにかくマコトちゃんは、それすらもチャームポイントのひとつにしてしまっている。


 その女の子が俺の両手を握りしめて、まるでタンポポというか、菜の花というか、春の野に咲く花のような柔らかさと暖かさで、まだ涙の後も乾かず、嬉しさで目尻に涙を溜めたまま俺の顔を見上げてくるのだ。


 これは、もう、チューしても良いよね?

 OKサイン出しているよね?

 うん、これは、お礼って事で!


「カズヤ!」


 部屋の扉が外れるかと思うほどの勢いで開けられ、雌豹のような目をしたアリスが立っている。

 あれ?なんだかご機嫌ナナメ?


「あの、アリスさん、あのですね、これはですね、お礼を言われていただけで、なんていうか、やましい事はあったり、なかったり・・・」


 俺はまだナニもしていない!

 特に理由は無いし、まだナニもしていない。

 しかし本能で何か言い訳しなくてはと思い、しどろもどろで弁解をはじめる。


「カズヤ!」


 もう一度名前を叫び、いつのも三倍の速さで抱き着いて、俺を床に押し倒し、頭突きをかましてきた。

 と思いきや、ヘッドパッドではなく、嵐のようなキスの連打であった。

 それは、キスというより、唇を使った打撃であった。

 固く結んだ唇の向こう側から、アリスの歯が、がっつんがっつんとぶつけられてくる。

 マウントポジションで俺の胸倉を掴みあげ、アリスが唇を猛烈に打ち付けてくる。


 どうしたの!?アリスさん!?

 俺もアリスとはチューしたいが、これはちょっと違う!

 まるで飢えた獣のようにのしかかり、唇を押し付けてくる。


 アリスさん、落ち着いて!

 だから、こういうのは、ふたりっきりの時にして!

 もっとムードを大事にしたいの!

 ほら!マコトちゃんが見てるし!


 マコトちゃん達は、激しく抱擁を繰り返す俺とアリスを目を丸くして見ている。


「そ、それじゃあ、僕達はごはんの用意をしておくから」


 あ・・・、ああ、マコトちゃんが出て行ってしまった。


 俺の顔に降っていたキスの集中豪雨はいつの間にか止んで、アリスは満足したように俺に体重を預け、目を閉じて抱き着いていた。

 仰向けになった俺の上にアリスを乗せ、背中に両手を回してじっとしていたら、実に幸せそうな顔をしていた。

 本来ならばこのまま次の段階へと移行したいところだが、ベッドでまだ眠っているユカリの隣で勢いのままもつれこむわけにもいかない。

 まあ、いいか、アリスが嬉しそうだし。


「そ、その・・・、さっきはいったい何が・・・、あ、ごめん、聞いちゃいけないよね、ええと、その、カズヤ君は補助魔法職なのかな?バッファーでいいの?さっきの回復魔法の強化は見た事も無かったけど」


 あれ?さっきよりもマコトちゃんの心の距離が、なんだか遠くなっているような気がする。


 あの後、ギブアップするように、アリスの背中に回した手で、ポンポンと叩くと、ようやく気が済んだようで解放してくれた。

 急にどうしたんだろう?


 マコトちゃん達の用意してくれた食事を済ませ、今は村はずれの焚き火の周りでくつろいでいる。

 アリスは今、焚き火の向かい側のソフィの隣に座り、ヒソヒソと何か話している。

 何を話しているのかすっごく気になる・・・、


「いや、違うんだ、ちょっと説明し辛いんだけれども、俺は転生者が使う普通の魔法が使えないんだよ」


「どいうこと?」


 ちょっと小首を傾げる仕草もいちいち可愛い。


「俺は、システムメニューのスキルが使えないんだ。こっちに飛ばされた時に何かあったらしくて、システムメニューが出せないんだよ」


 膝の先が当たっていて、身体がもぞもぞする。

 もっと、くっつけちゃっても拒否しないよね。


「そんなことあるの?」


 マコトちゃんが、くりくりした目で俺を見つめてくる。

 ソフィとアリスも向こう側からチラチラと見ている。

 ここでデレデレしたら、どうなるかワカラン、自重せねば。


「うん、だから俺の魔法は、こっちの世界流の魔法の使い方をソフィに教えてもらったんだ」


 正確には、こっちでもあっちでも無い謎魔法なんだけれども。


「それじゃあ苦労したでしょ?カズヤ君はすごいなあ、僕だったら何も出来なくて、泣いていただろうなあ」


 俺とマコトちゃんで座っている、一本の丸太の上を、マコトちゃんがお尻を滑らせて体を寄せてくる。

 

「すごくないよ、俺だってひとりだったら何も出来なかった。アリスやソフィやマラガの皆が助けてくれたから」


 肩、肘、腿、膝、尻!

 接触している部分から、強烈な信号が俺の脊髄を走り脳内を駆け巡る。


「ううん、すごいよ」


 マコトちゃんの顔が近い!

 どうしてこの娘は、何でもしてアピールをしてくるの?

 どうぞお召し上がりくださいオーラが、炎のように揺れている。

 ソフィとアリスが見てるのに!

 このままでは、非常にマズイ!


 足元に転がっている木切れを拾い上げて、焚き火の中に放り投げる。

 夜の空へと火の粉が舞いあがる。

 頭を冷やさねば。


「ちょっと、小便」


 立ち上がり、俺は立ちションしに村の裏側へ歩き出した。


「あ、じゃあ僕も」


 え?


 どういうこと?


 この世界は混浴上等の世界だが、そこまでくだけてもいないハズ。

 それともこれが普通なの?

 四年も経つと、そこまでおおっぴらになっちゃうの?


 ごく自然に付いてくるマコトちゃんに混乱したまま木立の陰に到着する。

 いいの?出しちゃっていいの?


 動揺を悟られないように、平静を装いズボンからお父さん象をズルリと引き出す。

 おそるおそる目玉だけを動かし隣を見ると、マコトちゃんの股間からお母さん象がぽろりと顔を出していた。

 

 じょろじょろと馴染みの音が、草むらで鳴く虫の声に重なる。

 足元からは、ふたつの湯気が立ち昇り夜風に流されていく。


「先に戻っているね」


「ああ・・・」


 そのまま、どのくらい放心していただろうか?

 マコトちゃんの足の間にあってはならないモノがあった。

 鼻の穴から白いモノが漂い出し、空へ昇って行く。

 俺のエクトプラズムかな。

 俯瞰風景が見えてきた。

 回収しなくちゃ。


「やっと気づいたか」


 気づきたくは無かった。

 ずっと知らないままでいたかった。

 いつの間にかユキコが後ろに立っていた。


「言っておくけど、マコちゃんは、男の娘じゃないわよ」


 ユキコの後ろからナオミが顔を出す。


「女装子でもないし、同性趣味でもない」


 むしろ、そのほうが俺の心を仕方ないと慰めることができる。


「むしろ本人は、常に男らしくあろうとしてるの」


 それなのにあの仕上がりか。


「そうだ、感覚はいたって普通だ。だから余計にタチが悪い」


 ユキコが言う。


「そうよノンケなの。今は覚醒の時を待っているだけ」


 ナオミが言う。


「魔性の子、マコト、なんて恐ろしい子!」


 その芝居がかった、交互のセリフは何なんだ。


「誘蛾灯のようにノーマルを引き付ける」


「お、お前ら、俺が誤解してるのを黙って見てたな」


 二人の方へ振り向く。


「待て、振り向く前に、そのブツをしまえ」


 ユキコの言葉に俺は慌てて、出しっぱなしだった象さんをズボンの中へ格納した。


「今まで、スーパーナチュラルなマコちゃんに出会った何人もの男が、道を踏み外したわ」


 ナオミが、長いポニーテールを揺らしながら、一歩踏み出し、足の下の雑草が潰れる。


「そんなマコちゃんを、私達はこれまで狂った男達から守ってきた」


 長身のユキコの肩の向こうに、三日月が怪しく光る。


「私達のパーティ名は『Virgin Rose 純潔の薔薇』」


 それ以上、俺に近づくんじゃない。

 

「我らは『Virgin Rose 純潔の薔薇』マコちゃんのアナルを守る騎士」


 こいつら、腐ってやがる。


「でも、カズヤ、君にならマコちゃんを託せる」


「そうね、いつまでも私達が守っているわけにはいかないもの」


「私達も大人になるときが来たのだ。もちろんマコちゃんも」


 字面だけ見ると、いかにも良い話っぽいが、中身がアレすぎる!


「少し寂しいけれど、仕方ないわね。そうなったら、パーティ名を改名しなくちゃ」


「そうだな、『Bloody Rose 血塗れの薔薇』とでも名乗ろうか」


「ププッ、それいいかも」


「アッハッハッハ!」


 こいつらダメだ。

 頭の中が煮え立っている。

 なまじ見た目が良いだけに、残念具合がハンパない。


 その場から逃げるように走り出した俺は、急ぎ焚き火の場所へ帰った。

 最近、めっきり親密さを増していたソフィとアリスの間に強引に割り込み座る。


「カズヤ、どうしたの?」


 アリスマジ天使が、本当に天使に見える。


「ソフィ、アリス、ごめん俺が間違っていたよ」


「え?何の事?本当にどうしたの?」


 焚き火に照らされたソフィは本当に美しい。


「ソフィとアリスに会えてよかった」


 俺は危うくソドムの門をくぐるところだった。

 だが、にこにこして笑いかけてくるマコトちゃんと目が合い、罪悪感がこみ上げる。

 マコトちゃんは悪くないのに!

 ごめん、マコトちゃん、俺は男で君は男の子なんだ!


 翌朝、ケガをしていたユカリが目をさまし、ベッドの上で体を起こせるくらいには回復した。


「ありがとうございます。あなたの唇の感触を微かにだけど覚えています。私を助ける為とはいえ、あなたが私の唇を奪ったことを。一度きりの口づけであなたのオンナになったとは思わないでください。でもあなたがどうしても言うなら付き合ってあげなくもありません」


 顔を赤らめて顔を背ける。

 ベッドの上で蒼い顔をして、窓の外の一枚の木の葉を見つめる黒髪美少女のツンデレな言葉に、以前の俺だったらイチコロだろうが、すでにこいつの正体は知っている。

 高原のサナトリウムのような部屋で、背中を覆うしっとりとした長い黒髪の病弱美少女を演じているが、俺はすでに知ってしまった。


「『純潔の薔薇』」


 俺が言う。


「あら?もう知っていたんですね」


 ベッドの傍に立つユキコとナオミと目を見合わせて微笑む。


「そう!我らは『Virgin Rose 純潔の薔薇』マコトちゃんの貞操を守る薔薇の騎士!」


 三人の美少女戦士が誇らかに宣言した。


 俺はあまりの無力感に襲われ、脱力して床に手を付いた。

 おまえら腐りきっている。

 バカすぎる。

 せめてその病気をソフィとアリスにうつすんじゃないぞ。


「ア~ハッハッハッハッハ!」


 三人の腐女子の高らかな笑い声が、部屋の壁に反響してキンキン俺の頭を突き刺す。


 まさしく、何も知らない無自覚なマコトちゃんだけが、純白の薔薇であった。

 誰か助けてくれ。


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